連載コラム【音楽のある風景】 Vol.4

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2012.08.08

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選盤されている、選曲家の橋本徹さんより
コラム【音楽のある風景】が届きました。

どうぞお楽しみください!

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8月の選曲は夏を抱きしめて、死者の霊を抱きしめて。
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8月を迎える前に、今年は7回も海に行った。
『Seaside FM 80.4』というコンピCDを作っていたから、やはり海モード・夏モードになるのが早かったのか。
海辺のビーチハウスでは、コロナ~モヒート~カイピリーニャ、案の定たっぷりとライムの世話になっている。

花火も、横浜を皮切りに鎌倉~葉山、そして今週末は神宮。
若い頃は花火なんて見向きもせず、レコードばかり掘っていたのに。

理由はわかっている。

3年前の夏、今は亡きNujabesに、鎌倉の花火へ誘われた。
由比ケ浜にほど近い、彼の建てたスタジオ付きの一軒家のテラスで、バーベキューをしながら午後をすごした。

僕が監修プロデュースした『メロウ・ビーツ・フレンズ&ラヴァーズ』というCDを制作した夏だった。 僕にとって、夢のかけらのような夏の記憶の断片がちりばめられたアルバム。 そのリード曲として、Nujabesのトラック・メイキングとオランダのジョヴァンカ&ベニー・シングスの歌で シャーデーの名曲「Kiss Of Life」をカヴァーし、打ち上げを兼ねて集まったのだ。 その夏、逗子海岸・音霊で一緒に開いた『メロウ・ビーツ・フレンズ&ラヴァーズ』の リリース記念パーティーの光景を、僕は一生忘れないだろう。

Nujabesが交通事故で死んだ翌年の夏は、 ご親族が毎年家族の恒例行事となっていた江戸川の花火に誘ってくださった。 ジョヴァンカもちょうど来日中で参加することができ、強い縁を感じた。 今年は3年ぶりにNujabesの家に集まり、テラスから由比ケ浜に上がる花火を眺めた。 頭の中では、彼が5年前に作った名作「After Hanabi」がループしていた。 胸を打つ“Listen to my beats”というリフレイン。 余情あふれる松尾芭蕉のようなメロウ・ビーツ。 郷愁と書いてサウダージと読むような、ある日見た夢のような音楽。

花火のあとの余韻のように、海から戻るときの優しい気持ちのように、 ひとさじのメランコリーに包まれた翌日は、快晴に恵まれ、三浦半島を一周ドライヴした。 さざ波、潮風にちぎれて、海を見ていた午後。

こんなに海を見ている日々は、5年前の3月、夏の終わりのリオのイパネマ海岸を訪れたとき以来だ。 葉山・森戸の花火を待ちながら、一色海岸で黄金色の素晴らしいサンセットに包まれる (8/31のブルー・ムーンの日にも来たいな)。
ロニー&ザ・デイトナス『Sandy』の美しい逆光ジャケットを連想して「I’ll Think Of Summer」を口ずさみ、 過ぎゆく夏に思いを馳せていると、ふとフラッシュバックのように映画「レッツ・ゲット・ロスト」の オープニング・シーンがまぶたに浮かんだ。 アントニオ・カルロス・ジョビンが作り、ジョアン・ジルベルトも歌った「白と黒のポートレイト」が流れる中、 ジャズの話をしながら浜辺で戯れる若者たち。 続いて、ブルース・ウェバーがチェット・ベイカーに、こう問いかける場面が脳裏をよぎる。 「人生でいちばん幸せだった日を憶えていますか?」

海や花火を見ていると、美しいと思うと共に、今はこの世にいない、 あるいは遠く離れてしまった人のことを思うのはなぜだろう。 8月は死者の霊を抱きしめる月、そんな気がしてくる。 エヴァーラスティング・サマーデイズ、エンドレス・サマーナイツ。 夏を抱きしめて、海を抱きしめて。

オリンピックが佳境を迎え、高校野球が始まった。 夏はまだこれから本番。 「Summer Means New Love(Instrumental)」、言葉はいらない。 ブライアン・ウィルソン、わかってるね。 次の日曜日、Nujabesゆかりの場所で『Seaside FM 80.4』リリース記念パーティーを開く。 海辺のホーム・パーティーのようにしたいと思って。 渚のバルコニーで待ってて、なんて。 その翌週は九州へ、鹿児島~熊本~長崎をDJでまわる。 素晴らしい音楽を愛する人たち、そしてもちろん、美味しいものとの出会いを求めて。

永遠の八月に迷いこむ、甘い夢が終わらないように。 そして夏の終わり、南佳孝「夏服を着た女たち」の最後のフレーズのように、 「君だけ、僕の手に、残ればいいさ」とつぶやいているだろう。

追記:
実は打ち上げ花火より線香花火が好きだったりします。 伊丹十三に「花火」という印象的なエッセイがあって、 それを読んでからは、我が家のテラスでも線香花火に興じたりするようになりました。 チャイコフスキーのパセティック・シンフォニーを思い出す、という科学者の寺田寅彦の言葉を借りるなら、 “線香花火の一本の燃え方には、「序破急」があり「起承転結」があり、詩があり音楽がある” (確かに火花のソナタのようですね)。 僕はあとに残される淡くはかない夏の宵闇が好きなのかもしれません。

そんな夏の夜、来客が帰ったあと、ひとり微熱少年な気分で何となく口ずさんでしまうのは、 R.E.M.の「Nightswimming」です。
村上春樹が手がけた翻訳小説のような歌詞が好きで、と言えば伝わるでしょうか。 というか、前回のこのコラムで紹介したジョナサン・リッチマンの「That Summer Feeling」もそうですが、 僕はティーンエイジャーの頃の夏の思い出を回想する歌にひどく弱いんですね。

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8月の選盤

橋本徹さんが監修プロデュースした 人気コンピ・シリーズ「メロウ・ビーツ」のスペシャル・イシュー。 Nujabes生前最後の作品となったシャーデー「Kiss Of Life」の名カヴァーを始め、 寄せては返す波や沈みゆく夕陽のように甘美な珠玉の名作が連なる 『メロウ・ビーツ・フレンズ&ラヴァーズ』。

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アコースティック・チルアウトからメロウでダビーな心地よいサウンド、 クラブのハイライト・チューンまで、橋本徹さんの選曲でスムースかつマジカルに紡がれた、 音の桃源郷へと誘ってくれる160分。 「永遠の夏の日が始まる、終わりなき夏の夜が訪れる」をテーマに、光り輝く至宝が並ぶ 『カフェ・アプレミディ・ファイル~Everlasting Summerdays, Endless Summernights』。

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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。 『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』 シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは230枚を越える。USENで音楽放送チャンネル 「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通り みぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

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