連載コラム【音楽のある風景】 Vol.7

2012.11.15

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選盤されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。

3.jpg

どうぞお楽しみください!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
11月の選曲は心震わせる慈愛に満ちた歌に感謝をこめて。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いつもは明るく前向きなコラムを、と心がけていますが、今月は少し感傷的な話にお付き合いください。
敬愛する音楽家、テリー・キャリアーが10/28に逝去されました。67歳でした。
翌朝に訃報が届いたときは信じられませんでした。思い出と思い入れがありすぎて、言葉が出ませんでした。
その後、大きな哀しみがやってきました。

1960~70年代にソウル/ジャズ/フォーク/ブルースなどの溶け合った、心震わせる素晴らしい音楽を遺したテリー・キャリアーは、
それでもヒットには恵まれず、80年代に入ると、男手ひとつで娘を育てるため、
シカゴ大学でコンピューター技師として生計を立てようと、音楽界から引退しました。
ところが90年代を迎え、アシッド・ジャズ・レーベルからのリイシューを機に、彼のかけがえのない作品群が再び脚光を浴び、
やがてトーキング・ラウド・レーベルから劇的な復活を果たすのです。2001年以降は来日公演もたびたび行われるようになり、
僕は自分にとって大切な人と何度となく足を運び、親交も深めました。

僕がテリー・キャリアーに強く心惹かれるようになったのは90年代初頭。
「Ordinary Joe」という曲との出会いは衝撃的でした。狂おしいほど胸を突かれる、慈愛に満ちた歌声と切ないメロディー。
この曲と出会ったことをきっかけに、というより、こんな曲が知られていないことを疑問に思って、
20代半ばの僕は“Free Soul”のDJパーティーやコンピレイションCDをスタートさせた、と言っても過言ではありません。
今も窓の外を眺めながら聴いていると、“I’ve seen a sparrow get high / He’s just a little bit freer than I”というフレーズが沁みてきます。
そう、僕は17年前、この曲を始め、彼がチャールズ・ステップニーという名プロデューサーとカデット・レーベルに吹き込んだ3枚のレコードから1曲ずつを、『Free Soul Mind』というコンピに収めたのでした。

「Ordinary Joe」という曲には、まだまだエピソードがたくさんあります。
初来日ライヴの際は、オープニングでこの曲が歌い出された瞬間、本当に背筋に電気が走りました
(彼はそのときジョン・コルトレーンのTシャツを着ていました)。
そして滋味深い歌がじんわりと心の柔らかい部分に触れてきました。
2年前に“亡き友へ捧げるレクイエム”(それはもちろん、その年にこの世を去ったNujabesに捧げたものでしたが)というテーマで作った
『Brother Where Are You』には、この曲のライヴ・ヴァージョンを収録しました。冒頭のスキャットだけで泣けてしまいますが、
Nujabesは2005年にテリー・キャリアー本人をゲスト・ヴォーカルに迎え、この曲のカヴァーを制作していたのでした。

そうした数々の思い出をかみしめながら、先週の日曜にはカフェ・アプレミディで「テリー・キャリアーを偲ぶ夜」を開き、
彼を愛する友人たちと集まってDJをしながら、その音楽にただただ感謝を捧げました。
その日、僕らが抱いていた気持ちは、彼の曲名に倣うなら「Truth In Tears」。
「Tokyo Moon」を見上げ、「Following Your Footprints」と誓った夜でした。
テリー・キャリアーが亡くなった直後には、彼のライヴに何度も通ったブルーノート東京で、
僕の好きな女性歌手カーリーン・アンダーソンの来日公演も行われました
(エイミー・ワインハウスは「彼女のライヴは生きているうちに3回は観ないと」と箴言を遺しています)。
哀しみに暮れる中で、僕はテリー・キャリアーとカーリーン・アンダーソン(&ポール・ウェラー)の曲を共にセレクトした
『Mellow Voices ~ Beautifully Human Edition』にサインをもらいました。
先にテリー・キャリアーのサインが綴られていたジャケットに感激してくれた彼女の歌は、
僕にはまるで彼への鎮魂曲のようにも響きました。21年前、僕が「Ordinary Joe」に夢中になった頃、
最も魅力的に感じていたヤング・ディサイプルズの歌姫だった彼女が、やはり僕がソウル・ミュージックに深くのめり込む手招きをしてくれた
デニース・ウィリアムスのメロウな名曲「Free」をカヴァーしていたことも、ひどく感慨深かったです。

この原稿は、追悼選曲のつもりで編んだテリー・キャリアーのマイ・ベストCD-Rを聴きながら書いているのですが、
今スピーカーから、ポール・ウェラーとデュエットした「Brother To Brother」が流れてきました。
男同士の友情みたいな“絆”を感じることもあってか(スタイル・カウンシルの「Solid Bond In Your Heart」という曲名がよぎります)、
本当に胸が熱くなります。
『Mellow Voices ~ Beautifully Human Edition』に入れた「The Hood I Left Behind」では、
故郷のシカゴで同じ学校に通った幼なじみであり、偉大なソウル歌手のカーティス・メイフィールドのことが歌われていますが、
天国で今頃ふたりの共演が実現しているのでしょうか。そんなことも夢想して、優しい笑顔もよく似たふたりの、
大らかで慈しみにあふれた表情が浮かんできます。今夜はテリー・キャリアーがカーティス・メイフィールドの名作をカヴァーした
「People Get Ready」を聴いて、ご冥福を心より祈りながら、眠りにつきたいと思います。


追記:
もうひとつ、「テリー・キャリアーを偲ぶ夜」を終えて、その余韻から、気づくとふと口ずさんでいる追悼ソングがあります。
それは桑名正博の「夜の海」。彼の歌の中で唯一にして熱烈に愛する曲なのです。
“通りすぎてく季節と、お互いにわかっていても、そんなはずじゃないのに、涙こぼれそうで苦笑い”
──今年のクリスマスはこれと、テリー・キャリアーの7インチ・シングル「Silent Night」を静かに聴いてすごそうと思っています。

 

━━━━━━━━━━
11月の選盤
名曲「Ordinary Joe」を筆頭に、テリー・キャリアーの黄金期と言われる70年代前半の3枚のアルバムから1曲ずつ収録し、
名門カデット・レーベルの音源を中心に編まれた橋本徹さん選曲のコンピ『Free Soul MInd』
201211-1.jpg

テリー・キャリアー「Ordinary Joe」の感動的なライヴを始め、“亡き友へのレクイエム”をコンセプトに綴られた、
橋本徹さん選曲による夭逝した偉大な音楽家たちへのトリビュート・セレクション『Brother Where Are You』
201211-2.jpg

テリー・キャリアー「The Hood I Left Behind」やカーリーン・アンダーソン&ポール・ウェラー「Wanna Be Where You Are」など、
胸に迫るメロウなヴォーカル・ナンバーを集めた橋本徹さん選曲のコンピ『Mellow Voices ~ Beautifully Human Edition』
201211-3.jpg

 

──────────────────
橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは230枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

  • facebook
  • twitter
  • line
  • pinterest
  • google
green label relaxing
Twitter
Facebook
YouTube
Sumally
Instagram