連載コラム【音楽のある風景】 Vol.9

2013.01.18

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選盤されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。
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どうぞお楽しみください!

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1月の選曲はブランケットの温もり、安らかな眠りのように。
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新しい年が始まりました。2013年もよろしくお願いします。
僕は年末年始は友人たちとバリですごし、たっぷり泳いで心の洗濯をしてきました。
夕暮れには美しいサンセットを眺め、ビーチでシーフード・バーベキューをつつきながら、
ビンタンビールをプール一杯分ほど飲み干しました。
東京へ戻ったら、あまりに寒くて、少々風邪気味です。

冬の音楽、と言えば僕がまず思い浮かべるのは、
10年前に作ったコンピ『ジェット・ストリーム〜ウィンター・フライト』です。
真夜中のひとときを耳に優しいイージー・リスニングで演出するTOKYO FMの長寿番組「JET STREAM」とのコラボレイションCDで、
春夏秋冬をめぐり、四季折々に選曲したうちの一枚。クライアントはJALで、番組の雰囲気を再現するというよりも、
アームチェア・トラヴェルのお供に、と意識したセレクションで、機内で飲む温かいスープのように心を和ませてくれる音楽、
夜間飛行で強い酒をちびちび飲りながら眠りに落ちていく、まさにその瞬間に流れていてほしい音楽を集めました。
TOKYO FMのプロデューサーと共有したコンセプトは、午前零時の恋人たちの風景を描いたフィルムのサウンドトラック、
言わばジム・ジャームッシュ監督『ナイト・オン・ザ・プラネット』の印象派風情・・・・・・。

そんなイメージの起点となったのは、エリック・サティの名曲「ジムノペディ」のメランコリックな情感でした。
そして何より僕が気に入っているのは、フランスの名ピアニスト、パスカル・ロジェによるその演奏に続く
ジェリー・マリガンの「Night Lights」が、まるで2曲でひとつの曲のように美しくつながって聴こえることです。
静かに舞い散る雪のひとひらと、遠く瞬く夜景の街灯りが溶け合うように。
これはぜひ多くの皆さんに聴いていただけたら嬉しいです。
世界各地の冬の表情をとらえたアートワークも素晴らしいと思います。
パイザノ&ラフの「Under The Blanket」という曲も入っているのですが、
本当にアルバム全編、ブランケットの温もりに包まれるようです。

そしてもう一枚、エリック・サティ「ジムノペディ」をモティーフにした、ロン・デイヴィスの祈りにも似た厳かなピアノが奏でる
ヘンリー・マンシーニの名曲「Moon River」をエンディングに配した、『音楽のある風景〜秋から冬へ』を。
これはまさしく、親和性の高いふたつの曲の甘美で安らかな結晶で、部屋の灯りを消した後に静かに響く音楽として、
これ以上のものは考えられません。
冬の深まりゆく夜、ソプラノ・サックスの慈しむように神聖な音色に郷愁を誘われ、
静寂のワルツがレクイエムのように胸に沁みてきて、その余韻にやがて、穏やかな眠りが訪れます。

このコンピレイションは、実はオープニングも、サラ・ガザレクという女性歌手が、
ビートルズの「Blackbird」とジャズ・スタンダードの「Bye Bye Blackbird」というふたつの曲を、
たおやかなチェロとピアノの室内楽的なアレンジで絶妙のメドレーに仕立てていますので、ぜひ聴いてみてください。
何とも優美で粋な試みです。
80分トータルの流れでも、“翳り”や“愁い”も大切にした、こまやかな陰影に富んだ選曲ができたのではないかと思っています。
とりわけ奇跡の一曲、ナンド・ローリアによるビートルズ「If I Fell」の絶品カヴァーは、
ジョン・レノンの心の震えさえ純化したような澄んだ哀切と儚い疾走感に、ただただ胸を締めつけられます。

ここで一服、今この文章を書きながら流している、冬の午後のコーヒータイムに最高なジャズも紹介しましょう。
それは、昨年末亡くなったデイヴ・ブルーベックとの活動でも有名なポール・デスモンドのペンによる「Wintersong」。
その名の通り、という感じで、ポール・デスモンドのアルトとジェリー・マリガンのバリトンの清潔なアンサンブルが
何とも心地よい1957年のピアノレス・カルテットによる演奏を、僕は愛聴しています。
正直、1時間リピートし続けていても、飽きることはありません。

もう一曲、昨日からの窓の外の雪景色を眺めていて、ふと浮かんだメロディーが「Skating In Central Park」。
もともとはモダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイスが映画『Odds Against Tomorrow』のために書いた曲で、
ビル・エヴァンス&ジム・ホールの『Undercurrent』の名演が最も知られているでしょうが、
僕の頭の中で鳴りだすのは、ミシェル・ペトルチアーニを敬愛しているだろうピアニスト、
セルジュ・デラートのトリオによる軽快なヴァージョン。
思わずメリーゴーラウンドのようなワルツのリズムに乗って、スケートで滑りだしたくなりますが、
「Skating In Central Park」を聴くと反射的に、僕はサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の
セントラル・パークの場面も想起せずにはいられません。
佐野元春のニュー・アルバムのタイトルも『Zooey』と聞きましたので、
今夜は久しぶりに「フラニーとゾーイー」でも読んでみようかと思います。

最後に、寒さの中を歩いていて、この冬つい口ずさんでしまう曲についても簡単に。
サイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」。彼らの中では特に好きな曲というわけではないのですが、
あるとき急に、その自分への問いかけのような歌詞が重みをもって響いてきてしまったのです。
原題は「A Hazy Shade Of Winter」。冬の気配、と訳した方が、冬霞みの心象風景的なニュアンスが伝わるでしょうか。
この歌詞については様々な解釈があるようですし、ここでは詳しくは触れませんが、
人生の冬を迎えつつある僕には他人事とは思えない、身につまされる歌なのです。
“Seasons change with the scenery, weaving time in a tapestry”
──こんな素晴らしい歌詞を書いたポール・サイモンは当時20代半ば。
いったいどういう人なのでしょうね、と彼への興味も募るばかりで、ウォッカ&ライムが飲みたくなります。
書きかけの原稿と“There’s a patch of snow on the ground ”な光景を見やりながら。

そして最近、歌いだしから雪景色を思い浮かべることもあってか、「冬の散歩道」に替わって口ずさみソングNo.1なのが、
キース・ジャレットの胸焦がすメランコリー・フォーク「For You And Me」。
読者の皆さんの中には今、「あれ?」と思われた方もいるでしょう。
そう、キース・ジャレットは高名なジャズ・ピアニストで、美しいメロディーがピアノから零れ落ちるような
『The Melody At Night, With You』などは、それこそ冬の夜に大推薦のアルバムですが、
彼はキャリア初期の1968年、シンガー・ソングライターとして『Restoration Ruin』というフォーク(〜ロック)盤を残しているのです。
そこでキース・ジャレットが、ヴォーカル/ギター/ハーモニカ/ソプラノ・サックス/リコーダー/ピアノ/オルガン/
エレクトリック・ベース/ドラムなどをひとりでこなしていることも特筆すべきですが、
彼自身が「22歳のリビドーだった」と語る、ボブ・ディランの影響も色濃いその知られざる作品の白眉が「For You And Me」で、
まさにメランコリーの極み。
僕は弦のアレンジの佇まいに、ジェイムス・テイラーが同じ頃ビートルズのアップルから発表したファースト・アルバムを連想したりもします。
これはきっと見逃していた方も多いでしょうから、よろしければご一聴を。歌はもちろん上手くありませんが、その歌心に涙します。

追記:
先月紹介した『Haven’t We Met?〜Sparkle Love Songs』が全国リリースされました。
ぜひぜひ聴いてみてください。
HMVウェブサイトWEB DACAPOに詳しい記事が掲載されていますが、
マルク・シャガールを思わせるドローイングをあしらったジェントルなジャケットもとても気に入っている名ラヴ・ソング集です。
ヴァレンタインなどのギフトにもどうぞ!

 

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1月の選盤

クラシック〜ジャズ〜ボサノヴァ〜ソフト・ロックを横断し、
優しく洗練された肌触りの至福の音楽で真夜中のひとときを演出する、
橋本徹さん選曲のコンピ『ジェット・ストリーム〜ウィンター・フライト』
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女性ジャズ・ヴォーカルを中心に、ビートルズの名カヴァーを含む
憂愁を帯びたメロウな傑作群が季節の移ろいを余情豊かに美しく彩る、
橋本徹さん選曲のコンピ『音楽のある風景〜秋から冬へ』
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ロマンティック&メロウなサロン・ジャズ・フィーリングに親密なボサの風合い、
華やいだグルーヴが“胸躍り心暖まるラヴ・ソング”をハートフルに輝かせる、
橋本徹さん選曲のコンピ『Haven’t We Met?~Sparkle Love Songs』
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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは230枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

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