連載コラム【音楽のある風景】 Vol.14

2013.06.28

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選曲されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。
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どうぞお楽しみください!

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6月の選曲は目前の夏に胸ときめかせ、「雨に微笑みを」
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「雨にぬれても」「雨に唄えば」「雨に微笑みを」。
6月は雨を素敵に感じられる曲がいいですね。

学生の頃から好きだったドナルド・フェイゲンの
「Walk Between Raindrops」(邦題「雨に歩けば」)。
軽快なビート、洒落たアレンジ、何よりその歌詞が描く光景に強く惹かれました。
その兄弟のように僕が愛聴していたのが、英国のソウル・グループ、リアル・シングの
「Rainin’ Through My Sunshine」。
心地よいグルーヴと心洗われるメロディーで
90年代にフリー・ソウル人気ナンバーとなったこの曲を初めて聴いたとき、
まず連想したのは山下達郎の「レイニー・ウォーク」でした。
吉田美奈子の歌詞、細野晴臣&高橋幸宏のリズム隊も素晴らしい名作ですね。

雨がもう少し続くといいと願っている恋人たちを歌ったラヴィン・スプーンフルの
「Rain On The Roof」などもロマンティックですが、ようやく梅雨の晴れ間が訪れた今日、
僕が朝から口ずさんでいるのは、安井かずみの歌詞にも好感を抱く
笠井紀美子のメロウ・ソウル「夏の初めのイメージ」。

とはいえ、6月の音楽コラムはやはり雨にまつわるCDを紹介、と思ってまず思い出したのが、
僕が1992年に初めて手がけたコンピレイション『’tis blue drops』です。
今に連なる240枚を越えるマイ・セレクションの言わば原点ですが、
まだ20代半ばの僕がライナーに寄せた文章は次のように始まります。

突然降り出した雨に、カフェの軒下へ駆け込んでくる女の子や、
淡く輪郭をなくしていく街の風景を眺めていると、
柔らかな雨の雫には優しく気分を溶かしてくれる何かが隠されている、そんな気がしてきます。
いま皆さんが手にしているCD『’tis blue drops』は、
そんな雨の雫をイメージして選曲されたものです。
音楽が流れていることさえいつの間にか忘れてしまうのに、
針が上がる頃には甘酸っぱさに身を包まれ気分が溶け出している、
適度に冷たくて甘やかなblue drops。
そんなイメージが似合う曲を集めたこのCDが、
こぼれ落ちる雫のように皆さんの気持ちに心地よい波紋を描けたらとても嬉しいです。

何だか甘酸っぱすぎて、胸が苦しくなってきますが、
選曲は現在の自分から見ても最高です。
ウィリアム・ディヴォーンやカーティス・メイフィールドのメロウ・グルーヴは、
多言無用の僕のオールタイム・フェイヴァリット。
ニール・セダカのカムバック・ヒット「雨に微笑みを」(原題「Laughter In The Rain」)の
ラヴァーズ・ロック版は、クールなダブ・パートの美しさにも陶然とします。
「雨音はショパンの調べ」~小林麻美~彼女との競作「Sugar Shuffle」という
連想ゲームが成り立つリンジー・ディ・ポールは、
そのスウィートなウィスパー・ヴォイスによって物憂いエロティシズムに包まれます。
梅雨の空に爽快な一陣の風を吹き込んでくれるのは、
ファットバック・バンドのその名も「Groovy Kind Of Day」。
マッド・プロフェッサーの水彩画のような音作りも、
ほのかな雨の匂いに満たされた部屋に、涼しさや清々しさを運んでくれます。

雨の歌と言えば、ジャズ・ヴォーカルのウィスパリング・ビューティー、
ブロッサム・ディアリーの「I Like London In The Rain」も、ぜひ紹介したい曲。
ニューヨーク近郊に生まれ育ち、パリに渡りアニー・ロスやクリスチャンヌ・ルグランと
コーラス・グループ、ブルー・スターズ・オブ・フランスを結成し、
その後もアメリカとヨーロッパを行き来していた彼女の1970年イギリス録音。
生まれたとき、兄が父親に満開の桃の枝を持ってきたというエピソードに由来するという、
素敵な名前の持ち主ですが、自分の愛情表現を歌と言葉にする天才でもあります。
敬愛するミュージシャンに捧げた「Hey John」(ジョン・レノン)や
「Sweet Georgie Fame」(ジョージー・フェイム)も聴いてほしいですが、
この曲からは、グルーヴィーに弾むビートにのって、
雨のロンドンを傘をさしてレインブーツ姿で歩く彼女のチャーミングな姿が浮かんできます。
“It’s like mirrors in the rain / Turn the city upside down / Liquid pictures of the town”
というフレーズに、「Think Of Rain」で知られるマーゴ・ガーヤンのガラス窓につたう雨のジャケット、
『Take A Picture』を思い浮かべるのは僕だけでしょうか。

ブロッサム・ディアリーはやはりイギリスで『Soon It’s Gonna Rain』というアルバムを吹き込んでいて、
僕はその中のボサノヴァ曲も『Blossom Dearie for Cafe Apres-midi』に選んだりしていますが、
雨にちなんでタイトル曲で僕のいちばんのお気に入りを挙げるならヘレン・サッシュ&レックス・ジャスパー。
インドネシアからドイツへ渡った女性ジャズ歌手とオランダの名ピアニストですが、
北欧クラブ・ジャズの旗手クープもあの傑作「Summer Sun」で参考にしたに違いない、
小気味よい快速グルーヴの絶品ヴァージョンで、コンピ『音楽のある風景~夏から秋へ』に収録しています。
ちなみに『音楽のある風景~春から夏へ』にはピーター・フェスラーの
「Here’s That Rainy Day」が入っていて、雨をテーマにしたジャズ・スタンダードの好カヴァーは、
音楽で季節の移ろいを描写するうえで、大きく貢献してくれているのですね。

最後に、僕が2007年にリオでレコーディングしてきた、現代フレンチ・ブラジリアン最高峰の女性シンガー、
カチアによるアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「Chovendo Na Roseira」(邦題「ばらに降る雨」)を。
ポルトガル語の歌詞では、ばらに降る春の雨に片思いの気持ちを募らせていますが、
梅雨どきの日本では、静かに雫に濡れるあじさいの花をイメージしながら聴いてただきたい、
メランコリックな雨のワルツです。
他にブラジルの歌なら、ナラ・レオンの「Dia De Chuva」も小粋でいいですね。
ずばり雨の日、という意味ですが、雨上がりの爽やかさを楽しめそうな気分になってきます。

こうして思いつくままにピックアップしてみても、雨には優しい歌が多いですが、
ときにはボブ・ディランのように「激しい雨が降る」こともあります。
それでも“雨の日と月曜日はいつも気分が滅入るの”なんて言わないで、
チャーリー・ブラウンのように「Rain, Rain Go Away」と祈りながらも、
目前に迫った夏に笑顔で胸をときめかせるのが、正しい6月の過ごし方なのかもしれません。


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6月の選盤

柔らかな雨の雫をイメージして、クール&メロウなラヴァーズ・ロックや心地よく
グルーヴィー&ブリージンなソウル~ソフト・ロックの名作が集められた、
橋本徹さんが1992年に初めて選曲したコンピレイション『’tis blue drops』
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小鳥のように可憐な歌声で人気の高いウィスパリング・ビューティー、
ブロッサム・ディアリーのサロン・ジャズ~ボサノヴァ~フレンチ~ソフト・ロックの珠玉の名演が集められた、
橋本徹さん選曲のベスト・コレクション『Blossom Dearie for Cafe Apres-midi』
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しなやかなメロウネスと優美なサウダージ、甘い躍動感を堪能できる
現代フレンチ・ブラジリアン最高峰の女性シンガー、
カチアの橋本徹さんプロデュースで大ヒットした3枚のアルバムを中心に選りすぐられた
ベスト・コレクション『美しき音楽のある風景~リオからパリへ』
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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは240枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

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