連載コラム【音楽のある風景】 Vol.17

2013.09.27

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選曲されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。
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どうぞお楽しみください!


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9月の選曲は小さな旅のように、ささやかな幸せの瞬間を求めて。
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9月を迎え、気温も下がり、すっかり秋めいてきました。
ファッション好きの皆さんは、もう秋の装いを楽しまれているのでしょうね。
連休も多い9月は、気候的にもすごしやすく、僕は週末が訪れるたびに、小旅行に出かけています。
本当なら海外に行けたら嬉しいのですが、ささやかな幸せの瞬間を求めての、小さな旅。

映画「風立ちぬ」を観て、久しぶりに行きたくなった軽井沢へは、
9月最初の日、空にひこうき雲をさがしながら。
夏の終わり、ウッディーな佇まいも素敵な小さなカウンターで、
“Summer’s Afterglow”(夏の余韻)というレシピのカクテルを味わいました。
涼しいカクテルを夢にそそいで♪
“夏服を着た小鳥たちが、秋に向かって飛び立つのさ”と歌われる
南佳孝の「夏服を着た女たち」を思い浮かべながら。
終わることを拒む夏、という感じだったこの日に相応しく、
旅の友はレイ・ブラッドベリの「さよなら僕の夏」(Farewell Summer)。
帰りの新幹線でページを繰りながら、“たんぽぽのお酒”に夏の思い出を託すように、
ひとつひとつの音楽を胸に刻んだ日々を回想しました。

翌週末は、“東京JAZZ”でライヴを楽しんだ後、箱根~湘南~横浜と神奈川をぐるぐる。
ゆく夏に、名残る暑さは、夕焼けを♪
ユーミンの「晩夏(ひとりの季節)」で、彼女が描く移りゆく季節の心象に心打たれ、
前夜に手にとった幸田文のエッセイ集「季節の手帖」の帯にあった、
“季節をよろこぶ心が福を招くのです”という惹句をかみしめました。
港の見える丘公園の近くでは、オフコースの「秋の気配」、
そして小田和正がユーミンのことを歌ったという「ワインの匂い」を思いだし、
中学生の頃の風景がフラッシュバック。
由比ヶ浜では、リリースされたばかりのharuka nakamuraの『MELODICA』を流し、
亡きNujabesの作ったスタジオを訪ね、墓参りのような気持ちで哀悼の意を捧げました。
その理由は、『MELODICA』に収められた「Lamp feat. Nujabes」のミュージック・ヴィデオをご覧いただければ、
しっかりと伝わると思います。
そこには僕にとってもかけがえのない思い出の数々が映しだされています。
今もharuka nakamuraの「soar」のラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」のメロディーに包まれながら、
その光景に思いを馳せているところです。

この週末、「秋はメロウ・アイズレーズ」という言葉に、
選曲家としての自分がとても勇気づけられたことも、記しておきましょう。
メロウ・アイズレーズとは、1995年に僕がコンパイルした
アイズレー・ブラザーズの編集盤『Groovy Isleys』『Mellow Isleys』のうちのひとつ。
トッド・ラングレンのカヴァー「Hello It’s Me」から、
サンプリング・ソースとしても名高い「Between The Sheets」(シルクの似合う夜)まで、
優しく日常に寄り添う名曲がスムースに並んでいます。
「For The Love Of You」「(At You Best) You Are Love」「Footsteps In The Dark」といった
数多くのカヴァーで知られる指折りのメロウ・クラシック、キャロル・キングやボブ・ディランの好カヴァー、
「Brown Eyed Girl」や「Harvest For The World」のようなアコースティック名作の素晴らしさ。

秋はロマンティックな季節、20年近くにわたって聴き継がれているというだけでも、この上ない喜びなのですが、
なぜ選曲家冥利に尽きるかと言えば、豪快なファンキー&ロッキン・ナンバーと美しいミディアム~バラードが
入り混じるオリジナル・アルバムを聴いても、普段の生活には自然にフィットしづらいアイズレー・ブラザーズが、
リスナー目線でテイストを大切にセレクトすることによって、聴きての心に柔らかく染みこみ、
気持ちを優しく溶かしてくれるような、パーソナルな魅力へと昇華されていることが証明された、と感じたからです。
久しぶりに聴いて、僕自身も改めて、これは二人で聴くCDの最高峰だな、と思いました。
というか、世の中には“二人で聴く音楽”というジャンルがあることに気づかされた、と言えばいいでしょうか。
その相手がたとえ友人だとしても、もちろん恋人だとしても。
ドライヴをしながら流していて、日本もアメリカのようにハイウェイ・ライトがオレンジ色ならいいのに、そんなことも思いました。

先週末も、思い入れ深い場所のたくさんある南房総に行ってきましたが
(どういうわけか、ドラマ「SUMMER NUDE」のロケ地探訪のようになってしまいましたが、それはそれで楽しかったです)、
旅の話はこれくらいにして、ここからは、ライヴ月間でもあった9月を振り返っていきましょう。
エンリコ・ピエラヌンツィ、グレゴリー・ポーター、ダニ&デボラ・グルジェル、シモン・ダルメ、
ケンドリック・スコット・オラクル(2回)、ロバート・グラスパー・エクスペリメント&モス・デフ、
そしてブラン・ニュー・ヘヴィーズ。

ブラン・ニュー・ヘヴィーズのライヴを観るのは、もう何度目かという感じでしたが、
以前サインをもらった僕の選曲コンピ『Acid Jazz Meets Free Soul』を聴いてから出かけたこともあって、
20年前から変わらぬ楽しさを満喫しました。
そのCDにも収めた「Dream Come True」「Never Stop」「Stay This Way」から、
「Dream On Dreamer」や「You Are The Universe」まで、やはりヒット曲を多く持つバンドならではの輝きと盛り上がりで、
「FunはFunkyのFun」という言葉が頭をよぎりました。
メンバーのサイモン・バーソロミューが、渋谷にあったDJ Bar Inkstickで20年前、
僕の友人の山下洋たちとセッションを繰り広げたことを憶えていてくれたのも、嬉しかったです。

その日は美しい中秋の名月で、前夜にも東京タワーと14番目の月を眺めた余韻で、ニール・ヤングの「Harvest Moon」
(月見酒のために、この曲のいろいろなヴァージョンを集めたプライヴェイトCD-Rを作ったばかりでした)、
そしてヴァン・モリソンの「Moondance」という、まるで歌詞も兄弟のような僕の好きな2曲を口ずさんで帰路につきました。
もっとも「Moondance」は、少しフライング気味かもしれません。
“A fantabulous night to make romance/’Neath the cover of October skies”という素晴らしいフレーズがあるので、
本来は10月の歌とするべきなのでしょう。

ブラン・ニュー・ヘヴィーズに先立って、カフェ・アプレミディでシモン・ダルメと
音楽談義に花を咲かせる一夜をすごせたことも、忘れられません。
昨年9月のこの連載コラムでも、「夏の終わりから秋にかけて強く推薦したい」と紹介した
シモン・ダルメは、フランスのピアニスト&シンガー・ソングライター。
“東京JAZZ”のために披露したステージは、ビーチ・ボーイズ(というかブライアン・ウィルソンのピアノ弾き語り)
「Surf’s Up」の空気感を漂わせながら、ラスト・ソングは、僕が初めてパリでジョアン・ジルベルトを観たときにも
アンコールで歌われた、シャルル・トレネのシャンソン「残されし恋には」
(フランソワ・トリュフォーの映画「夜霧の恋人たち」にも使われていました)。
そのことに対する感激も伝えつつ、彼との話が最も熱を帯びたのは、
エヴリシング・バット・ザ・ガールとベン・ワットに話題が及んだときでした。

僕たちは、彼らの音楽を収めたコンピ『Cherry Red For Cafe Apres-midi』を見ながら、
ベン・ワットが今、僕がシモン・ダルメの『The Songs Remain』を説明するときに引き合いに出した
名盤『North Marine Drive』以来30年ぶりに、ソロ・アルバムを作っていることについて、目を輝かせて語り合いました。
そしてシモン・ダルメは、J-WAVEの番組収録のときにも、
『Cherry Red For Cafe Apres-midi』にベン・ワットとの共演作が入っている、
ロバート・ワイアットの「Maryan」をフェイヴァリットとして選んでいました。
何だか心が通じ合ったようなひとときに感謝して、
僕は翌朝、ロバート・ワイアット~クリスティーナ・ドナ~フィリップ・カテリーン~マイク・ギブスと、
その曲の様々なヴァージョンを感慨にふけりつつ聴いたのでした。
昨夜のような、いい音楽と美味しいワインが普通にある毎日を送れたら、と淡い願いを抱きながら。


追記:
さっき音楽仲間に指摘されて気づいたのですが、「Harvest Moon」と「Moondance」については、
去年10月のこの連載コラムでも書いていますね。
またかと思われた方は、ごめんなさい。
最近は記憶力がひどく薄れていて、恐縮です。
それくらい好きな曲ということで、ご容赦いただき、併せて読んでもらえたなら、とても嬉しいです。


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9月の選盤

長いキャリアを誇る名門ソウル・グループの全盛期の音源から、
カヴァーやサンプリングでも名高い絶品メロウ・グルーヴをメインに選りすぐり、
白人アーティストの名曲の素晴らしいアコースティック・カヴァーもまじえて珠玉の名演がスムースに連なる、
橋本徹さん選曲によるアイズレー・ブラザーズの編集盤『Mellow Isleys』
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ブラン・ニュー・ヘヴィーズの傑作群を始め、90年代に隆盛を極めた
アシッド・ジャズとフリー・ソウルの出会いの記録でありながら、
グルーヴ感あふれる70年代ソウル名曲の好カヴァーもふんだんにちりばめられタイムレスな輝きを放つ、
橋本徹さん選曲のコンピレイション『Acid Jazz Meets Free Soul』
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エヴリシング・バット・ザ・ガール~ベン・ワット~トレイシー・ソーンを中心に、
80年代イギリスの小さな宝石のようなレーベル、チェリー・レッドに刻まれた
ネオ・アコースティックの瑞々しい息吹と蒼さや切なさが詰まった、
橋本徹さん選曲のコンピレイション『Cherry Red For Cafe Apres-midi』
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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは240枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

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