連載コラム【音楽のある風景】 Vol.74

2018.06.30

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選曲されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。



どうぞお楽しみください!

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6月の選曲は、"一生もの"の音楽との出会いを大切に。
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東京は例年になく早い6月中の梅雨明け、早くも真夏のような陽射しが降り注いでいますが、皆さんいかがおすごしですか?
個人的には思わぬスピードでの夏の訪れを歓迎していて(水不足などの影響は心配ですが)、海辺でのオーシャン・ヴュー・DJパーティーの計画を立てたり、サッカー・ワールドカップを観たり(エムバペ凄かった!)しながら、選曲に励んでおります。

今月はアプレミディ・レコーズから発表されたばかりの2枚の素晴らしいアルバムを紹介しましょう。
まずは米国ニューイングランド出身の男性シンガー・ソングライター、トム・ギャロのデビュー作『Tell Me The Ghost』。
枯れた音色の繊細なギター・リフ、シンプルながらさりげなくアクセントを添えるパーカッション、淡く浮遊するシンセサイザー、反復のミニマリズムを宿した現実と夢のあわいを揺らめく音像は古いモノクロ映画のような深い陰影を帯び、そのガット・ギターの爪弾きとささやくような歌声に漂う優しいメランコリーと甘美な寂寥感が、リスナーを白日夢に誘いこみます。
そう、これは彼自身のホーム・レコーディングによる、古びたアコースティック・ギターを抱え質素なマイクロフォンで吹きこまれた、"モノクロームのファンタジー"。
そこにはある特別な"音霊"と霊妙な"気配"さえ感じられます。

僕は今年春に配信オンリーでリリースされたばかりのこの名作に、「これは"一生もの"の大切な音楽との出会いだろう」と心から惹かれてしまい、日本盤CDにできないかと誠意をもってアプローチしたところ、世界初のフィジカル化を実現することができました。
すでに彼と親交のあるモーゼス・サムニー(『Aromanticism』は僕の昨年のNo.1アルバムです)が絶賛し、チャド・ブレイク(トム・ウェイツ〜U2〜スザンヌ・ヴェガ〜エルヴィス・コステロ〜ピーター・ゲイブリエル等を手がけ、自らもラテン・プレイボーイズで活躍するサウンド・エンジニア/プロデューサーの巨匠です)がトム・ギャロの音楽をいたく気に入ってミックスを買って出たというのも素敵なエピソード。
ベン・ワットやジョン・マーティンといった英国の内省的なシンガー・ソングライター、ホセ・ゴンザレスやデヴェンドラ・バンハート、スフィアン・スティーヴンスやジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)、あるいはブラジルのチガナ・サンタナなどを愛する音楽ファンには、特に熱心に薦めたいと強く思っています。

そしてもう一枚、ぜひとも推薦したいのが、2001年に27歳で惜しくもこの世を去った南アフリカのジャズ・ピアニストの最高峰と讃えられる伝説的存在、モーゼス・タイワ・モレレクワ(彼の死は南アのジャズ・シーンにとてつもない空洞を生んだと言われています)が1998年に制作した、ジャケットの表情にもとても惹かれる歴史的大名盤『Genes And Spirits』。
ジャズ〜アフロ〜カリビアン〜クワイト(南アフリカのクラブ・ミュージック)〜ブロークンビーツ/ドラムンベース(イギリスのクラブ・ミュージック)〜ソウル〜レゲエなど多種多様な要素を、アフリカならではの大らかな包容力と生命力、真摯なスピリチュアリティーで表現した、あまりに素晴らしい大傑作で、チューチョ・ヴァルデス(キューバ)/フローラ・プリム(ブラジル)/ブリス・ワッシー(カメルーン)といった多彩なゲストも迎えています。
20年前の作品でありながら、20世紀と21世紀の南アフリカ・ジャズの歴史を現在進行形でクロスオーヴァーにつなぐ最重要の存在で、遂に世界が発見した(いや、今こそ発見されるべきだったと言うべきでしょうか)エポックメイキングな金字塔だと思います。

たおやかでメロウな「Tsala」に始まり、シャープなリズム感覚が冴える「Spirits Of Tembisa」、親指ピアノも印象的なスピリチュアルな「Down Rockey Street」から、芳醇なアフロ・カリビアンの風合いが香る「Dance To Africa」まで、至高の名作がずらりと並び、僕はアナログ盤でDJプレイすると、必ずオーディエンスから「この曲は何ですか?」と問い合わせを受けるのも嬉しいですね。
これも僕にとって"一生もの"の音楽になること間違いなし、ぜひ聴いてみてください!

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6月の選盤


眠りにつく夜の静寂、目覚めの朝の夢の余韻、深い陰影が揺らめくガット・ギターの爪弾きとささやくような歌声に漂う優しいメランコリーと甘美な寂寥感が"モノクロームのファンタジー"を描き奏でる男性シンガー・ソングライター、橋本徹さん監修のアプレミディ・レコーズからリリースされたトム・ギャロの2018年作『Tell Me The Ghost』


2001年に27歳で夭逝した南アフリカ・ジャズ・ピアノの伝説的存在による歴史的大名作、ジャズ/アフロ/カリビアン/ブロークンビーツ〜ドラムンベース/ソウル〜レゲエなどが溶け合い、アフリカならではの包容力と生命力とスピリチュアリティーに満ちた、橋本徹さん監修のアプレミディ・レコーズからリイシューされたモーゼス・タイワ・モレレクワの1998年作『Genes And Spirits』

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橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは340枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

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