Interview with the president of RIO BIANCO, TAKEO SAITO

「あ、ごめんね。ジャケット脱がなきゃ。やっぱり、シャツ一枚じゃないと」。

斎藤武夫さんは、ユナイテッドアローズのドレスシャツを手がけるシャツ工房「リオ・ビアンコ」の代表。

取材当日、シャツにジャケットという出で立ちの斎藤さんが、写真撮影を前に笑う。

シャツ作りに携わって、54年。

日々、シャツと向き合ってきた斎藤さんに話を聞きたくて、福島県白河市にある工房へと向かった。

斎藤さんは、普段からシャツを着られていますか?
斎藤さん(以下S):
むしろ、シャツ以外は着ないと言ってもいいくらいですね。
それは、オン・オフ問わずですか?
S:
はい。もう何十年とシャツばかり着ているので、自分自身でTシャツやポロシャツは似合わないような気がして。まぁ、自分が看板だと思っていますから。
何十年もというのは驚きです。Tシャツやスウェットの方が楽な時もあると思うのですが。
S:
そうでしょうね。でも、私はダメなんです。どうしても落ち着かなくて。長年のクセみたいなものでしょうね。
シャツを着る上でのこだわりはありますか?
S:
シャツは、肌で感じるのが大事だと思っていて。ですから、基本的に綿100%のものしか着ません。あとは、素肌に直接着るということぐらいかな。冬でも肌着は着ないですね。妻からは、もう歳なんだから下着を着たら?って言われるんですけど。もともと、シャツは肌着なんでね。
それだけ毎日シャツを着られてきて、斎藤さんが思う良いシャツの条件はなんだと思いますか?
S:
やっぱり、一番は衿だと思います。お店で畳まれている状態でも、衿が三分の一を占めるじゃないですか。そこの美しさはとても重要です。ですから、うちは衿に関しては、特別丁寧に作っています。ひとりでやれる工程も人数を増やしたり。シャツにとって一番重要な“顔とも言える部分だとおもっています”
そもそも、なぜシャツだったのでしょう?
S:
高校を卒業してすぐだったので、18歳の頃。地元にたまたまシャツ工場があって、そこに就職したのがきっかけです。なぜ洋服なのかっていうと、うちの親父がテーラーだったんですよ。最近になって、今のような質問をされて考えると、なんとなく親父の影響があるのかな、なんて思いますね。親父の働く姿を子供心にうっすら覚えているんです。幼い頃の写真のなかにもシャツを着ているのがあって。おそらく、親父が作ってくれたものでしょうね。これ、ずいぶん昔の写真ですけど。
サスペンダーまでしていますね。18歳で就職して以来、シャツ一筋ですか?
S:
そうそう。もうずっと。今年で54年になりますよ。リオ・ビアンコは平成2年にスタートしたんですが、長いこと百貨店のドレスシャツをメインに作っていたんです。そこにユナイテッドアローズさんからの依頼があった。今思えば、大きな分岐点でしたね。それまで作っていたものと、ユナイテッドアローズのものとでは、同じシャツでも全く違った。最初は戸惑いましたよ。
そうだったかもしれませんね。

S:
まず、工程から違いました。それまでは、ほぼすべてを機械でやっていたんですが、それでは対応できないようなこだわりがたくさんあった。細かく言うと、3センチ間に何針ミシンを打つかっていう針数も、それまでは16~18針くらいでしたが、最低でも21~23針に増えた。それに、中心で接ぐスプリットヨークや、脇のガゼット、裾の細三つ巻きなど、今までやったことのないことにチャレンジしなければいけなかった。全く初めての経験ですから、当時は本当に苦労しましたね。最初は、サンプルで持ってきていただいたシャツを分解して調べるところから始まりましたから。でも、命を賭けるつもりで、スタッフみんなで技術力を磨いたんです。ユナイテッドアローズのシャツは、余分なゆとりをとらず着た時に袖が肩下がりしないように考えられている。細かなディテールも含めて、すべてスーツの着こなしからきていると思うんです。スーツを着た時に、着やすく美しく見えるシャツ。
そうですね。リオ・ビアンコさんが作るシャツの一番の強みや特徴はどういうところだと思っていらっしゃいますか?
S:
うちの特徴は、すべての縫いが細かいこと。それに、美しく仕上げること。言葉にするとあっけないけれど、とにかく職人の技術力に尽きます。手作業の工程が多い分、職人の腕の良し悪しが正直にシャツに出る。ただ、私自身はミシンが使えないので、自分がやるのではなく、いかに優れた技術者を育てるか。そこに毎日を費やしてきました。
今日も実際の制作工程を拝見させていただいて、衿の地縫いや、袖付け・伏せという最もテクニックが必要とされる部分を、若手の方に任せていらっしゃいますよね。熟練の方ではなく。それには何か狙いがあるのですか?
S:
初めてうちに来た方には驚かれますね。ベテランスタッフに任せればもちろん安心ですが、技術を残すためには若い人を入れなきゃいけない。彼らは、経験値こそ少ないけれど、怖いもの知らずという部分があって、あえて思い切って任せてしまう。袖付け・伏せなんていうのは素人がやる仕事じゃないんですが、今、若手スタッフのひとりが担当しています。彼女は18歳で入ってきて、今年で3、4年目。入社してすぐに袖付け・伏せを教えて、もうかなりの腕前です。

先入観がない分、呑み込みも早いということですね。
S:
そうですね。最初はベテランがマンツーマンで教えるんです。例えば、二人でひとつの工程を行うこともあって、そういう工程の時には、左にベテラン、右に新人が座る。袖の場合はカーブして縫うので、非常に難しいんです。でも、当の本人は大変な仕事だと思っていない。周りは言うんですよ。新人にあそこを任せていいのかって。でも、私の考えは、経験を積んでからじゃなく、まず、やらせること。ちゃんと信用してあげれば、必ず応えてくれる。思い切りが大事だと思っているんです。
機械だけに頼らず、手作業の部分も大事にされていらっしゃいますよね?
S:
手作業の箇所は発注の内容によっても異なるのですが、袖伏せの一部や、ステッチやボタン付けなどをハンドでやっています。例えば、シャツの一番上と一番下のボタンだけは手縫いで付けたり。はっきり言って、丈夫さや正確さで言えばミシンの方が優れているのかもしれません。ただ、ボタン付けで言えば、すべてを機械で付けてしまうと、しっかり付きすぎて遊びがない分、留めづらくなってしまう。それをハンドの場合だと、根巻きと言って、下の足をちょっと浮かせるんですね。少しだけゆとりを作ることで、スムースな着脱ができる。そういう細かなところで手作業の良さが活きてきます。
ほかに、こだわりはありますか?
S:
普通、ブランドやメーカーからの発注書に沿って作っていくんですが、うちはすべて仕様書通りにやるのではなくて、長年の経験や蓄積した技術から最善の方法を提案させてもらうようにしています。完成品の形は変えずに、縫い方をこうした方が良いのではないか、など。そのための試作を作って、コミュニケーションしながら進めるんです。それって、お互いにとってもいいじゃないですか。こんなやり方もあるんだって、新しいことを知ってもらえるかもしれない。
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