¥17,600(税込)
女性ファッションの象徴的なアイテム、スカート。一着で女性らしさを演出できるファッションアイテムである一方、車いすのユーザーにとっては、シルエットが崩れたり車輪に巻き込まれる不安があったり、着こなしづらいアイテムでもあります。
頸髄損傷で車いすに乗って生活する関根彩香さんもこう言います。「12歳でけがをして車いすユーザーになってから、ほとんどスカートははいてませんでした。着脱しづらいんです。でも、ふつうのズボンも後ろに縫い目があって邪魔。『オシャレしたい』と思い始めたのは大学時代です。スカートを何度か買ったんですけど、結局着られなくてお友達にあげることの繰り返し。だからだんだんとパンツ一辺倒になっちゃったんですよ」。
そこで私たちは、車いすを使う女性はもちろん、あらゆる女性が美しいシルエットを自由に楽しめるスカートを作りました。前から見ると美しいプリーツの入ったフレアスカートですが、後ろはヒップの部分にふくらみのある、前後で表情の違うデザイン。後ろのゆとりが座った際に臀部にフィットし、生地が重なりにくい仕様になっており、車いすユーザーの方もフレアスカートを楽しむことができます。
1本1本のプリーツにはZIPが付いており、開閉によってフレアスカートにもタイトスカートにもシルエットが変化します。タイトにすれば移動の際に車いすの車輪に巻き込まれる心配もありませんし、ZIPを開けばすぐにフレアスカートに変わります。またウエストをずらして後ろ身頃のコブをサイドに持ってくると、新しいシルエットのスカートとしても着用できます。ウエストの両サイドにもZIPが付いていて、かつストレッチ素材のため、寝たままの状態でも脚を通したり、頭からかぶって簡単に脱ぎ着することができます。
「ファスナーの開閉ができるので、着替えがすごく楽です。時間も短縮できるし。こういうスカートは、ありそうでなかったですね」と、普段、彩香さんの着替えを担当するお母さまもうれしそうに語りました。
「一つのスカートなのに全然表情も違って、ZIPを全部開けるとふんわりするし、全部閉めるとピシッとする。ZIPの開け閉めだけで、こんなにスカートの表情が変わって、フォーマルでもカジュアルでも楽しめるのですごくいいと思います」と言葉が尽きない彩香さん。
「最初赤いスカートはびっくりしました。こんなにカラフルな服は着たことがなかったので。でも着たらうれしくなって。今まではベーシックな黒やネイビーのお洋服が多かったけれど、新しい色の服にも挑戦してみようと思いました」。フレアにもタイトにもなるZIPスカート。それは、今の自分にとらわれることなく、その時の気分や好きなファッションテイストに合わせて自由にオシャレを楽しめるスカートです。
頸髄損傷により胸から下にも麻痺がある関根彩香さんのニーズから生まれたフレアスカート。「実はスカートって、介助が必要な女性にはとてもハードルが高いアイテムなんですよ」。そう話すのは、デザインを担当したブランドディレクターの経験もある株式会社ユナイテッドアローズ ファッションマーケティング部の神出奈央子。
介助者にしてみれば、中心がわかりにくく、車いすに座らせるときシワになりやすいスカートは、とてもはかせづらいもの。また、臀部の縫い代の厚みは床ずれの原因になりやすく、風などでめくれたときに自力で直せないこともあり、本人にとっても着こなしにくいアイテムだといいます。実際、関根さんはいつもタイトなパンツを着用していたそうです。
それでもフレアスカートの制作を決めた理由について、神出はこんな風に語りました。
「2回目のヒアリングで、私たちが持参したサンプルのスカートを鏡の前で合わせたとき、ご本人がとってもうれしそうで……。介助が必要でも、スカートをファッションとして楽しみたい女性はたくさんいるはず。そう考えると、着脱しやすく、シワにならない、おしゃれなデザインのスカートを作ることには、単なる“ものづくり”を超えた大きな意義がある、と思ったんです」。
そこで生まれたアイディアが、ウエストから裾まで伸びる5本のファスナーです。ファスナーを閉めたタイトシルエットの状態で着替え、車いすに移動してから前見頃のファスナーを開けると、タックが開いてフレアスカートに変形する仕様です。また、5本のファスナーはスカートのセンター位置を示すガイドの役割も果たし、重みでスカートがめくれ上がりにくくしてくれます。
逆に、背面には切り替えを入れず、ダーツのみでヒップのふくらみを形成。臀部に縫い目が出ないように配慮しました。座ったときに最適な丈となるよう前面は長く、車いすに巻き込まれないよう背面の丈を短めにするなどディテールにもこだわっています。
「前後差のあるスカート丈は、車いすユーザーにとっては必要な“機能”ですが、健常者にとっては“ユニークなデザイン”になる。これは立つこと/動くことを前提にしたこれまでの服作りをしていただけでは、気づけなかったことです。今回の経験は、誰もが楽しめるファッションという新しい視点を得るきっかけになったと感じています」(神出)。
(引用:ヒトとモノとウツワ)
http://taisetsu.united-arrows.co.jp/5302/