Interview with the tailor of LIVERANO & LIVERANO,
ANTONIO LIVERANO

私たちユナイテッドアローズのスタッフの多くは、彼を"父"あるいは"先生"のようにリスペクトしている。それほどまでにエレガントかつ、ウィットに富んだジェントルマン。アントニオ・リヴェラーノさんは、イタリア・フィレンツェに工房を構える《リヴェラーノ&リヴェラーノ》の創業者であり、60年以上お客様にスタイルを授ける現役サルト。3月中旬、丸の内にあるザ ソブリンハウスで開催されたオーダー会に合わせて来日したアントニオさんにお話を聞くためにお邪魔した。取材当日、アントニオさんは、前身頃のダーツを省いたフィレンツェ仕立てのネイビースーツに緑のストライプのシャツ、レジメンのネクタイをしていた。

そんなアントニオさんの装いからは一足早く春の匂いがした。

アントニオさんは洋服を着る上で、ご自身のルールなどはあるのでしょうか?
アントニオ・リヴェラーノ(以下 AL):
仕立屋をしていますので、その仕事に合った服装をしているだけです。
毎日の気分で変わることはありますか?
AL:
そうですね。もし前の日に何か悪いことがあったり、考えなくてはいけない問題が山積みになっている場合は、それに立ち向かうため、気分を上げるために、エレガントな要素を入れるようにしています。朝起きてきれいな靴を履いて出かけることと同じです。
サルトというお仕事は肉体的な作業の部分も大きいと思うのですが、今のアントニオさんのようにエレガントな着こなしをするのはなぜでしょうか?
AL:
一般的にですが、昔の仕立屋さんは、自分の服を作るというよりは簡単なジャケットにトラウザーズを穿いてお客さまのスーツを作っていました。しかし、私の場合は私がどういう人間なのかをお客さまに伝えたいし、知ってもらいたいのもあるため、きちんとした洋服をきちんとコーディネートをすることを心がけています。お客さまとコミュニケーションする時間も無限にあるわけではないのでね。
アントニオさんが服装のことで工房のスタッフに注意することはありますか?
AL:
とりあえずジャケットを着てこいと。それぐらいです。
先ほどアントニオさんがおっしゃっていた「洋服は自分の気分を上げるもの」というのは、今の時代で失われつつある洋服に対する感情だと思うんです。なんと言いますか、着ることが義務的になりつつあると感じるんです。
AL:
その通りかもしれませんね。それは私自身もお客さまに伝えていることです。服を着ることは決して義務ではなく、感情の部分が大きいこと。だから気落ちしている時だからこそ、色を使って気持ちを高めていくこと。気分が落ちていることを理由に、ないがしろにしがちな服装ですが、それをそのまま放っておいてはいけないんです。そんな時こそ、自分を高めて、やる気を起こす服を着ることが大切。服にはそれだけの力があるということを私はこれからも伝えていきたいと思っています。
Dressing is emotional(服を着るということは感情的なこと)ですね。それはどの職業の方にも言えることですよね?
AL:
もちろんです。仕立屋だから言っているわけではなく、どの人にも言えることだと思います。災難というものは人生に付き物です。そんな災難とどのようにしてポジティブに向き合っていくかを考えることが大切ですよね。
その考えるきっかけを与える一つが洋服である?
AL:
そうです。
《リヴェラーノ&リヴェラーノ》にはどのような職業のお客さまが多いのでしょうか?
AL:
本当にいろんな方がいらっしゃいますよ。社長さんもいれば、弁護士さんやお医者さんも、大学生もいます。
もちろんお客さまのご職業やライフスタイルを聞きながら服を仕立てていくわけですよね。
AL:
そうですね。お客さまとの共同作業です。
共同作業というのは……。
AL:
私たちはお客さまのことをよく知れば知るほど、いいものができるので。
1着目より2着目の方が良いものができるということですね?
AL:
その通りです。みなさんも同じだと思います。作れば作るほど、どんどん良くなるのが職人の力量ですから。逆に言うと、「これでいい!」っていうゴールのようなものがないとも言えますよね。少しでも理想の形に近づくために私は仕立屋として服を作り続けています。
今回のカタログのテーマは、仕事と洋服なのですが、アントニオさんが考える生活に寄り添う服とはどういう服だと思いますか? いろんな職業の方を見ていらっしゃると思いまして。
AL:
私たちが作り方を知るジャケットをお客さまに作って、彼らがそれを使っているだけですよ。
それはアントニオさんが作るジャケットは、どんな職業の方にも合うってことですよね?
AL:
そうですね。それがビスポークである理由です。
アントニオさんからお客さまに対して、どのようなアドバイスをされるのですか?
AL:
お客さまがどのような職業の方なのかをベースに色や生地をアドバイスします。銀行関係のお仕事をされている方なら安心感を与えるために黒やダークなトーンの生地を提案します。ただし同じダークな色でも私なりに選び、お客さまに提案します。もちろんお客さまによってアドバイスは変わっていきますよ。
例えば、50年前と今とでは、ITとかプログラマーなどさまざまな職種が増え、倍以上になっていると思うのですが、何をしているのかよくわからない職業の方々が工房に来ることもありますか?
AL:
来たとしても、お客さまがどういったシチュエーションで使うのかが重要ですから。それはコミュニケーションすれば自然と見えてくるところです。
なるほど。アントニオさんは一日の中で着替えることはありますか? シチュエーションによって。
AL:
家から仕事場まで距離が離れているので、夜にイベントがある日は、朝からそれに合った格好をしていきます。仕事をしている人は、家に帰って着替える時間はないですから。
オフの日はどのような洋服を着ていらっしゃるのですか?
AL:
休みの時はジャケットやネクタイはしませんが、スポーティでもエレガントを心がけています。スニーカーも履きます。でもスニーカーにきれいなシャツだったり、美しいトラウザーや品のいいニットを合わせるなど、カジュアルだからといって手は抜かないようにしていますよ。
それはなぜでしょう?

AL:
どんな時も自分自身がちゃんとしていなくては説得力がないですからね。それができていないのに、人にどうやってアドバイスするのでしょうか? 私たちがしっかりしたコーディネートをしていないと、お客さまはそれを見て真似をしてしまいますから。
仕立屋というのはただ服を作るわけではなく、かなり複合的なお仕事ですよね。ファッションデザイナーの一面もありながら、スタイリストの一面もありますね。
AL:
そうですね。うちの場合は特にそうかもしれません。一般的な仕立屋さんは、例えば色についても私たちほどこだわりはないと思います。ジャケット生地一つにしても、売れるブルーとグレーをアトリエにストックしておけば事足りるんですが、私たちは色を使った提案をお客さまにします。この前、ある同業者に言われたことがあります。「何でピンクとか黄色のパンツを作ってるんだ」と。私は言い返してやりましたよ。「海へ散歩に行った時、誰がグレーのパンツを穿いて行くんだ? そういうの知らないのか?」ってね。
現在ならではの洋服の多様性を楽しんでいらっしゃるんですね。
AL:
基本はTPOですよね。海に行くのにグレーのフレスコのパンツでは行かせられないですよ。「どこへ行きますか?」「何をしますか?」で、ある程度生地は決まります。「海辺のレストランでディナーをする時はこういうのを着てください」というところまで私たちは提案する力があります。下着までアドバイスしますからね。《リヴェラーノ&リヴェラーノ》とはそういう仕立屋です。普通はそこまで気を使っていないと思います。
なるほど。
AL:
もう一つ例え話をしましょう。奥さんと喧嘩したというシチュエーションがあったとします。あなたは翌日どのような服を着ますか? 私であればきれいな格好をし、いい香水をつけて、ビシッと決めて外出しますよ。奥さんは困惑するでしょうね。
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