連載コラム【音楽のある風景】 Vol.81

2019.01.31

グリーンレーベル リラクシング のBGMを選曲されている、
選曲家の橋本徹さんよりコラム【音楽のある風景】が届きました。

どうぞお楽しみください!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1月の選曲は、ときめきへの感謝をこめて。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2019年、平成最後となる新しい年が始まりましたね。
今年もよろしくお願いいたします。
素晴らしい音楽との出会いやプライヴェイトでの幸せを希いながら、個人的にはまずは順調なスタートという感じですが、先日、僕が愛してやまないフランスの映画音楽家でありジャズ・ピアニスト、ミシェル・ルグランの訃報(昨年のフランシス・レイと同じ86歳、まもなく87歳になるところでした)が舞い込んできました。
そこで今月は、めくるめくようなときめきを与えてくれた生粋のパリジャン(ジャズマンとしてはマイルス・デイヴィスとの『Legrand Jazz』がいちばん知られているでしょうか)の素敵すぎる音楽を讃え、追悼選曲に代えて、僕が本当に(繰り返しになりますが)愛してやまない映画についても書いてみようと思います。

僕がDJで最もよくプレイした(それこそ何百回、いや1,000回はかけているでしょう)ミシェル・ルグランの曲は、『モン・パリ』という映画のサントラ盤に入っていたときめくようなピアノ・グルーヴ「My Baby」で、ベスト・オブ・ベストというコンセプトで編んだコンピ『Ultimate Free Soul Collection』でもオープニングを飾っていますが、今回の主役は、名コンビと称えられたジャック・ドゥミ監督との1967年作『ロシュフォールの恋人たち』。
この映画の2枚組サントラ盤は、僕が世界一好きなレコードと言っても過言ではありません。
2007年と2015年にはこの名作のCDリイシューを監修させていただき、その中の極めつけの名曲「双子姉妹の歌(Chanson des Jumelles)」は、2000年に作ったコンピ『カフェ・アプレミディ・オリーヴ』に収録され大人気を呼び、昨年は7インチ・オムニバス『Suburbia Suite; Evergreen Review ep』のA面1曲目にセレクトした思い入れ深い存在です。

『ロシュフォールの恋人たち』の音楽は、美しい主題と多彩なアイディアに満ちた変奏、転調やリズム・チェンジに富んだ華麗なる音の流れとカウンター・メロディーといった、ミシェル・ルグランのカラフルでめくるめくような魅力の結晶で、彼自身「自分とドゥミは双子の兄弟だと思って仕事をしていた」と語っていたほど。
主演は"映画史上最も美しい姉妹"と謳われたカトリーヌ・ドヌーヴ&フランソワーズ・ドルレアック、50年代ハリウッドの華やいだ躍動感への憧れにフランスのエスプリとエレガンスをまぶした愛と夢にあふれたミュージカルで、恋に揺れる心の昂りと共に台詞が歌へ、演技が踊りへと高まっていきます。
「観終わった後、観客が幸福でいっぱいになるような作品を作りたい、それが映画監督としての私のモラルなのです」とは、僕の大好きなジャック・ドゥミの言葉。

映画は息もつかせぬ鮮やかなオープニング・タイトルに始まります(僕がおととしの夏にヘヴィー・プレイしたマック・ミラー&アンダーソン・パークの傑作「Dang!」のMVがこのシークエンスへのオマージュだったのにもひどく感激しました)。
映像と音楽が心の震えを誘うくらい見事にシンクロする映画ならではの官能と快感、そして、誰もが口笛を吹きたくなるに違いない「双子姉妹の歌」で、ときめきは早くもクライマックスに。

ジャズとシャンソンとクラシックがカラフルに甘く切なく溶け合う音楽的な愉悦が彩る舞台は小さな港町ロシュフォール、街は年に一度の海のお祭りを迎え、双子座の星のもとに生まれた美しい双子姉妹は、素晴らしい恋人にいつか出逢うことを夢みています。
どこまでも碧く澄んだ海、緑の木々、中央広場を借りきり家並みを白・青・バラ色などに塗りかえ街全体がセットになり、陽に輝く噴水からはブルーに染まった水が噴きだす、その色彩設計の素晴らしさも、豊かな音楽と共鳴してロマンティックでエヴァーグリーンな協奏曲を奏でます。
特に港の広場のカフェの店内の美しさには、初めて観たときからときめきが止まらず、カフェ・アプレミディを開くずっと前から僕の理想でした。

ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランにとって『ロシュフォールの恋人たち』の兄弟作(前作)となる『シェルブールの雨傘』(フランソワ・トリュフォーがすべての歌詞とメロディーを歌えると豪語し、"最も美しいSF映画"と賞賛したのも素敵なエピソード)も、ドゥミが子供のときに初めて観たディズニーの『白雪姫』が忘れられなくて、映画監督になってすべての台詞を歌にしたという真実のファンタジーに心打たれる名作ですが(「この映画は戦争に反対する映画です」というメッセージもドゥミは遺していて、深くかみしめずにはいられません)、ヌーヴェル・ヴァーグ(祝60周年)華やかなりし1960年代には、ルグランは他にもいくつも僕の愛する映画の音楽を手がけていて、どれも最高です。
『ローラ』『女は女である』『5時から7時までのクレオ』『エヴァの匂い』『女と男のいる舗道』『はなればなれに』『ポリー・マグー お前は誰だ』『華麗なる賭け』『太陽が知っている』、ほぼほぼ僕のフェイヴァリット・シネマ・リストになってしまいそうですが、これらの映画と音楽についても、いつかペンを執る機会があればと考えています。

かつてミシェル・ルグランの来日公演の楽屋を訪れる幸運に恵まれた際、僕がつたないフランス語で伝えたのは、「ときめきをありがとう」という言葉でした。
それは彼が亡くなった今も、まったく変わらない気持ちです。
「生きる歓びを感じてほしい」と『ロシュフォールの恋人たち』のテーマを語ったのはジャック・ドゥミですが、ミシェル・ルグランの音楽はまさにそんな映画に相応しい、人間讃歌、人生讃歌、恋愛讃歌、だったのだと思います。

━━━━━━━━━


1月の選盤

ミシェル・ルグラン「My Baby」がオープニングを飾る、グルーヴィー&メロウな70年代ソウル周辺の珠玉の名作が集められた"Free Soul"の歴代コンピレイションから特に人気の高いキラー・チューンが選りすぐられた、ベスト・オブ・ベストというコンセプトで編まれた橋本徹さん選曲の3枚組コンピCD『Ultimate Free Soul Collection』

1950年代からジャズ/映画音楽の分野で極めて多作の活躍を続け、惜しまれつつ2019年1月26日に永眠したフランスの偉大なる音楽家ミシェル・ルグランが手がけたジャック・ドゥミ監督の(日本では特に絶大な人気を誇る)名作映画のサントラ盤で、橋本徹さんが監修したリイシューCD『ロシュフォールの恋人たち(Les Demoiselles de Rochefort)』

ミシェル・ルグランによる『ロシュフォールの恋人たち』のサウンドトラックの中でもとりわけ人気の高い「双子姉妹の歌(Chanson des Jumelles)」がハイライトを飾る、"午後のコーヒー的なシアワセ"をテーマに橋本徹さんが選曲した名コンピ・シリーズ"Cafe Apres-midi"の名作にして代表作『カフェ・アプレミディ・オリーヴ』

名ディスクガイド「Suburbia Suite」で紹介された音楽ファン垂涎の名曲・名演を、ジャズやボサノヴァからソフト・ロック〜SSW〜AOR〜メロウ・グルーヴ〜ラテン〜フレンチ〜映画音楽まで選りすぐった、ミシェル・ルグラン「双子姉妹の歌」がA面1曲目を飾る、橋本徹さん選曲の4曲入り7インチEP『Suburbia Suite; Evergreen Review ep』

──────────────────────────

橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。
サバービア・ファクトリー主宰。
渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。
『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、
選曲を手がけたコンピCDは340枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。
著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/

  • facebook
  • twitter
  • line
  • pinterest
  • google
green label relaxing
Twitter
Facebook
YouTube
Sumally
Instagram