「ファッションが売れない」は、業界の自滅行為!?

栗野 MEN WOMEN

2020.01.06

■The collaboration to end collaborations

いつもユナイテッドアローズ(UA) をご利用いただきありがとうございます。本年も変わらぬご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。そして至らぬ点も多々あると存じますが、引き続き忌憚無きご意見とお叱りを頂戴できれば幸いです。

僕はユナイテッドアローズ全社のクリエイティヴディレクションという仕事をしています。そのために新聞や本を読んだり、美術館に行ったり、生地の展示会、そして国内外のコレクションにも足を運んでいます。そのなかでも印象的で示唆に富んだものとなったコレクションについて、今回は書こうと思います。

9月にパリのウィメンズ・ファッション・ウィークに行きました(6月にはメンズのコレクション。それぞれ2020年の春夏版を拝見しています)。パリでは主にUAの取引先ブランドのショウを見ますが、今回最も感動したコレクションがドリス・ヴァン・ノッテン(DVN)でした。UAでは30年近いお付き合いとなるブランドです。

2020年 春夏コレクションの会場は、パリのバスティーユにある新オペラ劇場。と言っても旧来型のクラシックな設えではなく、コンクリート打ちっぱなしのモダンでミニマルなステージです(それにも意味がありました)。 
ドリスの服は何時もロマンティックで夢があり、プレタポルテ(既製服)であるにも関わらず凝ったハンドクラフトが多用されていて、しかもリアルでウェアラブルです。ショウが始まって、今回の2020年春夏版はいつものドリスより装飾的であること、黒の使い方がドラマティックであること等に新鮮な驚きを感じていたのですが、その傾向はコレクションが進むにつれ、さらにダイナミックさを加えていきます。

そしてフィナーレ。久しぶりに白のマリエ(ウェディング服)で締めくくったことにも驚いていたところ、さらなるサプライズが待っていました。フィナーレが終わって挨拶に現れたドリスはクリスチャン・ラクロワを伴っていたのです。その時、観客は客席に置かれていたバラの花と、そこにつけられていたDVN×CRXと書かれたメッセージ・カードの意味に気がつきます。コレクション全編を通してドリスとラクロワの共同作業だったのです。

後でDVNのスタッフが解説してくれたところによると「これはいわゆるコラボレーションではなく、本当に二人で一緒に創りあげたコレクションなのです」ということでした。後日の『The New York Times』での二人へのインタヴュー記事のタイトルは「The collaboration to end collaborations」でした。つまり、これは世に氾濫するあまたの「コラボレーション」ではなく真の共作である、と。



2019年9月27日付の『The New York Times』誌


■"仕掛け過ぎ"が多すぎるファッション業界

近年のファッション業界では「コラボレーション」という言葉及び概念が氾濫していました。本来的には協業や共作を意味すべきものが、一カ所程度なにか加えていたり、単に名前を貸したりしたものであることがあまりにも多く、買う側に新たなエモーションが沸かないどころか、食傷気味でさえあったのです。似たような状況でいえば、大きなブランドのデザイナーに単なる話題性狙いで誰かをキャスティングすることも頻出しており、それが話題だけに終始して、商品の創造性や魅力にはプラスにならない例が見受けられます。
こうした"仕掛け過ぎ"は生活者にとって「またか」という感情しか喚起せず、魅力どころか反発や離反さえ生みます。有名ブランドの商品にストリート系ブランドのロゴが乗っていて、それだけで価格が数倍にもなって売られている......。一時的な話題づくり、つまり「バズを起こす」ことばかりが優先されて、ファッションの本来的魅力である筈の創造性やクオリティ、あるいは品格が後回しにされたり、無視されたりすることの多発は結果的にブランド価値の毀損を招きます。

昨今「ファッションが売れない」「モノが売れない」という声が多いのですが、それは業界自体が招いている自滅行為ではないのか? と僕は思います。海外の業界人には「Fashion system kills Fashion.」という言い方で説明しています。本来、品質やデザインを訴求すべき業界が話題性のみにスティックした結果である......と。

そんな状況下、ドリス・ヴァン・ノッテンは2020年の春夏コレクションの創作に際して、自分がかねてから尊敬してきた大先輩クリスチャン・ラクロワ(ラクロワは2009年にいわゆるファッション界からの引退を宣言し、現在は舞台デザインや舞台衣装の製作に専念中)に「一緒にやりませんか?」と声をかけ、興味と共感を持ってくれた先輩と一緒に今回のコレクションをつくりあげていった、と語っています。


■ドリス流サステイナビリティ

ファッションには"引用"が多用されます。しかし、それが"引用"を超えて単なる模倣になるケースも多いなか、自分が尊敬してきた先輩であり、かつ同業者であるラクロワに思い切って声をかけたドリス、きちんと考えた上で引き受けたラクロワのオープンマインドには、真に創造的なクリエイター同士の尊敬と友情、そしてそこから何か新たなものを生み出そうとするプロフェッショナルマインドを感じます。素晴らしいケミストリーです。

結果としてドリスらしいデリカシーとラクロワ的な華麗さが加わった、モダンでロマンティックなコレクションとして結実していました。それゆえの"ミニマル感のあるオペラ劇場"という設えだったことも理解できました。
件の新聞記事のなかでドリスは「破壊的なことが多い今という時代に"ファッションに何ができるのか?"を考えての挑戦だった」と語っています。着る側が美しいと感じたり、夢を感じて貰えたりするような服を提供すること、それが、ネガティヴな事象に溢れた今の世界に対してファッションができることではないか? と。また、彼はオートクチュール(高級注文服)のクチュリエになる考えは無いのか? という他誌での質問に対し「より多くの人にリアルに着られる服を提供することが自分の務めである」と答えています。ドリスの手がける服のなかですでにオートクチュール並みの手わざは多用されています。そして、その手わざを行うインドの工房は、ドリスの永年の仕事によって伝統技術の存続と継承を実現させてきました。それはドリス流のサステイナビリティであり、彼ならではの社会への貢献でもあります。僕はドリスの様な素晴らしいクリエイターと長く取り引きできていることを心から嬉しく思います。
ドリスのヒューマンな発想や行動、プロフェッショナリズムこそはデザイナー・ブランド云々を超えてファッション業界として学ぶべき姿でしょう。

2020年オリンピック/パラリンピックの開催国である日本において、ファッションの本質である美やクオリティ、そして多様性への尊重を通し生活者のみなさまに夢と信頼を届けられるよう、僕もユナイテッドアローズとともに歩んでまいります。

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