『 2020年を振り返る ~ 年末のご挨拶に代えて』
鴨志田 MEN WOMEN
2020.12.29
2020年は新型コロナウィルスの感染が拡大したことで、人々の生活が大きく変化した年となりました。明るい話題は多くはありませんが、振り返ってみたいと思います。
■お店の存在価値とは?
今年はリアルショップの存在価値をますます考える年になりました。
緊急事態宣言下の外出制限もあり、来店客数が大きく減り、これを受けてオンライン接客や動画での商品紹介などを始めました。まだまだ試行錯誤していますが、よりお客様が安心して買い物ができる環境を整えていきたいと思います。
一方で、新しい生活様式をふまえて来店される方も多くいらっしゃいます。
そういったお客様のモチベーションは、「商品を生で見たい、触りたい、着たい、味わいたい」「セールスパーソンと直に話したい」というものが多いようです。お客様を対象にした最新のアンケートを見ても、お店に買いに行きたいというかたは多く、接客も求められていることがわかりました。
パーソナルスタイリングを行うことに関して、現状ではまだ店頭接客に軍配が上がります。さらに店頭での演出はウェブの特集ページなどとは違うメッセージがあり、目の前に並ぶ商品を見ることで単純にワクワクするという気持ちも生まれます。また、セレクトショップの使命の一つともいえるスタイリングの魅力を伝えることも、なかなかオンラインのみでは難しい面があるのです。
たくさんの情報を提供するオンラインと、質を重視した情報提供を行う店頭というすみ分けは、しばらく続きそうです。
ここ数年のオンラインストアの急拡大を受けて「プレゼンテーション力のある店頭」に力を入れていますが、今年誕生した北千住と池袋のウィメンズストアやグランドオープンした京都店と心斎橋店、そしてリニューアルしたルクア大阪 ウィメンズストアなどでもそれが反映されています。
2020年にグランドオープンした心斎橋店(左)と京都店(右)。
■スーツのない人生なんて
クールビズから続いたビジカジの浸透で起こっていた"ドレス離れ"は、コロナ禍によってさらに加速していったように感じます。リモートワーク・テレワークが増えると、スーツを着る機会が減るのは当然です。
しかしスーツは必要ないのでしょうか?
仕事着=スーツという考えにおいては、もしかするとスーツは必要が無くなってくるのかもしれませんが、装いとしてのスーツは絶対に無くならないでしょう。
私個人としては、スーツのない人生なんてつまらないと感じます。ハレの日はもちろん、大切な人に会う時、ちょっと背伸びしたり、カッコをつけたいときだってあるでしょう。そんなときの"一張羅"として、スーツは無くてはならないアイテムだと思います。
ファッションはもともと個人のアイデンティティを表現するものではありますが、スーツにおいては、"仕事着""制服"のように個人の意思と関係なく着ていた人も多いかもしれません。これからは選んでスーツを着る時代になるでしょう。
こういった状況を考えると、スーツはもちろん品ぞろえも考え直す必要がありそうですが、むしろ幸いなことにユナイテッドアローズが大切にしている「トラッドマインド」の重要性がさらに高まったように感じるのです。
■ミニマルからテイスティへ
一度ファッション業界に目を向けましょう。ここでは数年の傾向であった「ミニマル」や「クリーン」なテイストから、ちょっと脱出したように感じた部分があります。
プルミエール・ビジョンなどの生地展を見ていても、色や柄のバリエーションが気になるようになりました。フラットな表面のものより、エフェクト感のある素材も新鮮に映りました。
「ミニマル」や「クリーン」に慣れてしまい、そろそろ個性を出し始めたがっているのかなと考えています。とはいえ華美だったり派手だったりするわけではなく、ちょっと工夫した味のある着こなしだったり、深みのある色遣いやシルエットの変化だったりするのです。素材の味を大事にしたシンプルな料理というよりも、時間をかけてじっくり調理した味わい深い料理。たとえるならそんなイメージです。
コロナ禍の生活によって、その傾向はますます強まるのではないでしょうか。
2020年秋冬シーズンに仕入れた<BERNARD ZINS>の、ワイドシルエットのパンツも、味わいのあるアイテム。
■"本物"が生き残る
コロナ禍で売れ行きが良かったものとして、アウトドア用品・ウェアがあります。外出自粛の反動や刺激を求める意味もあるでしょうし、密を避けられるレジャーとしても受け入れられています。「ベランピング」や「ソロキャンプ」などの言葉も多く聞かれました。ファッションシーンではアウトドアブランドの人気が高まっていたところでしたが、一般のかたも多くアウトドアウェアなどに触れる機会が増えたのです。
アウトドアアイテムというのは、装飾でなりたっているものではなく、多くが実用性・機能性を備える"本物"です。こういったアウトドアアイテムに触れることで、多くのかたが「本物を着る喜び」を感じられたのではないでしょうか。
ワークウェアという"本物"を提供する<ワークマン>の躍進も、価格が理由だけではないような気がしています。
私は今年家にいる時間が多くなり、服の断捨離を行いました。そこで「とっておきたい」として選ばれるものは、結局は自分にとっての"本物"(私の場合はクラシックなもの)ばかりでした。古いのは否めませんが、かといってあきることもなく、クオリティも良いものばかりです。一方で「気分で買ったもの」のようなものが処分の対象になりやすかったように思います。
ユナイテッドアローズのモノづくりや品揃えは「トラッドマインド」を大切にしていますが、これらはまさに「本物を着る」という喜びが感じられるものだと思っています。だからこそ「トラッドマインド」は、このニューノーマルの時代においても大切であると確信しています。
2021年も引き続きより良い品ぞろえとサービスで、お客様の生活に潤いを与えていきたいと思います。
例年以上に静かな年末年始になりそうですが、よいお年を迎えられますことを、お祈り申し上げます。年末年始もユナイテッドアローズでのお買い物をお楽しみください。
個人的に、今年の「アパレル流行語大賞」をあげたい(笑)。