ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2021.04.28 WED.

編集者・選曲家・プロデューサー。橋本 徹(SUBURBIA)さんが、いま伝えたい“音楽”のあり方とは。

ディスクガイドの草分け的存在となった『Suburbia Suite』を1992年に発刊し、94年にはコンピレーションアルバム『Free Soul』シリーズを手掛け、空前のコンピレーションアルバムカルチャーを作り上げた、編集者・選曲家・DJとして活動する橋本 徹(SUBURBIA)氏。その後、カフェブームの火付け役ともいわれる「カフェ・アプレミディ」を渋谷の公園通りにオープンさせるなど、音楽を中心としたさまざまなおしゃれカルチャーの立役者として活躍しています。そんな橋本氏と〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉がタッグを組み、彼が手掛けてきたコンピレーションアルバムシリーズとのコラボレーションが実現しました。今回は、橋本氏に本コラボレーションが実現した背景のお話を中心に、この時期に聞きたい選曲についてもお伺いしました。

Photo:Masataka Kougo
Text:Hideshi Kaneko(BonVoyage/TYO magazine)

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いつもの日常に、少しだけ素敵な変化をくれるようなアイテム。

ーまずは今回〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉(以下、GLR)とのコラボレーション企画が実現したきっかけを教えてください。

ぼくは、GLRの店内BGMの選曲とともに、毎月「音楽のある風景」というウェブサイトの連載コラムのお仕事を10年ほどやらせていただいているのですが、昨年の夏に今回の担当である増永 聖貴さんから商品企画のお話を伺いました。そのときに「ファッションや音楽の垣根を超えて共感する者同士で楽しめる、素敵なことができたらいいですね!」と盛り上がりまして。かつては、その人がどんなファッションをしているかで、好きな音楽がわかったり、音楽とファッションが切り離せない時代がありました。かくいう、ぼく自身もそういった時代を通ってきたので、すごく共鳴できたんです。その後、何度かお話をしていくうち、増永さんがお仕事中に、過去にぼくが手掛けたコンピCDを聞いてくださっていると知りました。ジャケットのアートワークを担当したFJDこと藤田 二郎くんのデザインでコラボTシャツとかを作れたらいいですね! という感じで話が進みはじめました。

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ーたしかに90年代から2000年代の前半までは、音楽とファッションが繋がっていた時代でしたね。

音楽の世界にもファッション好きがいましたし、ファッションの世界も音楽好きの方が多かったですよね。ですが、ぼくらが若い頃にファッションや音楽の垣根を超えて楽しんでいたような部分を、いまの若い世代が実現することは時代的に難しくなってきているように感じます。さらに、ファッション全体も、ファストファッションの台頭の影響も強く感じているでしょうし。そんな中で、趣味やセンスで共感できる者同士がコラボレーションやダブルネームで表現することで、さらなる共感者を増やせたらいいですよね。

実はぼくが選曲している音楽って、マニアックに見られることもあるかもしれないけど、決して難しい音楽ではなく、聞いていて気持ちよい音楽が多いんです。日常の中でちょっと心地よい雰囲気とか、素敵なものを提案している感覚なので、その辺りの世界観はGLRとも近いのかなと。なので、アイテムは自然体でいられるようなものであるべきという意識があり、カジュアルに手に取りやすいTシャツからスタートするのはイメージ通りでした。

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ー今回のデザインはどのように決まっていったのでしょうか?

ぼく自身、どうしてもコンピレーションアルバムの中身の方に思い入れが生じてしまうので、今回は『フリー・ソウル』、『カフェ・アプレミディ』、『グッド・メロウズ』の90年代、2000年代、2010年代と各世代を代表するシリーズを使えたらいいんじゃないかという思いがありました。あとは具体的なモチーフを何にするかなどは、増永さんにすべてお預けしました。その後、増永さんがいろいろな方とミーティングされて、今回のデザイン案が上がってきたという感じです。

ー生地やボディのカラーはどのように決められたのでしょうか。

増永さんがぼくやFJDの藤田くんとのミーティングも踏まえ、生地やボディカラーを選択されたという感じです。打ち合わせで何度か「パンデミックを踏まえて」というお話をされていて、恐らくぼく以上にそういう部分を意識して生活や仕事をされたりしているんだろうなと。ちなみに、宣伝に関しては”コアのないところにマスはない”というぼくの考えがあって、昔のように紙の「フライヤーを作りたい!」と伝えたのですが。宣伝はインスタグラムに載せた方が反響があるという世間の常識を教えられまして、そういう部分も含めて楽しかったですよね(笑)。


橋本 徹 氏がいまこそ聴いて欲しい“風通しのよい”プレイリスト。

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この時期に聞きたいプレイリスト

01. Linda Lewis「Spring Song」

02. The Style Council「Headstart For Happiness」

03. Grażyna Auguścik「So Reminding Me」

04. Maë Defays「Balcony」

※こちらは巻末にSpotifyへのリンク先がございます。

ー今回“この時期に聞きたいプレイリスト”をテーマに、上記4曲を選曲していただきました。この選曲のコンセプトを教えてください。

コラボアイテムのリリース日が2021年4月22日で、GW前の陽光あふれるちょうど暑くなりはじめるくらいの季節なんですよね。もちろんそういう季節感も意識しつつ、その時期に聴きたい、爽やかな春から夏にかけての4曲という雰囲気で構成しました。ぼくの4枚のコンピCDから選びましたが、それぞれのコンピCD自体も通して聴いてこの季節にふさわしいものばかりで、GLRの店内BGMでも重宝しています。昔、水越 けいこさんの「気分は5月の風のように」という曲がありましたが、そんな爽やかな風に吹かれるような4曲ですね。そして、この4曲は、奇しくも「カフェ・アプレミディ」のオープン当初によくDJで使っていたりして、シリーズ初期のコンピに収録した曲からはじまって、昨年20周年記念コンピに収録した、昨年の曲で締めくくっています。このテイストがまさにGLRの店内BGMで選曲しているテイストで、お店ともゆかりが深く、自分の中でも思い入れの強い曲だったりします。

ーリンダ・ルイスの「スプリング・ソング」から始まり、マエ・デファイスの「バルコニー」で終わるという、中でもグラジーナ・アウグスチクはなかなかのコアなアーティストですよね(笑)。

キース・ジャレットの曲を女性ボーカルのジャズアレンジでカバーしている曲ですが、2009年に「Apres-midi Records(アプレミディ・レコーズ)」というレーベルがはじまったときに、その名も「音楽のある風景~春から夏へ」という最初のコンピCDに収録した曲なんです。この曲、実は当時神戸にあったとあるレコードショップの女性スタッフが「So Reminding Me」を聞きながらの通勤がどれだけ楽しいかということを、アプレミディに連絡をくださって教えていただき、とても感激した曲なんですよね。さらに、GLRのBGM選曲からこの10年間で一度も外れていない曲なんです。今回は、基本的には日常の中で気持ちよくなれる音楽を意識しています。特にマエ・デファイスの「バルコニー」は、PVもパリのアパルトマンのルーフトップで彼女が演奏しながら歌っている映像で、その雰囲気がぼくにとって連載コラムのタイトルでもある「音楽のある風景」のまさに理想なんですよ。ちなみに、マエ・デファイスは北海道に住む音楽好きの女性から、心が弾けるくらいの大好きな曲になりましたとお手紙いただいた曲なんです(笑)。

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ーエピソード的にもかなり濃い選曲なんですね(笑)。では、2曲目のザ・スタイル・カウンシル(以下、スタカン)の「Headstart For Happiness」は、いかがでしょうか?

『ネオ・アコースティック・ラヴ』というコンピに入れたこの曲は、ボール・ウェラーが絶頂期だったザ・ジャムを解散して、スタカンを始めた時に歌った曲なんです。彼らの中でもアコースティックかつグルーヴィーな曲で、「ぼくらは幸せに向かって旅立つのさ!」というような歌詞なんですね。新型コロナウイルスで大変な時期が続いている現状で、今は世の中の気分的には「新しい一歩を踏み出したい」という感じだと思うんです。そういう意味で、新しい何かが始まる予感というか、「素敵なことを始めたい」気分の時のサウンドトラックとして良いかと思い選曲しました。

ースタカンは、ファッション的にも注目されているバンドですからね。

彼らの『Café Bleu(カフェ・ブリュ)』というアルバムはぼくが青春時代にとても影響を受けた一枚ですし、コンピ・シリーズの20周年盤のタイトルを『Cafe Apres-midi Bleu(カフェ・アプレミディ・ブリュ)』にしたのは、当然このアルバムへのオマージュです。『カフェ・ブリュ』の頃のスタカンのジャケットで、ポール・ウェラーがスプリングコートを羽織って街へ繰り出していく感じや、サン=ジェルマンのカフェに佇んでいる写真のイメージが、この4曲の選曲にもあったりします。そして、今回のコラボレーションプロジェクトの”風通しのよい気持ちよさ”というテーマのルーツは、あの雰囲気なんですよね。ぼくにとってはすべてが繋がっているんです。


好きだと感じたら、好奇心を持って足を踏み入れる。

ー選曲において重視している部分はありますか?

GLRのショップBGMでいちばん重視しているのはハートウォームでリラックスできる”多幸感”です。村上 春樹が言う所の”小確幸”でも構わないですが(笑)、とにかくささやかでもポジティブな気持ちになれる、メロウ&グルーヴィーで心地よい多幸感漂う曲を中心に選ぶようにしています。それは空間BGMを選曲、制作する上でのモラルだとも思っていますね。そして、つねに自分の好きな曲だけをセレクトするという部分ですね。例えば、プロの選曲家さんであれば、普段自分が聞いていない音楽でも注文に応じて調べて選曲されると思うのですが、ぼくの場合は自分の好きな曲だけで構成するというか、選曲したい。だから、GLRのBGMでも、自分が好きな曲の中からお店で流れたら素敵になりそうな曲をイメージして選曲しています。

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ー毎月どのくらいの音源を買われているのですか?

ここ2年くらいでアナログレコードの買う量は少し減ってきてしまいましたが、月に大体50枚くらいかな。ここ1〜2年は特にアルバムを買う割合が増えています。それはコロナ禍もあってクラブや大箱でDJをする機会が減ったこともありますが、最近は配信の時代でありながら実はアルバムのリリース自体が充実しているんですよ。CDはUSENの選曲仕事用で購入していて、以前はアナログレコードと合わせて100枚以上買っていました。ですが、こちらも現在はかなり減ってきていますね。曲単位ではサブスクリプション(以下、サブスク)、SpotifyやApple Musicなどで聞いていまして、基本火曜日にアナログレコード、水曜日にCD、金曜にサブスク、それぞれのニューリリースを必ずチェックしていますね。

ーこの状況下における、音楽の楽しみ方の提案はありますか?

ぼくはコンピレーションアルバムというフォーマットが好きなのですが、今だと簡単にプレイリストを作れるので、それを楽しまない手はないですよね。自分自身、そういうサブスクのプレイリストに対して、積極的に関わっていきたいという気持ちがもだんだん出てきました。音楽が好きだったら、サブスクでも、レコードでも、CDでも、なにで聞いても良いですし、心に響く曲は響くので、好きだなと感じたら、好奇心を持って足を踏み入れて欲しいですよね。その方が絶対に楽しいと思いますし、もちろんファッションも一緒だと思います。

ー最後に、今回のコラボ企画における感想を教えてください。

春というシーズンもそうなのですが、今回のコラボ企画は、『フリー・ソウル』シリーズをはじめた94年の春とか、「アプレミディ・レコーズ」をはじめた2009年の春とか、なにかの第一弾のアルバムを出した時の気分に近く、新しい物事が始まる心浮き立つ感じが好きなんですよ。だから、コラボが実現してとても感謝してます。そして、今回のコラボアイテムが、買ってくださった方にとって気分がよくなる素敵なものになってくれたらいいなと思います。

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PROFILE

橋本 徹

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カ フェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』 『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけた コンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres‐midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。現在はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。https://cafeapresmidi.wordpress.com/

JP

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