
ヒト
2017.09.28 THU.
年代別のリアルな声を集めました。乳がんについてもっと知りたい!
ピンクリボンをシンボルとした「乳がん」の啓発活動が行われる10月。そこで、ユナイテッドアローズ社のピンクリボンキャンペーンの協力先としても関わりのある「認定NPO法人乳房健康研究会副理事長」でもあり、ピンクリボン ブレストケアクリニック表参道院長の島田菜穂子先生を迎えて、ユナイテッドアローズ社の女性スタッフと質問会を開催。集まったのは渡邉真衣さん(20代)、榎本彩子さん(30代)、岡田直子さん(30代)。筆者(40代)も加わり、「女性の年齢と乳がんの気になる関係」を島田先生に聞いてみました。
Photo: Takeshi Wakabayashi
Text: Yu Fujita
35歳になったら乳がん検診を。20代でも検診を受けた方がいい人も!
―30歳を過ぎたら、乳がんの検診を受診した方がいいと聞きました。実際のところは、何歳から受けるといいのですか?(榎本さん)
島田:検診を受けたほうがいい年齢をお伝えする前に、乳がんにかかる可能性が高くなる年齢を知ることをお伝えしますね。乳がんにいちばんかかる年代は40代から50代で、乳がんになりやすくなる年齢は30代中盤からなんです。
ですから、乳がんの発症率が上がる35歳から検診を受けることを習慣づけられたら理想ですね。いちばん注意しなくてはいけない40代・50代を迎える前に、30代から乳がん検診というものがどういうものであるかを知っておくのはいいことですね。
ただし、10代・20代で乳がんにならないかといえばそうとも言えないし、80代・90代になって乳がんになる人もいます。実は男性もなる可能性がある。誰もがなる可能性があるのが乳がんなんです。
―平均的な年齢よりも若くして乳がんを発症する人には傾向がありますか?
島田:乳がんを引き起こす原因はいまだに解明されていません。ただしなりやすいのはどういう人か、というリスクファクターについては明らかになっているものもあります。例えば、血縁者に乳がんの方がいることはリスクが高くなりますが、特に注意が必要なのは遺伝子の異常による乳がんの危険が高い方です。
身近な血縁者に閉経前の若い年代で乳がんや卵巣がんになった身近な血縁者が2名以上いる場合や、男性の乳がんの方がいる場合などは乳がん遺伝子の異常の可能性があり、この場合は通常の乳がんより若い年代で乳がんにかかることが知られています。そのため自分が該当する場合はその乳がんになった血縁者の発症年齢から10歳若い年齢から検診を始める必要があるといわれています。まずは自分の家族や親族に乳がん患者がいるかどうかその年齢などについても聞いてみること。そのうえで、もし自分がハイリスクかなと思ったら怖がらずまずは勇気を出して検診をはじめることが大切です。
また、最近は10代20代の若い年代から生理不順や子宮内膜症の治療、避妊のためなどピルを服用する方も増え、また30代40代では不妊治療を受ける方も増えており、その時に服用することになるのが女性ホルモン剤です。女性ホルモン剤は一部の乳がんの成長を促すことが知られており、乳がんがあるのを知らずに女性ホルモン剤を服用したら、乳がんを育ててしまうことになりかねません。まずは女性ホルモン剤を口にする前に乳がん検診を受け、乳がんがないことを確認することがとても大切です。
マンモグラフィ検査ってやっぱり、痛い?
―乳がん検診は受けていますが、マンモグラフィ検査の経験はありません。胸を挟むレントゲンが「めちゃくちゃ痛い」という噂は本当ですか?(岡田さん)
島田:皆さんがその噂のせいで検査をためらっているというお話はよく聞きますね(笑)。確かに胸を板に挟むので痛そうに聞こえるかもしれませんが、撮影の技術を専門的に習得して認定を受けた技師であれば、乳房をつぶすのではなく正常の構造を上手に薄く広げていきなから板で挟んだと思ったらあっという間に撮影終了!となるので噂ほど痛くはありません。
大胸筋も一緒に挟むことになるので肩に力を入れずリラックスして検査を受けるのも痛くないコツです。乳がん検診にはこの「マンモグラフィ検査(乳房X線検査)」のほかに大切なのが「エコー(超音波)検査」です。マンモグラフィ検査は乳がんの初期の症状である石灰化や乳腺の構造の異常を発見できることに利点があり、手に触れる前の早期の乳がんを発見することができます。
ただし、乳腺が発達している人は白く映る密集した乳腺のなかに、しこりも白く映るために、乳腺にしこりが紛れて見えにくいという欠点も。一方エコー検査は体に音を当てて反射する音を画像にしてみているため、どんなに乳腺が発達していても乳腺としこりの音の反射の様子が違うことで、マンモグラフィで発見しにくい乳腺の発達している年代の小さなしこりを発見できるのです。放射線を使わないため妊娠中の人も検診が受けられるという利点があります。
ただし、マンモグラフィで映し出される早期乳がんのサインの石灰化は、超音波検査では写し出すことが難しいのです。したがってマンモグラフィと超音波検査はお互いの決定をカバーすることができるため、この検査を組み合わせることで小さな早期乳がんを発見することに威力を発揮するのです。
私たちは、その人の乳腺の張り方だとか、レントゲンを受ける年齢のリスクなどを考慮した上で、検診の組み合わせを提案します。もし最初に乳がん検診を受けるのであれば、両方を体験できれば理想的ではあります。
話を戻しますと、痛みを避けるにはマンモグラフィ検査を受けるタイミングも考慮してみては、と思います。生理の直前は何をしたって痛いと感じるし、生理直後は胸が柔らかいのでそこまで気にならないはず。マンモグラフィの機械も進歩していて、今は痛さを感じない工夫もされています。ですから、受けて痛くなかったら周囲の人に「全然痛くなかったよ」と伝えて欲しいですね(笑)。
また検査時には、自分の乳腺の発達具合を医師に聞いてみてはどうでしょう。そこで次に受ける検査の適性をアドバイスしてもらえるかもしれません。乳腺が発達している乳房を「高濃度乳房」と呼ぶのですが、高濃度乳房の場合は通常のマンモグラフィでは特にしこりが隠れてしまう傾向があり、より精度の高い3Dマンモグラフィや超音波検査の組み合わせを行うことがより安心です。
―検診の頻度と年齢には関係がありますか? 2年に1回、1年に1回とも言うけれど、どっちが正解?(榎本さん)
島田:自治体は満40歳以上の女性に2年に1回の頻度で乳がん検診(問診・触診・マンモグラフィ検査)を提案しています。これは対策型検診といって、国が国民全体の利益を一番大きくする検診の方法と頻度を考えてガイドラインを作ったものです。そのため、皆さんの貴重な税金を使いすぎることなく、乳がんになる頻度の高い年代に対象を絞って、国民全体としての乳がんによる死亡を減らすための過不足のない検査や頻度を考えて提示しています。したがって私たち一人一人が早く乳がんを見つけるには何をしたらいいか?という目的とは少し異なっているのです。
私たちが個々のリスクや年齢、生活習慣や服薬歴、家族歴に合わせて乳がんを早く発見して直すには何をすればよいかは、現実には一人ひとり違うのです。個々のリスクや乳房の状態に合わせて自分で行う検診のことを任意型検診と言います。
自分に必要な検診の方法や頻度は何?というのを知るためにも、私としては少なくとも30代中盤になったら、乳がん検診をおすすめしたいですね。
また、婚活や妊活に集中している女性たちには、つい他のことがおろそかになってしまいがちですが、乳がん検診も忘れないでと言いたいです。それから、妊娠中・授乳中のお母さんにも。妊娠中や授乳中は検査ができないと思っている方も多いようですが大丈夫。豊胸手術後の方も医療機関を選べばコンディションに適した検査を受けることができます。
検診は一回きりではなく定期的に続けていくことも大切です。自分を大事に思う意識をもつことが大事です。
乳がんに効く食べ物はありませんが、適度な運動は効果的。
―仕事が忙しくなると、食生活や生活のリズムが不規則になりがちです。乳がんにならないために心がけたい生活習慣ってありますか?(渡邉さん)
島田:これまでの研究でいえば、日本人女性の乳がん率が上がってきている要因には、食事の欧米化だけでなく、女性の社会進出から考えられる影響、睡眠不足や食事の時間が不規則になること、飲酒や喫煙なども。そして晩婚化や高齢出産なども女性が活躍するからこその変化ですが、乳がんの発生にとっては都合がよいようです。女性の身体に備わった恒常性を保つのが難しい状況である=女性ホルモンにも悪い状況であることは明白で、乳がんになる方が年々増える原因の一つであることは確かなんです。
心がけたい生活習慣をアドバイスするならば、できる範囲で構わないので同じサイクルで生活すること、また心身共にリラックスする時間をもつことでしょうか。大腸がんや乳がんの予防効果に運動習慣があることも、最近わかってきています。日常的に体を動かすことを若いうちから習慣づけておくこともいいでしょう。
—豆乳をよく飲むのですが、女性ホルモンを促すと言われている「イソフラボン」は摂りすぎないほうがいいですか?(渡邉さん)
島田:大豆製品のほかに、食べ物ではザクロなども植物性の女性ホルモンと言われていますよね。でもそのために乳がんになるリスクが高まることはありません。これは絶対に摂取しちゃダメという食材もなければ、これが乳がんになりにくいという食材も現在のところないんです。
もしも、乳がん検診の判定でなにか書かれたときは。
―検診の結果、「所見あり」や「要経過観察」などと書かれた知人がいます。これはどういう意味なのでしょうか?(榎本さん)
島田:明らかに乳がんではないけれど、良性のしこりや炎症や手術の治った跡がある場合など、次回の検診の時に判断の参考になるように検査結果に記載し「経過観察」という判定をお伝えすることがあります。具体的には「乳腺のう胞」と呼ばれる女性ホルモンの働きで乳腺に水が溜まっている状態のほか、良性の腫瘍がある場合など。検診の結果が100点満点でないことにショックを受けることはありません。
たとえ再検査の判定を受けても精密検査の結果、異常がないことが判明することの方が多いのです。そして仮に治療が必要と判断された場合でも検診で発見されたということは、早期発見ができていることが多く早く適切な処置に移れますから、ポジティブにとらえてもらいたいと思います。
また、次回の受診を勧める期間も現在の検査の状態からどのくらいの賞味期限で大丈夫という期間ですので、例えば「6ヶ月後」の経過観察と書かれていたらその診断の賞味期限は6カ月間です。2年後に検診を受けたらしこりが大きく育っていたなんてことにならないように、期間を守ることも大切です。
検診への受診や精密検査への一歩は本人の自覚が一番必要ですが、もし躊躇している人がいたら周囲の人も送り出してあげてくださいね。
―乳がん検診を受けて、要再検査となったらどうなりますか?(岡田さん)
島田:その場合は乳腺科あるいは乳腺外科で「受診」してください。なぜその症状が起こっているのか、その原因が分かるところまで精密検査を行うことになります。自覚症状がある場合も同じです。どの病院に行ったらいいのかわからないときは、まず検診を受けたところで紹介されるのが早いかと思います。
間違いのない治療を受けてもらうには、その前段階である検診で間違いがないことが大前提になりますね。ここで確かな検診先の探し方もお教えしましょう。1つは「日本乳がん検診精度管理中央機構」のホームページ。ここでは、検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師・医師リストが掲載されていますので、検診を正しく行えると認定されたスタッフのいる医療機関を探すことができます。
あるいは、私も関わっている認定NPO法人乳房健康研究会のホームページ。“あなたの乳がん検診”というタイトルでお住まいの地域をクリックして認定施設が探せるようになっています。こちらは同じように安心度の高い認定施設のリストなのですが、そこに女性スタッフがいるか、検診の曜日や受付時間はなど、施設を選ぶ際のお役立ち情報も加えて掲載されていますから、自分が行きやすい施設を発見できると思います。
―乳がんだとわかった場合、どんな治療に入るのですか?(岡田さん)
島田:乳がんの治療は乳がんの種類や年齢などに応じて手術や放射線治療などの局所的な治療と、お薬を使う全身治療の組み合わせが基本です。局所治療の基本は手術。たとえしこりが大きくても小さくても、乳がんの治療はまず悪いところは取り除く=手術が必要です。しこりが小さい場合は、切除も小さくて済みますので部分的にしこりとその周辺の一部をだけを切り取り正常の乳腺は温存します(温存手術)。
部分的に切除することはできるけれど、乳房の大きさがあまり大きくない場合や、しこりのある位置によっては、手術後に胸の形に変形や左右差が出てくることが考えられる場合は、乳腺をすべて切除して乳房の形を作る(全摘再建)こともあります。数年前から乳房再建に保険が適用されることになったので、費用面での負担も少なくなり、再建を選択される方も増えてきています。
一方の全身治療の軸になるのが抗がん剤や、ホルモン療法(女性ホルモンを抑制する治療)などの薬物療法です。ただし0期で発見できれば乳房以外への転移の可能性は無いので全身治療に関しては行う必要はありません。早く発見できればつらい抗がん剤治療の必要もないのです。命が助かるだけでなく、治療の負担や時間、きれいな乳房を取り戻せるなど妊娠出産をあきらめなくていいなど早期発見は様々な意味でメリットがあるのです。
乳がん検診とは別に、習慣づけたい胸の「自己検診」
―検診を受ける重要性を改めて認識したところで、最後の質問です。胸に関して自分で日々、注意できることがあれば教えてください。
島田:乳房の「自己検診」はぜひ習慣づけてもらいたいことですね。自分のおっぱいが女性ホルモンのリズムに合わせてどう変化するのか、触って知っておく。日頃から胸を触る・見る習慣があれば、異変があったときに気づくことができるからです。乳がんの自覚症状がある人の話に「しこり」を感じた、という話を聞いたことがあると思います。これは、一度もしこりを触ったことがない人でもわかるんですよ。みなさん豆大福を触ったことがあると思いますが、あの豆の感触です。
一度も自分の乳房を触ったことのない人がたまたま手が乳房に触れて自分で発見したしこりは、すでに大きなしこりになっていることが多いですが、自己検診を習慣にしている方が自分で発見してくるしこりは、本当にわずかな小さな病気や異変を発見されてきます。それだけ自分のいつもの状態を把握できていることは早く異変を発見しすぐに受診でき早期発見につながります。
乳がんは乳腺があるところであれば、どこにもできるんですね。ですから、まんべんなく全体を触ること。内側は胸骨まで、外側は意外と広いので要注意。片手は下げた状態で、脇の下まで触ってください。頻度は1ヶ月に1回で十分ですが、最初のうちは習慣づけるためにも、毎日やってみてください。もしくは入浴時に胸は手で洗うとか、ボディクリームを塗るなど、毎日の作業のなかに胸を触る行為を入れていくと面倒に感じないかもしれません。生理の始まる前、排卵の時は乳腺が腫れているので、その時期は避けてください。触ることを続けていれば胸が硬く腫れたり、柔らかくなるリズムも自然とわかるようになりますよ。
ピンクリボンとモノ
各ブランドから多彩なピンクアイテムが到着! 10年目のピンクリボンキャンペーン。
ピンクリボンとウツワ
乳がん検診体験レポート。
PROFILE

島田菜穂子
認定NPO法人乳房健康研究会副理事長、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長。乳がんの診療に従事する傍ら、アメリカ留学時に体験したピンクリボン運動を日本に導入し、活動の中心的存在として先頭に立つ。

渡邉真衣
2011年入社。GLR本部 事業戦略部所属。
ユナイテッドアローズ グリーンレーベルリラクシングのPRを担当。

榎本彩子
2007年入社。SBU本部 ジュエルチェンジズ部。
ジュエルチェンジズの服飾・雑貨のバイヤー。

岡田直子
2007年入社。内部監査室に勤務。
本部の監査を担当。