
ヒト
2015.10.01 THU.
約12人に1人。みんなに知って欲しい、乳がんについてのお話。
毎年10月、(株)ユナイテッドアローズが乳がん月間に行う、「ピンクリボンキャンペーン」。ピンクリボンとは、乳がんの早期発見の大切さを伝えるシンボルマークです。UA LTD.では、オリジナルグッズの販売や寄付など様々な活動をしていますが、本当に伝えたいのは、「乳がん検診に行こう!」ということ。まだ乳がん検診を受けたことのないあなたや、乳がんのこと自体を詳しく知らないあなたへ。今回は、ピンクリボン ブレストケアクリニック表参道院長、認定NPO法人乳房健康研究会 副理事長の島田菜穂子さんに、皆さんに知って欲しい、乳がんにまつわるお話を、たっぷりと伺いました。
Photo: Kazumasa Takeuchi (STUH)
Text: Rie Hayashi
乳がんは自分で発見できる唯一のがん。検診に行って早期発見すれば“0期(ゼロ期)”の状態で対処できます。
――まず、乳がんとはどのような病気なのか教えていただけますか? 他のがんとどう違うのでしょう?
基本的に、がん細胞ができるという点では、他のがんと同じです。でも実は、乳がんは、自分で発見できる唯一のがんなのです。もし、がん細胞ができてしまっていても、検診に行って早期発見すれば、“0期(ゼロ期)”の状態で対処ができる。乳がんのがん細胞ができる場所は乳腺というのですが、その乳腺構造内には、血管もリンパ管も無いんです。それはどういうことかと言うと、がん細胞が乳腺の構造内にいてくれるうちだったら、血管やリンパ管の流れに乗ってがん細胞が他の臓器へ転移する可能性ありませんから、全身への転移も気にする必要が無いということ。だから乳房にある腫瘍をきちんと治療できれば、全身治療の抗がん剤などを使わずに治すことができる。それが初期段階の0期の状態です。その段階を過ぎると、乳腺の構造を作っている基底膜という枠組みを超えて、周囲にある血管やリンパ管にがん細胞が入り込み全身につながる流れに乗る可能性が出てくるため、乳房の治療だけではなく、全身治療としての抗がん剤やホルモン治療が必要となるのです。病状が進んでからの治療は、病気に対する恐怖、治療の辛さ、治療にかかる時間やお金も更に大きくなります。
―― 乳がんになってしまったら、その“0期”の状態だとしても、乳房を摘出しなくてはいけないのですか?
0期であっても、乳がんがすでにある状態ですから、治療を行わず放置しておくと病気が進行していきます。したがって、0期で発見された場合も、乳房の中ですでに乳がんがある部分をしっかりと除いて置くこと(=手術)が重要です。0期の乳がんの範囲が数ミリに小さな範囲であればその部分だけの切除で治療が完了しますが、0期の状態のまま広い範囲に乳腺の正常構造を壊さないまま広がっている場合もあります。その場合は0期でも範囲の乳房の切除(全摘)が必要になることもあります。たとえ全摘を行っていても早期であることには変わりありませんから、更に希望する選択肢を選ぶことができます。
すなわち乳房再建です。特に昨年1月から、乳腺を切除する手術の後、そのままご本人はまだ麻酔で寝ている間に新しく乳房を作る(乳房同時再建術)が保険適応になり広く行われるようになりました。病気が早い段階であれば危険もなく、形も自然に、自分の受けたい治療を選択することもできるんです。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんになる可能性のある乳房を摘出する手術をしましたけど、手術後も彼女はとっても自然なプロポーションですよね。もちろん、早期発見であれば治療に何年も費やすことなく、治療後に子供を産むこともできるし、反対側の乳房に乳腺があれば、授乳することも可能ですよ。
このように広がりによって選択される手術の方法は異なりますが、共通して言えることは早い段階であればこそ、自分が受けたい治療の選択肢の幅も広がりますし、治療を終えた後の人生の選択肢もあきらめなくていいのです。
――それは女性にとっては希望が持てるお話ですね! 一度がん細胞ができると、どのくらいのペースで進行してしまうのですか?
1個目のがん細胞ができてから、そこから固まりを作って、手で触って確認できる1~2cm大きさのしこりになるまで、大体7~8年はかかります。結構ゆったりしたスピードでしょう。ただ、ある程度がん細胞の個数が増えてきて、大きくなってくると、スピードは加速して、二乗で増えていきます。ですから1cmから2cmになるまでは、何年もかかりません。成長が緩やかなうちの、手に触れない大きさの乳がんを見つけて治療開始することが乳がんを克服するための大きな鍵になってきます。手で触ってもまだわからない大きさの乳がんを発見するのには、マンモグラフィや超音波検査などの画像診断を用いた検診が非常に役に立ちます。このような検査を使った乳がん検診を、自覚症状がないうちから定期的に続けていくことが、早期の乳がんを見つけるための最も有効な方法なんです。
女性の社会進出が進めば進むほど、乳がんになる女性の割合は増えていくんです。
―― 乳がんになりやすい人・なりにくい人という区分はあるのでしょうか?
残念ながら、「乳がんにならない人」というのはいないと思ってください。全員、乳がんになる可能性があります。また、乳がんは発生の原因がまだはっきり分かっていないため、絶対に乳がんにならない予防法というのもまだわかりません。意外かもしれませんが、男性にも乳腺はあるので、乳がんの可能性はあるんですよ。女性の乳がんの方が100人に対して1人くらいの割合ですが。
――では、なりやすい人もいない、ということでしょうか?
いえ、反対に「乳がんになりやすい人」というのは、乳がんになった方の特徴を調べることで危険因子(リスクファクター)=乳がんになりやすい傾向が分かってきました。まず一番リスクが高いのが、ご家族に乳がんが多い方です。特に近親者に、30代40代など通常より若い年代で乳がんにかかった方がいる場合や、両側の乳がんの方がいる場合、男性の乳がんの方がいる場合など、遺伝子の異常により発生する乳がんのリスクを持っている可能性もありますので特に注意が必要です。特に遺伝子の異常で引き起こされる乳がんは、20代や30代の若い年代で乳がんを発症することも知られています。だからこそ、自分にその傾向があるか知っておくことで、早くから検診をして備えることができます。この遺伝子は母方だけでなく、父方から受け継ぎますので、最近では親や親戚と、近況や病気の話などをあまり話題にしないことも多いと思いますが自分のためにもあるいは親やご親戚のためにも病気の状態を聞き、乳がんになった方が多い場合はお互いに検診を促すのもよいでしょう。
そのほかに乳がんのリスクを高める因子としては、「子供を産んでいない、または、出産する年齢が高かった人」、「授乳のチャンスが無かった人」、「初潮の年齢が早く、閉経が遅い人」、それから、「閉経後に肥満体型の人」などがあります。これらは、一見関係無さそうで、実はひとつのことに関係しているんです。それは、「女性ホルモン」。女性ホルモンの影響を受ける年数が長い、影響を受ける女性ホルモンの量が多いということがこれらの共通項で、それがリスクなのです。出産や授乳は、実は、いつもと全く違う女性ホルモンのコンディションになるため、乳房にとってはリセットがかかるような状況になると考えられ、つまり、そのリセットのチャンスが少ないと、乳がんのリスクも高くなっていくのです。ただし逆に出産や授乳をしているからと言って乳がんにならないわけではありませんので、たくさんお子さんがいる方も乳がんになることはもちろんあります。じゃあ、閉経後の肥満は何故関係あるの? というと、閉経後は実は、卵巣から女性ホルモンが出ないので、その代わりに男性ホルモンを女性ホルモンに変換しているのです。で、その変換のための酵素が、皮下脂肪の量と関連している。だから、ふくよかな人の方が、閉経後も女性ホルモンがいっぱいある状態がキープされます。元気で若々しくて良いのですが、逆に乳腺にとっては、いつまでも栄養がたくさん入ってくる状態になってしまうのです。繰り返しますが、これらのリスク因子に当てはまらない人が乳がんにならないわけではありません。乳がんは女性にとってもっともなりやすいがんです。誰にとっても可能性のあるすぐ身近にある病気であること忘れないでください。
――女性ホルモンに関するそれらの事項は、なんだか最近の日本人女性の傾向と重なってきますね。
まさにその通り。女性が社会で活躍している国は、乳がんが多いのです。だから今、世界中で乳がんが増えている状況です。女性にとっては色々な権利が確立され、活躍する場が増えていくという良い面がある代わりに、その女性のライフスタイルの変化が、乳がんのリスクを高くしているという、皮肉なことが起こってくるわけです。そして、そういう意味で言うと、日本でも都市部の方が少し発症率が高い。昼夜が逆転していたり、ストレスを抱えていたりすると、今度は女性ホルモンのアンバランスが起こってしまって、生理が不規則になったりと。女性ホルモンの受ける臓器の乳腺としては、そのような女性ホルモンの影響を日々受けていることも乳がん増加の一因の可能性と考えられています。あとは、自分自身の女性ホルモンだけでなく、治療として女性ホルモン剤を使うことも今増えています。低容量ピルや、不妊治療、更年期障害の薬にもホルモン剤を使います。治療として正しく用いられればたいへん効果があるお薬ですし、いたずらに怖がることはありませんが、大切なことは、使う前に必ず乳がんがないことを確認しておく必要があるということです。もし乳がんがあるのに知らずに女性ホルモン剤を使っていたら、乳がんをお薬で育ててしまっていたという恐ろしいことになるからです。皆さんに知っていてほしい、とっても大事なことです。
「いつもと違う?」は、受診のサイン。自分の乳房に、自分で責任を持つこと。
――乳がんに予兆はあるんですか?
多くの方が、自分で「何か違うかな?」とお気付きになる最初の症状はやっぱり、「しこり」ですね。あるいは、年齢によっても症状が違いますが、「痛み」である場合もあります。あとは「乳頭から分泌物が出る」とか。でも、それらの症状があれば絶対に乳がんだというわけではありません。乳がんは本当に、個人によって色んなパターンがありますから。
―― それに気が付いたら、どうしたら良いのでしょうか?
何か異変を感じたら、病院の乳腺科や乳腺外来など、または乳腺クリニックなど専門の医療機関もありますので、必ず、受診してください。最近は、異変に気が付いたら、まず、自分と同じ症状の人がいないかネットで検索する人が圧倒的に多いんです。でもご自身であれこれ調べて、自己判断するのはとても危険です。
乳房の異常は触っただけの情報では診断は難しく、そして、たとえ乳がんであっても、必ずしも“硬く動かないしこり“という典型的なものばかりでなく、本当に色んなパターンがあります。まず受診して、今、自分に起きている異常の原因がなにか判明するまで、しっかり検査や診察を受ける。これを徹底してもらいたいです。「しっかり診察を受けて、乳がんでないことを確認するための受診なんだ!」と思って怖がらず、勇気を出して、受診してください。実際に異常を感じて受診する方の多くは無事乳がんでないことをお知らせできる方が圧倒的に多いんです。もちろん、そういった症状を感じる前に、事前に検診を受けておくことも大切なことです。検診で行うマンモグラフィや超音波検査は、症状が出る前の乳がんを発見することができるため、異常を感じていない時こそ、定期的に検診を受けることで早期発見ができるのです。同じ乳がんでも、治療のスタート地点が、早期かどうかで乳房を失うかどうかなどの手術の選択や、抗がん剤を行うかどうかなど治療内容も、そしてその期間も費用も大きく変わってきます。治療後の人生設計にも影響が出てきます。早期に発見し手早く治療すれば治療がひと段落した後に出産や授乳もできますが、病気が進行してから治療を開始した場合は治療の期間も長年にわたり、治療による卵巣への影響が残る場合あるため、出産を望めなくなることもあります。とにかく早く見つけて早く治療をすることが、乳がんを克服するための大きな力なのです。それを知っていたら検診に行きたくなりますよね? でも、皆さん来るのに腰が重いんですよね。病気が見つかっちゃったら嫌だな、とか、検査が痛そうとか、根拠は無いけどなんとなく自分は大丈夫だと思っている方もいますね。でも、実際は、残念ながら乳がんになる可能性がゼロという人はいません。女性はもちろん、たとえ男性でも乳がんになりますから。誰にも例外は無いのです。
――専門機関というと、具体的にどこへ行けば良いのでしょうか?
女性の病気ということで、婦人科に行ってしまう方が多いのですが、乳がんの検査は、「乳腺科」「乳腺外科」に行ってください。検索するとしたら、症状じゃなくて、乳腺科がどこにあるか、探してくださいね(笑)。具体的な検診の内容で、「マンモグラフィ検診」は、胸を圧迫するので、「痛そうだから嫌だ」とか「自分は胸が小さいからそんなことできなそう」と言われる方も多いのですが、痛みを感じずに検査できる方法もたくさんあります。例えば、胸が張っていない生理後だと比較的痛くないし、もちろん、大きさにも関係なくできます。実は、マンモグラフィの撮影をする技師は診療放射線技師という基本の資格に加えて、乳がんの知識やマンモグラフィの撮影の特徴やコツなどみっちり教育を受けています。更に試験を受け、合格者には認定を与えています。患者さんが快適に検査を受けられると同時に乳房をくまなく詳しく映し出すために知識や腕を磨いているのです。検査に来た人をリラックスさせる特別な訓練なども受けているんです。喋り方とか、触り方とか。法律上は、残念ながらその訓練を受けていない人でも検査撮影はできるのですが、マンモグラフィを受けるのであれば、このようなとトレーニングと認定試験に合格した技師に撮影してもらうこと、そして診断をする医師も決して見落としがないように、みっちりトレーニングを受けた医師の診断を受けた方が当然安心です。受ける機関を選ぶ時には、ぜひその注意が必要です。私たちの認定NPO法人乳房健康研究会のサイトでは、教育を受けた技師、乳がんの診断ができる医師と、精度管理が行き届いたマンモグラフィ装置があることと認定の医師、技師がいることが条件に合格を受けた“認定施設”を地域ごとに分かりやすく公開しています。そういった高いレベルを持った医療機関へ行った方が、当然病気も見落とされないし、不快な検査を受けなくて済むので、医療機関もしっかり吟味して、信頼できる毎年続けて受診しやすい施設を見つけることが大事です。
https://breastcare.jp/search_shisetsu/list.php
―― 検診をした方が良い年齢や、具体的な頻度はあるのですか?
実際に乳がんになる方(罹患率)ががぐっと大きくなるのが35歳からで、ピークは働き盛りの40代後半から50代前半です。職場でも、家庭でも、周りからも役割を期待される年代ですから、乳がんによって受けるダメージは本人だけでなく、同僚や家族に及ぶことも特徴です。さらに乳がんの難しいところは、若くて元気でむしろ、自分が病気になることなど全く想像もせずに毎日を送っている年代に、突然降りかかってくること。若く毎日を忙しく過ごしていたら、検診へ行くよりもどうしても美容やファッションなどの方に興味が大きいのは当たり前です。でも実際に乳がんは知らないうちにどんどん近づいている。だからこそ、早くから乳がんに対する認識をもって自分で備える、検診を受けることが大切なのです。
じゃあ、何歳になったら検診をしてほしいかというと、できれば30歳。その後の検診の計画を立てるためにも、まず検査に行ってみるというのは良いと思います。ただ、家系的に乳がんが多い人、特に遺伝性乳がんのリスクが高い人は、若い年齢で乳がんになる方が多く20代から検診が必要。できれば、初めての検診は自分の家族歴やホルモン剤などの服薬状況などのリスクや、乳房のコンディションに合わせた生涯の検診計画を作るためにも、専門クリニックなどでしっかりと相談をしながら検診をスタートすることをお勧めします。ちなみにご家族に乳がんが、いないからといって油断は禁物ですよ。乳がんになった人が100人いるとしたら、80人は自分が家系の中で初めての乳がん。すなわち身内に1人も乳がんがいない人たちです。すべての人の近くに乳がんが忍びよっているということを忘れないでください。
おすすめの検診の頻度の目安としては1年に1回。ただ厳密に言うと、1番フィットする検査の仕方や頻度は人によって違います。1回検査を受けてみると大体分かるので、経済的な負担も身体の負担もなるべく軽く受けられるように、自分はどう検診を受けていったら良いか、初めての検診の時に先生に相談しながら今後の検診計画を立てましょう。