
ヒト
2019.09.27 FRI.
パートナーと一緒に学びたい、「ピンクリボン」のこと。
乳がんの正しい知識を広め、早期の検診を勧める目的ではじまった「ピンクリボン」。毎年、10月になると各地でさまざまなイベントが催されることもあって、年々乳がん検診に対する意識が高まっているように感じます。しかし、男性目線に置き換えてみるとどうでしょうか。「乳がんは女性だけのもの」「何となく触れてはいけないセンシティブな話題」と、どこか人ごとのように捉えている方が大部分ではないでしょうか。そこで今回は、認定NPO法人乳房健康研究会の理事であり、昭和大学横浜市北部病院 外科系診療センター 外科講師の西川 徹先生をお迎えして、クイズ形式で乳がん検診についての知識を深めるとともに、男性の「ピンクリボン」に対する意識向上の大切さについてもお話いただきました。
photo_Shinji Serizawa(Interview), Shinsuke Sato(Still)
text_Hiroyoshi Tomite
あなたはピンクリボンについて、どれくらい知っていますか?
ピンクリボンという言葉は聞いたことがあっても、その内容については詳しく知らないという方も多いはずです。また、自分は知っているから大丈夫と思っていても、その知識は実は間違ったものかもしれません。正しい知識を身につけ、それを意識づけることが、自分の身を守る一番の近道です。すでに詳しく知っているという人も、今一度自分の乳がんに対する意識レベルがどの程度なのか、まずはこのチェックリストで確認してみてください。
- 乳がん検診の経験が一度もない。
- シコリのチェックなど、自己検診をしたことがない。
- ピンクリボンと聞いても、ピンとこない。
- パートナー(彼氏や夫、彼女や妻)と乳がんについて話したことがない。
- まだ乳がんについて考える年齢ではないと思っている。
- 色々と詳しく調べることが怖い。
これらの項目に1つでも当てはまった人は、乳がんというものを正しく理解できておらず、また、意識がやや低い可能性があります。正しい知識を持っていないと、自分がいざ当事者になったときに早期発見の可能性を遅らせるばかりか、それ以上に大事を招いてしまうかもしれません。また、女性が乳がんについて相談をするのは同性ではなく、意外にもパートナーであることも多いのだとか。だからこそ男性も決して「人ごと」とは思わずに正しい知識を身につけることが求められるのです。それでは、西川先生と一緒にクイズ形式で学んでいきましょう。
Q.1 乳がん検診について、正しいものはどれでしょうか?
- ①検診は受けても無駄なので受けなくても良い。
- ②急に広がるタイプのがんがあるので、半年に1回くらい受けるのが良い。
- ③自己検診をしっかり行えば、マンモグラフィは受けなくても良い。
- ④40歳以上の女性は2年に1回、乳がん検診を受診すると良い。
正解は…
先生:④と回答された森さん、正解です。これは知っていたのですか?
森:行政からの乳がん検診のお知らせが、2年に1度くらいのペースでくるイメージがあります。私はがん家系で、祖母を乳がんで亡くしていることもあって、20代の頃から検診を受けています。
先生:20代から検診を受けているという方は珍しいですね。しかし、残念ながらそれは間違った知識なのです。日本人は、40代後半から50代前半に乳がん発症リスクが高いと言われています。それゆえ、マンモグラフィを併用した検診の推奨年齢は40歳以上に設定しています。20代〜30代前半の方は乳腺が発達しているので、乳房を挟んでレントゲンを撮る「マンモグラフィ」を行うと真っ白に写ってしまい、有益な所見が得られにくいと言われています。どこにも異常がないのに異常として指摘されてしまう可能性が少なからずあり、精神面への影響や医療費、身体的影響である被ばくの問題などのデメリットがあります。
中島:てっきり検診は早めに受ければ受けるほど良いのだと思っていました。早期発見ができる反面、そんなデメリットもあるのですね。
先生:ただし、家系的に乳がんが多い方に関しては、遺伝性の乳がんのリスクが高い可能性もあるので、乳房の自己検診をしていただくなど、意識を高く持っていただくに越したことはありません。
Q.2 日本人女性の乳がん検診受診率について正しいのは、次のうちどれでしょうか?
- ①約45%
- ②約65%
- ③約85%
正解は…
先生:この問題はみなさん正解でしたね。日本の乳がん検診受診率は近年上がってはいるものの、まだ過半数に満たないのです。
森:日本の乳がん検診受診率が過半数に満たないのは、どのような理由があるのでしょうか?
先生:これでも近年伸びてきた方だと思います。ただ世界の他国から比べると圧倒的に比率が低い。大きな理由の1つは自分が乳がんにならないと思っていて、人ごとに感じている方が多い点。あとは大部分が40代、50代の働き盛りの親世代なので、仕事に加え、子育てが忙しくて検診に行けないという点。また、もう1つはマンモグラフィ検診に対する恐怖感や、検診に行くのが面倒という意識的な要因が考えられます。
森:そうなのですね。それって日本だけのことなのでしょうか?
先生:実は、海外の先進国の中でも、日本の乳がん検診受診率は圧倒的に低いです。
佐藤:日本はアメリカの約半分の受診率ですね。アメリカの受診率が日本に比べて圧倒的に高いのはなぜなのでしょうか?
先生:そもそも「ピンクリボン」は、1980年代にアメリカでスタートした乳がんの啓発運動です。日本人は約11人に1人の発症率ですが、アメリカでは約7〜8人に1人が乳がんになるとされています。つまり昔から乳がんの発生率が高いことが理解されていて、それに対する治療、乳がんを克服した方の運動が早期にはじめられていたのです。同じアジア諸国でも、韓国は日本の約1.5倍の検診受診率です。日本も10年前に比べると、約2倍以上の受診率になっていて、意識の変化は見受けられるものの、今以上に国をあげて検診の受診率を高め、積極的に乳がんに対する啓発活動をしていく必要があるのです。
佐藤:社会全体に対して私ができることは微々たるものかもしれませんが、まずはユナイテッドアローズ社内における乳がん検診率を上げるべく、積極的に発信していきたいと思いました。
中島:確かにその通りですね。身近な人たちの意識を変える、ということに関連して、私の妻は、2年に1度乳がん検診を受けているのですが、早期発見のために、普段からできることはないのでしょうか?
先生:月に1度で良いので、お風呂に入った時に手に石鹸を付けた状態で強めに押さえつけて流すように乳房を触ること。本当は横になって触るのがより良いですが、就寝前ではなく、お風呂の時間が一番チェックしやすいと思います。チェックのタイミングに関しては、生理前は胸が張ってしまうので、生理後しばらく経った乳房が柔らかい時期がおすすめです。
森:コツさえつかめば自分でも簡単にチェックできそうですね。早速やってみようと思います! 話は戻りますが、マンモグラフィ検診の痛みは何とかならないのでしょうか?
先生:痛みに関しては、ある程度やむを得ない部分ですね。よく自分の胸のサイズの大小によって痛みが異なるのでは、と思われているのですが、実はサイズはあまり関係ありません。ギュッと挟んで乳房の厚みを均等に薄めないと、レントゲンを撮った時に余計な影が映ってしまうので、正しい結果が得られません。正しい診断結果を得るためと思って多少の痛みは我慢していただければと思います。
Q.3 この中で、乳がんにならないのは誰でしょう?
- ①乳がんの遺伝子がない人
- ②子どもを3人以上産んだ人
- ③痩せている人
- ④男性
正解は…
先生:実は、この問題はどれを選んでも不正解のひっかけ問題でした(笑)。中島さん、男性はかからないと思っていましたか?
中島:乳がんは女性だけの病気だと思い込んでいたので、あくまで男性はサポートする側という認識でした。
先生:それは大きな誤解ですね。男性にも小さく乳腺があるので、ならないとは言い切れないんです。実は乳がん全体の約1%は男性が発症しているのです。発症率は女性に比べると低いとはいえ、男性も自分事として捉えていただきたいです。男性の乳がんの方はなかなか周りに言い出しづらいという傾向があるのですが、男性の乳がんの会というのも少しずつ増えているんですよ。
森:男性も発症するなんて初耳でした。私は女性ならではの病気で、さらに言えば遺伝子異常さえなければ大丈夫かなと…。
先生:逆に乳がんの原因とされる遺伝性乳がんの遺伝子異常を持っている方は乳がん患者全体の約1割ほどです。遺伝子異常がなくても乳がんは発症するということを覚えておいていただきたいです。また、乳がんは卵巣から出るエストロゲンという女性ホルモンにさらされている期間が長ければ長いほどリスクは高くなると言われています。つまり、初潮が早くて閉経までの期間が長い方の方が乳がん発症のリスクが高いのです。また妊娠を経験していない人の方が高く、子どもを産んでいる人の方がリスクは低いといわれていますが、子どもを産んでいるから乳がんにならないとは言い切れないのです。
また、胸が大きいと乳がんになりやすいと思っている方もいるようですが、それも関係ありません。ただ、肥満傾向の人の方が乳がんのリスクが高いのは事実です。それは皮下脂肪が、女性ホルモン類似物質を分泌する役割を持っているからです。
先生:誤解されている方も多いのですが、乳がんは早期発見すれば治りやすいがんなのです。ただし、発見が遅れてしまうと死亡リスクは当然高まります。だからこそ、まずは必ず検診に行っていただくことと、乳房の自己検診を推奨しています。2年に1度、行政から通知が来た時に、当たり前のように家族や職場間で「検診に行った?」という会話ができるような環境を整えていくことが大事なんです。万が一発症してしまった時には、入院や通院で仕事を休まなければならない場面が出てきます。その際に休みづらいというような話も患者の方からよく聞きます。職場全体の理解を深め、会社としてサポートしていく体制を整えることが大切です。最後に、乳がん検診を受けたことで安心しすぎてしまうことも気をつけなければいけません。また、検診による早期発見のメリットと、がんではないのにがんの疑いが指摘されてしまうなどのデメリットをしっかり理解することも重要ですね。
男性も同席した今回の座談会。性別や年齢に関わらず、誰しもが自分自身のこととして考え、決して人ごとで済ませてはならないということが分かったはずです。正しい知識を身につけ、それを周囲に発信していくことが、乳がんに対する不安を少しでも取り除くことになり、結果的に検診受診率の向上と死亡率の減少につながるはずです。10月は乳がん月間です。この機会に家族や友人、または職場で話し合う機会を作ってみてはいかがでしょうか。
暮らしをハッピーに彩る、ピンクリボンキャンペーンアイテム。
毎年10月は、乳がんの早期発見・早期治療を啓発、推進する「ピンクリボン月間」です。ピンクをシンボルにしたアイテムが各ブランドを彩り、キャンペーン期間中の商品売上の5%が、寄付金としてピンクリボン活動に役立てられます。アパレルから小物までバラエティ豊富なアイテムたち、ぜひチェックしてみてください!
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PROFILE

西川 徹
1993年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。外科専門医、乳腺指導医、内分泌外科専門医、医学博士。現在は認定NPO法人乳房健康研究会理事。乳腺外科と内分泌外科の両分野の診療と、乳がんの最新の情報やがん教育の啓発をピンクリボン活動を通して行っている。

森 麻衣子
第一事業本部ウィメンズ商品部
1999年入社。東京、名古屋地区のユナイテッドアローズにて販売を経験。その後、ユナイテッドアローズ商品部でバイヤー、ディストリビューション業務に携わり、現在はウィメンズ彩貨のマーチャンダイザーを担当。

中島 悠介
第二事業本部商品部副部長
2003年入社。グリーンレーベル リラクシング商品部にて、ウィメンズの生産を担当し、オリジナル商品の調達を経験。その後も商品部にてキッズ商品やウィメンズ雑貨など様々な部門に携わり、現在は第二事業本部商品部副部長を務める。

佐藤 由佳
経営企画部・CSRチーム
2015年入社。ユナイテッドアローズ アウトレット木更津店で販売を経験。2018年より経営企画部・CSRチームに異動し、「ヒトとモノとウツワ」やCSR推進業務に携わる。