
モノ
2018.11.29 THU.
バレエシューズが定番であり続ける理由。
ユナイテッドアローズ唯一のシューズブランド、〈オデット エ オディール〉。バレエの楽曲、『白鳥の湖』に由来するそのブランド名の通り、定番のバレエシューズには定評があります。トレンドに関わらずブランド設立当初からつくり続け、改良を加えながら理想の履き心地を追求し続ける、そのものづくりへのこだわりを浅草の工場で見せていただきました。
Photo_Yusuke Oishi
Text_Hisami Kotakemori
ふわっと足を包む感触にこだわって。
〈オデット エ オディール〉のバレエシューズは、そのほとんどが浅草の老舗靴メーカー〈デコルテ〉でつくられています。「素足で履くことも多いので、ふわっと包まれるような履き心地がなにより大事です」とチーフMDの丸谷麻友さん。それを実現するために必要なのが「いい木型とアッパーを吊りこむ(木型に沿って成型する)職人の技」なのだそうです。「その点〈デコルテ〉さんにはいい職人さんやスタッフの方がそろっているのでとても心強いです(※以下コメントはすべて丸谷さん)」。イタリアのフィレンツェで靴づくりを学んだ若手から、この道40年の老練まで、丸谷さんの言葉を裏付けるスタッフの方が仕事をしていました。
飾りでなくフィット感が調整できるリボン。
2015年にリブランディングしたとき、定番の見直しが徹底的に行われ、バレエシューズの木型を改良しました。同時に「ツメが当たって歩くたびに靴がきしむ」のを改善するクッションを、トウの内側につけました。「足入れにも時代感があるので、より今のムードに沿うように改良して、納得のいくものにしました。またお客様や店頭に立つスタッフからの声も反映して、よりよい製品に仕上げていきます」。
靴づくりは木型をもとに、いろいろな作業が進んでいきます。アッパーのパーツを抜き型で革や布帛をカットし、調整用のリボンをグログランテープで仕込みます。「リボンはただの飾りではなく靴の縁に一周入れているので、フィット感が調整できて歩いたときにかかとがついてきやすくなるように工夫しています。手間はかかりますが、履き心地のためには譲れません」。
職人の「吊りこみかげん」が履き心地を左右する。
グログランテープを縫い付けたアッパーと裏地を接着剤で貼ったら、木型にかぶせて吊りこみます。バレエシューズは普通の靴と違って、トウに芯を入れないのでシワが出やすく、形がでにくい「難しい靴」なのだとか。しかも素材やサイズによって、吊りこみぐあいを変えなくてはいけないというハードルの高さ。「ふわっとした履き心地は職人さんの吊りこみかげんにかかっています。そこが職人技なのですが、上手な職人さんが吊りこむと本当に気持ちのいい、足に吸いつくようなバレエシューズができます」。
機械で吊りこむ場合もサイズや素材によって細かい調整が必要で、それもまた「職人技」なのだそうです。アッパーの吊りこみが済んだら、ソールが密着するように底面を均一に削る作業をします。ソールをつけたら機械で圧着して、接着剤が乾いて安定するように1日ラックに置いて寝かせます。バレエシューズはソールがやわらかいタイプも多いけれど、〈オデット エ オディール〉のはしっかりしているのが特徴。「やわらかすぎても地面の感触をひろって疲れてしまうので、そのあたりも計算しています」。
箱詰めまでたくさんの手仕事を経て店頭に。
翌日、接着剤が乾いた靴にインソールを貼ります。「インソールにはクッションを入れていますが、やわらかすぎても歩きづらいのでいちばんいいところを探りました」。ちなみにインソールを貼る前の靴の内側には底付けをした人の判子が押され、責任の所在を可視化しています。
リボンを結んだら、最後はトウの部分に紙を詰めて型崩れしないように芯棒を入れ、箱詰めされます。これもまた手作業。ちなみにリボンの長さもシューズサイズによって異なり、こんなところにも作業する人の経験や勘が必要とされています。予想以上にいろいろなことが手仕事で、手間がかかっていました。製造工程やこだわり、そのクオリティを考えるとコストパフォーマンスのよさは群を抜きます。「定番の商品だからこそ買いやすい価格をキープしたいので、価格はギリギリのところで抑えています」。
どんな素材でも「同じ足入れ感」がモットー。
定番カラーに加えて、トレンドを意識したシーズンカラーや旬の素材、またトウの形が違うモデルなどバリエーションが豊富な点も〈オデット エ オディール〉のバレエシューズの魅力です。「リピーターの方が非常に多いので、いつもワクワクした気持ちになっていただける提案をするのも私たちの仕事です。約2年前からはタイツともバランスのいい甲の深いモデルを展開しています。春夏の浅いタイプは、シルバーやパープルスエードなど気分が上がる新色もセレクトしました。形や素材が違っても同じ足入れ感であることが最優先。パターンを変えたり、吊りかげんで調整したり、職人さんには苦労が多いと思いますが、いつ買っても同じだと思っていただけるように最善をつくしています」。
甲深モデルは試作で何回も深さの調整をした苦労話も。「深すぎるとさっと履けずバレエシューズの感覚がなくなりますし、個性が出て定番に見えなくなってしまうので気を使いました」。製品になってからもフィッティング担当が実際に履いてチェックをし、再度つくり直すこともあるそうです。「エナメルは通常の革よりも硬い分、足入れに違和感がありました。サテンも伸縮性がないので、革とは違うと感じ…。そんなときはすぐ工場に相談してやり方を変えてもらっています」。実績のある〈デコルテ〉はそんな細かいリクエストにも柔軟に対応し、「同じ足入れ感」を守り続けています。
個人オーダーにも対応できる理由。
〈オデット エ オディール〉では定期的にバレエシューズのオーダー会を行っています。アッパーとリボンとグログランテープを自由に組み合わせて、自分だけの一足がつくれるので毎年大好評。「オーダーは一足一足違う組み合わせで仕上げてもらうので、つくるほうは大変です。でもお客様に喜んでいただけるので、やりがいがあります」。こういった細かいことができるのも、浅草という近い距離に信頼できる工場があるから。
「健康も左右する靴は、デザインだけでは売れません。自分の足に合うブランドを見つけたら続けて買う傾向もあります。このバレエシューズは、定番カラーの次はシーズンカラーを買って、さらにオーダーで特別な一足をと、1年に3~4足買われる方もいます。その分、さまざまな意見や感想も寄せられるので、これからもその声をできるだけ反映していきたいと思っています」。期待が大きい定番だからこそ、その期待を裏切らないように、「どうすればもっと履き心地がよくなるか?」を常に考え、「アイコンだからこそ改良を加えて進化させていきたい」と丸谷さんはしめくくってくれました。