ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ウツワ

2021.03.12 FRI.

「考える人でありたい」:コンテンツクリエーター集団kontaktのメディア論。

アーティストの図録や『BRUTUS』『apartamento』などの国内外誌のエディトリアルをはじめ、ユナイテッドアローズの『IDEAS』やビューティ&ユースの『PEOPLE』なども手掛けるkontakt。コンテンツを通じてブランドとクリエーター、そしてオーディエンスを繋ぐ空間の創出者でもある彼らとの会話から、メディアの未来について考えた。

Photo:Yukihito Kono
Text:Hana Tatsumi

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ガラス窓から明るい日差しが降り注ぐオフィスビルのワンフロアに、kontaktはある。クリーンで広々とした空間には、「編集プロダクション」と聞いて真っ先に思い浮かぶうずたかく積まれた本や書類の山、栄養ドリンクの隊列はなく、目の下に濃いクマを刻んだスタッフもいない。朝10時らしい爽やかさで出社してきた総じて若いスタッフたちは、取材陣を発見するなり近くまで小走りでやってきて挨拶してくれる。想像していた光景とのあまりの違いにこちらが気恥ずかしさを覚えるほど、ここは風通しがいい会社のようだ。

クリエイティブ・ディレクターの川島 拓人がプロデューサーを務める神田 春樹とkontaktを立ち上げたのは、出版=斜陽産業という認識に誰も驚かなくなった2015年のこと。いずれも人気メンズファッション誌で経験を積んでいたとはいえ、まだ20代の「ベテラン」と呼ぶにはフレッシュすぎる編集者だった。それから6年も経たないうちに一等地にオフィスを構えるまでに成長したのだから、その躍進の秘密を知りたいと思うのは当然だろう。彼らの何に惹かれて企業やブランドが集まってくるのか。彼らの仕事にどんなメディアの未来を見ることができるのか。そんなことを胸に、川島とプロデューサーの安齋 瑠納、エディターの大和 佳克に話を聞いた。

ー独立当時の2014年に制作・発行していた『UN-EDIT』は現在コンセプトも一新し2017年から『Partners』というタイトルで2冊制作されています。いまもインディペンデントな紙媒体、しかも日本語と英語のバイリンガル雑誌を継続している理由は?

川島 拓人(以下、川島):「発行部数こそ2000〜3000部と少ないですが、『Partners』から広がる国境を超えた多様な才能とのつながりに、大きな可能性を感じているからでしょうか。国内ブランドのカタログ制作やウェブサイトの仕事でも、ぼくらは頻繁に海外のアートディレクターやフォトグラファーとコラボレーションしているのですが、”I like your magazine, let’s do this!”と『Partners』を入り口に仕事を受けてくれるというケースがすごく多いんです。

2_kontakt-36クリエイティブディレクターの川島 拓人。ボストンで学位を取得したのちに帰国。編集プロダクション、EATerにてファッション雑誌『HUGE』の編集に携わった後に独立。2015年に神田 春樹とkontaktを立ち上げた。

ー拝見するに、即時性の高い情報の羅列というより、むしろ真逆の文字も写真もしっかり向き合いたくなるようなコンテンツですね。ここで取り上げられているテーマも、どちらかというと渋めのものばかり。編集方針は?

川島:『Partners』は関係性をテーマにしたインタビュー誌です。関係性や絆は目に見えないものだからこそ、本という物質として表現することに意味があると思っています。つまり、「見えないモノを見える化する」というコンセプトです。自分たちの視点をシェアしたい、というよりも、第三者の目を通して新しいモノの見方を提示したいんです。それは『Partners』に限らず、ぼくらが手掛けるものに共通する考え方かもしれません。

安齋 瑠納(以下、安齋):スタッフの採用にも同じことが言えると思います。編集経験や能力も大切ではありますが、それ以上に視点や考え方を大切にしています。だから極端な話、経験が一切なくても、モノの見方やアイデアが面白ければ「一緒に仕事してみませんか」となる。

3_kontakt-60安齋 瑠納。ロンドン芸術大学にてファッション・フォトグラフィーの学位を取得後、2017年にkontakt入社。プロデューサーとして主に海外のクライアントやコラボレーターとのコミュニケーションを担当する。2019年には、ロンドンを拠点とする新規事業、partners studioの設立に携わる。現在、『Partners』として雑誌だけに留まらず立体的かつ多角的なプロジェクトを企画中。

川島:たしかにスタッフから学ぶことは多いですね。世代が違うのもあるかもしれませんが、ぼくの中では当たり前になりすぎて引っかからなかったことを指摘してくれたり、新しい視座を与えてもらったりすることは少なくありません。以前、〈THE NORTH FACE〉がテンセル™という環境にやさしい製法で作られた生地を使用したコレクションを発表していたんです。そのキャンペーンの一環で、「My Own Sustainability」というマイクロサイトを制作しました。そのときも、難しく考えるのではなく、まずは自分たちができることからやろうというスタッフとの会話から、制作プロセスにおいても環境負荷をできる限りかけずにやる、というアイデアを思いついたんです。フィルムではなくデジタルカメラで撮影し、ロケバスも使わずスタッフ・キャストは全員現地集合・現地解散、ヘアメイク用のプロダクトも自然由来の成分で作られたもののみ、というプロダクションでした。もちろん、ケータリングもペットボトルの飲料も用意せず、それぞれマイボトルを持ってきてください、とお願いしました。すべての制作プロセスを記録して、最終的に出た環境負荷を専門機関に評価してもらいました。

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安齋:もちろん、ファッションやカルチャーなど、好きな領域にある程度の共通点はあるものの、スタッフがそれぞれに異なるセンサーを持っていることが、ある種kontaktの強みになっているような気がします。

大和 佳克(以下、大和):ひとつの雑誌を作り続けるのではなく、本当にいろんな仕事をしているので、特にこれまでやったことのない領域の仕事に取り組むときには、スタッフとの雑談からヒントを得ることは多いですね。

5_kontakt-75大和 佳克。編集者、ライター。1996年、神奈川県生まれ。大学では文芸・ジャーナリズムを専攻。卒業後ファッションに関わる仕事に携わりたいと考え、2019年にkontaktに入社。ビジュアルのディレクションをはじめ、雑誌やオウンドメディアでの編集、ライティングを手掛ける。

安齋:ビューティ&ユースのオウンドメディアである『PEOPLE』の立ち上げのときも、20代前半のスタッフとの何気ない会話がヒントになったと川島から聞きました。コンセプトを考えているときに、「洋服屋さんのどこを見ている?」と聞いたところ、扱っているブランドや商品ラインアップ以上にヒトを見ている、モノよりもヒトで記憶しているかもしれませんという答えが返ってきたらしいんです。そこから、モノではなくヒトを入り口に、ブランドや商品に興味を持ってもらうというコンセプトに繋がりました。そういう発想は、かしこまった会議からは絶対生まれないと思うんです。

ー『PEOPLE』の話がでましたが、kontaktはほかにもユナイテッドアローズの『IDEAS』やアングローバル社 (現・株式会社TSI)の『Anglobal Community Mart』など、オウンドメディアを多数手掛けています。それには何か意図や戦略があるんですか?

川島:ファッションブランドのオウンドメディアって、通常のメディアと比べても可能性があると思っているんです。なぜなら、空間、つまり販売拠点であるショップが既にあって、ファンもインスタグラムのフォロワー数も獲得できている。それらを横断的に活用できると考えると、優位性しかないんですよね。いまの時代、どのメディアもそれ単体ですべての要件を満たすことは難しいし、もはやナンセンスでもあります。でも、オウンドメディアなら記事制作という実験を通じて出会った人や生まれたアイデアを、フィジカルなストアイベントに繋げることもできるし、将来的にはレーベルにすることだって考えられる。メッセージをより立体的に伝えられる可能性に満ちていると思います。

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ー世の中には、ECと販促情報、ブランドのコンセプトやフィロソフィーを発信するサイトが未整理なまま乱立していて、消費者が困惑するようなウェブサイトもありますね。

川島:そうですね。だからこそ、ひとつ大きな器を作ってあげることが重要だと考えているんです。ECやプロモーション、ブランドサイトがバラバラに点在することで見えなかった大きなメッセージ、つまり、こんな生き方を選んでいる人のために、こういうモノを作っています、ということを明確にひとつの場所から発信することができるので。また、ユナイテッドアローズとの仕事で言えば、かつてはカタログやキャンペーンサイトなど単発の仕事を多数いただいていたんですが、毎回イチから作るやり方がサステナブルじゃないと思ったことも大きいですね。アイデアを記事にして、コーディングして、期間が過ぎればまるっと捨てて、また少し違うものを作って…ということを繰り返すなら、同じ予算をより有意義かつ持続的に使える方法があるぞ、と。しかも、ECやインスタグラムなどへの導線を持たせることで、ブランドや企業の取り組みをよりホリスティックに見せることができます。

大和:それはクリエイティブサイドにもメリットがあるんです。というのも、コンテンツをストックしていくことのできる大きな受け皿があることで、単発だと目立ちすぎてしまう奇抜なアイデアを、全体のバランスの中でうまく機能させることができるからです。商品情報のようなある種保守的なコンテンツからちょっと奇抜なファッションストーリーまで、あくまで全体を構築するためのパーツと捉えれば、クライアントにとっても面白い挑戦や冒険を受け入れやすくなるのではないかと思います。

7_kontakt-1592019年に千葉市立美術館で開催されたアートコレクティブ「目〔me〕」の個展では、ビジュアルコミュニケーションを担当。図録からチケットやポスターなどを制作した。

8_kontakt-1802020年に復刊したカルチャー雑誌『TOKION』では、川島がディレクターを務めた。複数のコンテンツを一冊に綴じるのではなく、小冊子やタブロイドとしてひとつの箱に入れてしまうというアイデアを実現。デジタル時代における印刷物の価値を再発見する試みとなった。

9_kontakt-196編集として携わった、ユナイテッドアローズのスタイリングエディションやエイチ ビューティ&ユースのローンチで配布した冊子など。

10_kontakt-183雑誌『Partners』。創刊号は写真家ヨーガン・テラーと息子のエド・テラーの親子関係を、また2019年に刊行した2号目では、樹木希林と内田裕也の夫婦関係など、さまざまな視点から「関係性」について取り上げている。

11_kontakt-199『BRUTUS』本誌への寄稿だけでなく、綴じ込み別冊なども複数回担当。吉田カバンとのタイアップ企画から本誌と連動した企画の編集も手掛けた。

ー一方で、知らない間にブランドサイトが販促情報で埋め尽くされていた、なんてことも珍しくないかと思いますが、クオリティはどうやって担保しているのでしょうか。

川島:いちばん大切なのは、クライアントからスタッフまで、皆で妥協なくコンセプトを共有し、ブレない軸を作ることだと思います。例えば、『PEOPLE』は、ストックホルムを拠点とするZirkeというアートディレクターのコレクティブに依頼したり、ayameというアイウエアブランドのカタログは、バルセロナのQueridaというチームと一緒に制作しました。こうした海外クリエーターとの仕事においても、軸が共有できていれば物理的な距離感を乗り越えることができる。そのためにはとにかく考えますし、「考える人たち」の集団でありたいと常々思っています。

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安齋:どんなクライアントやスタッフにもきちんと説明できる状態にしておく、ということも重要だと思います。仕事における「不可視なディテール」は意外と多いと感じているのですが、そうした目に見えないことや感覚的なことを曖昧にせず、きちんと言語化して共有することで、ディレクションにも説得力が増すと思うんです。

大和:それなしにプロジェクトを進めると、いろんな場所に歪みが生まれて崩れてしまう。カメラマンやスタイリストなどのキャスティングにおいても、問答無用に「この人が絶対いいです」と推すことはないですね。

川島:その意味では、クライアントとの信頼関係の構築もぼくたちの重要な仕事だと思っているので、一緒に目標地点にたどり着けるよう対等な議論を心がけながら、ロードマップを描くことも大切にしています。

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ーいま、情報の消費の仕方は大きく変わっていますよね。ソーシャルメディアや音声まで、プラットフォームも多数あります。そういった視点で、kontaktが「見られる・読まれる」コンテンツを設計するために気をつけていることはありますか?

安齋:わたしの周りを見ていても、スマートフォンでほぼすべての情報摂取を賄おうとしている人が圧倒的に多いです。だから、時間や予算を費やして豪華なウェブサイトを作ることが必ずしも正しいとは考えていません。いま進めているユナイテッドアローズとの新しいプロジェクトでも、(最終的にはランディングページを制作する必要があったものの)最初のプレゼンではインスタグラムだけで全部やりましょう、と提案したんです。オーディエンスがどんなふうに情報を消費しているのかは、常に意識している部分ですね。

川島:ぼくたちが手掛けるウェブサイトでは、いろんな読み方・見方のパターンを想定した細かい工夫を随所に組み込んでいます。文章は記事の後半に収めて、前半の写真の連なりだけでも十分に伝わる設計にするなど、「良いコンテンツだから絶対に読んでもらえる」という制作側のエゴにならないように意識しています。

大和:もちろんクライアントワークの場合、さまざまな要求や制約があるのは当然なので、プロジェクトの要件をクオリティ高く実現できるバランスを見つけることが大切ですが、何事も「こうあるべき」と潔癖になる必要はない。柔軟であることがとても大切だと思います。

川島:確かにいまは、Clubhouseのようなさらに新しいプラットフォームも生まれていて、大きなコストをかけずに挑戦できることが多数あります。先程もお話したように、オウンドメディアだけで完璧にすべての要件を満たすことはできないからこそ、失敗を恐れずいろいろ冒険をしたい。そうしてクリエーターからオーディエンスまで「仲間」を増やしていくことが重要なのではないかと思っています。

PROFILE

広義の「編集」を軸に、プロダクション・ブランディング・プロモーション戦略立案・コミュニケーション設計・プロダクト開発など、ジャンル・媒体を横断して活動するクリエイティブ・エージェンシー。

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