
ウツワ
2022.01.20 THU.
サステナブルな視点で考える、これからのショッピングバッグの在り方。
お店で買い物をした際に、商品を入れて渡されるショッピングバッグ。ブランドの顔として、さまざまなデザインのショッピングバッグが作られていますが、それがどんな素材でできているのか、注目したことがあるでしょうか。実はそこには、サステナビリティやSDGsといった、今を象徴するキーワードが潜んでいるのです。今回は、ユナイテッドアローズ社の各ブランドのショッピングバッグのリニューアルを手がけたパッケージメーカー〈東京アート株式会社(以下、東京アート)〉の取締役 第一営業本部 事業部長 杉野 雄二さんと第一営業本部 Group3 課長 及川 啓さんに、その製作の歩みと、込められた想いをうかがいました。
Photo:Masashi Ura
Text:Aya Kenmotsu
ペーパーバッグに秘められたポテンシャルを再認識する。
落ち着いたオレンジの〈ユナイテッドアローズ(以下、UA)〉カラーでおなじみのショッピングバッグをはじめ、〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(以下、BY)〉、〈ロク〉など、現在、各ブランドでショッピングバッグとして使われているペーパーバッグ。そのすべてを手がけているのが、パッケージメーカーの〈東京アート〉さんです。
─ショッピングバッグとはどのようなものだとお考えでしょうか?
杉野:私たちは、ショッピングバッグを“第3のメディア”として捉えています。第1がテレビなど映像メディア、第2が雑誌や新聞、そして第3の広告塔となるのが、ショッピングバッグ。そこには、ただ商品を持ち運ぶ袋という用途だけでなく、お買い物の満足度をもたらす役割もあると考えています。お店で買い物をして、そのショップのバッグを手に、街を歩く。帰りの電車で座席に座って膝に乗せる。その時の、ウキウキした気持ちとか、ちょっと自慢したい気分を後押しする。ショッピングバッグには、そんな力もあるんです。
しかし、環境問題によって包装の簡易化や、エコバッグの持参が推奨される風潮の中で、ショッピングバッグそのものにも変革が求められるようになりました。特に、レジ袋有料化への動きは影響が大きかったと言います。脱プラを目指して、ビニールや不織布のショッピングバッグは姿を消していき、ペーパーバッグにかけるポリエチレンのレインカバー削減に取り組むアパレルも増えました。そんななか、ユナイテッドアローズ社のショッピングバッグのリニューアルは進んでいきました。
─今回のリニューアルはどのようなきっかけで始まったのですか?
及川:もともとは2019年に〈UA〉さんが30周年を迎えることをきっかけで、リニューアルを、というお話をいただいたんです。加えて、各ブランドのショッピングバッグの色を統一するために、別注で原紙を作りたいというご希望があって。そこから試行錯誤が始まりました。
SDGsの視点から新たなショッピングバッグを提案。
リニューアルの話が進んでいくうちに、世の中で急激に注目されるようになったのが、SDGsでした。〈東京アート〉さんは、モノづくりにおいて、いち早くこの時代のキーワードを取り入れます。
─〈東京アート〉さんはいつ頃からSDGsを取り入れるようになったんでしょうか?
杉野:2年半ほど前くらいからでしょうか。当時はまだSDGsという言葉そのものもそれほど浸透していない感じでしたが、ショッピングバッグでどんな取り組みができるのかということを、お客さまにご提案し始めました。脱プラやリサイクルといったエコな観点の取り組みのさらに先、より環境を、人間を守る行動が求められるようになる中で、具体的にはこういうことができますよ、というお話をさせていただいたんです。
かつて、ショッピングバッグに求められていたものは、高級感であり、特別感でした。リサイクル素材や再生紙使用を表すエコマークは、バッグの底など、一見、目に入ることのない場所に隠れるように印刷されることが多かったのです。しかし、SDGsが注目を集めるようになって以降は、エコマークが目につく場所に印刷されるように。SDGsへの取り組みが積極的にアピールされる時代になりました。
スタンダードになりつつある「FSC®認証」が森林を守る。
─リニューアルした〈UA〉のショッピングバッグに新たに加わったFSC®認証マークについて教えてください。
及川:Forest Stewardship Council®:森林管理協議会が運営するFSC®認証は、適切に管理された森林と、限りある森林資源を将来にわたって使い続けられるよう適切に調達された林産物に対する国際認証制度で、加工・流通まで厳格なルールに基づいて製造された認証紙を使用した商品であることを保証するマークです。
弊社では、国内工場、中国工場ともにこのFSC®認証を取得しており、新しい〈UA〉さんのバッグにもマークが入っています。
適切に管理された森林で伐採された原料を扱うことは、無秩序な森林伐採や違法伐採の抑制につながります。森林管理がCO2削減につながることで、地球の環境保全に活かされて持続可能な活動となり、SDGsの実現へ通じるアクションになります。
─〈UA〉のショッピングバッグでこだわった点はどのようなところでしょうか?
及川:あとは、やはりこの独特のカラーを出すのが難しかったですね。朝から夜まで工場にいて、色を出してみては、ああじゃないかこうじゃないかと調整して、また出してみてということを、何十回も繰り返しました。落ち着いた艶感が重要だと思っていたので。ようやく〈UA〉ペーパーが完成し、それがバッグの形になった時には、「これだ!」と、とても嬉しかったですね。
1枚の紙を余すことなく活用する2色使いのアイディア。
一方、〈BY〉や〈アストラット〉〈スティーブン アラン〉〈オデット エ オディール〉〈モンキータイム〉のショッピングバッグでは、両面を白とグレーの絶妙な色違いにした原紙を別注でつくり、1枚の紙で2色のバッグを展開することを可能に。さらに、それまで各ブランドでバラバラだったバッグのサイズ展開を、S、M、L、LLの4サイズに統一し、紙の無駄をなくしました。
─紙の両面を使用するというアイディアはどのように生まれたのでしょうか?
杉野:規格がバラバラだと、どうしても中途半端に余る部分が出てきますから。もちろん、余った紙は溶かして再利用するのですが、無駄なく使えることが一番ですから。それぞれのブランドの個性は、各々のディレクターの方がロゴのサイズや配置などで工夫して考えてくださいました。
さらに紙の製造段階で撥水剤が加えられており、レインカバーの削減にも一役買っています。バッグの底を見ると、「FSC®認証」マーク、「本体古紙パルプ配合率30%再生紙を使用」マーク、「植物油インキ使用」マークといった、環境に優しいことを表すマークがずらりと並ぶ。
杉野:せっかく別注で原紙を作るのであれば、FSC®認証をはじめとする各種のエコ素材を採用してはいかがですか、とご提案しました。特にFSC®認証については、〈UA〉さんが採用したことで他のお客さまにも広がっていき、ここ1年ほどで受注が30〜40倍と大きく伸びています。
持ち手にも紙を使用することで分別不要に。
─ショッピングバッグ本体はもちろん、持ち手にもこだわっているんですよね?
及川:持ち手には、色落ち防止のためにアクリルを入れた紐と、紙の紐などがあり、今はオール脱プラということで、紙の紐が主流になっています。特に今回、白とグレーのリバーシブルの別注原紙を使ったシリーズは、紙が統一なので、持ち手で変化をつけよう、ということで、幅広の持ち手を初めて提案させていただきました。見た目も質感も布のようで、お伝えしないと紙でできていると分からない方もいらっしゃいます。もちろん、耐久性も十分です。バッグとしての役割を終えた後でも、分別不要でリサイクルへの近道に。〈ロク〉と〈エイチ ビューティ&ユース〉のショッピングバッグにも紙の紐が採用され、分別不要になっています。
100%リサイクル素材を使用したクラフト系のバッグ。


〈ロク〉と〈エイチ ビューティ&ユース〉のショッピングバッグは、エコのイメージが強いクラフト系の素材を使用しています。100%リサイクル紙で、FSC®認証に加えて、再生資源、管理木材も使用。もちろん撥水加工も施されています。
─〈エイチ ビューティ&ユース〉のショッピングバッグは、エコマークをバッグの底面ではなく背面に配しているのはなぜでしょうか。
杉野:ショッピングバッグにどういう素材や加工を使っているか、ということとともに、なぜそれを使っているかをブランドとしてはっきりさせることが、SDGsへのグローバルな動きのなかでは必要になってくるのかな、と感じています。ショッピングバッグがブランドイメージを作る。私たちが“第3のメディア”と呼ぶ由縁です。
ショッピングバッグの存在が街を元気に見せてくれる。
─脱プラやSDGsへ向かって世界が努力を続ける中、ショッピングバッグをめぐる状況も、変化を続けていますね?
杉野:減っていくのは仕方がないこと。でも、使っていただける、作っていただけるのであれば、その分環境にいいものを、というのが私たちの想いです。お店に行って、商品を選んで、買って、最後にショッピングバッグを受け取る。それはECにはないコミュニケーションであり、こだわって作られたショッピングバッグは、ちょっとしたノベルティでもあります。
及川:今回、リニューアルを担当させていただいた中で、個人的に印象深かったのは、〈UA〉さんのオレンジのバッグです。こういう、目を引くカラーのショッピングバッグは、街を元気に見せてくれると思うんです。今後も時代に寄り添った改良をしていけたらと思っています。
PROFILE

東京アート株式会社
1976年設立のパッケージメーカー。パッケージビジネスを「3rd Advertising<第3のメディア>」と位置づけ、ショップ発信型の宣伝・販促活動を推進。パッケージのみならず、ノベルティ、店舗備品などの展開、オリジナルアイテムの開発まで幅広く行っている。既製品では伝えられないブランドのこだわりを最大限に表現できるように、商品はすべてオーダーメイド。「カーボン・オフセット」の取り組みとして、日本国内と、海外はモンゴルで植林活動を行ったり、子供地球基金とパートナーシップを組んで世界中の子供たちのアート作品をパッケージ等のデザインに取り入れたりと、SDGsへの取り組みも積極的。長野県安曇野市を拠点にミネラルウォーター事業も運営している。
https://tokyoart.co.jp/