ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ウツワ

2019.09.26 THU.

ピレネックス。その最高品質のダウンが生まれる背景と、 自然環境への特別な取り組みをレポートします。

創業160年。フランス南西部・ピレネー山脈の麓サン・セベを拠点に、世界最高峰のダウンを生産し続けている「ピレネックス」。今季ユナイテッドアローズ(以下 U A)でも別注を依頼している老舗ファクトリーは、どのようにしてそのハイクオリティなダウンを世に送り出し、またどのように自然環境と向き合いながらもの作りを展開しているのか。本社取材でさまざまなことが見えてきました。

Photo_Shunya Arai(YARD)
Text_Kai Tokuhara

_DSC1893

_DSC1883

最初に訪れたのは、ピレネックスの本社工場がある「サン・セベ」から車で1時間ほど離れたとある広大な農場。サン・セベ周辺には古くからこのような家禽農場が多く存在し、ピレネックスの重要なダウンの供給源になっている。

農場での主役はもちろん数万羽のダックたち。“彼ら”は、ピレネー山脈に近い南西フランス特有の寒冷な気候の中で、いわば野生での暮らしに近い状態でストレスなく成鳥になるまで育てられており、それが最上級のダウンが採れる一番の秘訣となっている。それでいて自由な飼育の中でもダックのコンディション管理は徹底。化学飼料は一切使わず、また農場の広大な敷地内ではダック一匹一匹の成長過程に合わせて飼育エリアがしっかり区切られており、また病気になったダックは即座に発見して療養スペースに異動できるシステムになっている。

_DSC1928

_DSC1913

このダックの写真をご覧いただくと、ダウンの主な原料となるお腹の部分の羽毛がボリューミーかつふんわりしているのがおわかりいただけるだろう。このように豊かな土壌ですくすくと育てられた上質なダックたちが、圧倒的な保温性を誇るピレネックスのダウンジャケットの根幹を支えているのだ。

_DSC2042

_DSC2320

ここからはピレネックス本社工場について詳しく見ていこう。ピレネックス社は、ピレネー山脈の麓に位置するここサン・セベで寝具用ダウンを加工する工房として1859年に創業。以来、今年でちょうど160周年を迎える老舗だ。そこで、5代目社長を務めるエドワード・クラボスさん、ダウン製造部門ディレクターのエリック・バシェーさんのコメントも交えながら、その歴史やハイクオリティなダウンが生み出されていく製造過程をじっくり紹介していきたい。

まずはその歴史について少し触れておく。創業後、ヨーロッパやアメリカへのダウンの輸出業の成功、その後のシェラフなどのアウトドア製品の生産開始を経て、ピレネックス社が現在のように自社製作のダウンジャケットを世に送り出すようになったのは1968年から。

「当時はダウンジャケットというカテゴリーのアウターウェアがまだポピュラーではなかったのですが、グルノーブルで開催された冬季オリンピックでフランス人の女子選手が輝かしい成績を残し、国内でウィンタースポーツの機運が高まったことをきっかけにダウンジャケット製作をスタートしました。それがこうして、今のもの作りに繋がっているのです」(エドワード・クラボスさん)

当時から、ピレネックス社が何より大切にしていたのが上質なファブリックにこだわること。すなわち、ここではダウンの原料となる羽毛だ。

「良い服を作るために最も重要なのは良い素材を使うこと。ブランドとしてその考えに至ったことはわが社の歴史において非常に大きかったですね。しかしながら、もの作りというものは時代の移り変わりやそれにともなう自然環境の変化に合わせて常に進化をしていかなければなりませんし、会社としてその部門への積極的な投資は欠かせません」(エドワード・クラボスさん)

それでは、実際に現在ピレネックス社がどのようにしてダウン製造を行なっているのか、工場内をじっくり取材させていただいたのでご紹介しよう。

_DSC2172

_DSC2052

農場から約1時間で工場に届けられた大量の原毛は、まず脂や汚れを徹底的に洗い流すためにこうして専用の洗浄セクションへと運ばれる。この洗浄作業において、昔は1日に100万リットルもの蒸留水が使用されていたのだが、近年は自社でリサイクル浄水設備を整え60%減に成功。また環境への影響を考慮した洗剤選びにも力を注いでいる。

「時代に合わせた自然環境へのコミットは会社全体の重要なテーマとして捉えています。良質なダウンを生産するためには何よりたくさん水が必要になるのですが、やはり昔のままのやり方で大量に水を使い続けるのは、環境問題が世界的な議題となっている今の時代にはそぐわない。そこで、自社での水のリサイクルに力を入れるようになったのです。また洗剤に関しても、環境や人体に影響を与えないよう、ドイツのCHTという会社から非常に厳しい規定をクリアした洗剤のみを厳選して取り寄せています」(エリック・バシェーさん)

_DSC2053

_DSC2117

_DSC2077

クリーンな手法でしっかり洗浄された原毛は、次に120℃の熱風乾燥で完全除菌が施され、強力なバキュームマシンとフィルターによってさらに細かな汚れや羽毛の断片がふるい落とされる。そしてその後は、小部屋で仕切られた専用のダウン選別機に空気を飛ばし、数段階に分けてダウンとフェザーをセパレートしていく。

_DSC2105

_DSC2152

いくつもの過程を経て、最終的にはこのように非常に細かく、かつ伸縮性と弾力に富んだ羽毛だけが残るというわけだ。そして加工後のダウンはぎゅっと圧縮して袋に詰められ、縫製工場などへ出荷されていく。写真の人物がダウン製造部門ディレクターのエリックさん。

また、これまで紹介したような製造過程と並行しながら、実は工場内にある専用ラボでダウンの品質チェックと改良が常に行われているのもこのピレネックス本社工場ならではの特徴だ。

_DSC2210

写真は圧縮してダウンそのものの復元力=フィルパワーをチェックするシステム。この他にも、不純物の有無やダウンの油分が適正範囲に収まっているかなどをチェックする機器も常備されている。そのような地味でありながらも徹底した品質管理が、ピレネックス製ダウンの高い信頼性に繋がっている。

_DSC2238

_DSC2240

補足として、ダウンはここから国内外の様々なアパレル製造工場に送られていくのだが、近年はこうして自社ファクトリー内で一部特殊テクニックを用いたダウンジャケットの製造デザインや生産も行なっている。

_DSC2269

_DSC2281
今シーズンもUAではピレネックスのダウンジャケットをリリース。抜群の保温性と確固とした信頼性、現代の都市生活にフィットしたシルエット&カラーリングにモダナイズされた他にはないコレクションに仕上がっている。ウィメンズのコレクションは、都会的なムードで着られるネイビーと、オーセンティックながらも上品さのあるカーキを展開。

_DSC2302

_DSC2381
製造部門ディレクターのエリックさんと社長のエドワードさんも特別に着こなしてくれた。メンズはUA別注の2タイプ。エリックさんがブラック、エドワード社長はベージュをチョイスし、それぞれ味のある着こなしを披露してくれた。メンズは肩のロゴをブラックにし、主張を抑えているのも特徴だ。

さて、これまで紹介した写真は工場内のごく一部だが、ピレネックスから高品質ダウンが生み出されている背景にはたゆまぬ企業努力が存在することをおわかりいただけたのではないだろうか。ここからは、現社長のエドワード・クラボスさんにピレネックスの企業理念や環境面への取り組みについてより詳しく語っていただいた。

_DSC2355

「環境へのコミットについては、2008年くらいからかなり意識し始めました。なぜなら、ダウンやフェザーがそもそも自然からの産物であり、それをビジネスとして扱わせてもらっている以上、自然環境に配慮することは我々に課せられた義務であると再認識したからです。すでにお伝えした水のリサイクルや洗浄剤のセレクトの他にも、農場から羽毛を回収するためのトラックを複数台から1台に減らすことでCO2の削減にも取り組んでいます」

地球温暖化をはじめとする様々な環境問題にコミットしたもの作りに徹するピレネックス。その確かな品質は、「OEKO-TEX®/エコテックス®スタンダード100」(繊維製品全般に有害な物質が含まれていないことを証明する全世界共通規格)の認証を受けていることからも明らか。現代の自然環境にアジャストするために、企業としてこんなことを心がけているそうだ。

「最も大事なのは新しいテクノロジーに対して常にオープンでいることと、投資を続けること。そして、その投資というのは機械や装置だけではなく人に対しても行わなければなりません。我々は現在、各機械のメンテナンスのスペシャリストを9人雇用していますし、今年の初めには環境面に特化した専門家も1人招き入れました。羽毛が入ってきたときから出荷までの環境リスクを数値化するアナリストです。何より、現場で働くスタッフへの教育やサポート体制にも注力しています。会社が“人を信じる”ファミリーカンパニーであり続けること。それが、私が先代である父や祖父から引き継いだ家訓であり社訓なのです」

_DSC2330

_DSC2384

JP

TAG

SHARE