知ってほしいブランドについて
ファッションライターが語る連載コラム

ホカ|ランニングシューズの異端児はスニーカー界の寵児になった

    知ってほしいブランドについてファッションライターが語る連載コラム

    2024.05.29

    ホカ|ランニングシューズの異端児はスニーカー界の寵児になった

    文:いくら直幸

    この10年ほど続くスニーカーブームで、<ホカ(HOKA)>(旧<ホカ オネオネ(HOKA ONE ONE)>)は最も飛躍を遂げたブランドのひとつ。強豪がひしめき合うシーンに颯のように現れ、目を見張る快走でトップ集団に踊り出た道のりを、歴史やシューズの特長とともに説き明かします。

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    “ 飛ぶ ” ように走れる一足を目指して

    創業から50年・100年といった老舗メーカーが競い合うスポーツシューズ市場にあって、<ホカ>の歴史は圧倒的に浅い。時は2009年、スポーツカンパニーに勤める傍ら、スピードトレッキングやアルペンスキーの優秀なアスリートでもあったジャン・リュック・ディアード氏とニコラス・マーモッド氏によって、フレンチアルプスの麓の町・アヌシーで産声を上げました。現在はアメリカ・カリフォルニア州のサンタバーバラ郊外に開発拠点を構えています。

    デビューから親しまれてきた<ホカ オネオネ>の名は、'22年に<ホカ>へと改称。聞き慣れない語感ながら妙に耳に残るネーミングは、ニュージーランドの先住民・マオリ族の言葉であり、2人が現地の山頂で出会ったローカルランナーから “ 今こそホカ オネオネ(地上に舞い降りるとき) ” とアドバイスを受けたことに由来します。ブランドがスローガンに掲げる “ タイム トゥ フライ(さぁ、飛ぼう) ” はその英訳です。

    かねて彼らはトレイルランニング界の盛り上がりとは裏腹に、用いるギアは1980年代から大きな進化がなく、改良の余地が多分にあると感じていたと言います。また膝に故障を抱えるトレイルランナーも少なくなく、この問題を解決したいと考えていました。そして、アドベンチャーマラソンや100マイルレースといった過酷な大会で選手を守れるシューズは、フィットネスのために数マイル走るファンランナーにも有用だと確信していたのです。特にトレイルでは下り坂で脚への負荷が大きくケガをしやすいことから、目指したのは、安全に速く “ 飛ぶ ” ように山道を駆け下りることができるシューズでした。

    人気定番シリーズの最新作「ボンダイ8」は、ブランド随一のクッション性。従来よりも軽量で柔軟なミッドソールと拡張されたヒールを搭載し、バランスのよい走り心地。

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    マシュマロのような新感覚の履き心地

    開発のアイデアとなったのは、回転する車輪のイメージ。すなわち、踵での着地から足裏でローリングしてツマ先で蹴り出すまで、流れるような一連の動きを可能にすること。より効率的な足運びとスムーズな体重移動を促すそれは、少ない力で最大の推進力を発揮するという概念です。

    こうして'10年、第1号モデルを完成させます。車輪の発想は、アウトソールが船底型にカーブしたメタロッカーと呼ばれる構造で具現化。これによって前傾姿勢を取りやすくなり、揺りかごの要領で足が自然に前へ前へと導かれる感覚を実現させました。また靴の内側のドロップ(踵とツマ先の高低差)を一般的なランニングシューズの1/4程度までフラットにすることで、スピードを出しやすく力強い走りができるよう設計。

    そのうえで軽量&ソフト、弾力にも富む、類を見ない分厚いクッションミッドソールを装着。併せて、自動車のバケットシートのように足を包み込むアクティブフットフレームを採用し、この合わせワザにより驚きの衝撃吸収性、跳ね上げるような蹴り出しを後押しする反発性、そして踏み込んだときの揺れやズレを抑える高い安定性も叶えたのです。まるでマシュマロのようだと称えられる優れたクッショニングをはじめ、あまりにも快適な走り心地は、これまで誰も体験したことのない新感覚のものでした。

    普段履きからランまで対応するうえ、ゴアテックスの内蔵により全天候下で活躍する「トランスポート GTX」。素早くフィットを調節できるクイックシューレースも便利。

    ただ当時のランニングシューズは薄底が主流。そこに登場した彼らの一足は、メタロッカーテクノロジーや大胆な厚底デザインなど既成概念を覆すものであり、懐疑的な見方もある異端児といった扱い。まだ海の物とも山の物ともつかない新参者なうえ、従来とはまったく異なるコンストラクションとルックスを備えたシューズは、ランニング業界で嘲笑され、ディーラーにも理解されず、なかなか取り扱い店が決まらなかったとか。

    一方、実際に着用したランナーやジャーナリストからは軒並み高評価を獲得。口コミやSNS、メディアを通じて次第に評判は広がり、トレイルランニングにとどまらずロードランニングのシーンでもメキメキと頭角を現すことに。やがて世界のエリート選手が集結する最高峰レースで着用率1位をマーク。さらには、契約アスリートの優勝やコース最速記録の樹立など輝かしい実績を積み上げ、揺るぎないポジションを確立させたのです。

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    ファッションの潮流とも見事にマッチ

    同じ頃、ストリートからも脚光を浴び始めます。大きなキッカケは'17年、モードファッションから火が点いたダッドシューズの流行でした。ダッド=父親を意味するとおり、お父さんが履いていそうな野暮ったくイナたいスニーカーを指すそれは、とりわけボリューミーなソールがポイントであり、ポッテリとしたフォルムこそがクールというトレンド。これとリンクするカタチで厚底仕様の<ホカ オネオネ>が注目を集め、ランナーではない層にも選ばれる存在になったのです。

    また国内外に強い影響力を誇るコンセプトストアでの取り扱い、人気ファッションブランドとのコラボレーションも、その勢いを急加速させる起爆剤に。スニーカーカルチャーを牽引する専門ショップでも、そうそうたるメーカーの最新モデルを差し置いてトップセールスを奪取するなど、破竹のごとく躍進を遂げます。

    ハイキングシューズの歩行性とサンダルの開放感を兼ね備え、撥水&速乾にも優れる水陸両用の「ホパラ2」。砂利の侵入を防ぎながら排水するメッシュアッパーを採用。

    ダッドシューズ旋風は落ち着いたものの、今も厚底スニーカーの人気は健在。ついでに、身長を高く見せるスタイルアップ効果も根強い支持の理由かもしれません。そして何より<ホカ>が一時のトピックに終わらず街やアウトドアにも定着したのは、ほかでは味わえない、いや、<ホカ>でしか味わえない新しい履き心地に人々が感動を覚え、虜になるファンが絶えないから。ついつい履いてしまい、どこまでも歩きたくなり、思わず走り出したくなる、そんな気持ちにさせてくれるところも、健康志向の高まる時代にフィットしたのです。

    何十年にもわたって大手メーカーが覇権を握り、捉え方によっては排他的にも映るスニーカーマーケット。数々のブランドが生まれては消えるなか、見せかけではない本物のパフォーマンスシューズで新風を吹き込んだ<ホカ>は、どこか閉塞感の漂う昨今のスニーカーシーンに待ち望まれていた申し子とも言えるでしょう。

    ( Winter Profile )

    ファッションライター

    いくら直幸

    人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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