マッキントッシュ|200年間ずっと人々を魅了して止まない最高峰コート|知っておくべきブランド

マッキントッシュ|200年間ずっと人々を魅了して止まない最高峰コート|知っておくべきブランド

いくら直幸


同じく英国のバーバリーやアクアスキュータムと並んで、世界3大コートと称される<マッキントッシュ(MACKINTOSH)>。なかでも一番の老舗であり、完全防水アウターの元祖として名を轟かすメーカーです。時代を超えて愛され、時代を捉えて進化も続ける、この最高峰ブランドの軌跡を辿ります。

世界初の完全防水ファブリックを発明

<マッキントッシュ>の歴史は200年以上にもわたり、始まりは19世紀の産業革命期まで遡ります。雨天の多いイギリス、主な交通手段だった馬車での移動では、悪天候にさらされることも日常茶飯事。人々は布地にオイルを染み込ませた撥水アウターに頼っていましたが、次第に雨が浸みてカラダを冷やしてしまう不十分なものでした。

こうした状況に苦慮していたのが、駅馬車業で生計を立てていたトーマス・ハンコック氏。あるとき彼は、乗客のためにゴムの防水手袋などを考案します。さらに、さまざまな物質の製造に成功していたスコットランド・グラスゴーの化学者、チャールズ・マッキントッシュ氏とともに防水布の開発に着手。そして1823年、2枚の生地の間に天然ゴムの溶液を塗って熱圧着した、世界初の完全防水ファブリックを発明したのです。

「マッキントッシュクロス」と名付けて特許を取得すると、翌年には自社工場を建設。当初は生地だけを製造・販売していたものの、2人は'30年に共同で会社を設立してコートの生産もスタート。これが移動時をはじめ作業や乗馬、軍用の雨具としてヒットし、英国全土、やがてヨーロッパ各地へと広まっていきました。
ベルフォード

Aラインのゆったりシルエットや一枚袖を特徴とする「ベルフォード」。撥水加工された軽量ポリエステルで別注したこちらは、トラベルユースにも便利なパッカブル仕様。

'43年、マッキントッシュ氏の死後を引き継いだハンコック氏は、まだ欠点のあった防水布の改良に取り組むなかでゴムの画期的な製法を確立させ、これでも特許を取得。ちなみに彼はヴァルカナイズド製法と命名したこの技術を活かし、長靴や救命ボート、サッカーボール、哺乳瓶の乳首などなど、ありとあらゆるゴム製品を生み出しました。ゴムを愛し、産業の発展に大きく貢献したことから、イギリスにおける「ゴムの父」と呼ばれています。余談ついでに、人気コミック『ワンピース』にはゴム人間・ルフィを溺愛する女帝・ハンコックというキャラが登場しますが、その名前の由来になったとも言われています。

時を経て20世紀、2度の世界大戦でもイギリス軍に防水コートを納入。また1920~80年代までの長きにわたって大手鉄道各社&国鉄にも制服のコートを支給するなど、高い信頼を築き上げます。いつの頃からか本国では<マッキントッシュ>=レインコートや防水布を指す一般名称となり、辞書にも掲載されています。

名だたるブランドが寄せるリスペクト

雨風を凌ぐ “ 道具・装備 ” のイメージが強かった同社に転機が訪れたのは'80年代のこと。エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチといったトップメゾンからオーダーを受け、ファクトリーとしてゴム引きコートを生産したり、マッキントッシュクロスを供給したりと、最先端かつ最高峰のラグジュアリーブランドを影で支える存在となったです。メーカーのネームタグは付いていなくとも、そのゴム引き仕様や特徴的なディテールを見れば一目瞭然。これらを介して世界のファッションシーンでも徐々に知られるようになり、同時に<マッキントッシュ>側もセンスを養ったのは想像に難しくありません。
<MACKINTOSH> WAVERLY EX/キルティング ジャケット

乗馬用のアウターを起源とするキルティングジャケットの「ウェーヴァリー」は、コートに次ぐ看板商品。テーラードジャケットとの相性もよく、通勤から休日まで活躍。

ここ日本で注目を集めたのは21世紀に入ってから。端を発したのは、洗練されたシルエットをまとって2003年に発売されたバルマカーンコート、いわゆるステンカラーの「ダンケルド」でした。たちまちブレイクしたこれを起爆剤に多彩なタイプが紹介され、一気に大躍進を遂げたのです。

また、平織りのコットン生地を使った創業当時のマッキントッシュクロスのほか、綾織りのコットンツイル、名門フォックス・ブラザーズの高級ウールフランネルなど、表地のバリエーションも豊富に。さらに防水透湿フィルムを内蔵したモデルが登場したり、ハイエンドな生地メーカーであるロロ・ピアーナのウールやカシミヤを採用した高機能素材だったりと、ゴム引きにとどまらない新機軸の軽量コートも投入してファン層を拡大させました。加えてキルティングジャケット、近年ではダウンも非常に好評を博しています。

他方、ハイクやバレンシアガ、メゾン マルジェラ、ジル サンダー、ワイズといったそうそうたるモードブランドとのコラボレーション、影響力のあるセレクトショップからの別注オファーも殺到。クラシックなだけではなく新しい風も吹き込んで進化を続けています。

進化と改良を続けながら伝統を堅持

昔と変わらぬ伝統を守り、故郷・スコットランドの自社工場でハンドメイドされているゴム引きコート。すべての縫い目の裏にはステッチの微細な針穴からも水が浸入しないよう職人の手仕事で丁寧にシームテープが施され、脇下には開いた5つのベンチレーションホールが湿気を逃して不快な蒸れを軽減します。

ただ、往年のマッキントッシュクロスはゴム特有の臭いがキツいうえ、ゴワゴワとした硬い着心地を嫌う声があったのも事実。しかし今は随分と改善され、かなり付き合いやすくなりました。それでも、ほのかに残る匂いに高揚やステイタスを感じるユーザーは少なくなく、確かなハリがもたらすシャープなシルエットとキレイに立つ襟がスタイリッシュな印象を高め、佇まいが凛とキマる。別のコートでは得がたい魅力であり、より実用的で手頃なハイテクアウターが無数にある現在おいても、<マッキントッシュ>を選ぶ人が絶えない理由はそこにあるのかもしれません。
<MACKINTOSH> RAINTEC SKYE PARKA DOWN/レインテック スカイパーカ/ミリタリー ダウンコート

英国と縁深いモッズコートをモチーフに、撥水・防水・透湿に優れるハイテク素材と、フランス産の上質ホワイトダックダウンを採用した「レインテック スカイ パーカ」。

もちろんラバー未使用のモデルにも、ゴム引きコートで培われたクラフツマンシップと精緻な仕立てのノウハウが存分に注ぎ込まれており、アイテムの特性に応じてジャパンメイドも導入してクオリティ重視を堅持しています。

マテリアルや生産国を問わず、英国紳士に認められてきた質実剛健な作りと端正な佇まいは健在であり、いずれもブリティッシュトラッドを体現する逸品揃い。そして移り行くトレンドのなかでも決して色褪せないタイムレス性が、いつの時代も人々を惹きつけて止まないのです。

最後に、兄弟となる派生ブランドも簡単に解説。同社の旧商号を2006年に復活させた<トラディショナル ウェザーウェア>は、アウター以外のデイリーウェアも充実し、比較的プライスも控えめ。20~40代前半をメインとするセカンドラインの<マッキントッシュ フィロソフィー>、及び45歳以上に向けた<マッキントッシュ ロンドン>は、ともに日本のライセンスレーベルです。どれも<マッキントッシュ>のDNAを継承しながら、それぞれ個性の異なるラインナップを展開しているので、併せてチェックしてみては。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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