知ってほしいブランドについて
ファッションライターが語る連載コラム

トムウッド|シグネットリングが書き換えた、アクセサリーの境界線

    知ってほしいブランドについてファッションライターが語る連載コラム

    2026.06.15

    トムウッド|シグネットリングが書き換えた、アクセサリーの境界線

    文:市谷未希子

    ひと昔前までのジュエリーの多くは、メンズ・ウィメンズの境界がサイズやデザインだけでなく、ターゲットにも明確に現れていたように感じられます。しかし、ここ数年ファッション好きの手元に目を向けると、性別を問わずシルバーのソリッドなリングを日常的に重ねづけしている人が増えている。その風景をつくった立役者のひとつともいえるのが、ノルウェー・オスロ生まれのジュエリーブランド<トムウッド(TOMWOOD)>です。

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    プロポーズから始まったファミリーブランド

    <トムウッド>の始まりは、とてもパーソナルなエピソードに根ざしています。創業者でクリエイティブ・ディレクターのモナ・ヤンセンは、パートナーのモーテン(現CEO)からプロポーズを受けた際、伝統的な結婚指輪がどうしてもピンとこなかったといいます。そこで彼女が提案したのは、モーテンが持っていたシグネットリングのサイズを変え、日付を刻印するということ。それが、モナにとって初めて「大切だ」と心から思えたジュエリーになりました。

    2013年、その原体験をもとに<トムウッド>は誕生します。ブランド名にモナ自身の名前は入っていません。「トム」は世界中で知られる男性の名前、「ウッド」はノルウェーの自然の中に身近にある木。あえて匿名性のある男性名にしたのは、性別による境界線をジュエリーから取り払いたかったから。この思想は、ブランドの最初の一歩からすでに宿っていたのです。  

    ノルウェーの小さな島で育ったモナは、もともとマーケティングやブランディングの畑で経験を積んだ人物。「成功するとは思わなかった」と語るものの、わずか3年で22カ国・170以上のショップに展開されたことが、市場でこうしたジュエリーがいかに求められていたのかを物語っています。  

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    「見える」ことへの誠実さ

    <トムウッド>のジュエリーは、建築や彫刻からインスピレーションを得た、ミニマルで構築的なデザインが特徴です。メッキ加工を施さず、シルバーやゴールドそのもので仕上げる。天然の鉱石をひとつひとつの石の表情に合わせてカットしはめ込むことで、同じモデルでも微妙に異なる世界にひとつだけのジュエリーが生まれます。

    彼らが大切にしているのは、地球環境への配慮と責任。ジュエリーに使用されているシルバーやゴールドはほぼ100%がリサイクル素材で、旗艦店の什器の選び方にもサステナビリティやクラフトマンシップといった彼らの審美眼が表現されています。

    公式サイトでは「People(人)」「Product(製品)」「Planet(地球)」の3つの柱に沿って毎年レポートを公開。達成率をスコアとして可視化し、進捗が順調な項目だけでなく、変化に時間がかかっている分野についても率直に開示する姿勢には、サステナビリティを「掲げる」だけでなく、「測り、共有する」ものとして捉えるブランドの真剣さが滲みます。

    その誠実さは、ものづくりに関わる人々への眼差しにも通じています。公式サイトのジャーナルでは、ジュエリー製作に携わる職人やブランドと共鳴するアーティストを丁寧に紹介するコンテンツが継続的に発信されていて、日本のアーティスト・北田浩次郎さんのフィーチャーもそのひとつ。青山の旗艦店に石巻工房のダイニングテーブルや、1789年創業の小嶋商店による京地張の提灯が置かれているのも、プロダクトだけでなく空間に至るまで、共感するクラフトマンシップと手を組むブランドの一貫した姿勢が感じられます。

    2026年にオープンした渋谷の国内2号店には、サイズ直しやストーン交換を行う「トムウッド ラボ」も常設。素材の出自を追えるだけでなく、買った後も「直して長く使い続ける」という徹底した思想が、店頭からも感じることができるでしょう。  

    Tシャツの上でもジャケットの内側でもさりげなく存在感を放つ、ボックスチェーンのネックレス。ほかのコレクションのネックレスと組み合わせてアレンジしても◎

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    既成概念を取り払う、ソリッドでエレガントなジュエリー

    <トムウッド>が登場する以前、メンズのシルバーアクセサリーといえばゴツいロック系やネイティブアメリカンジュエリー、レディースのジュエリーは華奢できらびやかなものという棲み分けが多く存在していました。そのなかで<トムウッド>のシグネットリングは、そのどちらでもない場所を切り拓き、パイオニア的な存在として不動のポジションを築いています。

    ソリッドで凛としているけれど、エレガンスを感じさせる。ボリュームがあるのに知性を感じさせる。性別ではなく、「自分に似合うかどうか」でジュエリーを選ぶという価値観を、プロダクトそのものが静かに提示しています。

    サイズの異なる喜平チェーンを組み合わせ、エレガントな流線を描きながら力強い印象を与えるブレスレット。留め具のデザインにもオリジナリティが感じられる。

    重ねづけしても嫌味にならないクリーンなデザインは、ファッションとの相性も抜群。ブランドの代名詞であるブラックオニキスのシグネットリングは、マットな石の表情がモードにもカジュアルにも馴染み、一点で手元の印象を引き締めてくれます。リングだけでなく、ネックレスやブレスレットなど、日常使いできるシンプルでミニマルなジュエリーたちは、組み合わせるほどにスタイルが深まっていく。そのミックスマッチの幅広さが、<トムウッド>のジュエリーをファッションアイテムとしても特別な存在にしています。

    言わずと知れた<トムウッド>を代表するシグネチャーアイテム。スクエアに象られたマットなブラックオニキスが手元から凛とした存在感を与えてくれる。

    2013年のデビューからわずか10年で、オスロに次ぐ世界2番目の旗艦店を東京・青山に構え、渋谷にも国内2号店をオープンした<トムウッド>。ミニマルでありながら細部に宿る手仕事への敬意、素材そのものの美しさを活かすデザイン。ブランドが追求してきた美学は、日本のものづくりの精神と深いところで響き合っているように感じます。

    「本当に欲しいジュエリーは、既存のカテゴリーのどこにもなかった」というデザイナー自身の気づきから始まり、多くの人々の共感を得ながら成長を続けてきた<トムウッド>。ジュエリーとファッションの関係、そしてジェンダーの壁を超えて、その魅力は一つひとつのプロダクトに宿り続けています。  

    ( Writer Profile )

    ファッションライター

    市谷未希子

    1989年生まれ。美容師、ファッションメディアの編集者を経て、フリーランスのエディター/ライターとして独立。現在はファッションブランドの広告制作やオウンドメディアのコンテンツ企画、ファッション誌・ウェブメディアでの編集・執筆のほか、映画やカルチャー領域の記事も手掛けるなど、ジャンルを横断して活動中。

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