Taking some distance
Interview with Christiane Pooley
「引越ししたばかりで散らかってるけど……」とアトリエへ案内するアーティストのクリスチャン・プーレイ。チリに生まれ、ロンドンで勉強し、そして現在はパリ。<6>の名古屋店にも飾られている彼女の作品には、独特の色彩感覚に加え、心地よい具象と抽象のバランスがある。アトリエや近所の公園での撮影後に話を聞く。彼女のルーツであるチリの話や作品に対する思い、はたまたソーシャルメディアとの付き合い方までを。コーヒーとオレンジピール入りのトリュフチョコレートを口にしながら。
Shop the look
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ペインティングじゃないといけなかった理由はなんだったのでしょう?
そうですね。私のチリ人としてのルーツに深く関わることなので、少し説明させてください。私の先祖はさまざまな場所から、チリ南部のアラウカニアに移住してきた人たちです。
アラウカニア……。初めて聞く土地の名前です。
そこがどういう場所かというと、19世紀後半に軍事的占領と植民地化によって国の領土となったこの土地の権利を巡り、先住民と政府が対立を続ける紛争が絶えない場所です。この状況は、土地の所有権やアイデンティティを問い正すものです。私自身、チリやロンドンで美術の教育を受け、現在はパリで暮らしていますが、母国から離れた環境に身を置いているからこそ、自分のルーツとは何か、歴史というものが、どのように現在に影響を与えているのか、といったことを自問自答してきました。私たちと歴史の関係性はまるで絵画のように、レイヤーを重ねたり、減らしたりを繰り返しています。例えば、ある層は見えるのに、ある層は隠れたままになっているように。つまり私にとって、ペインティングはそれらの出来事を伝えるための媒体なんです。
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ペインティングにこめられた何層ものメッセージ。その隠された意味を紐解くコツのようなものはありますか?
私は絵画を通して物語を伝えようとしているわけではありません。あくまでも定義することが大切だと思っています。その答えは、観る人に委ねるしかありません。
プーレイさんにとって作品を仕上げるために“テクニック”というものは必要ですか?
道具を使いこなす必要はありますが、テクニックを極める必要はないと思っています。私は自分の道具を使いこなして、テクニックのことを考えずに描きたいタイプのアーティストです。技術的なスキルを見せることに縛られることなく、どちらかというと本能に従いたい。言い換えれば、“グッド”な絵を描く方法を知っているのにも関わらず、“バッド”な絵を描くことを求めています。どこに向かっていくのか、わからないまま筆を走らせる方がエキサイティングなんです。
Gallery 38で開催中の個展「Distance」にて展示中の新作。
あなたの作品を目の前にする人に何を期待していますか?
初めて参加した展示会で苦い思い出がありました……。それはグループ展で、私にとっても初めての展示でしたからソワソワしながら会場にいたんです。でも来る人来る人、私の絵の前には数秒しか立ち止まってもらえず……。悔しい思いをしました。だけども、そんなこともあってか「アートを観る視点」について考えるようになりました。私の絵は、公共の場や親密な空間に静かに掛けられるような作品です。もしそれが見知らぬ人の目に留まり、その人が好奇心を持って作品に近づいてきてくれたなら、その絵は私が描いた時と同じような感情を観る人に与えてくれているんだと思います。アーティストとして傍観者に何かを期待することはできませんが、自分の作品にはすべての期待を込めています。
普段はどのような一日を?
決まったルーティーンの中で生活するようにしています。週に6日はスタジオに通い、朝から晩まで作業をしています。制作がうまくいかずイライラする時でも、必ず週に6日間は制作をすると決めていて、スタジオにいる時間をできるだけ有意義に過ごすように心がけています。そうでもしないと、気分を紛らわすために、買い物に出かけて特に必要もないものを買ってしまったりするので(笑)。
ソーシャルメディアが普及し、大きな影響力をもつ今この時代に、私たちはどうやって作品の本質を見分けることができるでしょうか?
イメージを作るのも、消費するのも、すべてが瞬間的なものになっています。そして、一つのイメージから次のイメージへと移動するスピードも加速しています。私が作品を通じて行っていることは、同じコンセプトに立ち戻り、それを繰り返し、主張すること。決して流されないということです。インスタグラムというツールや、「いいね!」という瞬間的な満足感に影響されすぎると、身につけるものや取り囲まれている環境などすべての‘もの’のクオリティが下がっていきます。私は、画像の「いいね!」の数は作品そのもののクオリティの基準ではなく、人気を測るうえでの基準のひとつにすぎないと思っています。そして人気とクオリティは決してイコールではない。もちろん、自分のインスタグラムに「いいね!」がたくさんついたら嬉しいですけどね(笑)。
ペインターでいることで得たことってなんだと思いますか?
私自身の経験から言えるのは、ペインターでいると、外の世界から離れた別の時間軸で生きることができるようになるということです。それは、スタジオで自分だけの小宇宙を作るから。それによって、物事を別の角度から、より広い視野で見ることができる。ペインティングのおかげで、私は自分の歴史、つまり家族の歴史だけでなく、自分の国の歴史にも目を向ける時間を持つことができました。絵を描くことで、物事から距離(distance)をおいて客観視することができるんです。
クリスチャン・プーレイの新作展「Distance」は、11月14日までGallery38にて開催されています。
EXHIBITION INFORMATION
クリスチャン・プーレイ
「 Distance 」
会期: 2021年9月23日(木/祝) - 11月14日(日)
開廊時間: 12:00 - 19:00
*日曜日も開廊しております。
*予告なく変更になる場合がございます。ご来廊の際には、ウェブサイト・SNSをご確認くださいませ。
会場:東京都渋谷区神宮前2-30-28