High / Low
Interview with Ami Sioux
<6>というブランドにはミューズがいる。赤いリップが似合うマリリン・モンロー。上品さとカジュアルさを感じる80年代のメリル・ストリープ。そして、ディレクターの吉田恵理子の友人であるフォトグラファーのエイミー・スーもそのひとり。パリで育ち、現在はLAを拠点に「i-D」や「Self Service」、「Vogue」といった数々の有名ファッション誌で活躍する。写真集も意欲的に制作しつつ、ミュージシャンとしても活動する多彩な一面を持つエイミー。彼女がもっとも影響を受けた人物のひとりが祖母だった。
「祖母はまだ幼かった私にたくさんのことを教えてくれた。そのひとつに『洋服を買うときは、デパートメントストアで最新のコレクションを見るだけではなく、古着屋も見るようにしなさい』ということ。彼女は、古着屋で<シャネル>のスーツを見つけては、その少しくたびれたスーツを彼女なりに着こなし、一緒にランチを楽しむ(裕福な)友人たちを感心させていた。
彼女はいつもこう言っていた。「ファッションは楽しい。だけど、お金をかければ良いというわけではない。本当の楽しさはスタイルを見つけることなのよ」と。新しいものと古いもののよさを同時に教えてくれたのだ。
そんな彼女の考え方が私は大好きだった。祖母は若い頃の私にとってスタイルアイコンであり、初めて私のファッションに影響を与えた人物。そして何十年経った今でもなお、その教えは私の中に生き続けている。
私がファッションやライフスタイルを楽しむ上で大切にしている6つのキーワードには、幼い頃に祖母が教えてくれた「スタイルを見つける」ための知恵がたくさん詰まっている。
1 都市と自然
世界中を旅することは、フォトグラファーの私にとって大切なインスピレーション源のようなもの。パリや東京のような大都市を訪れれば、街中を歩き回って写真を撮ったり、カリフォルニアでの生活では出会わないような建築を見て楽しんだりする。一方で、海や森など自然の中に身を置けば、頭の中を空っぽにして、完全にリフレッシュすることができる。忙しい都市への旅も、自然の中で目を覚ますスローな旅も、そのどちらもが欠かせない。
2 飛行機とバイク
“空を飛ぶ”ことが大好きなのは、私の血筋のようなもの。なぜかというと、母はキャビンアテンダントで、父はパイロットだったから。上空から遠くの地平線を眺めたり、景色の移り変わりに目を向けることで、自分がこの広い世界の一員であるということをよりリアルに感じることができる。反対に、アメリカ大陸の西海岸と東海岸をつなぐルート66のような地続きの道ということであれば、できるだけ愛車のバイクで移動するのが楽しい。
3 デザイナーズとヴィンテージ
洋服を選ぶときにデザイナーズウェアで全身を着飾るようなことは滅多にない。デザイナーズアイテムとヴィンテージを合わせる面白さは、祖母はもちろんのこと、デザイナーの友人たちからも教わった。90年代にパリに移り住んだ時のこと。当時、全盛期を迎えていたマルタン・マルジェラと出会った。彼と仕事をする中で、デザイナーの個性を生かしながらヴィンテージをミックスし、自分らしいスタイルを作り上げる方法を学んだ。ある時私が、ヴィンテージのミリタリージャケットの袖を適当に切って羽織っていたら、マルタンが次のシーズンでそのアイディアを採用してくれこともあった。ファッションの世界では、
“Highと“Low”が密接に関わり合い、そのどちらもが常にインスピレーションを与え合っているように感じるのだ。
4 オンラインとアナログ
時代のムードがもっとも早く反映されるメディアのひとつが音楽である。例えば、<Sonos>のような最新のサウンドシステムでテクノを聞くと、その空間ごと音に包まれるような感覚が面白い。それと同時に、レコードで聞くような昔の音楽からは普遍的な魅力を感じる。特に<ジョイ・ディビィジョン>の前身である<ワルシャワ>のアルバムは私にとって宝物のようなもの。レコードプレイヤーで音楽を聴くと、いちいちレコードを変えたり、ひっくり返えしたり……。でも、いろいろなことを同時進行で進めるマルチタスクに慣れてしまった今、こうした音楽にきちんと向き合っているような時間を愛おしく感じる。
5 哲学書とZINE
私の本棚には、1900年代初頭に活躍したフランス人の哲学者のシモーヌ・ド・ボーヴォワールの本やローレンス・ワイナーやヴィト・アコンチのようなアーティストの作品集がある。そんな立派な作家や芸術家の本と一緒に並んでいるのが、写真家の花代さんやマーク・ボースウィックが、コピー用紙とホッチキスで作ったようなZINE。広く評価されている作品や作家に目を向けるだけでなく、アンダーグラウンドなものにもその美しさや価値がある。だから本屋にZINEがあるとどうしても長居してしまう。
物事を多角的に見ることは写真を撮る私にとても大切なこと。例えば、華やかなセレブリティを撮影することと、道端で見つけたイカしたキッズを撮影することはまったく違うアプローチになる。ただし、両者に共通しているのは、そのどちらも輝いていること。輝き方が違うだけ。私は個々の輝き方を理解し、どのようにすればもっと輝いて見えるかを考えて、撮影をする。
人はどうしても「高いものや新しいものはいい!」と思いがち。当然間違いではない。だけれども、ひとつのモノやコトをさまざまな角度から見てみるとどうだろう…。そんな物の見方をこれからも大切にすれば、きっと毎日が美しく、楽しくなるはず。Life is beautiful.