素足、モカシン、時々雨の日。
モカシンは気楽に履ける革靴である。革靴を履くという気分よりも、スニーカーをキレイに丁寧に合わせる感覚に近いものがある。スペイン・マドリードの小さな靴工房から始まった〈CASTELLANO〉はいまも変わらずに手作業で、このモカも手縫い。茶色の革はシクロンレザーという脂分を含んだカーフレザーで、雨の日もお構いなく。アウトソールも万能なラバー仕様。革もやわらかくてしなやかなので、裸足で履くのがよい。
ロンドンのおいしい生地。
ロンドン・リバティ社の生地といえば、花柄や小紋柄などのリバティプリント。目にするほとんどのものはオリジナルのプリント生地だが、ふつうが苦手の〈Steven Alan〉が選ぶのは、珍しい先染めのチェック柄。ベーシックだが、最近の売り場にはない英国紳士のための格子模様だ。素材はリバティといえばのタナローンを使い、しなやかでよき肌触り。シルエットはルーズ、脇はシングルニードル(SAシグネチャー)、襟はボタンダウン。
いまどきモーリシャス。
調べると、モーリシャスはアフリカ・マダガスカル島のさらに東の島国である。いま、モーリシャスはメゾンやテーラーを支えるいい職人が集まる一大生産地として名を馳せ、ロンドンに拠点を置くレザーブランド〈A.M〉も自社工場を構える。使う革、クリーンな生産背景にも強い倫理観を持ちあわせ、このアウトドア型のパターンでつくったイージースエードショーツも上質な仕上がりに。こういう一本がのちのちスタンダードになる。
人格を映し出す3枚のTシャツ。
〈Steven Alan〉でははじめての3枚パックTシャツ。でも、パックではなくボックスで。1枚目はベーシックな肉厚のクルーネック。これはふつうに着たらいいもの。2枚目はクルーネックのノースリーブTシャツ。これはタンクトップ代わりにTシャツのインナーやシャツの下に。3枚目はドレスパターンの細バインダーネック。袖付けが下に向いたすっきり着られるドレスTシャツ。〈Steven Alan〉に人格があるなら、こういう人間。
50年前からアメリカの紳士が来た。
ウエスタンシャツにボロータイ。アメリカのフォークアートの研究者だったら、こんな格好してそうでしょう? カウボーイでもあるまいが、アメリカの基本はカウボーイにあり、このスタイルも正装。善き大人のブラックリネン生地に、ダイヤ型のスナップボタン。ヨークは生かし、胸のポケットは外した。ボロータイは、〈YUKETEN〉のアメリカ製コンチョを特別にスターリングシルバーでつくってもらった。そう、キーホルダーも。
キャップにみる実存主義。
結局のところ、この手の帽子に意味を求めてはいけない。「どこのかわからないけど、なんかいいよね」と本人が思っていれば、それで十分。〈AMERICAN LOCAL SOUVENIR〉はフロリダのスーベニアメーカーで、全米のローカルショップにその土地土地のロマンを卸す。〈Golden Gate National Parks Conservancy〉はオフィシャルでナショナルパークものを製作。〈Minor Planet New York〉はニューヨークのアスレチックブランドで、サイクリングキャップを。
これが本当のアルマーニ。
発見の悦びがあるのが服である。見過ごしがちなもののなかから、自分だけが見いだしたであろうジョーカーを見つけたときの多幸感はひとしお。レザーパッチを見てほしい。このデニムパンツは〈ARMANI EXCHANGE〉だ。アメリカのデニムとは違って、股上は深く、ポケットもデカいのが90年代のイタリアンカジュアル。比較的オーセンティックなものだが、本当のアルマーニはこれだと、心の中では大きな声で言っている。
アメリカンなポケTは繊細な山形メイド。
ちょっとばかり高級感が出すぎたイギリスのものよりはナチュラルでしっとりとアメリカ寄り。わかりやすくいうと、90年代のアメリカのポケTを、山形のニットブランド〈BATONER〉のとてもいいオリジナルのコットン生地でつくった。なので、品はあるけど、ラフさもある。縫製技術が際立つバインダーネックも無言の主張だ。ロングスリーブとショートスリーブをつくったので、重ねて着るのが〈Steven Alan〉からのお誘い。
いつまでも硬派。
人生一度は訪れるといいと思うサンフランシスコの〈CITY LIGHTS BOOKSTORE〉。自由な生き方を模索したビートニクの拠点であり、アレン・ギンズバーグの詩集『吠える』やジャック・ケルアックの小説『路上』の出版元の本屋だ。こちらは90年代のオリジナルロゴをオリジナルカラーのシルバーで復刻したもので、黒にシルバーが硬派の証し。もし人生に迷っている人がいたら、『路上』を読むといい。生き方は自由であり、年齢も関係ない。
時をとめよう。
アメリカンクラシックのなかでもベスト・オブ・クラシックな〈STEADY CLOTHING〉のボーリングシャツ。カリフォルニア・アナハイムでジョシュアとエリックが設立し、主にボーリングシャツをつくって30年。ボーリングシャツが流行っていないのは知っているが、〈Steven Alan〉ではロングスリーブタイプを、ジャケットでもカーディガンでもない羽織りものとしてつくってもらった。見た目のとおり、時がとまったアメリカ製。
ロンTの知的な反抗。
いいグラフィックのロンTを着てみたくて、ちょっと知的なものを集めてみました。アメリカの〈Cotton Expressions Limited〉からは科学雑誌、SF雑誌、教科書などに掲載されているシドニー・ハリスのドローイングを3枚。同じくアメリカの版画家、トム・キリオンのヨセミテの作品を2枚。そして、〈OLD JOE〉がつくったイラストレーター、漫画家のソール・スタインバーグのスペシャルコレクションから1枚。
みたび、不思議なベルト。
見えないお洒落がいいだなんてとても恥ずかしくて言いたくないが、ベルトに油断する男は、ベルトで泣く。この〈BISON DESIGN〉は1987年にアメリカ・コロラドで生まれた。クライミング用の丈夫なナイロンベルトに、バックルはボトルオープナー。当時は瓶のものが多く栓抜きも活躍したが、いまはあまり使わない。使うとしたら意外とワインか。今回はブラックとネイティブ柄を2色。ギュッと絞って、長めに垂らせば、気分はもう90年代。
偏ったデニムパンツのオーソリティ。
〈Steven Alan〉のパンツの基本で、淡々とプロのボトムスとしての仕事をこなしてくれるバギーデニム。何を合わせようとも、とどこおりなくまとめてくれるのは、トラウザーとワークパンツのあいだのいいところをとったような、そういうパンツの類だから。トラディショナルに寝押しでセンタークリースを入れたりと、デニムパンツをデニムパンツらしくはくのがちょっと嫌いな、いや苦手な人に向けた、ある意味、限定商品。
レザーシャツ日和。
たとえるなら、ネルシャツくらいの感覚で着られるレザーシャツ。限界までうすく、やわらかく、かるくなったディアレザーは、北極圏フィンランド産のもの。家具好きだと、フィンランドと聞くだけでいいものに感じるが、いつでも着られて、いつでも脱げる春の羽織りの新参。律儀に付けた裏地は本体と離れたふらし仕立てで、体の自由度は高く、レザーだがタックインも悪くない。天然ものは匂いもいいし、体に馴染む、これは本当。
たどり着いた景色は同じ。
有機野菜ではなく、有機衣服。健全な素材とローカルの技術が織り成す服づくりが〈THE HINOKI〉の哲学。拠点は鳥取。シャツ地の名産地、兵庫・西脇の製織工場のデッドストックのポプリン、三重・名張でつくられた40年代のファスナーのリプロダクションを使い、アノラック、キャップ等を仕立てた。デザインの入り口はモードだが、仕上がりはトラッド。生地を見た瞬間に、とにかく何かをつくらねばならないと感じた衝動を形にした。
おとこたちの正しいスカーフ。
春のよさは、こういったスカーフで首元に花が添えられること。あまり大きくても、艶やかでもいやらしさが出がちだが、ニューヨークの〈11.11 / eleven eleven〉は、手紡ぎ、手織り機織り、手描き、絞り染め、手刺繍といった手法を用い、インドでスローメイド。インドのオーガニックコットンやシルクに、使われる天然染料の成分は土着のもので、肌と地球に安心、安全。小瓶には手刺繍マンダラの小さな布。手持ちの何かに縫ってみても。
セットアップに伏す恍惚。
オンかオフかで言えば、オンのためのセットアップ。ジャケットはボックス型、シングルブレスト段返り3つボタンというアメリカンクラシックをモード感覚で仕立て、スラックスは2プリーツのハーフゴムウエスト仕様に。生地は新潟の機屋で織られたブッチャー(肉屋の麻エプロンが由来)で、共地のリリーハットもつくった。セットアップには、着た者だけがわかる嗜みとしての正装の快感があるのはご存じか? まだの方はこれを機会に。
スエードシャツに対する
善良な偏見。
風が吹けば、スエードがそよぐ。それくらい薄く漉き、裏地もなく、なんなら革とは思えぬ、かるさをまとった〈Cale〉とのクラフト。カバーオールシャツをベースに、顔をオープンカラーにしたら、70年代までもいかないクラシックさとなった。革はシルクのような肌触りのシープスエードを使い、欲張って3色もつくってみたが、数は極少。地味といえば地味なものだが、その地味さの中にしかない品があるのは知っておいてほしい。
ナイロンセットアップへの
不意な憧れ。
スーツをきちんとセットアップで着る快感もあれば、こういうスポーツウェアをしかるべきタイミングでセットアップで着る快感もある。ストレッチ性のあるサラッとしたナイロン素材を使った〈tone〉のジップアップパーカは、着丈に対して横幅があり、太めのパンツで整う。パンツはウエストがゴムのイージータイプで、裾も共地の紐で絞れる。フードもパーツなしでいい形。この手のセットアップは黒くなりがちだが、いい茶色で。
ニュージャージーの第2ボタン。
ニュージャージーのアメリカンシャツテーラーに飽きもせずに別注を頼むのは、まるで飽きることがないから。この3枚も、ベージュとブラックの縦長タッターソールがタブカラー、洗えるメリノウールを使った薄いグレーはボタンダウン、いちばんつくりたかったブラウンギンガムチェックもウォッシャブルウールにミディアムスプレッドカラーと、個性がだだ漏れ。第2ボタンの開きすぎない開き具合を見れば、このシャツが何者かはわかる。
Photographer
Toru Oshima