ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

伝統工芸を受け継ぐ6名「GO ON」、彼らの五感に響くモノづくりとは。

ヒト

2025.05.15

伝統工芸を受け継ぐ6名「GO ON」、彼らの五感に響くモノづくりとは。

ユナイテッドアローズ 原宿本店が、この春“史上最上級のユナイテッドアローズ”をコンセプトに、和と美意識と豊かな生活を表現する「TABAYA United Arrows」として生まれ変わりました。世界中の本物を審美眼でセレクトしたアイテムが揃うこの店舗では、京都を拠点とし伝統工芸を担う6社の後継者、6名が集うユニット「GO ON」各社の工芸品もセレクト。西陣織の老舗である(株)細尾の細尾真孝氏、父が人間国宝認定されている中川木工芸の中川周士氏、京金網を継ぎ時代を超えたモノづくりに挑戦している(株)金網つじの辻 徹氏、5代目として現代の竹工芸を追求している(株)公長斎小菅の小菅達之氏、自身も技術士として世界中のセレブたちを魅了する茶筒作りをする(株)開化堂の八木隆裕氏、400年続く宇治の茶陶朝日焼の歴史と伝統を継承する朝日焼十六世の松林豊斎氏。6名それぞれに、受け継いだ伝統工芸のモノづくりや今後の展望について伺いました。

Photo:Taro Ota
Text & Edit:Shoko Matsumoto

「TABAYA United Arrows」から世界へ届ける「GO ON」各社の工芸品

京都の伝統工芸を受け継ぐ6名の後継者によるクリエイティブユニット「GO ON」。伝統工芸の技術や素材を活かし、国内外の企業やクリエイターと協働して新しい価値を創造することを目的とし活動されています。その「GO ON」各社が手がける工芸品を「TABAYA United Arrows」でセレクト。6名の言葉から「TABAYA United Arrows」の可能性や、伝統工芸の魅力を紐解きます。

画像 左から、(株)金網つじの辻徹氏、中川木工芸の中川周士氏、(株)開化堂の八木隆裕氏


【金網つじ】暮らしの“脇役”に品格を──繊細な網が生む用の美

私は「金網つじ」という屋号で、針金を用いた金網製品をつくっています。手編み、機械編み、曲げ輪──この三つの技術をベースに、料理道具を中心に、近年ではランプシェードやアクセサリーなど、暮らしを彩るものにも取り組んでいます。私たちが大切にしているのは「脇役の品格」。金網の道具は決して主張しすぎず、日々の暮らしのなかで静かに役立つ存在でありたい。だからこそ、使うたびに心地よさを感じていただけるような“用の美”にこだわっています。伝統工芸の現場にも、これからは多様性が必要だと感じています。私自身、クラフトマンではなく「クラフツパーソン」という言葉を大切にし、女性やハンディキャップのある方とも共に働く環境をつくっています。今の時代にふさわしい職人のあり方を模索しているのです。「TABAYA United Arrows」さんとは、ユナイテッドアローズ時代からご縁があり、新たなショップオープンのお話にも自然と共感できました。

画像 均一なクオリティを保てるよう、心を込めて集中して制作。海外でも人気の茶こしは、中の網だけを張り替えて修理が可能。

今回は、ふたつの異なる技術を活かした製品を選んでいただいています。ひとつは手編みの盛り網やとうふすくいなど、手仕事ならではの温もりを感じる道具。もうひとつは機械編みの精密な網を使ったバスケットや盛り網で、耐久性や繊細さが魅力です。これからも、自分たちの技術を通して、人々の暮らしに寄り添えるものをつくっていきたい。そして、伝統工芸の会社として社会にどう貢献できるかを考えながら、新しい挑戦にも積極的に取り組んでいきます。

画像 バスケットなどは用途が様々あり、取り入れるだけで少しだけ生活が豊かになるアイテム。日常で使い込んで修理しながら使い続けて。


【中川木工芸 比良工房】桶の技を未来へ──暮らしに寄り添う曲線と構造美

私は、伝統的な「桶づくり」の技法を用いながら、現代の暮らしに合う工芸品を作っています。形や用途は変わっても、芯にあるのは、長く使える道具としての美しさと機能。たとえば「WAVE」という作品では、桶のアーチ構造を活かして有機的なフォルムを実現し、日本和文化グランプリもいただきました。これは、技術の可能性を広げる挑戦でもありました。10年ほど前からは、海外への発信にも力を入れています。伝統的な桶というニッチな工芸でも、伝え方や見せ方次第で、海外の方にも価値が届く。それを実感できたことが、国内の同業者にとっても小さな励みになっていればうれしいです。「GO ON」の仲間との活動や、異業種の方々との連携も、自分たちの領域を広げてくれました。
ユナイテッドアローズさんとの出会いは10年以上前。ファッションに疎い私でも、ユナイテッドアローズさんの名前は知っていましたし、そんな場所で「おひつ」が扱われることに興奮したのを覚えています。最近では、順理庵での展示会やワークショップでもご一緒させていただき、その審美眼にはいつも刺激を受けています。

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画像 10年以上前ユナイテッドアローズで初めて取り扱いしたおひつと、ひのきのシャンパンクーラー「みすみ」。中川木工芸の歴史を両方手にすることができる。アーチ構造の限界に挑戦しつつ、桶の形を自由に変えるチャレンジを続けている。

中でも「TABAYA United Arrows」さんで扱っていただいているシャンパンクーラーは、私の転機となった作品です。桶の需要が減っていた頃、海外のハイブランドとのコラボレーションの機会をいただき、世界的なシャンパンメーカーのクーラーを製作しました。それが注目され、今では弊房の主要商品の一つになっています。また私は、伝統工芸こそ革新が必要だと思っています。すべてを手作りにこだわるのではなく、機械でできることは機械で、人の手でしかできない部分に力を注ぐ。そのバランスが、これからの時代の工芸には必要だと感じています。どれだけ社会がデジタル化しても、工芸の魅力は言葉や文化を超えて伝わると信じています。それは、人間の知恵と美が詰まったものだからです。私はこれからも、その知恵と美を次の時代に手渡していけるようなものづくりを続けていきたいと思います。

【開化堂】100年先も使える茶筒──変わらないために、変わり続けるものづくり

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私は京都で150年続く「開化堂」の茶筒づくりを受け継いでいます。100年前の茶筒を修理に持ち込まれるお客様がいますが、今も当時と同じ製法で作っているからこそ対応できる。今作るものも、100年後に直せるように。そう考えてものづくりをしています。たとえば、祖父の時代と形は同じでも、蓋のきつさは違います。開け閉めの癖や暮らし方は、時代とともに変わる。だから「変わらない」ために「変わっていく」ことが必要です。目には見えない部分に手を入れ、今の手にしっくりくる使い心地を追求すること。伝統を守るには、新しいものを作らなければと思われがちですが、私は同じものを作りながら、伝え方を変えることで、今の時代に届ける道を探っているのです。ユナイテッドアローズさんとのご縁は、京都に来られたバイヤーの方と、父との出会いがきっかけでした。私自身もすぐ東京に伺い、新しい感性との接点に惹かれてお取り引きが始まりました。

画像 ユナイテッドアローズが30年前にオーダーしたスペシャル缶を復刻。“相変わらず”という、いつの時代にも日常に在り続ける安心感を宿した工芸。茶筒やコーヒー缶が世界的にも人気を集める。今購入したものを、何年後でも修理可能。

今回「TABAYA United Arrows」さんでは、TABAYAマーク入りの茶筒をはじめ、コーヒー缶や菓子缶といった、今の暮らしに寄り添う品々もセレクトいただいています。150周年の今年は、本の出版や記念アイテムの制作、バーレーン国立博物館での展覧会など、工芸の背景や哲学を伝える活動にも取り組んでいます。工芸は特別なものではなく、日常の中に自然に存在してきたもの。だからこそ、その価値を世界中に伝え、ものづくりで人と人がつながる未来を目指しています。

画像 左から、朝日焼十六世の松林豊斎氏、(株)細尾の細尾真孝氏、(株)公長斎小菅の小菅達之氏

【西陣織】モットーは織物を超えて──伝統の未来を織り上げる

私は、西陣織に取り組んでいます。〈HOSOO〉で大切にしているモノづくりのモットーは、 “More than Textile(織物を超えて)”という考え方。伝統的な技術に軸足を置きながらも、常識にとらわれない発想で、今までにない美を追い求めています。その挑戦を通して、織物の可能性を広げていきたいと考えています。日本の伝統工芸の中で、私が果たすべき役割は、作り手でいることはもちろん、キュレーターのような視点を持って、伝統の中にある美しさや価値を、現代の感性で再編集・再構築していくこと。そうすることで、工芸の新しい可能性を見出していけるのではないかと思っています。ユナイテッドアローズさんとの出会いも、そんな価値観の延長にあり、「TABAYA United Arrows」さんを通じて、工芸が現代のライフスタイルに欠かせない存在として輝きを放っていくことができれば、と願っています。
現在は「TABAYA United Arrows」さんのために特別なアイテムを準備中です。伝統に根ざしながらも、ちょっと驚きのあるようなものをお届けできたらと思っています。楽しみにしていてください。
これからの伝統工芸は、ただ“守る”だけでなく、“進化”させていくべきだと思っています。これからも、異分野との協働を通じて、新たな文脈で伝統工芸を捉え直し、国内外にその魅力を発信していきたいと考えています。

【朝日焼】文化に寄り添り沿い茶のこころを繋ぐ──いまに、そして未来へ

画像 十六世豊斎の代表作である「月白釉流シ」シリーズ。灰釉を用いたモダンな雰囲気をまとう。

お茶どころ宇治で400年以上続く窯元として、茶の文化に寄り添った器を作り続けています。人と人をつなぐ豊かな茶の文化を大切にしながら、それを現代に、そして未来に更新していくことが目標。伝統的な茶道具だけでなく、茶の心を宿した日常使いの器にも取り組み、今の時代の感性に響く美しさを探求しています。私自身、茶の世界に軸足を置きつつも、異分野とのコラボレーションや海外での展示を通じて、工芸と社会をつなぐ活動を続けてきました。ものとして、言葉として、あるいは別の形で、工芸を社会と接続し、その価値を広げていくことが自分の役割だと感じています。ユナイテッドアローズさんとのご縁は、銀座と六本木の順理庵で展示をさせていただいたことがきっかけでした。ユナイテッドアローズさんが、私たちの仲間である開化堂や金網つじなどと長く関係を築かれてきた姿勢にも共感しており、「TABAYA United Arrows」さんの誠実さや美意識、そして新しいライフスタイルのスタンダードをつくろうという哲学に、強く惹かれています。

画像 「TABAYA」のロゴカラーをイメージした、瑠璃色の釉薬を用いた作品。青のグラデーションに金が彩られた器は、日常に華を添えてくれる。

今回は、私が2016年に十六世豊斎襲名後築いてきた「月白釉流シ」シリーズを中心にセレクトしていただいています。イギリスでの作陶経験を経て、日本と朝日焼の伝統を礎にしながら、国籍や文化の枠を越えて魅力を感じていただけるような、普遍的な美しさを目指した作品群です。素朴な土と美しい水色の月白釉、白化粧や金銀彩が調和する現代的な器たちです。また「TABAYA United Arrows」さんのロゴにちなみ、藍色の美しい瑠璃釉の作品を作りました。伝統工芸を取り巻く環境は厳しさを増していますが、私たちのものづくりが人々の暮らしや人生に果たす役割は確実に広がっていると感じています。GO ONとしても、朝日焼としても、そして私個人としても、工芸の可能性を信じ、社会にとって欠かせない存在となることを目指して、日々制作に励んでいます。

【公長斎小菅】竹工芸で人々の生活を豊かに──現代に息吹を吹き込む

私たちは、主に箸や匙などのテーブルウェア、花器などのインテリアアイテム、実用的な竹製品を手がけています。竹は、古来より日本の生活道具に欠かせない素材であり、箸や茶筅、色々な篭などに使われてきましたが、現代ではその認知度が低くなっています。私たちは、現代のライフスタイルにフィットし、人々の生活を豊かに、楽しくする竹の道具を作りたいと考えています。良いものを作るだけでなく、できるだけ多くの人にその価値を届けたい。商売を通じて工芸を広め、単なる一過性ではなく、社会に根づいた文化として浸透させることが、私たちの使命だと感じています。ユナイテッドアローズさんとは、以前Style For Livingで製品を取り扱っていただいたときからのお付き合い。御社の創業当時、重松会長が私たちの製品を直々にセレクトしてくださったこともあり、その経緯を大変光栄に思っています。大手ファッションブランドでありながら、日本のモノづくりの価値を広めようとする姿勢に深く感銘を受けています。

画像 竹の集成材を使用した五角形が特徴のワインクーラーとアイスペール。職人の繊細な感覚で、精度を高めて、隙間がでないよう組み立てる。素材としては素朴だが、補強の楔をアクセントにするなど、インテリアとしてもライフスタイルに馴染むよう提案している。

「TABAYA United Arrows」でセレクトされる商品は、普段の生活に気軽に取り入れていただけるものです。例えば、重箱はシンプルなデザインで素材の質感を活かし、1年中どんなシーンでも使いやすいように企画したものです。また、五角形のワインクーラーやアイスペールは、機能性を重視したユニークな形状で、日常的に使えるアイテムとして生まれました。伝統工芸に対する世間の関心は以前より大きく向上しましたが、後継者不足など業界の厳しい状況は依然として続いています。工芸は異分野の方々からも注目されていますが、一般的な認知度はまだ低いのが現実。だからこそ、工芸の魅力をもっと広め、社会に欠かせない存在として根づかせることに尽力したいと考えています。

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「GO ON」は、今まで脈々と継承されてきた工芸に対する「ご恩」を忘れず、未来に向けてそれをしっかりと次代に繋げて(going on)いくために活動しています。「TABAYA United Arrows」も、職人や工芸の価値を言葉化し、世界中にその魅力を発信することに挑戦していきます。

  • TABAYA United Arrows 2F

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PROFILE

GO ON

GO ON

京都を拠点に、伝統工芸を受け継ぐ6名の活動、「GO ON」。
伝統工芸を軸とし、アート、デザイン、サイエンス、テクノロジーなど、
幅広いジャンルとの接点をつくり、橋渡しとなるプロジェクトも展開しながら、伝統工芸のさらなる可能性を探っていきます。未来をつくる活動を通して、これからの時代の豊かさを考え続けます。
https://www.go-on-project.com/jp/

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