ヒト
2025.11.26
Akari Uragamiが描く、未知への欲求。挑戦を経て辿り着いた新たな景色とは。
人間の生態を自身の経験や客観的視点から得たアイデアをアートを通して表現する作家のAkari Uragamiさん。彼女が描く油絵やソフトスカルプチャーは、わたしたちの心に鋭い疑問を突きつけます。「人間とは、なにか」。作品鑑賞を通して、わたしたちはその問いへの答え探しをスタートするのです。そうした表現をもとに、今季、ユナイテッドアローズ社のホリデーシーズンのアートワークを手がけた彼女。アーティストとして「新たな挑戦をしました」と話す作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。Uragamiさんのアトリエを訪れ、作品に流れる哲学と、創作へと向かう静かな情熱に迫ります。
Photo:Go Tanabe
Text:Tsuji
いろんな視点から人間という存在について考えている。
わたしは小さな頃からものを作ったり、絵を描くことが好きでした。自分が何かを感じた時に、どうしてそう感じるのか、そもそもどうしてそう感じるような思考を持つに至ったのかなどを考えた末に、人間という存在について考えるようになったと思います。大学生になっても哲学的なことで思考を巡らせていましたが、あまり創作とは結びついていませんでした。卒業をしてから、だんだんとそのふたつの要素が近づいていったかたちです。
もともとは子ども服のデザインや、テキスタイルデザインをしたいと思って大学に入りました。最後の年にはファッションの学校にも通って、パターンなども勉強したのですが、気づけば“ろうけつ染め”という伝統的な染色技法と、キルティングを組み合わせた立体作品をつくっていたんです。油絵はアーティストになってから独学で学んで描くようになりました。ただ、漠然と子供の頃から心のどこかでアーティストになるという予感のようなものはずっとありましたね。
ー大学時代に創作した立体作品がベースにあるんですね。
着ることのできる形状の彫刻を作っていました。それらの作品はろうけつ染めによる色がついていて、キルティングによって半立体になっていたんです。それが徐々に切り離され、油絵とソフトスカルプチャーになっていきました。
自分自身でも曖昧なことが多いのですが、なぜか繋がっていきました。わたしとしては油絵もソフトスカルプチャーも同じことがテーマなので、一緒といえば一緒なんです。地球上にはたくさんの生物がいて、人間はその中の一部でしかない。それをいつも考えているというか、自分自身に言い聞かせるようにリマインドしています。自分自身の生きている日々の体験から、また文化人類学や生物学、哲学などの本を読んだりしながら自分なりに学んでいて、いろんな視点から人間とはどんな生物なのかを考えています。
ー具体的にいうと、どんなことですか?
わたしは近年、人間という生物を見つめるときに、3つの視点から考えてみることにしています。ひとつは「意識としての人間」というもので、人間が人間として世界を見つめる世界。これは、わたしたちが日々当たり前に過ごしている現実的な視座です。もうひとつは、「生物としての人間」。先ほどお話ししたように、地球上にいる多様な生物の一種であるという考え方です。わたしたちは“人工”という言葉を使いますが、そもそも人間は自然の一部で、そういう概念は人間がつくりだしたもの。つまり、わたしたちが毎日を過ごす自分たちの家も、自然界から見ればアリやクモの巣と変わらないと思うんです。
ー考えてみるとすごくユニークというか、どこか人間という存在の滑稽さやおもしろさが浮き彫りになりますね。
もちろんわたしにもエゴや欲望があるし、いろんなことで悩んだりもします。それが人間だと思う。わたしの作品ではそうした3つの視点をギュッと凝縮させています。作品を描いているときはあまり深く考えたりはしないのですが、基本的には今は自分も含めた人間からインスピレーションを得て創作をしています。
経験が凝縮された抽象性みたいなものにわたしは惹かれる。
わたしは常日頃からいろんなことを考えていて、描くときに無意識的にそれが放たれているような感じです。描いているときは気づいていなくても、あとで見ると感じることがあったり。作品を通して、自分で自分を読み解いているような感覚。基本的には、なんとなく人と見られる最小限の要素まで分解して表現したいんです。
ー考えていることや、作品のモチーフには変化があると思うのですが、そのときの興味の対象が作品となって世に出されるのでしょうか?
わたしの場合、今はたくさんのドローイングを描いて、その中からいい線を探して、「これだ」って思えるものをさらに何度も精査しながら作品をつくりあげていきます。無意識的にその時興味を惹かれているものが出ていることはあると思います。ただ、線を描くときに意識しない方が面白いものが生まれやすいんです。だから常日頃から考えておいて、いざというときには無になる。描かないときに意識して、描いているときには意識しない。そうやって日々の経験が凝縮された抽象性みたいなものにわたしは惹かれます。
マテリアルからインスピレーションを得ることが多いですね。近くの海岸などで拾ったものも多くあります。あとは古道具屋さんでたまたま見つけた珍しいものとか。そうしたマテリアルを日頃から集めていて、それらを組み合わせながら作品にしていくんです。自分で染めたり織ったりした布や糸もよく使用しています。
ー拾うのは海岸が多いですか?
そうですね。漂流してきたものとか、たまに意味のわからない面白いものを拾えたりするので。他には流木や棕櫚、珊瑚の死骸、あとは器のかけら、漁師さんに漁網もいただいたり。そうやって自分でみつけたよろこびみたいなものも作品の一部だとわたしは思っています。できる限り自分の手の中でつくりたいので、作品に使う糸や織り機も自分でつくったりもするんです。拾ってから1年経って役立つこととかもあります。それがおもしろい。その作品のために拾ったんだなって思えるというか、過去の自分と対話しているような感覚になりますね。
未知への欲求、見たことないものを見たいという気持ち。
この季節、日本人としてわたしになじみがあるのは新年で、ホリデーシーズンには年明けのお休みも含まれますよね。新しい年を迎えると、すごくフレッシュな気持ちになれる。これも人間が決めたことなんですけど、やはりいいものだなって。
今回わたしは一枚の中にふたつの絵を描きました。ひとつは終わりに向かっていく混沌や喧騒で、もうひとつは静かな始まりをイメージして、タイトルは「Desire for the Unknown」とつけました。未知への欲望や願望を表現していて、それが生きる活力でもあるんです。終わりと始まりは繋がっているのでふたつの絵は流れるように一つの絵になっています。
Uragamiさんのビジュアルを使ったホリデーシーズン限定のギフトラッピング。
年末って忘年会があったり、家では大掃除をしたりとか、とにかく忙しない時間を過ごすイメージがありますが、新年を迎えると急に静かで厳かな時間が流れる。その感じを抽象的に、極点に向けてあらゆることが忙しなく動き回り、その後解き放たれたような静けさがやってくる対比として表現したかったんです。
ー夜明けのイメージなどは具体的で、これまでのUragamiさんの作風にはなかったものですよね。
トンネルみたいになっているのは、わたしが毎朝海に向かう途中にある景色です。そこから見た夜明けや遠くに見える光を描いています。わたしは基本的に具象を描かないのですが、今回は描いてみました。タイトルにあるように、未知への欲求、見たことないものを見たいという気持ちは、自分が挑戦することで、どうなっていくのかという期待でもある。ずっと同じことだけを続けるのではなく、新しいことにも挑戦していきたい。いままでは人間の内側を描いてきましたが、今回はその内側から見た外の世界も描いてみようと思ったんです。
光の部分をよく見ると、いろんな色の光があるんです。作品を近くで見るとそれが分かると思います。こうしたコミッションワークは、自分では思いつかないような刺激をくれる。最終的には新しいアイデアが生まれたり、新しい道が開けたりするので、わたしにとって面白い経験です。
まったく想像がつかないです。お店で売られる商品にわたしの作品を使っていただいたことはあるけれど、今回はそれ以上にたくさんのお客さんの手に渡るということですよね。これがまた面白い未来に繋がっていくといいなという気持ちです。
自分の中で挑戦をして、その手応えを頼りに、もっと研究していきたいと思っています。自分がいいと思える作品をこれからもつくり続けていきたいです。
INFORMATION
PROFILE
Akari Uragami
武蔵野美術大学でテキスタイルを専攻し卒業後、国内外で活動。 油絵や、自然の中で拾い集めた素材や布等を用いた立体作品など、 多様な表現を通じて“生物としての人間”を新たな視点から探求している。 当キャンペーンでは、「終わりと未知の始まり」を主題として制作。