ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト <UNITED ARROWS PODCAST>

2021.06.29 TUE.

PODCASTでお送りするOMOIDE EPISODES #4
⾒て嬉しいもの、もらって嬉しいもの。

ユナイテッドアローズ(以下UA)の30年の軌跡を振り返る写真集「United Arrows」の発売に合わせて、インスタグラムとサイトで〈UNITED ARROWS ARCHIVE〉がスタート。その中の〈OMOIDE EPISODES〉は、毎回様々な方をゲストにお迎えして”思い出”を語っていただく音声コンテンツです。第四回目のゲストは、日本を代表するアートディレクターの葛西 薫さんと平林 奈緒美さんです。葛西さんはUAのTV CMをはじめ企業のアートディレクションを、平林さんはUAやビューティ&ユース ユナイテッドアローズなどのシーズンビジュアルやキャンペーンのアートディレクションをお願いしてまいりました。対談の場所は平林 奈緒美さんのアトリエ。お二人においしいお土産を持参いただいたところからスタートします。PODCASTでは、全文をお聴きいただけます。

Photo:Kenta Sawada

葛西:素晴らしいね。

平林:ご存知ですか? それ。

葛西:いや。これ平林さんがデザインしたんですか?

平林:まさかです!

葛西:本当なのかな? 開けてみますね。

平林:中は全然もう普通のお菓子なんですけど。

葛西:あー!うまそう!いいですねドカン!としてて。せ・い・じゅ・けんの……あぁ〜どら焼き! 素晴らしい。

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平林:160年ぐらい前からある日本橋の和菓子屋さんなんですけど、そのパッケージが、誰がデザインしたか全然わからないんです。創業者か誰かお店の人がこの方に字を書いてもらい、あり合わせの白い箱に印刷をして、赤い紐を張っただけ。でも想像するに、おそらくこのデザインで盛り上がったことも一度もないのかなと思うんです。だけども、こんなに時間が経っても、やっぱいいデザインだなと思う。なによりも美味しそうですしね。私よく言っているんですけど、デザインが身の回りにありすぎると疲れちゃうんですよね。

葛西:そうそうそう。

平林:理想的なデザインのあり方を感じます。決してデザインがないわけじゃないんですけどね。そのような理由で今回葛西さんに選んでみました。

葛西:わかります。もちろん味もいいんだろうしね。黒一色で、書道の書のものは食べ物に一番似合うね。だから青果店とか居酒屋とかの品書きがパソコンかなんかでそれ風に打ってある文字よりは、手書きの筆文字に尽きると思ってる。このとらやのお汁粉はサン・アドのデザイナーがやってくれたものなんですけども、単純に温めればいいだけの、レトルトですね。お店ではよくお汁粉を食べているんですけど、この仕事があってからもう数年経ってるのに実はレトルトを食べたことがなくてですね……。だけども、このコロナ禍にあってから、家でこれを食べてみたらことのほか美味くて、特に今の時期にこれを差し上げるといいなということに最近気がついて、ことあるごとにこれを贈ることにしていたんです。こしあんとつぶあんと、それから白小倉っていう3種類があってどれもすごくおいしい。夏になると冷やし汁粉ができるものもあるんですけどね。今はまだ肌寒いのでこれが売られているんですよね。ぜひ、しみじみと。疲れが取れるんですよ、これは。そんなわけでね(笑)。

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平林:ありがとうございます。

葛西:パッケージの文字は書家の古郡 達郎さんによるものです。とらやの商品のロゴタイプって言ったらいいのかな、菓銘(かめい)っていうんだけど、お菓子の名前は全部その古郡先生にお願いしているんです。時々、明朝体とかいわゆる活字の書体を使うことはあるけど、基本的には先生の字。先生の字以外考えられなくてですね。パッケージデザインって言うよりも、商品名っていうか、その名前の、その書、何も凝らない文字が一番美味しそうだなってやればやるほど思いますね。だってやればやるほど、虚しくなってくる。

平林:そうですよね、わかります。でもやらないと何もやってないみたいに言われちゃうんですよね。決してやってないわけではないんですけど。

葛西:平林さんならわかってくれる。ありがとうございます。いいですねスッキリしていて。


なんともアートディレクターらしいお二人のやりとりですね。ここで平林さんがアートディレクションしたUAのカタログ、「スタイリングエディション」を手にする葛西さん。

葛西:平林さんがデザインしたカタログを見ていて一貫しているのが、もちろん何もしてないわけではないのはわかっていて、平林さん以外の人がこのアートディレクションはできないんだろうなぁと思うんです。うまく言えないんだけど、そういう気配は見ればわかりますね。だから僕の仕事を作品集にまとめるとき、「自分でやるのはつらいなー」と思ったときにまず頭に浮かべたのは平林さんですね。要するに身を預けたいと思ったんですよ。客観的にしてくれるというか。余計な感情を加えないでそのものだけ見て整理整頓したり、あるいは思わぬものが、クローズアップされるかもしれない。平林さんがやったらどうなるかなーって。それを見てみたいと思ったことがあるんです。

平林:多分、飲んでる席で、酔っ払ったついでに言われたんですけど、「絶対に嫌です」って言った記憶があります。

葛西:ほんとに!? 僕も酔っ払っていたんで思い出せないかもしれないな。なんで嫌なんだろうね。

平林:絶対に嫌です、無理ですって。

葛西:平林さんのデザインは、ニュートラルで余計なものを入れるまいとしてると思う。でも、もし余計なものを入れるんだったら、ものすごく思い切って意外なものを入れる感じ。こうして見ていると、その落差が面白いんですよね。一見クールに見えるけれど、結構分厚いドカンとしたものを持ち込んでみたりするから、その決断力がうらやましい……。あんまり “オシャレ”とか “カッコイイ”だとかいう言葉をなるべく使わないでいたいんだけれど、そのどちらも感じてしまうのは、なぜかというと、やっぱり脂っ気がないわけでも、乾いているわけでもない。基本的にはクールだからだと思う。静か。静かなベースを作っているから写真家がとった写真だけが見えてきて、だけども過度なデザイン性は見えてこない。だからこそモデルが見えてきて服が見えてきて……。そんな仕掛けがされている。レイアウトもそうだし、紙の選び方から何からすごく設計されてる。「設計なんてしていないわよー」というような、「私それだけじゃないわよー」みたいなところも。そんなアレコレがUAのカタログの表現にもなっていて、広範囲の人が惹きつけられる。

平林:その脂っ気のある部分は、一緒にやっていたディレクターの山本 康一郎さんによる部分がちょっと大きいと思っています。私は基本的にものをまとめる方向で手を動かしちゃうので、よくも悪くも、そこを康一郎さんが壊しにかかってくる。私にとっては無茶なお題を、どう組み入れるかみたいな作業をずっとやっていました。だから私だけでやっていたらもっとクリーンなものにまとまってしまっていたかもしれませんね。

葛西:確かにね。思わぬ火がつきますよね。ムッとするときもあるじゃないですか。「わかってる」といいながら、実は痛いところを突かれたりしてて。

平林:そうなんです。間違ってないから腹がたつんですね(笑)。

葛西:だからムッと来るんですよね。どこかでわかっていたことが、どこかでバレてしまうということもあるかもしれない。悔しいのかもしれないですね(笑)。平林さん写真のディレクションは?

平林:しますね。

葛西:こういう写真っていわゆるファッション写真っていうんですかね。何か思いながらディレクションすると思うんですけど、どんなふうに考えているんですか?

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平林:直感に近いですね。「スタイリングエディション」っていうのがもともと90年代に存在していて、10年間お休みして、また康一郎さんが作ろうかなって気持ちになって再開した時から私もチームに入り、一緒に10冊作りました。もともと10年前にやったものをずっと見せてもらって、普通のカタログとは違うなと思ったのは、そこに圧倒的な時代感があることです。後から見たときに「この時、こんなだったよね」という空気感。だから今でも通用するのかって言われたらしないと思うんですけど、それでいい気がしています。だからそういう気持ちでやっていました。“普遍性”とは逆の“時代性”をあえて反映さえていくことが「スタイリングエディション」に関してはいいなと思うところです。

葛西:僕は今なのか今じゃないのか判断できない。ただ、それって古臭いねって言われたらものすごくショックです(笑)。平林さんにおける時代感とか「これは今か今じゃないか」とかは、いつもアンテナを張っているとか、何か判断基準あるんですか?

平林:空気感です。実際には見えないものなんですけどね。例えば秋冬のカタログは大体夏前に撮影するので、数カ月先のことをやっているんですね。“今”じゃいけなかったりもして。だから作っているスタッフの勘っていうか。

葛西:写真家も含めてね。

平林:ファッションってそういうことですよね。自分がものを買うとき、なんで欲しいのか説明もできない、でも欲しい。

葛西:平林さんってきっぱりと好きか嫌いかしかないじゃないですか。嫌いなものはなんですか?

平林:世の中にあるものの95%は嫌いな分類に入りますよ(笑)。

葛西:そうですよね(笑)。

平林:好きなものを聞いてもらったほうが早いかもしれません。

葛西:僕もね、「好きなものはなんですか?」って聞かれても、きっとうまく答えられないんですよね。嫌いなものだらけだから、それであればいくらでも羅列できる。だけどそういう自分とか平林さんはなんだかんだ言ってまとめるじゃないですか。いろんな要求に対して。そうするとやっぱり自分の好き嫌いか的な基本的判断基準がないと、デザインやディレクションはできないですよね。

平林:そうですね。決してテイストとかじゃない。このテイストじゃなきゃ嫌だということではなくて、いろんなテイストの中で好き嫌いの基準があるんだと思います。


さて、葛西さんがジャンルイジ・トッカフォンドというイタリアのアニメーション作家と取り組んだUAの広告シリーズについてはどうでしょう? 意外なコラボレーションの裏に一体どんなストーリーがあったのか聞いてみました。

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葛西:この仕事をする3年くらい前にトッカフォンドのマネジメントをしてる太田 雅子さんという方があるツテで僕を訪ねてきてくれて、彼の絵や動画を見せてくれたんです。彼の作品に大感動してしまって。見たことのないものを見た、という感じで。カラフルだけど悲しかったり、クラシックだけど、愉快な感じもある。そのときは、「この絵、絶対忘れないぞ」と興奮しました。最初UAから仕事をいただいたときは、いかにもファッション風な世界のいろんな人種の若者を集めて撮影する提案をしたんですね。そしたらシーンとなっちゃった(笑)。それで考え直そうと思ったらトッカフォンドのことを思い出して。それで彼の絵を起用するとしたら、何を表したいのか言葉にするとしたら“ウキウキ”だろうなって。買い物に行くウキウキ、お店の中で商品を探しているウキウキ、その服を着るウキウキだとか。この言葉が見つかってから、どんどん事が動いていったかな。あとは、僕がトッカフォンドだったら、という風に自分でもアイデアを考えるわけですよ。それをトッカフォンドに見せると彼に共通しているもの、していないものが多分あるんだけど、わーとまた彼の筆が動き出すので、そういう往復運動でした。仕事しているというよりも学生同志でわいわいやっている感じに近かったかもしれない。すごい楽しみながら仕事をしていましたね。だから手繰るようにしていたのがその仕事だったしトッカフォンドとやるときはいつも子供のような気持ちになれるかな。


お二人が思う“デザインとは?”についてお聞きしてみます。

葛西:僕が口癖のように言ってることが、「世の中にデザイナーがいるからダメなんだー」と自分で自分を怒っているんです。

平林:本当にそう思います。

葛西:よく激怒してしまいます。開けようとして開けるところも見つからなかったり、透明で剥がすところが見つからなかったり……。叩きつけたくなる。「デザイナーがいるから悪いんだー」って。人のこと言えないな。自分もデザインしてるから。

平林:なるべくそういう風にならないように、っていう気持ちでやっています。

葛西:迷惑かけちゃいけないなと思って。

平林:グラフィックはとにかく、変な過飾になっちゃっていると思うんですよね。デザインではなくて、イラストのようなものがすごく多いっていいますか。

葛西:盛り込みすぎ、飾るというか。趣味でやられちゃダメだろという風に思わせることが多いかな。もちろん簡素だけがいいというわけではないけどね。「それって必要なんですか?」って時々質問したくなることが多いような感じかな。“必要 ”というのはいらないから不必要じゃなくてあることで助けられることもたくさんあるから、飾りはあってもいいと思うけど、本当に必要な飾りであって欲しい。厳密に言えばね、何かこう納得したいんだよね。


平林さんから葛西さんにお渡ししたどら焼き、葛西さんから平林さんにお渡ししたお汁粉、どちらも見て嬉しいものですし、もらって嬉しいものです。これはまさにお二人がUAの印刷物や広告を通じてお客様へ届けていることですね。だからこそお二人にお聞きしたいのが、UAらしさとは一体なんなのでしょう?

葛西:僕は、UAというお店ができてからしばらくしてからお仕事に携わるようになりました。知ってはいましたけど、初めて仕事をさせてもらって初めて分かったということもたくさんありました。その印象で仕事を続けていて。正直UAはこうあるべきだというよりも、僕が出会うとこころよいものはUAに限らずみんな持っていて、UA調っていうものがあるとしたら、なんなのかなっていつも思っていますね。今うまく言葉で表現できないのですが、尖りすぎてもいけない。しかしUAの洋服を身に付けるのは少し、他の気持ちとは違うぞ、っていうように思うんですよね。自分の中に尖っている部分と庶民的な部分といつも比率を考えているみたいな。その比率が何対何になるのかは今うまく答えられないですけど。自社ブランドもあるし、セレクトショップでもあるから、とにかく左右幅広くなければならないと思うので、全てにおいて、どんなに安いものであったり、オリジナルであろうがあるまいが、それを手にする喜びを伝えたいと思ったら、なるべく嘘がないようにって感じですかね。さっきの過飾みたいな、盛り付けるのではなくて、素直に「これっていいでしょ」であったり、「こういうことっていいよね」っていうのをいつも提供してくれてるお店や会社であって欲しいなと思っていますね。

平林:私も、やっぱりUAがオープンして、原宿のお店に行ったのが最初です。何年前かな。

葛西:30年……?

平林:あの当時、確か20万円近かったカルペディエムのブーツがUA原宿本店にしかなくて、結局買わなかったんですけど、何度も見に行った記憶がすごく残っている。そこにしかないもの、自分が知らなかったものがある。あとはちょっと不思議なスーツの着こなしをしたおじさんがたくさんいるファッションブランドという印象も強くて。ただそこからいまはブランドも増えてきて、それぞれのブランドで、私みたいな立場の人もカタログを作ってディレクションをやっている。葛西さんは総括した企業としての見え方のような部分をやられているじゃないですか。その辺が、お客さんからはどのように見えているんだろう?と思う部分はあります。いまアートディレクターとしてすべてを束ねている人がいないと思うんですけど、その辺がうまくまとまると、もっといいのにとは思っています。

葛西:僕は仕事をしててファッションとか、その傾向の仕事はできるだけ触らないように遠ざけてきました。自信がないし、憧れてるけど苦手なんでね。でも声をかけられてから助かったと思ったのは、行くお店ができたというか。UAにさえ行けばなんとかなるという風に。以前は、しゃれたブティックなんか行くと気後れしちゃって足が入らなかったり……、そのくらい弱気でダメだった。今でもそうなんだけど、服を買うっていうのは、僕にとってはなかなかの一大事業なんです。だから一回買ったら15、20年くらい着てるんだけど。それをUAの仕事をしながら、内部にいる人たちと話をすることによって、僕が思っている以上に柔らかいというか。恥ずかしがる必要もない。そういう風に思わせてくれたのは、一緒に仕事させてもらったおかげで、随分助けられています。あとは自由でいいんだなって。冬に夏物着たって夏に冬物着たっていいんだなってことも思ってきたし、時代がそうなったからかもしれないけど。洋服を選ぶ自由、洋服を着る自由みたいなものをUAがくれたんですね。よくあることだけど、UAは「あなたがあなたらしくあることが一番いいんだよ」ということを服を通じて伝え続けてくれたらいいなと思う。間違いはないはずだなっていうことを思わせてくれる店であって欲しいって思ったりしますね。

平林:私も自分で買い物をする商品のないお洋服屋さんの仕事は難しいです。基本的にお客さんの気持ちにすぐになるので。

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今日はアートディレクターの葛西 薫さんと平林 奈緒美さんのお話をお届けしました。次回もお楽しみに。

PROFILE

葛西 薫

1949年北海道札幌市生まれ。文華印刷、大谷デザイン研究所を経て、1973年サン・アド入社、現在同社顧問。サントリーウーロン茶中国シリーズ、ユナイテッドアローズ、とらや、TORAYA CAFÉなどの広告制作およびアートディレクションのほか、サントリー、サントリー美術館、六本木商店街振興組合のCI・サイン計画、映画・演劇の広告美術、装丁など、活動は多岐にわたる。近作に今井麗作品集「Melody」(PARCO出版)、奥山由之写真集「flowers」(赤々舎)の装丁がある。東京ADCグランプリ、毎日デザイン賞、講談社出版文化賞ブックデザイン賞、亀倉雄策賞などを受賞。『図録 葛西薫 1968』(ADP)が出版されている。

平林 奈緒美

東京都生まれ。1992年、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、株式会社資生堂宣伝部入社。2002年よりロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」に1年間出向後、2005年よりフリーランスのアートディレクター、グラフィックデザイナーとして活動を始める。これまでの主な仕事に、la kagu、ユナイテッドアローズ、ARTS & SCIENCEなどのアートディレクション、矢野 顕子や宇多田ヒカル、サカナクションなどのCDジャケットデザイン、書籍や雑誌の装丁などを手がける。主な受賞に、NY ADC金賞 / 銀賞、British D&AD銀賞、JAGDA新人賞、東京ADC賞などがある。

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