ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト <UNITED ARROWS PODCAST>

2021.09.21 TUE.

PODCASTでお送りするOMOIDE EPISODES #6
ビューティとファッションと時代性

ユナイテッドアローズ(以下UA)の30年の軌跡を振り返る写真集「United Arrows」の発売に合わせて、インスタグラムとサイトで〈UNITED ARROWS ARCHIVE〉がスタート。その中の〈OMOIDE EPISODES〉は、毎回様々な方をゲストにお迎えして“思い出”を語っていただく音声コンテンツです。第6回目のゲストは、ビューティクリエイター界のトップランナーとして走り続けるヘアスタイリストのTAKUさん、そしてメイクアップアーティストのUDAさん。UAの制作物でも本当にお世話になっているお二人です。今回は、撮影を終えたばかりのスタジオで机の上に過去のカタログや今回の写真集を広げ、それらを見ながらお話をしてもらいました。TAKUさんが写真集のP78に掲載されている、94年にUA 原宿本店で開催されたマルタン・マルジェラのショーのページを見たところで、話が始まります。 PODCASTでは、全文をお聴きいただけます。

Photo:Kenta Sawada

TAKU:スタジオの仕事をやりだして、パリを行き来して、自分にエンジンがかかっていた時に、このマルジェラの世界同時開催っていうショーがあったんだよね。ヨーロッパと日本は8時間の時差があるんだけど、同時にショーをやるっていう企画で。その頃は、あんまりそういう状況を分かってなくて。でも企画としてはなんかすごいことをするなっていうのは強烈には覚えている。

UDA:それは何年ぐらいですか?
 
TAKU:UAの原宿本店ができてすぐだと思う。白い壁から確か、紙を「バン!」って破ってモデルたちが出てきたような覚えがなんとなくある。僕は今は事務所を独立しちゃったんだけども、当時向井さんっていうマネージメント会社のエイトピースの代表のマネージャーがいて。彼女は身長もそこそこあったし、髪の毛もすごく長くて。

UDA:向井さんがモデルで?

TAKU:普通のモデルをキャスティングするっていうよりも文化人っていうか、ストリートキャスティングだったと思うんだけど。当時ショーっていったら、ワンスタイルで提案するのが普通だったんだけど、僕は全部違うヘアスタイルで提案したんだよね。“インディビジュアル”な感じと言うか、個性を出す感じ。向井さんは三つ編みのおさげを2つ作ってこうなっているけど。それをすごく覚えているね。僕にとってUA=“個”っていうか、“インディビジュアル”な感じというか。セレクトショップなんだけれども、多様性があって、だけどその中に核となるベースがあるのかな。

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UDA:民族でもないけど、少しありますね。ウーア(歌手)も多分これぐらいの時代ですよね。

TAKU:そうね。ちょうどこの頃、ウーアの「11」って言うアルバムで、首長族のようにブレスレットを手首にガーッと巻いているジャケットがあって、それも僕がやっているんだけど。時代的にはトライバルな感じはあったと思う。

UDA:そうですよね。僕は20代前半ぐらいだからそんなにハッキリ覚えてないけど。

TAKU:このショーの時も、和太鼓で、どん!どん!どん!どん!ってやってショーがスタートしたんだよね。

UDA:そういう意味でも“インディビジュアル”を含んでいるんじゃないですか?それぞれの国ルーツとか。そういう時代でもあったんですかね……。

TAKU:当時マルジェラさんが“インディビジュアル”にこだわっていたのかは分からないけど、やっぱり“個”じゃないですか?ファッションは色んな大きな流れがあっても、トレンドやユニフォームとかがあって、それを自分でどうピックして消化するのかがすごく大切だと思うから。一個の型にはめていくというよりは、我々の仕事は特にそういうところがあるじゃないですか?個性をどうやってより引き出していくのかみたいな。

UDA:この時がそういう時代の始まりだったってことなんですかね?この後に雑誌では「FRUiTS」も出てくるし、「CUTiE」も全盛期になってくる頃ですよね?

TAKU:そういう思考はちょっとあったかも分からない。例えばこれは洋服の話だから、「今こんなものが流行っています。これを着たら誰でもオシャレに見えますよ」っていうのはもう終わっちゃったよねっていう感じがしていて。それで、マルジェラさんのようなデザイナーがでてきたのは、そういう予兆だったのかなっていう…。

UDA:考え方が全然違うわけですね。

TAKU:マルジェラといえば、背中の4つの縫い糸。怒られちゃうかもしれないんだけど、僕はあれ切っちゃうんだけど、あれが好きな人もいるじゃないですか?僕はいらないのかなと思っていて。そういう風に個々が気づいてきてるんじゃないのかな?って感じがするのね。それは、「これを着ていればオシャレなんですよ」っていう時代じゃない。なんかそういう始まりだったのかなと、30年前って。

UDA:自分の感覚で、自分で選ぶっていうか、紹介していく感じ?ヘアメイク的にもそんな感じなんですかね。

TAKU:それは求められるんじゃないかなとは思うんだけどね…。

UDA:個性を出すみたいな。

TAKU: これをやっていると安心ではなくて。

UDA:いわゆる“美人”みたいなのが80年代ぐらいまではあったんでしょうけど。そうじゃなくても魅力的っていうのが、記憶の中ではなんとなくそれぐらいからあったのかなと。例えば、その時代から個性的なモデルさんが出てきたり、それこそウーアもそうかもしれないし。そういう個性的な人がわりと世に出て来て、注目される感じの流れはあったのかもしれないですね。

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TAKU:19世紀のコルセットのビクトリアン時代があって、その1910年代から90年代まで、明確に言葉とビジュアルで、時代の違いとファッションとビューティの流れって説明できるじゃないですか?社会的な現象もいろいろ交えて。ただ2000年からはもうそれが崩壊しちゃったと思うのね。「2000年のスタイルって何?」ってなったときに、それはもうなんでもありのスタイル。過去の物と新しい物をミックスして、そのミックス具合で色んな新しい物が出てくる時代。例えば1940年代だったら第二次世界大戦があって、女性はちょっと締め付けられた感じと解放の狭間みたいなのがあって。それはファッションもビューティも。それで90年代はストリートファッション、その間にグラマーとか、ビバップみたいなこととか、フリーダムなことだとか、流れの中で刻みがあるけれども、でも2000年代からそれが全くなくなっちゃう。まさに30年前はそういう所とリンクしているのかなと。こうしてマルジェラさんのショーのページをそんな想いで見ていたんだよね。

UDA:僕がフリーランスになったのが2000年以降で、それまで化粧品会社までいたので、ダイレクトに撮影現場のことは分からないんですけど。実際、化粧品会社に勤務している時は店頭にいたので、いわゆる街の女性たちの感覚でいうと、1991年とか1992年とかその時は本当に眉毛も手入れしてない人がほとんどだったんです。口紅もなんとなくピンクをつけてれば、なんとなく安心みたいな時代だった。ファッションでいえば、TAKUさんのマルジェラの話じゃないですけど、どんどん個性を尊重し、デザイナーの考え方もどんどん変わっていった時だと思うんですけど。それこそ最初はベージュのリップを提案しても「顔の色が悪く見えるから嫌だ」っていうお客さんがほとんどだったのが、それがだんだん普通になってきたりして…。当時雑誌は結構見ていましたけど、両極だったというイメージがあって。王道というか、コンサバティブに自分の方法でキレイになりたいというのと、どれだけ個性を出していくか、みたいな。例えば「an-an」(雑誌)とか、多分当時TAKUさんがビューティをやっていたんだと思うんですけど、どれくらい普通じゃないメイクをしているか、みたいな感じのことが90年代の「an-an」を見ていたらすごくあって。左右で違う色のアイシャドウを使ってみたり、顔色が本当に悪いようなリップを敢えて付けてみたり、眉毛をめちゃくちゃ太くしてみたり。みんなが今までの理想的なビューティっていうのではないことを、いかにルールを破るかみたいな感覚になっていたんだろうなとは思いますね。その時代は。

TAKU:それこそ東急ハンズに行って、変なグリッターを買ってきてリップスティックを付けて、モデルに「本当にごめんね、後で洗えば取れるから」って言って、ガァーと付けたりとか…。当時はグリッターネイルもなかったから自分で作ったり…そういうことはしていたかな。ヘアに関してもどうしても自分が目指しているような質感が出ないから、黒砂糖を使って後からモデルエージェントからクレームが入ったり…。そう言うこともあったんだけど…。今の時代だったら、なかなかまずいんじゃないですか、ってなるんだけれども…。

UDA:ボンドを使っている人たちとか昔いましたね…。

TAKU:ボンドはさすがに使わなかったけど…。

UDA:今だったら絶対怒られる…。

TAKU:歯磨き粉は普通に髪の毛に塗っていたけどね。口の中に入れるものだから、大丈夫でしょみたいな。モデルも、頭がスゥスゥして気持ちいいとか言っていたりしたけど…(笑)。今だったら、もう少しベースなこと、マインドのこと、ちょっと話が変わるけれどもサステナブルなこととかを考えなくちゃいけない。当時はビジュアルを面白くしたいっていうのが先行して、そこで色んなプロダクトを使って、モデルや周りにエクスキューズしながら試していた時期ではあったよね。懐かしいし、今でもやっぱりそういうことが必要なんだろうなとは思うけどね。やっぱりそうしないと色んなことが前に進まないから、思ったことを色々とトライしてみることが重要だと思う。洋服もそうだよね、全く新しいこれまで見たこともないものって瞬間的にサッと生まれないじゃないですか?色んなことを試行錯誤しながら、ちょっとスパイスを加えて、それが20%が30%になって、30%が70%になって色んなことが変化していくから、少しでも前に行けるように、そういったことが必要なんだろうなとは思うけれども。それが80年代、90年代、UAが立ち上がる頃に我々が携わっているビューティの世界を含めて激しかったんだろうなと。試行錯誤みたいなことがね。


ファッションもビューティも「時代を映す鏡」と言われています。二人から観る“今”についての話をお聞きしましょう。

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UDA:今もまた更にルールがない感じで…。昔ってそういう意味では、形があってそれをいかに壊すかっていう感じだった。多分色んなことを試したり、新しいことを試したりやっていたんだと思うんですけど。それが壊れてルールがなくなったから、今は本当に何でもありになっていて。前は“何でもあり”をやろうとしなきゃいけなかったのが、今はそんなことをしようと思わなくても、そもそも何でもありっていう違いはすごく感じていて。メイクはやっぱり王道がしっかりあるから、いかにそれを崩すかっていうところで工夫が必要で、考えて試して…。TAKUさんが言ってたように、時間をかけて色々考えていかなきゃいけなかったところが今はそれがなくなっちゃったから、思い付いたらやればそれが何でも正解。正解と不正解がないから、逆に“オリジナル”が出来にくいっていうのかな?自由がたくさんありすぎて。だからここからまた少し変わっていくんだろうな。要するにルールがちょっとだけ必要になってくるのかもしれないな…っていう気もしていたりして。そうやって時代は変わっていくのかなと思うんですけど。そんなことをビューティということで言えば感じていますね。

TAKU:そうだよね。

UDA:UAの場合は、やっぱりベースにオーセンティックというか、クラシックっていう言葉が合ってるか分からないんですけど、ある種のちゃんとルールがあって、ルールがある上でいかに遊ぶかっていうイメージが、メンズやレディースの撮影に関わらせてもらっていた中ではすごく感じていたんで。だからただ単に好き勝手やればいい、とは考えてなかったんですよね。だけど王道でいけば退屈になるし、いかにその中にちょっとした遊びを、粋な感じを、どうやって入れればいいだろうっていうのが当時思っていたことですよね。レディースも、やっぱり色気もあってちゃんとキレイだなというのがベースにあるんだけど、ただ普通にキレイな人ではない、っていうようなこと。それは大胆なことではないんですけど、ちょっとしたことで。例えばリップの色を普通だったら、ここを選ぶだろうけど、ほんの少しずらしてあげて、それが絶妙なバランスになるとか。通常だったらまつ毛までをバサっとやるけど、そこは抜いておくことが粋な感じだったりとか。ちょっとしたことであるんですけれども、そういう変化は毎回どうすればいいのかなと思ってやっていましたね。

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TAKU:今僕たちの目の前にカタログがザクっとあるけども、やっぱり10年前のものって温度が違うよね、写真の質感もしかり。UAのことをベースで話させていただくと、日本にたくさんセレクトショップってあるじゃないですか?今その形態が変わってきて、セレクトだけではなく、オリジナルブランドをどこも出しているとは思うんだけども。じゃあ「UAって何?」ってなった時に、ちょっと気が利いてるな、っていう感じが僕の中にはあって。それで他社のことはさておき、UAの仕事をさせていただく時に、やっぱり自分の中ではブレない気の利いた感じをちょっと意識していたのかな…と思うのよね。やっぱりファッションって夢を与えることだから、リアルでダイレクトな表現がいい時もあるし、もう少しそれを万華鏡のような、乱反射するようなフィルターを通したりとか、そういった作業が必要な時もあるとは思っていたりしていて。その中での、気の利いた感じっていうか、何か感じていましたね……。例えば、10年ぐらい前のカタログだとは思うんだけど、超ダンディーだよね。超シャレているなぁ〜……。多分UDAちゃんとUAのカタログをやり始めた頃だと思うんだけど。

UDA:そうですね。多分最初のやつじゃないですか? 

TAKU:そう。めちゃくちゃシャレているじゃないですか?ダンディーでシャレていて、やっぱこのパンツの丈、靴下の選び方、チーフの出し方。もうすべての抜き具合がイケてて。それが…2014年か2015年だったと思うんだけど、モデルのキャステイングもだんだん変わってきている。このモデルは今でもすごく覚えているんだけど、スパニッシュ系。多分UDAちゃんに「男らしくした方がいいから、肌をちょっと黒く塗りましょう」て言って肌を日焼けしたような感じにしたね。

UDA:覚えています。覚えています。

TAKU:そんな子もいれば、ちょっとナードな子もいて。やっぱりそのスタイリングには、スタンスミスのスニーカーにグレーのスーツを合わせたシャレ具合があって。やっぱり男でも、ヘアクリップを付けて髪の毛に気を使っているのですよっていう、わざとプロセス部分を入れたりとかしているんだけど。要するに十人十色みたいな多様化を出してきている。

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UDA:特に女性のメイクの作り方もすごくミニマムになっていったんですよね、あの頃から。さっぱりさせていくみたいな感じというか。自分の気分的にもそういうのがあったし、そういう女性像がかっこいいなっていうのがあったので、自分としてはすごい細かい所にフェチを感じながらやってましたけれど。だからある種、メンズを作って行く時と質感があっていく感じが自分の中ではあって。だけど女の人だからちょっとここはこうしてみようとか。ちょっとこういう風になったらいいかなということを入れていくみたいな感覚でやっていたので。でもUAの撮影は、面白かったですよね?

TAKU:そうだね。なんか今回どういう飛び道具が出てくるんだろうとか?もちろん洋服の楽しみもあるし、ビジュアルをどうやってまとめていくんだろうとか。

UDA:フィッティングの場所でライティングを組んでそこでもう撮れちゃったみたいなことも結構ありましたよね。現場に行ったらもう出来てたみたいな。めちゃくちゃフレッシュっていうことですよね?本当だったらもっと手前に何か決め事をした上で撮影するのが、思い付いたらそれがそのままビジュアルになるって。出来立ての鮮度の高い最新のやつが出てくるみたいな…。その感覚は、当時は新しいというか、今はもう割とそういう感覚でやるような撮影が少し増えてきているのかもしれないですけど。なかなかないですよね? 「あ、今ここで撮っちゃえ!」みたいな。


そんなカタログの撮影現場、お二人は同じメイクルームで時間を過ごしていました。一体撮影の裏側でどんな話をしていたのでしょう?

TAKU:やっぱりシャレてないとダメだよということだと思うんだよね。ビジュアルって磁石みたいなところがあるから、吸い寄せていい時もあれば、プラスマイナスを逆にして面白い時もあるし。ヘアもメイクも引いていい時もあれば、盛る方がいい時もあると思うし。一貫してその当初から言っているけれども、やっぱUA に関しては気が利いた所、“シャレ”。所詮ファッションはシャレだって言う…。

UDA:しかもちゃんとルールを分かっている人のシャレみたいな感じが重要だったのかな。自分がそんなにルールを分かっている人ではないんで、あれですけれども。あと、UAの撮影は、結構笑っていた気がします。

TAKU:そうだね。現場で我々が楽しんでいると、見ている方も全体楽しいはずなんだよね。

UDA:それはすごいありましたよね。

TAKU:そういった中ではUAの一連のカタログ撮影は結構楽しましてもらったかなっていう感じはしますね。

UDA:毎回すごい楽しかった。いつもこうキャラを作るじゃないですか?そのキャラ設定が毎回面白くて、よく笑っていましたね。手つきとかにも、ちゃんとディレクションが入るんですよね。例えば、普通のマッチョの店長じゃなくて、全身ばりばりのタートゥが入った人。でもちょっと手つきは女性っぽくて…っていうのもやってたり。絵としてすごく強くなるんですよね。奇抜なことは何にもやってないのに、絵がすごい強いみたいなのが楽しかったですね。密度高い感覚が。

TAKU:そうだよね。やっぱり現場が盛り上がるのはいいことだよね。現場が盛り上がると、残るんだろうなと。

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今回はTAKUさんとUDAさんの対談をお届けしました。

PROFILE

TAKU

ヘアスタイリスト。1997年に渡英。i-DやTHE FACEなどのファッションカルチャー誌のクリエイションにも参加。2005年に帰国後は、VOGUEやNUMEROなど国内外のファッション誌やセレブリティたちからのラブコールを受け活躍。2013年には自身プロデュースのサロン「CUTTERS」をオープン。今年はじめにビューティを専門にするエージェンシー「VOW-VOW」を設立。
cutters.co.jp/

UDA

メイクアップアーティスト。大手化粧品会社にてPR、マーケティング、教育、 店頭プロモーションなどの業務に携わり、その後独立。現在は、国内外のエディトリアル、コスメティック・ファッション のキャンペーン広告、ショーなどを担当。独自のファッション感、ビューティの視点を生かし、日頃から様々なビューティの場面での新しいアプローチを試みている。今年4月に著書『kesho:化粧』(NORMAL)を刊行。
uda-kesho.com/

JP

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