ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2020.08.07 FRI.

CSRからサステナビリティへ
ユナイテッドアローズの持続可能な成長戦略とは。

21世紀に生きるすべての企業や人間が取り組むべき課題であり、大きな社会潮流となっているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。ユナイテッドアローズ社では2020年度から、サステナビリティを重要な経営課題と位置づけて活動しようとしています。ファッションビジネスジャーナリストの松下久美さんと、サステナビリティ推進部 副部長の玉井菜緒さんが、サステナ談義を交わしました。

Photo:Takeshi Wakabayashi(YUKIMI STUDIO)
Text:Kumi Matsushita

ユナイテッドアローズ社にとって「サステナビリティ」とは。

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松下:サステナビリティへの取り組みが、ブランドや企業が取り組むべき大きな課題として浮上しています。多くの企業と同様、ユナイテッドアローズ社もCSR(企業の社会的責任)として取り組んできたものをサステナビリティととらえ直し、サステナビリティ推進部を設立したり、2020年度から経営計画の中に「サステナビリティ」を盛り込むようになりましたね。

玉井:はい。ちょっと堅い話になってしまうのですが、重要なことなので、経営理念とサステナビリティの関係を説明させていただきますね。私たちは常々、経営理念を大切にしています。額に飾って大事にするのではなく、一人ひとりが経営理念を理解して行動に反映することを重視しています。経営理念も定期的に見直していて、最近では1年近くかけて社内で討議し、2019年4月に「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける。」に改定しました。柱は変えずに表現を変え、より自分事としてとらえやすくするねらいがありました。また社是として「すべてはお客様のためにある」を掲げ、社会との約束として「5つの価値創造」(お客様価値の創造、従業員価値の創造、取引先様価値の創造、社会価値の創造、株主様価値の創造)を行うことがCSRの実践だと考え、理念を追求し続けてきました。

玉井:そして、今年度から「サステナビリティ」は極めて重要な経営課題という認識の下、経営理念に次ぐものとして位置づけました。「私たちは『生活文化のスタンダードの創造』を目指して、5つの価値創造を通じて持続可能な社会と環境の実現に向け、主体的に行動し続けます。私たちはそれを積み重ねることで世界を豊かにし、輝かせることができると信じています」というステートメントを発信。ユナイテッドアローズ社が持続可能な社会を実現するためにCSRやSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)といった視点を持ちながら5つの価値創造をし続けることが、私たちのサステナビリティだ、ということを明確化したものです。


ユナイテッドアローズ社の社員が取り組む「5つの価値創造」に基づいた働き。

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    (お客様価値の創造) ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング ルミネ横浜店 勝亦 涼さん

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    (従業員価値の創造) 販売支援部・教育チーム 五十嵐 保行さん

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    (取引先様価値の創造) 第二事業本部生産物流部技術課 木島 あゆみさん

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    (社会価値の創造) サステナビリティ推進部 佐藤 由佳さん

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    (株主様価値の創造) IR広報部 河西 美紀さん

松下:社員の方々がどのような思いでCSRやサステナビリティに取り組んでいるのか、その一端をサステナビリティサイトの「スタッフインタビュー」から知ることができますね。数年前からインタビュアーとして協力させていただいていますが、みなさん、企業・ブランド、そして自身が、5つの価値創造のためにどうあるべきか、どう価値を最大化させるのかを真剣に考え、日々の仕事を通じて実践していることがよくわかります。「こんなに真摯に『5つの価値創造」に向き合っているのね」と、恥ずかしながら思わずもらい泣きしてしまうこともあります。もちろん登場されているのは会社を代表している方々なのでとくに優秀なのでしょうが、商談室でも「お客様にとっては〇〇ですよね」という「すべてはお客様のために」を地でいくフレーズがよく聞こえてきますし、販売員の方々を取材する際にも「お取引先様のご協力があってできた逸品なんです。一緒に成長できて嬉しいです」とか、「お客様に喜んで買っていただくことで売上げが伸びて社会に貢献していると実感できるので、UAの販売員でよかったです」といった声が日常的に聞こえてくるので、真面目でいい会社なんだなと実感しています。

玉井:ありがとうございます。社員の教育を担う当社の「束矢大學」などを通じて、何のために仕事をするのか、自分の業務がどのようにお客様や取引先様、社会などに役立っているのかなどを体系化して学び、実践し、自分事化できるような仕組みを長年かけてつくり上げてきました。ここをベースに、CSRからサステナビリティへと進化させるために、企業として取り組みをぐっと進めようとしているところです。

松下:サステナビリティって、本業とは別の形で社会貢献をするものではなく、本業を通じて行うものであり、経営や事業や商品などすべての意思決定と併行する存在、あるいは、「お客様」とともに「サステナビリティ」を企業経営の根幹や中心に据えるべきものだと、私も執筆やセミナーなどの機会を通じてお伝えしてきました。今回のユナイテッドアローズ社の取り組み強化はとても嬉しいですね。

玉井:ちょうど今期が2020~2022年の中期経営計画の初年度で、2030年にありたい姿からバックキャスティングをして中期経営計画を立てました。私たちがこれまで培ってきたお客様との信頼関係のもと、10年後にはライフスタイルに関わる商品・サービス全般を提供する企業に進化したいと定め、その実現に向けた3年間の取り組みとして「Change and Challenge~100年企業に向けた変革と挑戦で、持続的成長と価値創造の実現を目指す」と打ち出しました。これらの討議と並行して、サステナビリティについても外部の有識者の方々のご意見も参考にしながら体系化を図りました。

松下:取り組むべき範囲も広いし、課題も大きい中で、何に注力していくのかを決めるのも重要なことです。どういう手順で体系づくりや順位付けをしたのですか?

玉井: 今後、人口動態の変化や急速な都市化、テクノロジーの進化、消費スタイルの多様化、気候変動と資源枯渇などが想定される中で、これまでは5つのステークホルダー(お客様、従業員、取引先様、社会、株主様)の価値創造をいわば「できるところからやっていこう」というスタンスでしたが、事業活動の中でどんなことから優先的に実践していくべきかを話し合い、世界的に大きな課題である環境問題や社会問題などを掘り下げ、非財務目標を立てました。やはり、2015年に国連で採択されたSDGsが大きな指標になるので、SDGsの開発目標と、日本でのアクションプランや、ファッション業界での施策、これは当社のこれまでの取り組みや他社の先進的な施策がどこに当てはまるのかなどもマッピングしました。

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松下:ESG(環境・社会・ガバナンス)に着目して企業を評価したり投資をしたりする「ESG投資」も本格化しているので、上場企業のユナイテッドアローズ社としては、こちらも大いに意識する必要がありますよね。

玉井:そうなんです。ESGの投資分析で活用されている項目を評価軸でもマッピングしました。そこから、ファッション小売業においてアクションの軸となる重要課題や優先順位を導き出し、28項目の社会課題を抽出。5つのステークホルダーにとっての社会課題の重要性と、私たちの事業活動、経営にとっての重要度がともに高いところから優先的に行うことに決めました。役職者を中心に、社内の93人からヒアリングをし、マテリアリティ(重要課題)評価を行い、マトリックス化しました。ここに社外取締役を中心に、当社に対する期待や、ファッション小売業が進むべき道などについて社外の方々から客観的な意見を聞き、5つのテーマを設定しました。

「サプライチェーン」「資源」「コミュニティ」「人材」「ガバナンス」で、その中に16項目のマテリアリティを設定し、それぞれ目指すゴールのイメージと、短期、中期、長期という目標を設定してサステナビリティ推進の指針を定めています。とくに「サプライチェーン」の「人権と労働環境」や「環境配慮素材」などでポリシーを決めようとしています。「資源」では、「衣料品の廃棄問題」が世界的な課題になっているので、事業活動による廃棄物を減らすことに全社を挙げて取り組んでいきます。

松下:今は服のフォルムや色、柄といったトレンドももちろん大切なのですが、素材の重要性がますます高まっていますよね。エコファーやエコレザーなどはもちろんのこと、脱プラスチックの植物性素材や環境負荷の低い天然素材や生分解性素材、ペットボトルや海洋ごみなどから作られたリサイクル素材、服から服へのサーキュラーエコノミーの実現など、ハイテク素材からナチュラル素材まで、さまざまなエコ素材が登場していますよね。

玉井:商品の調達部門からも、生地屋様や副資材メーカーなど調達先様がどんどん環境配慮型の素材開発を進めていて、展示会などに行くと環境配慮型素材がたくさん提案されていると聞いています。再生ポリエステル糸やオーガニックコットンなどはどんどん当たり前になってきていますし、商品の品番数を見ても増えていると実感しています。


素材から見直すファッション業界のサステナビリティ。

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松下:実は今日、珍しくレオパード柄を着ているんですが、このトップスは100%再生ポリエステルでできているんですよ。エコ素材だからほっこりとか、いかにもスポーツ系のテカテカした合繊素材、という時代ではなくなっていますからね。ただ、これは英国から取り寄せたものなので、輸送途中で排出した環境フットプリントについては気になっているんです。「海外から取り寄せるなら、エコ素材にすることでCO2排出量が抑制されるかな」とか、などいろいろバランスを取りながらファッションを楽しむようにしています。それと、今日持っているバッグはエコレザーなのでエシカルではあるのですが、リアルレザーと比べて生分解性は劣ります。サステナビリティは、すべてにおいて正解という答えはない気がしています。まずは自分たちで情報を取り、学びながら、本質を見極め、社会や環境に良いものを一つ一つ信念をもって選択していくしかないのかなと思っています。

玉井:わぁ、これが再生素材なんですね。私たちも素材に関しても、まずは社内でどれを指して環境配慮素材というのかというところを見極めているところです。動物性素材のファ―や毛繊維などに対しても、どういうふうに調達していきたいのか、ポリシーを話し合っている最中です。

松下:ファッション業界はまさに、過剰生産・大量廃棄が大きな問題になっています。値下げを前提としたモノづくりをやめて適正量を適正価格で販売することや、シーズンレス、タイムレスな商材を作るなど、企画やMD、さらには経営判断にも大きくかかわってくる部分になりますよね。ユナイテッドアローズ社としてはどのように取り組んでいくのですか?

玉井:商品に関しては、入口から出口まで各工程で見直しを行っていきます。調達のMD設計しかり、消化計画しかり。前々から行っている、キズが付いてしまった商品などをリペアして販売する「REプロジェクト」なども推進していますし、モノ作りに欠かせないサンプルの作り方として、デジタルデバイスの活用テストも始まっています。実際にものは作らず、3D上でサンプル生産を行うことで、サンプルに必要な資材や廃棄物が減り、企画・開発から商品投入までの時間が短縮できるなどのメリットがあるものです。

松下:これからは「トレーサビリティ(追跡可能)」と「トランスペアレンシー(透明性)」も重要になりますね。ただし、ユナイテッドアローズ社は、セレクトショップという海外などからの仕入れ販売する小売りの側面と、自主企画商品を企画・生産・販売するアパレルメーカーの両方の側面を持っているので、基準を作ったり、算定したりするのも難しそうですよね。でも、ESG投資でスコアを高めるためには、いろいろな指標を知ったり、数値を開示したりする必要がありますし。

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玉井:数値の開示や、削減目標の提示などはこれまで私たちができていなかったところなんです。今まさに、各省庁から発信されているガイドラインや、MSCI (モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)やメディアなどからのESG関連のリサーチやアンケートなどでよく聞かれる項目などをチェックしながら、CO2の排出量の算定方法などを探っています。脱炭素化をめざす国際的なイニシアチブなども増えていて、そういったところに賛同する形で、サプライチェーン全体で中長期的な目標設定やビジョンなどを遅ればせながら策定できたら良いなと思います。

ただ、おっしゃる通り、サプライチェーンは非常に長くて複雑で、多くの取引先様のご理解やご協力が欠かせません。今回、サプライチェーンの人権や労働環境の尊重もマテリアリティの一つに掲げています。これまで「CSRガイドライン」として取引先様に、児童労働がないこと、強制労働がないこと、国内だと技能実習制度を適切に運用することなど、取引基準をご案内してサインしていただいてきました。その内容をアップデートさせることにも取り組み始めています。トレーサビリティに関しては、長期的には、QRコードなどで、素材がどこで生産されていて、どんな方々がかかわっていて、などの情報を開示していくことがお客様の安全・安心につながっていくと思っています。


ユナイテッドアローズ社が取り組むサステナビリティの今とこれから。

松下:改めて現状のサステナビリティに当たる取り組みとして行っているのはどのようなことですか?

10 お客さまとともに豊かな森を育てる活動 “Reduce Shopping Bag Action”

松下:改めて現状のサステナビリティに当たる取り組みとして行っているのはどのようなことですか?

玉井:〈オデット エ オディール〉で始めたシューズやバッグの下取りや、〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉ではウェアの下取りのほか、ダウンのリサイクルを啓蒙する「グリーンダウンプロジェクト」に参加しています。廃棄食材で染めた「フードテキスタイル」商品や、オーガニックコットンを使った商品なども扱っています。中でも効果を発揮しているのは「Reduce Shopping Bag Action」です。2010年から開始したもので、「ショッピングバッグは不要です」といっていただけると、お客様にポイントバックするとともに、1回あたり10円を森林保全に寄付する仕組みになっています。もうすぐ延べ100万件に達するところで、ショッピングバッグを100万枚削減する計算になります。お客様の生活の中で、無理なく取り組んでいただける活動だと思っています。私たちには小売業としての社会的な役割があると思うので、自然に無理なくお客様が取り組めることというのは重要な視点だと思っています。そして、いいものを長く使っていただけるように、良い商品を提供することや、普遍的な商品を提供していくことにも注力していきたいと思っています。

松下:同じ会社で働いていても、それぞれの立場で興味関心や課題の重要度が異なるというのも難易度を高めていますよね。ちなみに近年は、何十年に1度かの台風や洪水などに見舞われたり、温暖化や山火事、異常気象などが問題になっていますが、私は今回の新型コロナウイルスの問題は、地球からの警告なのではないかとさえ思っています。サステナビリティというと難しそうに感じますが、地球や社会や人が将来的によくなる選択肢を用意したり、それを選ぶことが、企業としても生活者としても重要なことだと思っています。迷ったら「ソーシャルグッド」を合言葉にもの作りや経営判断や購入の判断などをしてもらいたいなと思っています。

玉井:本当にそうですね。当社では、販売部門は社内の人材教育や働き方、気候変動でも店舗の被害という視点の声が多く、商品部門は、素材の調達背景や生物多様性、動物福祉など、かかわる業務と関連が深いところをマテリアリティとして評価する傾向が見られたのが印象的です。サステナビリティを全社で推進し、浸透させるためには、自分と離れた取り組みの理解を高める努力が必要であり、社内PRや社内啓発が大切だと感じました。
これまでお客様やステークホルダーの方々に当社の活動をご説明する手法の一つとして、自社サイトで毎年5人を取り上げ「5つの価値創造」をどう意識して行動しているのか、インタビューを掲載してきました。「サステナビリティをすすめるのはだれか?」「取締役はじめ従業員一人ひとり!」という意識をもって、全社を挙げてサステナビリティを推進していきたいと思っています。

PROFILE

松下久美

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆を手がける。現在はフリーのファッションビジネスジャーナリスト。

玉井菜緒

1999年、株式会社ユナイテッドアローズに入社。情報システム部門にてコミュニケーションツールの企画・運用担当した後、2004年より同社の社会・環境活動の推進に従事。同分野に携わって今年で17年目。

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