ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2016.09.20 TUE.

「引っ張る」ではなく「押してあげる」ヒトを巻き込み場をつくる、坂口修一郎というヒト。

夏の終わり、鹿児島の森の中でおこなわれている『グッドネイバーズジャンボリー』を知っていますか? 音楽、ごはん、デザイン、アート、文学、映画……いろんな「得意」を持つ人たちがジャンルを超えてプログラムをつくり、大人も子供も参加して遊べるお祭りです。地元である鹿児島だけでなく、全国から旅してきたたくさんのグッドネイバーズ(よき隣人)たちが作り上げてきたジャンボリーも今年で7年目。ヒトが作り、ヒトが集い、ヒトへ伝わる。そこで繋がったヒトの輪は回を追うごとに大きくなるばかり。そんな「場」を築き、育ててきた主宰者、坂口修一郎さんは、なにを想い、どんなことを考えているのでしょうか?そんな坂口修一郎というヒトに迫ってみたいと思います。

Photo:Naoya Matsumoto
Interview&Text:Ado Ishino(E)

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あらたな「場」をつくること。30代なかばの帰巣本能。

ーそもそもなぜ『鹿児島』という場所で『グッドネイバーズジャンボリー』というお祭りをやろうと思ったのでしょう?

坂口:『グッドネイバーズジャンボリー』を始めたのは2010年なんですが、準備を始めたのは2009年から。その前の2008年に自分のバンド「ダブルフェイマス」が結成15周年を迎えたのでフェスツアーをやったんです。全部で10本以上出演したのかな。とにかく北から南までツアーして、最後は東京で2000人ぐらいあつめてファイナルのワンマンライブをやりました。その時にふと、自分が演奏すること、ステージに立つ側でいることにこれでちょっと一区切りだなと思ったんです。若いヤツらもいっぱい出てくるし、自分も30代半ばぐらいだったから。これからのことをぼんやり考えた時に、場づくりをする方にシフトしていくことを漠然と思ったんです。じゃあその場はどこで作るのがいいのか。東京はもう街自体がフェスティバルみたいなところだから、これ以上やる必要性を感じなかったんですよ。

ーなるほど。東京にわざわざ新たな場をつくらなくてもいいと。

坂口:そう。だったら自分にとって意味のある場所につくりたいと思って。それはやっぱり鹿児島だよなと。環境が人をつくるでしょ? 鹿児島は自分が生まれてから高校生までを過ごした場所であり、顔かたち、考え方に至るまでいろんな土台を作ってくれたから。鹿児島に場をつくって、自分が東京で得たものを返していくストーリーがとてもしっくりきたんですよね。

ー30代半ばって、いわゆる帰巣本能のようなものが起こるものなのでしょうか?

坂口:僕の場合はじいちゃんやばあちゃんが亡くなったりして、鹿児島に帰る機会が多かった時期でもあった。そうして血の繋がった人がいなくなってしまうことは、自分のルーツが少しずつ切れていくことでもある。自分の親も歳をとっていくし、いま鹿児島で何かやっておかないと、もう帰ってこれなくなるような気がして。東京で20年以上活動しているから、仲間もいっぱいいたんだけど、どこか根無し草のような、地に足がついていない感じを抱えながら過ごしていた自分もいたんです。東京・神奈川・千葉・埼玉という東京圏に3000万人という日本の4分の1ぐらいの人口が集中してるわけでしょう? 自分がその3000万人分の1なのか、鹿児島県人口170万人分の1なのか。その「1」のパワーが同じならば、鹿児島で力を出した方が意味があると思って。

ー鹿児島で、と決めてからの具体的なアクションとしては?

坂口:東京のネットワークをそのまま持ってくるのはよくある方法なんですが、それだと面白くないと思ったんですよ。そう思えたのもフェスツアーの経験から。フェスに出演するアーティストって、レコード会社も含め顔ぶれがだいたい決まってる。6月ぐらいにリリースして、1ヶ月後からフェスにたくさん出てプロモーション、9〜10月にワンマンをやるのが定番化してるわけです。だから北海道のフェスも福岡のフェスも顔ぶれがパッケージ化していくんですよ。そうすると、自分がどこで演奏したのか分からなくなるんです。街のことも知らなければ、街のヒトとも触れ合わない、地元で活動しているアーティストたちと一緒になることもない。地元で活動しているヒトが出演していたとしても、午前中のお客さんがいない時間帯が多いから、それと同じことをやってもしょうがない。だからまず、鹿児島にどんな人がいるのかを、訪ねて歩くことにしました。

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ヒントを探して独り、ヒトを訪ね歩く日々のはじまり。

坂口:こんなこと考えてるんだ、と話すと、みんなよくわからないからふーん、っていう返事が返ってくるんだけど、あそこは面白いから行ってみたら? とだんだん教えてもらえるようになる。それで「しょうぶ学園」(※1)にも行って。

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(※1)しょうぶ学園 / 鹿児島市吉野町にある知的障がい者支援者施設。木工・陶芸・染め織り・和紙・縫いなどの工芸、芸術活動や音楽パフォーマンスなどの創作、表現活動を行う。敷地内にはパン工房やレストラン、そば屋などのフードスペースを地域に解放し、利用する人の個性や適性に応じた制作スタイルを支援。しょうぶ学園のスタンスを学ぶべく、世界中から多くの視察が訪れる。 坂口さんとしょうぶ学園のバンド「otto&orabu」との出会いは、まだ不確かだったグッドネイバーズジャンボリーの構想を一気にドライブさせた。1回目の開催から唯一出演し続けるバンド。

ー最初は単独行動だったんですね。

坂口:ほんとにひとりでしたね。そうして歩いて眺めていると、鹿児島にはいいお店も増えてきてるし、ものづくりをしてる作家もいたりするし、これはもうとても面白いなと。しょうぶ学園もそう。もっと色んな人が知るべきだと思いました。ただどこの地域でもそうですけど、地元の人って、地元のコンテンツを一段低く見る傾向があるんですよね。

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—うん、そうですね。

坂口:曇りのないフラットな目で見ると、しょうぶ学園はむしろ東京よりもズバ抜けたことをやってる。中央で活躍してる人たちと同じステージに立っても遜色ない、もしくは食っちゃうようなパフォーマンスをしていけば、鹿児島の人たちも「鹿児島にもすごいのがいるんだな」と思うはず、あとはそれをどう見せるかはプロデュースの仕方だと思って。2009年から始めて、10か月ぐらいは鹿児島に通いましたね。そんな時、たまたまタイミングよく岡本仁(※2)さんが鹿児島案内の本を作るといって同じような動きをしてたんです。

(※2)おかもと・ひとし /1954年、北海道生まれ。マガジンハウスにて『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの雑誌編集に携わったのち、2009年にランドスケーププロダクツ入社。「BE A GOODNEIGHBOR」プロジェクトなど、同社のカタチのないもの担当。著書に『今日の買い物』(プリグラパブリッシング)、『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』(ともにランドスケーププロダクツ)、『果てしのない本の話』(本の雑誌社)などがある。現在、『暮しの手帖』にて「今日の買い物」、『&Premium』で「果てしのない本の話」を連載中。2016年10月15日には、坂口修一郎との編著書『ぼくらの岡山案内』を発売予定。

ー岡本さんは別で動いてたんですね!

坂口:最初はそうですね。鹿児島出身の中原慎一郎(※3)くん(ランドスケーププロダクツ代表)が岡本さん案内していて、僕も彼から色んな情報を聞いていました。その頃に中原くんが『DWELL』(現『GOOD NEIGHBORS』)ってお店を鹿児島に作って、店にヒトが集まり出したんですよね。共同経営者が僕の高校の後輩だった繋がりもあって僕もそこに顔を出すようになりながら、こういうヒトたちがいるなら面白いことができると確信しました。お店があるんだったら、じゃあ僕はイベントから始めようと。

(※3)なかはら・しんいちろう / 1971年、鹿児島県生まれ。ランドスケーププロダクツ代表。オリジナル家具等を扱う「Playmountain」、カフェ「TasYard」、コーヒースタンド「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」、ギャラリースペース「CURATOR’SCUBE」、ヴェトナム麺食堂「Pho 321 Noodle bar」を展開。また住宅/店舗のデザイン業務、イベントプロデュース/ブランドディレクションを手がける。


同時多発的なヒトのタイミング。森の学校との出会い。

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ー色んなことが同時多発的に起こったんですね。イベントをやろうと決めた後、開催地である「かわなべ森の学校」はどのような経緯で見つけたんですか?

坂口:実は最初、天文館にある中央公園でやろうと思ってたんですよ。

ー今は名称が変わって『テンパーク』と呼ばれるところですね。

坂口:そう。テンパークは鹿児島のカルチャーエリアにあるんです。美術館、博物館、文化センター、中央公民館などがぐるりと取り囲んでいて、言うなればテンパークはセントラルパーク的な存在。そこでお祭りがあって、その周りの文化施設が連動していくようなことが街なかでできたらいいなと思っていたんだけど、行政の壁がありまして。実績は1つもないし、住民票も東京で鹿児島県民でもないから、誰も話を聞いてくれなかった。他にも霧島とか鹿屋とかいろいろ見て回ったんだけど、なかなか条件が合うところが見つかりませんでした。そんな時に中原くんが「かわなべ森の学校」のログハウスをみんなで別荘みたいに使えたら、と借りることになったんです。見に行ってみると、人里から完全に孤立してる場所にあり、ほぼ打ち捨てられたような状態で、地元の人がほそぼそと運営している状況でした。地元の人たちも、内容はよく分からないけどちょっとでも使ってもらえるならと言ってくれて、じゃあとりあえずここで始めてみようと。ただ、あんな深い森までどうやって人を運ぶのかが大問題でした。

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ー1回目開催時、インフラはどうしたんですか?

坂口:車で来る人は直接敷地に入れるようにして、あとはバスを出しました。ただ1回目はよかったんだけど、2回目からお客さんが倍になった。最初は500人以下だったと思うんだけど、その次は800人ぐらいになって、車の台数も倍増。そうなるととても学校の周りには置けなくなっちゃって。それから行政に掛け合って、もう少し離れたところにある運動公園を全部借りて停めてもらうようにしました。

—1回目のお客さんは県内と県外どちらが多かったんですか?

坂口:県内ですね。県外から来た人は知り合いばかり。鹿児島出身でたまたまお盆の後で帰ってきてるとかそんな感じです。森の中でパーティやるから来てよって直接声をかけて。みんなもよく分からないけどとりあえず面白そうだから行ってみるか、みたいなね。

ー運営サイドは大変だったんでしょうね……。

坂口:今は実行委員が20人ちょい、ボランティアが50名、ゴミステーションのスタッフが今年は12名、総勢80人ぐらいだけど、最初は5人ぐらいで全部やってたから、とにかくすごく大変でした。

ー地元との関係性もかなり考えないといけないし。

坂口:そう。やっぱり行き届かない部分も多かったし、地元の人たちも僕らが何をやってるのかよくわからないでしょ? 人家から離れてるから騒音の問題にはならないんだけど、近くを通りかかると大きな音でドンチャンやってるのが聞こえて来るわけだからね。地元の人たちは警戒心が強くて、遠巻きに見ている感じでした。ゴミの問題は相当言われましたね。初回は自分たちが出したものは自分たちで始末したり、お客さんがみんな持ち帰ってくれたりして、僕らはゴミ袋を配るだけでゴミ箱すら設けなかったんだけど、周辺の道にゴミが落ちてるから拾いに来てくれと連絡があって、ジャンボリーが終わった後日にも行ったりしましたね。

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—まだまだ田舎の方はポイ捨て文化は残っていたりしますもんね……。

坂口:「あんたたちが来て大騒ぎするからゴミが増えた」って言われたりしたこともあったんだけど、今はスタッフの人数も多いから周りも全部掃除するし、学校も1年に1回、5〜60人がかりで掃除してるから、7年前に始めた時より建物は古くなってるけど、今の方が綺麗です。そうして信頼されるようになって、「グッドネイバーズがやってくれることで学校が保たれてる」ってみんなが思ってくれる状況にはなりましたね。


ヒトを巻き込みながら場をつくっていくこと。坂口さんのリーダーシップ。

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—場をつくる、って言葉では簡単に言えるけど、とんでもなく大変なことだと思います。これだけの規模に育てながら、運営サイドもまとめ上げる時に心がけていることってあるんでしょうか?

坂口:ダメ出しをしないってことですね。良し悪しを判断して振り分けていくリーダーシップもありますが、僕は任せてしまう。たとえばコンテンツのアイディアを思いついたら、適任だと思う人に振るんです。あとはもうその人の好きにやってもらいます。やってもらっている中で違うなと思うことがあったら「それもいいけど、もっとこっちの方がいいんじゃない?」とディレクションをしていくというか。そうすると任された人も僕に否定されているわけじゃないから“やらされてる感”なく動いてくれるんです。信用してお願いをする時点で、僕の仕事は8割ぐらい終わってるんですよ。

—なるほど。自分ゴトとして考えて動いてくれるんですね。

坂口:そうですね。信頼関係があることをお互いが自覚していれば、そんなに変なことにはならない。むしろ効率は上がると思う。引っ張っていくというよりはストッパーを外して後押しする感じ。そうするとみんなそっちの方に自分の力でどんどん走っていく。僕はその方法にやりがいを感じています。

ー坂口さんはそんなご自分のスタンスを、元来自覚されていたんですか?

坂口:引っ張っていくタイプじゃないのは自分で理解していました。最近知った「サーバント・リーダーシップ」という言葉がとてもしっくりきましたね。

—サーバント?

坂口:サーバントは召使いという意味。召使いのように後ろにいるんだけど、その人がいることでみんながスムーズにコミュニケーションが取れたり行動できるようになって、結果的に集団が意図した方向に向いていくという。組織図でいうと頂点にリーダーがいて三角形のツリー状にするのではなく、僕の場合は逆三角形か横、フラットにして考えている感じです。

—もともと5人から始まった運営チームが今は何十人という規模になっても変わらずに実行できているんでしょうか?

坂口:変わらないと思います。6回目の去年からボランティアの数が増えたんですよ。昨年は30人、今年は50人。というのも、1回目から一緒にやってきた実行委員たちが年齢を重ねてきて、日常の仕事にも責任が増えたりしてジャンボリーで動ける時間も減ってきた。みんなの仕事を減らしていかないと続かなくなってしまうから、お手伝いをしてくれる人を増やそうと考えたんです。あとは何かやりたいけど、どう関わったらいいのかわからない人も結構いたので、こうやって関わってくれたらいいよ、という仕組みをオープンにしてあげたんです。それで去年から“ボランティアサポーター”というチームを作りました。そのリーダーになってくれた末吉くんという子がいるんだけど、彼も1回目から積極的に動いてくれていて、その後独立して鹿児島で採用支援をしている会社を起業したんです。(「GOOD WORK KAGOSHIMA」)じゃあ末吉くんの会社と一緒になってジャンボリーでもチームメンバーを集めたらちょうどいいんじゃない?と話をして。僕がこうしてくれ、と指示を出すよりも、こうした方が彼の仕事にも役に立つし、僕らも助かるし、その方向でやってみて、とお願いしたらもうあとはどんどんやってくれる。そうして全国から意識の高い子が来てくれるから、そこでのネットワークは結果的に末吉くんの仕事にも直結するんです。


今年で7年目。これまでを少し振り返ってみる。

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ー印象に残っているうれしかったことはありますか?

坂口:やっぱりトラブルが起きた時ですね。うまくいってる時は表面に出てこないけど、トラブルになってテンパってる時って、ヒトの地が出るでしょう? 去年、初めて救急車が来たことがあって。

ーお客さんのトラブルですか?

坂口;そう。お客さんがひっくり返ってケガをしたんですよ。その時、僕が指示を出す前にバーッと実行委員が集まってどんどん処置して、現場の状況を見て救急車両のオーガナイズまで全て仕切ってしまった。サッカーやラグビーの試合って、監督が指示しなかったからゴールしませんでしたなんてチームはないでしょう?無言でパスを出したら誰かが走って、信頼のもとにパスを出す。何も言わなくてもみんなが動いて、あそこにはあいつがいるこいつがいるってダーっと手配した。結果、ケガをした人も全然問題なかったんです。ああ、これはいいチームになったなあと思いました。

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—逆に苦労したことは?

坂口:1回目から3回目ぐらいまでは、もちろん収支的なこともあるけど、やっぱり理解してもらうのが大変でした。みんなフェスだと思ってるから「なんでこんなに地味なの?」とか「有名人がぜんぜん来ないじゃん」とか「もっと5〜6組ぐらい有名人が来るのがフェスでしょ」みたいなことを言われたりして。「だからフェスじゃないって言ってるでしょ!」ってね(笑)。鹿児島でも面白いことをやってる人たちがいっぱいいるから、メシが作れるヒトはメシをつくる、絵が描けるヒトは看板の絵を描いたり教えたりする。その中に音楽ができるヒトがいたりする。 “みんなの得意を1品持ち寄る”ようなフラットな祭り。それがコミュニティのお祭りだし、それを目指してるんだよね、といくら言ってもふーんって感じでしたね。

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ー自分もそうだったのですが、やっぱり来なきゃわからないですね。

坂口:そうそう。今でもそうですよ。来ないとわからないと思います。外から見てると、なんだからこじんまりとした、この感じはなんなんだろうと思うのかもしれないですね。


名は体を表す。「グッドネイバーズジャンボリー」にこめた想い。

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坂口:最初にイベントのタイトルをすごく悩んで、岡本さんに相談したんです。陶芸の作家がいたり絵描きがいたり、ミュージシャンがいたり物書きがいたり、食べ物を作るヒトがいて、みんなフラットに自分ができることで参加して交流するような、フェスティバルというよりも場所、本当の意味でのお祭りみたいなことがやりたいんですって話をして。「個々がそれぞれ自立しながらお互いを尊重してリスペクトし合う関係って、グッドネイバーズって感じだよね」と岡本さんが言ったんですよ。でもグッドネイバーズフェスティバルだと違うから、他の表現を考えていて、ボーイスカウトのお祭りである「ジャンボリー」ってどうかなと話したら、岡本さんも「いいね」と。そうして僕も岡本さんに後ろから押してもらって名前が決まったんです。

—「よき隣人」ってものすごくいい言葉ですよね。

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坂口:日本だと、「近隣の騒音に注意して静かにしてください」と禁止する方向で書くことが多いでしょう?でもアメリカに行くと「BE A GOOD NEIGHBOR」と書いてある。「よき隣人たれ」という意味で、いろんな解釈ができると思うんだけど、たとえば騒音を出してうるさい人がいる。隣の人が迷惑だから静かにしなさいというのはひとつの答えでしかない。じゃあその人も呼んできて一緒に楽しくしてしまったら、うるさいという問題ではなくなって、よき隣人になることも、もうひとつの答え。そんな注意の仕方というか考え方はフラットでいいなあと岡本さんの話を聞いた時にとても合点がいったんです。

—「名は体を表す」というように、みなさんの関係性もそうですよね。

坂口:そうそう。中原くんも最初からすごく後押しをしてくれました。1回目の開催の時、ランドスケープの社員旅行を鹿児島にして「グッドネイバーズジャンボリー」にも入場料を支払ってきてくれて、イベントも全部ボランティアみたいにして手伝って、さらには出店もしてくれて。その売り上げも全部、応援してるからって渡してくれたりして。

ー心意気がたまらないですね……。

坂口:岡本さんも中原くんもそうやって僕の背中を押してくれたんですよ。だから僕もみんなにそうしようと。そんなヒトからヒトへの連鎖を7年やって、今みたいな感じになってきました。

—いやあ、素敵ですよ。

坂口:魅力的なコンテンツを揃えたからみんな来てください!と引っ張るんじゃなくて、みんなが気づいてないけど「めっちゃこのヒトいいんだよ」「隣でお茶飲んでるけどさ、実はこのヒトものすごく料理が上手なんだよ」ってこっちが見つけて、彼や彼女の背中をポンと押してやると、みんなもああそうなんだ!ってそっちに向かって走っていく。そんな感じだと思いますね。


出店しているヒトたちも「グッドネイバーズ」

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ーとにかく出店しているヒトたちが和気藹々としているのが他と違うなあと思いました。日本酒屋さんが隣のお店のワインを飲んでいたり(笑)。出店するための面談とかもあるんですか?

坂口:そうですね。今はそれぞれの担当者がやってるんですけど、ありがたいことにこれだけ続けていると出店したいというお話は沢山頂きます。でも1度も来たことないヒトはまずお断りしています。1回は遊びでいいから来てみて、それから一緒にやれそうなことを提案してもらう。それに対して僕らが逆提案をする。こういう形だともっと盛り上がるよって。それだとできない、というお話になったらお断りさせてもらっています。

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—なるほど。質を保つというのはそういうことも必要なんですね。

坂口:やっぱりダメ出しをするのはラクなんですよ。やろうとしているヒトに「それじゃダメだよ」と言ったら、ダメな結果が出た時に「ほらダメだったでしょ」と言えばそれで終わり。じゃあ「いいね、やりましょう」と言ってダメな結果だったら、いいねと言ったヒトが責任を負わなきゃいけない。責任が伴うってことは、こうした方がいいという方向にディレクションして一緒につくっていかないといけない。でも売り上げ重視でいくと、周囲は商売敵みたいになって、自分のところを目立たせて他では買い物しないように囲い込むでしょ?それって全然BE A GOOD NEIGHBORじゃないんです。お客さんが「こんなのが欲しい」と言ってきたら「それだったらあっちのお店にあるよ」って教えてあげるほうがいい。そんな関係がつくれるヒトに出店してもらってるんです。


「グッドネイバーズジャンボリー」のユニフォームを手がける〈グリーンレーベル リラクシング〉とのステキなカンケイ。

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坂口:3回目を迎える2012年に、岡本さんの紹介でグリーンレーベルに協力のお願いに行ったんです。まだ3回目だったし、グリーンレーベルの人たちもあまりピンとこなかったというか、わからなかったかもしれないんだけど、やりたいことや2回目までの話を一生懸命話したら、ぜひ協力しましょうと言ってくれたんです。そこからオフィシャルTシャツの制作を、協賛という形で取り組みが始まりました。デザインはメイドイン鹿児島、つくるのはグリーンレーベル、Tシャツは販売もしようということにして。

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—今年のグリーンレーベルはオフィシャルのTシャツを使って面白いワークショップをやってましたね。

坂口:今年はUAが歌いに来てくれたこともあったから、彼女のルーツである奄美大島の泥染をフィーチャーするのはどうかと。白地に白のプリントのTシャツをグリーンレーベルにつくってもらい、お客さんが自分で好きな色に染めるというワークショップにしました。ジャンボリーのTシャツを協賛してくれているグリーンレーベルだからこそ、ここでしかできないコトになりましたね。お客さんからの人気も高くて、僕も染めたかったんだけどとてもそんな時間があるわけもなく(笑)。

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—今年のTシャツはメッセージがアレンジされていますね。

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坂口:いつもは「Beautiful Day in Kagoshima」とパンチラインを入れてるんですが、今年は熊本と大分の名前を入れました。鹿児島にとって熊本も大分も隣人の県。今回の震災は、火事や津波、放射能もなかったんだけど、その後選挙やオリンピックなど大きなニュースが続いて、 今はほとんど報道されなくなってしまった。でもまだまだ大変な思いをしている人がいっぱいいる。隣の県のことなのに、報道されなければ人はすぐに忘れてしまうけど、一番大事なのは忘れないってこと。気に留めていればそのヒトの行動が少し変わるから。ジャンボリーにも熊本と大分のヒトは出店してくれたし、ここで繋がって関係が継続するのが一番の支援になる。募金するだけだとその場で終わってしまうけど、友達になって、もしもう一回強い地震があったりしたら、あの人は大丈夫かなって支援とか堅い言葉で言う前にヒトは何かしようとするから。そんな思いもあってパンチラインを変えたんです。明日は我が身。今度は鹿児島で何かあるかもしれない。そんな時に熊本大分が大丈夫な状態だったら助けてくれるだろうし、10年後「あのジャンボリーで交流が始まったよね」って言葉が交わされたらいいなという思いで今年のジャンボリーにも臨んだので。Tシャツのデザインについてグリーンレーベルに話をしたら、彼らももちろん!と言ってくれました。それで今年のTシャツに関しては、グリーンレーベルの全国の店舗
で販売して、その売上の半分は中央共同募金会に寄付し、平成28年熊本地震被災地支援に充てられることになったんです。

—ステキですね!

坂口:しかも僕がお願いしたんじゃなくて、グリーンレーベルが自らやってくれたことだったんです。こういうのはどうですかと言ったら、会社をまとめて動いてくれた。上場している会社が、1イベントのTシャツを作って、売上を会社として寄付するって大変なことだと思うんだけど、それをすぐにやってくれたのはとてもステキだと思いますね。


坂口修一郎とグッドネイバーズのこれから。

—こうして鹿児島に場を築いて、東京とのバランスをどう考えていますか?

坂口:刺激もたくさんあるし、ネットワークは東京にいる方が絶対に広がるんだけど、40代も半ばになってくると、東京のハイストレスな環境というのがだんだんしんどくなってくるんです。いま年間で130〜140日ぐらい鹿児島にいる計算なので、バランスが取れているのかもしれないですね。東京の仕事も鹿児島の仕事もしているし、他の地方の仕事もできているので。

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—ここに来てあたらしいバランスが見つかってきた感じですね。

坂口:鹿児島にいるとストレスがないんですよ。温泉に行ってゆっくりできるし、仲間もたくさんいるし。でも東京にも戻って、鹿児島どっぷりになることなくジャンボリーのことを語りかけることで全国からヒトが来てくれる。彼らも鹿児島を好きになって、鹿児島のヒトたちとも仲良くなってくれるから、パイプ役にはなれてるのかなと思います。鹿児島に完全に移住してしまうとそういうことは少しずつなくなっていくと思うけど、自分がいまは移動し続けているからそれができているのかなと。僕だけじゃなくて中原くんも岡本さんもすごく移動してる。最近は「移住ブーム」なんて言われてるけど、移住って移動して定住することでしょ? だけど僕らの場合、ほんとに移動の中に住んでるから、これがほんとの移住なんじゃないかなって(笑)。

—これからのグッドネイバーズについてのビジョンを聞かせてください。

坂口:鹿児島は特に古い建物があまり存在していなくて、昭和8年に建てられた森の学校ってけっこう貴重なんです。それを年に1回借りて、もとより綺麗にして戻すということをずっとやってきたんだけど、もう少し踏み込んで、次は積極的に保存していく動きがしたいなと。7年かけて信頼関係ができているので、地元のヒトたちと一緒に森の学校を活用できるようなことを考えていきたいと思っています。ジャンボリーが終わって、撤収の作業もすべて終わった後、僕は1人で最後のチェックに行くんです。地元の村長さんに挨拶をして、誰もいない講堂で昼寝するんです。来年はどうしようかなってぼんやり考えながら。そうして東京に戻るのが毎年のルーティン。この先どれぐらいやり続けるのかわからないけれど、いいバランスの中で生きていけたらいいなと思いますね。

INFORMATION

ヒップなファッション、カルチャー、ライススタイルを標榜するWEBマガジン「フイナム」でも、「グッドネイバージャンボリー」についての記事を掲載しています。こちらも合わせてごらんください。

http://www.houyhnhnm.jp/feature/10729/

PROFILE

坂口修一郎

1971年生まれ。鹿児島県鹿児島市出身、東京在住。BAGN inc,代表。1993年、無国籍楽団 ダブルフェイマスを結成し、トランペッターとして活動。2010年より故郷である鹿児島で「グッドネイバーズジャンボリー」を主宰。ランドスケーププロダクツ内にディレクションカンパニー「BAGN inc.」を共同設立し、幅広いジャンルのイベントプロデュースを多数手がける。

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