
ヒト
2018.07.03 TUE.
ユナイテッドアローズ諸田佳宏が行く。京都絞り染め工房。
ユナイテッドアローズで毎年展開している日本の心、浴衣。毎年新作が登場するなか、2017年からは京都の絞り染め工房「いづつ」に、オリジナル浴衣を染めていただいています。絞り染めとは布の一部を縛ったり、巻いたりすることで生地に圧力をかけ、染料の侵入を防いで模様を作り出す染色技法。その作業工程は、江戸期からほとんど変わっておらず、すべてが手作業というアナログの極み。ユナイテッドアローズ和装担当、諸田佳宏が「いづつ」を訪ね、浴衣で人気の雪花絞りや絞り染めの奥深さ、さらなる可能性についてお話を伺いました。
Photo:Takahiro Michinaka
Text:Junko Amano
ここ数年、浴衣で人気の板締め雪花絞り。
京都の伝統工芸品のひとつである絞り染めは、古くから世界各地で生まれ、7世紀頃には日本に伝わってきたそう。奈良時代には衣服の模様を染めるようになり、江戸時代には多くの技法が完成し、100近い技法が今に伝えられています。「いづつ」は明治25年、絞り染め専門店として創業しました。京友禅や絞り染め業界では昔から分業制が一般的で、「いづつ」でも、5代目である山田智久さんが入社するまでは各工程を専門の職人に発注する形をとり、自社では制作をしていなかったそうです。
山田:家業に入ったのが2003年。その頃絞り染め業界は、需要の低迷に中国製品との競合が加わり失速していました。腕のある職人さんも次々と廃業に追い込まれていましたし、よそと同じことをしていたらダメだと思い、うちにしかないものを作るため、私なりに創作をはじめました。
諸田:何年も前から、板締め雪花絞りのオリジナル浴衣をやりたいと思っていたのですが、手を付けられずにいました。しかし、その想いが日を増すごとに膨らみ、2017年に山田さんを紹介していただきました。初めて工房を訪ねたとき、実際に染めている工程を見せていただきすごく感動して、「ぜひ弊社の浴衣を染めていただけませんか」とお願いしました。
板締め絞りで同じ柄をつくるのは至難の業。
山田:板締め絞りとは、折りたたんだ布の間に型板を挟んで固定することで、型板に触れる部分を防染し、折り目や端を染料に浸して染める技法です。そのため、布の間にどんな形の型板を挟むかによって、柄が変わりますし、型板を挟まず、両端のみ板で固定して、折り目や端を染色すれば、雪花絞りと呼ばれる花が開いたような柄になります。
諸田:山田さんに出会って、板締め絞りと一口に言ってもさまざまな柄に染められることを知りました。
山田:布を乾いた状態で染色するのか、水に濡れた状態で染色するのかでも柄の出方が変わってきます。例えば紺色に染色する場合、乾いた状態で染色すると、紺色から水色のグラデーションで染まっていきますが、水に濡れた状態で染色すると染料が入っていきにくいため、地色の白と紺色にパキッと分かれて染まります。
諸田:板締め絞りは、反物ごとに個体差がでて当たり前と言われているのに、山田さんの染められる反物はどれも同じクオリティーに仕上がっていて、その美しさにため息が出ます。
山田:たたみ方や板の締め具合、色の付け方で色の出方に変化が生じます。だからこそ板締めで何枚も同じ柄に染めるのは、実はとても難しいんです。諸田さんから板締め雪花絞りの依頼をいただいた当初、実はこんなにたくさんの枚数を同じ柄で染めたことがありませんでした。でも、これまでの経験から、柄をコントロールできる自信と技術を身につけていましたので、お受けしました(笑)。
諸田:私も、お受けいただけてホッとしました(笑)。
伝統の技と新技術を融合。未来へ繋ぐ絞り染め。
諸田:2017年は山田さんに、雪花絞りの女性用浴衣をお願いましたが、今年は女性用に加え、男性用もお願いしました。後継者不足に悩む和装業界では、山田さんは若い方。だからこそお願いしたいと思いました。
山田 プレッシャーですが(笑)、とてもありがたいです。
諸田:伝統はとても大切ですが、そこだけにとらわれすぎたくなくて。ユナイテッドアローズの和装は、まだまだ新しい取り組みだと思っています。だからこそ、「これはどう?」「こうやったらどうなるの?」と疑問を投げかけたいですし、商品開発に日々取り組んでいらっしゃる山田さんなら柔軟に対応していただけ、ユナイテッドアローズらしい浴衣を染めてくださると思いました。
山田:来年以降に向けて、まだ公表していない絞り染めのレパートリーがありまして。板締めの場合、布に挟み込む型板の形を変えれば、柄は無限大に広がります。アイデアを思いついたらまずはイラストレーターを使い、PC画面で染め上がりをシミュレーションしてみます。そして、イメージが固まったら、実際に試し染めしてみるんです。
諸田:まさに伝統と現代技術の融合。そこなんです。山田さんにお願いした理由は。
山田:板締めする際、通常は昔ながらの木の板を使うのですが、うちは透明のアクリル板を使用しているのが強みなのかなと。何故ならば、アクリル板なら好きな形に削ってもらいやすく、何より透けて見えるので、布がどこまで染まっているかを直で見て確認できるので、思い通りの柄に仕上げられるのです。
諸田:日本の技術はとても素晴らしいです。さまざまな世代の方に、もっと浸透してもらえたらと思っています。外国の有名ブランドやデザイナーが日本の技術を取り入れ、日本に逆輸入されてはじめて日本の伝統が注目されることもありますが、日本の会社がきちんと伝えていかなくてはと思っています。もし弊社の浴衣を着ていただくことで、絞り染めに興味が湧き、さらに掘り下げていくうちに伝統工芸や日本の文化など、いろいろなことを知って楽しんでもらえたら、これ以上に嬉しいことはありません。
INFORMATION
PROFILE

山田智久
明治25年創業、京都市下京区にある絞り染め専門店「いづつ」の専務取締役。芸大の染織科を卒業後、京友禅の工房での修業を経て、2003年、25歳の時に家業に就く。「よそにはないものをつくりたい」との想いから、山田さん自らが絞り染めを行い、現代の暮らしに寄り添う商品を展開。そのほか、テレビドラマの衣装制作や絞り染め教室など、絞り染めを未来に残すため、さまざまな仕事に取り組んでいる。

諸田佳宏
1961年静岡県生まれ。ミシン販売を生業としていた父親、洋裁の先生であった母親の影響で幼少から洋服に興味を持ち、学生時代からアパレル業界で働く。さまざまな会社を経て2003年にユナイテッドアローズ入社。現在は、和服や洋装のフォーマルウェアのスペシャリストとして、バイイングや商品企画に携わる。