
ヒト
2019.08.08 THU.
画家ジャンルイジ・トッカフォンドのあくなき情熱は、
今オペラにも注がれている。
ユナイテッドアローズの30周年キャンペーンビジュアルを描いてくれているイタリア人画家ジャンルイジ・トッカフォンドさん。前回の記事では20年前のユナイテッドアローズとの初仕事にまつわるエピソードや、当時から今に続く株式会社サン・アドの葛西薫さんとの関係性などについてローマでインタビューに答えてくれているが、ここでは氏の知られざるもうひとつの“顔”にフォーカス。実はボローニャとともにローマにも拠点を置く最たる理由が「オペラ」。トッカフォンドさんは現在、アニメーションや映画、絵本、広告のみならず、伝統的な舞台芸術の世界でもそのクリエイティビティをいかんなく発揮しています。そんな氏とオペラの関係性を、現地取材時に撮影した数々のドキュメンタリー写真とともに紐解いていきます。
Photo_Shunya Arai(YARD)
Text_Kai Tokuhara
ローマの市内中心部にある「ローマ歌劇場」、通称「ローマ・オペラ座」。演劇と音楽で構成されるオペラは言わずもがなイタリアにおいて非常にポピュラーな舞台芸術であり、人々が“日常の中の非日常”を楽しむために欠かせない文化のひとつ。そのローマにおける拠点がここオペラ座だ。1880年から市民たちに親しまれてきた由緒あるランドマークでは現在、外壁やエントランスの告知ポスターから館内の様々な壁に額装展示された作品の数々まで、いたるところでトッカフォンドさんの作品を目にすることができる。また配布されている公式プログラムやパンフレットのメインビジュアルまですべてトッカフォンドさんが描いた絵だ。
しかし氏とオペラの関わりは、オペラ座への作品の提供にとどまらない。トッカフォンドさんは、数年前から自らオペラそのものの舞台制作にも携わっているのだという。
「ファビオ・ケルスティッチという若い舞台監督がオペラに関わるようになってから、私も一緒に作るようになりました。ただ私が携わっているのはオペラ座といった大きな会場でのオペラではなく、よりオープンな場所でのオペラ。トラックで舞台そのものを文化活動が届きにくい街外れの貧困地帯などに運び込み、近隣の住人の皆さんに無料で観てもらうという活動を行なっているのです。
ローマを拠点に、時にはシチリアのパレルモまで足を運びます。トラックを停めて後ろのキャビンの扉を開くとそこはもう即席の舞台。毎回20人ほどのオーケストラと指揮者も同行して生演奏し、舞台の背景に設置したスクリーンからは私の描いたアニメーションが流れるのです」
そして今回、幸運にも取材チームのローマ滞在中に公開直前の「トラック・オペラ」の最終リハーサルが行われた。ここからはその様子もお届けしていく。
実はトッカフォンドさんが手がけているのは舞台のスクリーンに映し出されるアニメーションだけではない。キャスティング、各出演者のキャラクターイメージ、舞台デザイン、衣装、ヘアメイク、そしてプロップのデザインなど作品にまつわるありとあらゆるディテールをトッカフォンドさん自身がディレクションしているというのだ。
4時間近くにも及ぶ濃密なリハーサルが終了後、出演者やオーケストラ奏者、スタッフたち1人1人を暖かい笑顔とハグで労う姿が印象的だったトッカフォンドさん。いわば“ブラックユーモアが効いている”とも表現できるシニカルな絵の作風からは想像もできない、情熱的かつピースフルなパーソナリティを我々に垣間見せてくれた。
トッカフォンドさんは前回の記事でも、「今回のユナイテッドアローズ30周年のキャンペーンビジュアルには、20年前にユナイテッドアローズのために描いた絵の作風は生かしながらも今オペラの活動から得ているインスピレーションもしっかり投影されている」と語ってくれていたが、ここで公開した写真の数々と、新しいユナイテッドアローズのキャンペーンビジュアルを見比べていただくと、より作品に込められたメッセージや空気感をダイレクトに感じ取っていただけるのではないだろうか。
PROFILE

1965年サンマリノ生まれ。ウルビーノ美術学校で学んだ後に短編アニメーション作家として活動。89年に発表した『La coda』がトレヴィゾ、オタワ、ザグレブなどの映画祭で入賞し、その後も数々の作品が世界中の映画祭で評価を受ける。98年に手がけたユナイテッドアローズのアニメーションCMや広告ビジュアルは翌99年にADCグランプリを受賞。現在も多くの有名映画のタイトルアニメーションや絵本、企業広告などを手がける一方、近年はローマを拠点にしたオペラ制作活動にも情熱を注いでいる。