ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

装いを完成させるアイテムとして注目すべきヴィンテージウォッチ。

モノ

2023.01.26

装いを完成させるアイテムとして注目すべきヴィンテージウォッチ。

世界的な高級時計ブームが加熱する最中、普遍的なデザインを備えたヴィンテージウォッチへの評価が高まっています。そこで今回は、ホディンキー ジャパン編集長の関口 優さんをゲストに迎え、ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 セールスマスター永井 康夫さんとの対談から、ヴィンテージウォッチ特有のファッションとの親和性、プロダクトとしての唯一無二の魅力ついて、様々な角度から解説します。

Photo:Shoichi Muramoto(BYTHEWAY)
Text:Tsuneyuki Tokano

ドレスに特化したヴィンテージウォッチのセレクトが新しい。

画像 ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 3Fのヴィンテージウィッチコーナー

ーセレクトショップでヴィンテージウォッチを取り扱うこと自体は珍しくないと思いますが、〈ユナイテッドアローズ〉六本木ヒルズ店のドレスウォッチに特化した提案はとても新鮮に映ります。


永井:店舗の立ち上げにあたって、〈ユナイテッドアローズ〉がスーチングから始まったレーベルであることを踏まえて、原点に立ち返るという想いからドレッシーな装いに似合うことを前提にセレクトしたヴィンテージウォッチをコーナー展開することになりました。オープンから7年経ちましたが、薄型のドレスウォッチという基本軸はブレずに新しいエッセンスを取り入れるようにしています。


関口:すごく面白いセレクトですよね。ここに並んでいる腕時計は日常的にドレスアップを嗜んでいた当時の富裕層に向けられたデザインが中心で、ほかではまず見られない提案だと思います。

画像 ホディンキー ジャパン編集長の関口 優さん

永井:ありがとうございます。私たちはシューズやベルトと同じようにファッションの一部として腕時計を楽しんでいただきたいと思っています。なるべく腕元だけが目立つスタイルは避けたいので、その時々の装いに馴染む提案を心掛けるようにしています。逆も然りで腕時計を軸に服や靴を選んでいくアプローチも積極的に行っています。



関口:ここに来れば、スーツやジャケットを着るために必要なアイテムがすべて手に入る。これは時計好きにとっても有り難いことだと思います。個人的にもファッションのプロが考えるヴィンテージウォッチを軸にしたコーディネイトはすごく気になります。腕時計も服と同じように、その人に似合っていた方が素敵に見えますから。

画像 正統派のスーチングには、ルールに従って、ラウンドケースのドレスウォッチを合わすのが正解。ネクタイの色を拾って、ブルー系のストラップに付け替えるのも◎。

画像 複雑機構を搭載したラグジュアリーな角型時計を軸に考えられたスタイリング。イエローゴールドの色味と合わせて、ジャケットとシューズは温かみのあるブラウン系を選んでいる。


ヴィンテージウォッチ特有のサイズ感について。

ードレスウォッチを店頭に並べるうえで、なぜヴィンテージがしっくりくるのか。その理由が気になります。


関口:一口にドレスウォッチと言っても今は多様化していて、オーソドックスなゴールド製のラウンドケース以外の提案が増えています。しかもここに並べられているケース厚が7mm以下のドレスウォッチは、現行モデルではほとんど見掛ける機会がありません。しかも2針になると、さらに選択が限られます。

永井:なるほど。そのような見方があるわけですね。腕元を演出する際、時計のサイズ感は重要なポイントになってきます。極薄ケースのヴィンテージウォッチにこだわる理由はそこにあります。たとえば、〈オーデマ ピゲ〉のロイヤル オークを選ぶにしても、コンパクトかつ薄型に設計されたヴィンテージのクォーツモデルだと、具体的な理由までは分からないのですが、不思議と艶っぽく見えます。

  • セレクトの中心は極薄のラウンドケースを用いた2針か、3針のドレスウォッチ。

  • ドレスウォッチ以外にも個性的なスポーツウォッチや複雑機構搭載モデルも並ぶ。

  • 特注のストラップは時計に合わせて革の厚みやステッチの有無などを調整している。
関口:腕時計で時間を確認する必要すらなくっている今、腕時計にはコミュニケーションツールとして役割が求められていて、自己表現の一部を担っています。腕時計を身につけている人の所作や佇まい、そこでのトータル的なバランスから色気がにじみ出るのかもしれません。

永井:それは確かにあると思います。腕時計をひとつのアクセサリーとして捉えた場合、サイズが大きすぎると主張が強すぎてしまって、服とのバランスがちぐはぐになってしまうことがあります。その点、小ぶりなヴィンテージウォッチは控えめな印象が作りやすいです。

関口:サイズ感の好みは年齢やトレンドにも影響されてくると思います。僕も以前は大きなサイズの時計を好んで着けていましたが、ここ数年でだいぶ変わりました。今日つけている〈チューダー〉のブラックベイ フィフティ-エイトは、現行モデルでは小ぶりな部類に入る39mm径。ヴィンテージのエッセンスをふんだんに取り入れていて、腕に馴染みやすい雰囲気があります。このところ、メンズウォッチは小径化の傾向がありますが、真逆にレディスでは大きなサイズの提案が盛んになっています。

画像 関口さんが着用しているのは、ホディンキーの関係者のために100本限定で製作された〈チューダー〉のブラックベイ フィフティ-エイト。

永井:実はうちの店でも海外から時計を見に来られる女性のお客さまが増えていて、デイリーに着用するためのファッションアイテムとして、メンズサイズのヴィンテージウォッチに注目が集まっています。

関口:同じ時計でも時代が変わることで違う角度から楽しめる。とても興味深い話です。

装いを完成させるオンリーワンの1本が見つかる。

ーここで改めて、おふたりが考えるヴィンテージウォッチの魅力について教えてください。


関口:ヴィンテージと呼ばれる多くの腕時計は、スイスの時計産業に壊滅的な打撃を与えたクォーツショックが起こる前の1970年代以前に作られたものが該当します。当時は今のような機械もなかったので、当然手作業の工程も多くなりますし、何より完成までに至る時間のかけ方が違っていて、それがクオリティに反映されています。その顕著な例が、1950年代以前に作られた〈パテック フィリップ〉などの超一流と呼ばれるブランドが手掛けた高級時計。あらゆる面で最高レベルの手仕事が施されています。

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永井:人と被らないうえに、何十年も前に作られたプロダクトを日常的に使えるヴィンテージウォッチに私も長年魅了され続けています。地元の福岡で20代前半で〈ロレックス〉のオイスターデイトを手に入れて以来、腕時計はヴィンテージ一辺倒です。今でもよく覚えていますが、20代後半の頃、〈ジャガー・ルクルト〉のレベルソがすごく欲しくて…。当時の私には高価で買えなかったのですが、ちょうどその頃に〈ハミルトン〉で酷似したデザインの反転ケースのモデルを見つけました。このような珍品が見つかるのもヴィンテージウォッチの醍醐味です。あれから一度も実物を見掛けていないので、今思うと買っておけばよかった(笑)。

画像 永井さんが長年愛用している1950年代に作られた〈ロンジン〉のクロノグラフ。時計愛好家の間で名キャリバーと謳われるCal.30CHが搭載されている。

関口:その手の話はよくありますよね(笑)。当時のスイス時計業界は、ムーブメントやケース、ブレスレットなどのパーツの専門メーカーからブランドが供給を受けて時計を製造するという構造で、いわゆるサプライヤーが産業を支えていました。ブランドが違っていても同じようなデザインをよく見掛けるのはそのためです。餅は餅屋のよさがあった一方、デザインに対するプライオリティが低かったので、ファッションデザイナーのようなポジションが生まれにくい環境でした。また、現行モデルとの一番の違いといえば、経年変化ではないでしょうか。同じ品番の時計でも個体差が生まれることでオンリーワンの1本が見つかる。今日見せていただいたドレスウォッチも唯一無二の味わいが感じられます。

画像 ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 永井 康夫さん

永井:ファッションとして楽しめることはもちろん、自分だけのストーリーを語ることができる。まさに装いを完成させるアイテムとして、ヴィンテージウォッチはこれ以上ない存在だと言えますね。

関口:機械式時計は資産性があり、なおかつ古いものは減る一方だから、今後もヴィンテージウォッチの評価が上がり続けていく可能性は高いはずです。今はスポーツウォッチが最盛なので、状態のよいものはどんどん市場から消えているような状況でもあります。今のうちに目先を変えてドレス系のヴィンテージウォッチは注目する価値があると思います。

PROFILE

関口 優

関口 優

ホディンキー ジャパン編集長
1984年生まれ、埼玉県出身。新卒より出版社に入社し、2014年からスイス・バーゼルでの取材に赴き、2016年より腕時計専門誌編集長に。業界最年少編集長にして同誌を専門誌売上NO.1に導き、2019年9月よりホディンキー ジャパン編集長に就任。
https://www.hodinkee.jp/

PROFILE

永井 康夫

永井 康夫

ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 セールスマスター
1997年入社。〈ユナイテッドアローズ〉福岡店へ配属。その後ドレスバイヤーを経験後、原宿本店・ザ ソブリンハウス・六本木ヒルズ店・新宿店で勤務。3年前に『セールスマスター』に認定され、現在は都内店舗を中心にセールストレーナーとして巡回している。

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