ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2020.04.10 FRI.

お客様の声を起点に新しいアイテムが誕生しました。

“ひとりの悩みから生まれた、すべての人に心地いい服”をコンセプトに、2018年から始まった新レーベル〈UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.(ユナイテッド クリエイションズ オーフォアワン ウィズ ユナイテッドアローズ、以下UNITED CREATIONS)〉。3年目を迎えたこの春、ラインナップに待望のニューアイテム「スタイにもなるZIP Tシャツ」が加わりました。今回のプロジェクトは、レーベルに寄せられた数多くのお客様の声を起点にスタートしたといいます。そんな“一人一人の悩み”に寄り添うスタイづくりに挑んだ開発チームの3人に、制作秘話や商品に込めた想いを聞きました。

Photo:Raihei Okada
Text:Risa Shoji

デザイン性と機能性に優れた「男の子用スタイ」。

2020年4月、UNITED CREATIONSの新たなアイテムとして登場する「スタイにもなるZIP Tシャツ」。こちらはUNITED CREATIONSで大好評の“スタイにもなる”シリーズ第2弾として開発されました。一見、スポーツウェアのように見える洗練されたデザインに、高い吸水性や速乾性など優れた機能性を兼ね備えた画期的なアイテムです。

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スタイの開発メンバーは、生産管理を担当した若松攻佳、デザインを担当した稲沢日南子、そしてMD担当の竹田さなえの3名。今日はUNITED CREATIONS発足当初より、有志メンバーとして参画してきた彼らに「スタイにもなるZIP Tシャツ」の誕生から完成までの道のりを振り返ってもらいます。


開発のきっかけは男の子用スタイを熱望するお客様の声。

―まずはみなさんがUNITED CREATIONSに参加したきっかけを教えてください。

稲沢:私には発達障がいのある息子がいるので、日頃から病気や障がいのある人のために何かできないかと考えてきました。そんなときUNITED CREATIONSの立ち上げを知り、自分の得意分野を生かして社会に貢献できる機会として、ぜひ取り組んでみたいと思いました。

若松:私の実弟にも自閉症という障がいがあります。そのため福祉の分野には以前から関心を持っていて、社内でプロジェクトの有志を募っていると知ったときは、すぐに参加を決めました。

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稲沢:そもそもプロジェクトの発足前、栗野宏文さん(上級顧問 クリエイティブディレクション担当)から「病気や障がいでおしゃれをなかなか楽しむことができない人たちの悩みをファッションの力で解決したい」という話があったんです。その内容に共感したことも大きいですね。

竹田:そうですね。私は当時ベビー服や子供服を担当していたのですが「障がいがある方の服のお悩み解決にベビー服の知見を活用できないか」とお声がけいただいて。実は、私の父も頸椎損傷で車椅子生活を送っているんです。父がもともとおしゃれ好きだったこともあり、洋服の持つパワーで本人やまわりの人々をハッピーにするお手伝いができたら、という想いで参加しました。

若松:おしゃれをすると、気持ちが明るくなって、気分も上がるんですよね。障がいがあってもなくても、その感覚はきっと同じ。だからこそ、ファッションの力で人々を笑顔にするというプロジェクトには大きな意義を感じています。

―UNITED CREATIONSの第1弾では「スタイにもなるエプロンドレス」がリリースされ、好評を博しました。今回、第2弾として「スタイにもなるZIP Tシャツ」をつくることになったきっかけは何だったのでしょう?

若松:直接のきっかけは、「スタイにもなるエプロンドレス」を販売したことで、お客様から男の子用のスタイについてのお問い合わせを多数いただくようになったことですね。

稲沢:「スタイにもなるエプロンドレス」は、先天性筋ジストロフィーを持つ8歳(当時)の女の子、加藤真心ちゃんのニーズを起点に開発したアイテムです。だから、必然的に女の子っぽいデザインになりました。

竹田:でもチーム内では、当初から「男の子用のスタイもつくりたいね」という話はしていました。第1弾のリリース時には、男の子が使うことも想定して、モノトーンカラーのモックネックタイプもご用意しました。

稲沢:ただ、実際にはワンピースタイプのスタイを男の子が使うのは難しかった。そこで、小学生以上の男の子でも違和感なく着用できるスタイをゼロからつくることになったのです。


男の子が「身に付けたい」と思うものをつくる。

―これまでUNITED CREATIONSでは“ひとりの悩み”を起点にものづくりを行ってきましたが、今回は特定のモデルはいません。そうした中、どのように製品づくりを進めていったのでしょうか?

稲沢:女の子用のスタイをつくるときに重視したのは、よだれや水分をしっかり吸収する機能性、そして年齢相応のおしゃれが楽しめるデザイン性の両立です。男の子用のスタイも、基本的なコンセプトは同じでした。

若松:そこで一見してスタイに見えず、男の子たちが「身に付けたい」と思うスタイについて、メンバー間で話し合いを重ねました。

竹田:私たちにはそれぞれ子どもがいますが、偶然にも全員男の子がいます。なので、男の子がどんな洋服を好むのかは皆、何となく理解していて。まずは「男の子ってこういう服が好きだよね」といったラフな会話から、要素を抽出していきました。

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稲沢:我が家には小学生と中学生の息子がいますが、男の子はとにかく動きやすくて、そのまま運動もできるような服を着たがります。

若松:「つまり男の子はスポーツウェアの機能やデザインを持った服が好きだよね」という話になりました。

稲沢:速乾性や吸湿性に優れたスポーツウェアの機能は、そのままスタイに応用することができます。そこでスポーツウェアをベースに、具体的なデザインや機能を落とし込んでいくことにしました。


辿りついた答えは「Tシャツ型のスポーツウェア」。

―「スタイにもなるZIP Tシャツ」は、一見するとスポーティなTシャツのようで、裾から伸びる2本のファスナーを開けると口元が拭けるスタイになる斬新なデザインが特長です。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

竹田:この形に落ち着くまでは、けっこう紆余曲折がありましたよね。

稲沢:思った以上に、苦労しましたね(笑)。まず「スタイにもなるエプロンドレス」は、ワンピース状の裾で直接口元を拭けるのが最大のポイントでした。スタイを使う方の中には全介助が必要な方も多いので、介助者が口元を拭ける長さの確保はマストです。でも、男の子の洋服には、そもそも裾の長いデザインのものはほとんど見かけません。

竹田:洋服の上から着用できるアイテムといったら、当初はベストぐらいしか思いつかなくて。でも、よく考えたら「男の子が普段着でベストをコーディネートするのは少しハードルが高いね」と(笑)。

稲沢:そこで背中が開いたTシャツのような形状にして、両サイドにチューリップの花びらのように2枚重ねのベンツを設けることで、長さを確保しようと考えました。ところが、家に帰って改めて息子たちの服をじっくり観察するうちに「チューリップはないな」と気が変わって(笑)。

若松:男の子は「着る」という行為について非常に現実的ですからね。

稲沢:スポーツウェアに使われているファスナーを見て、これをベンツの代わりに使ってみようと、ひらめいたんです。

竹田:このアイデアは画期的で、私たちも驚きました。

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ストレスフリーな付け心地とデザインへのこだわり。

―ファスナーのほかに、デザイン上でとくに工夫した点はありますか?

若松:首の後ろを面ファスナーにして、ワンタッチで着脱できるようにしています。自分で着脱できる方にとっても、介助が必要な方にとっても、簡単に着脱できることが重要なので、その点はとくに配慮しました。

稲沢:背面に留め具やヒモがないオープンなデザインを採用したのも、着脱のしやすさを意識してのことです。スタイのユーザーには車椅子を利用している方も多く、座った状態で背中に手を回すのが非常に大変だからです。

若松:また、車椅子ユーザーにとっては、留め具のわずかな突起でも背中に当たって痛みが出たり、床ずれの原因になったりします。その点も踏まえて、あえて背面はオープンにしています。

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竹田:あとは、後ろ身頃から両脇にかけて、生地が切り替えなしでひと続きになっている点ですね。切り替えがない方が腕の可動域が広くなり、着脱がしやすくなるんです。

若松:使用する素材にもこだわりました。スタイの基本的な機能を満たすためには、しっかり水を吸ってくれて、すぐに乾き、何度も洗える丈夫な素材が必要です。そこでスポーツウェア用の生地から介護用のシーツに使われる生地まで、多様な素材を検討しました。

稲沢:スタイは1年を通して着用するものなので、夏でも蒸れない通気性も重視しましたね。


「映え」と「実用性」の狭間で悩んだカラー展開。

―サイズ展開やカラーバリエーションについてはどのように決めていったのでしょうか。

竹田:スタイを必要としているお子様は、それぞれ障がいの種類や度合い、体つきが違います。そのためサイズについては、できるだけ多くの方に商品を届けられるよう、120cm、140cm、160cmまでの3サイズで展開しました。カラーバリエーションについては、スポーツテイストを意識しながら、汚れが目立たず、お手持ちのお洋服に合わせやすい色を重視しています。

稲沢:1日中着用することも想定して、水分や食べこぼしができるだけ目立たない色を何種類も吟味しましたね。

竹田:素材選びの時の稲沢さんは、常に水を入れた霧吹きを持参して、生地に吹きかけてチェックしていましたよね(笑)

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稲沢:アイテム単体で見たときのかわいさと、コーディネートしやすい配色のバランスを取るのは、非常に難しかったですね。

竹田:そうですね。UNITED CREATIONSはユナイテッドアローズ オンラインストアのみでの販売なので、当初はサイト上に映える明るい色味や柄、プリントを採り入れる案も検討していました。

若松:ただ、男の子は小学校高学年ぐらいになると、どんどんシンプル志向になります。今回はユーザー層として小学生から中学生を想定していたので、最終的には年齢が上がっても使い続けられるシンプルなデザインと落ち着いた配色に仕上げました。

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「スタイにもなるZIP Tシャツ」はネイビー、オリーブ、ブラックの3色展開。サイズは120、140、160の3サイズに対応。販売価格は3,800円+税。ユナイテッドアローズオンラインストアで販売中。

―起点となるモデルがいなくても、開発メンバーの想像力だけで、ここまで使う人の立場に配慮したものづくりができるとは、正直驚きです。

稲沢:実際は試行錯誤の連続で、私たちも困っていたのです。そんなとき、「スタイにもなるエプロンドレス」の開発にご協力いただいた、加藤真心ちゃんのお母さんが声をかけてくださって。真心ちゃんと同じ困りごとを持つ男の子を紹介してくれたのです。そこで完成したばかりの試作品を、彼にモニターとして試着してもらうことになりました。

竹田:実際に試着してもらったことで、ユーザー目線の貴重なフィードバックをたくさんいただきました。

若松:例えば、試作品では首まわりの内側に撥水性のある素材を使っていたんですね。ところが、汗を吸わないことで、あせものような症状が出てしまった。そこで商品化の際には、その部分を吸水性のある生地に変更し、首まわりにも余裕を持たせました。

稲沢:袖まわりもかなり広げましたね。介助者が着脱することを考慮すると、私たちが想定した以上に袖まわりを大きく取る必要があることが分かって。また、内側の防水シートも、ファスナーと干渉しないギリギリのラインまで延ばしました。

竹田:両サイドのファスナーの長さも変更しました。仰向けに寝た状態だと、わずかに口元まで届かないことがわかり、急きょ長くしたんです。どんな状態でも快適に使える工夫を、できる限り模索しました。

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バリアを超え、社会に溶け込むものづくりを目指す。

―皆さんは今回開発した商品を、どのような方々に届けたいですか?

稲沢:UNITED CREATIONSが目指すのは、“障がいがあってもなくても楽しめる、ものづくり”です。例えば、メガネはもともと視力が悪い人をサポートする福祉器具のひとつでしたが、今やファッションアイテムとして広く認知されていますよね。このスタイも、福祉やおしゃれといった文脈を意識することなく、誰もが自然に手に取り、使えるものになったらいいと思っています。

竹田:小学生や中学生の男の子は洋服を汚すことも多いですから、障がいの有無にかかわらず、より多くの方に使っていただきたいですね。

若松:そしていつか、洋服にスタイを合わせるコーディネートがおしゃれの一環として定着したら、うれしいですね。

―最後に、UNITED CREATIONSのメンバーとして今後どのように活動していきたいですか?

稲沢:今回の制作中、すごく、うれしかったことがあって。試作品のモニターになってくれた男の子が、このスタイを付けて学校に行った時に、先生から「今日はスタイを付けていないね」と言われたそうなんです。スタイの存在が、デザインの力で不可視化された。つまり、バリアを超えて社会に溶け込んだ証拠ですよね。私がデザインを通して実現したかったことが、かなったようで、とても感慨深い出来事でした。これからも、活動を通じてそういう事例を積み重ねていけたらいいなと思っています。

竹田:病気や障がいがあっても、常に「選べる自由」がある社会にしていきたいですね。着たい時に、着たいものを、ちゅうちょなく手に取れる、そんな環境をつくっていくために、これからもUNITED CREATIONSの活動を続けていきたいです。まだまだアイテム数もサイズバリエーションも十分とは言えないので、少しずつ充実させていきたいと思っています。

若松:この活動は継続することが大切だと思っています。UNITED CREATIONSの使命は、この社会にまだない価値をつくること。そのためには、機能性とデザイン性を深掘りしながら、新しいアイデアを形にしていくことが重要です。これからもUNITED CREATIONSを通じて、「おしゃれで人々の心を豊かにする」という服づくりの原点を追求していきたいですね。

※この取材は3月19日に実施いたしました。

INFORMATION

UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.
ユナイテッドアローズオンラインストアで販売中。

PROFILE

若松 攻佳

第一事業本部 ウィメンズ商品部 UA課

アパレルメーカーにて生産業務に携わった後、2011年入社。Drawer部を経て、ユナイテッドアローズ(UA)のウィメンズ商品部 生産課に異動。現在、UAウィメンズ生産業務を担当するほか、2018年からは「AEWEN MATOPH」の生産担当も兼務。

稲沢 日南子

第一事業本部 ウィメンズ商品部 UA課

2002年入社。ユナイテッドアローズ(UA)ウィメンズ商品部にて服飾・彩貨バイヤーを経て、2004年よりUAウィメンズ彩貨専任のバイヤーを担当。2度の育児休暇を経て、2010年より彩貨デザイナーを担当。

竹田 さなえ

第二事業本部

1999年入社。ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(GLR)新宿ルミネ店・同名古屋店店長、関西東海地区エリアマネージャーを担当後、GLRウィメンズ商品部MD、商品課課長に。育児休暇を経て、キッズMDキッズ雑貨課課長、EC担当MDを務め、2020年4月より第二事業本部付海外担当。

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