
モノ
2020.11.12 THU.
高まるアウトドア熱。新たな生活様式に寄り添う「Snow Peak」のウェア。
日本を代表するアウトドアブランドとして知られる〈スノーピーク(Snow Peak)〉と、〈ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(以下、BY)〉がコラボレートアイテムをリリースしました。アウトドアでも、街中でも着られるその服は、わたしたちにどのような発見を与えてくれるのでしょうか。自分たちにとって、よりエッセンシャルなものを必要とするようになった昨今の情勢の中、「わたしたちは“ライフバリュー(人生価値)”を提供したい」と語るのは〈スノーピーク〉のデザイナーである坂田 智大さんと豊川 翔斗さん。一方で「一から服を作る楽しさがあった」とは〈BY〉のバイヤーである青谷 克也さんの言葉。ただかっこいいだけではない、中身がぎっしりと詰まった服の誕生秘話を語ってもらいました。
Photo:Yohei Miyamoto
Text:Yuichiro Tsuji
左からSnow Peakの豊川 翔斗さん、BEAUTY&YOUTH バイヤーの青谷 克也さん、Snow Peakの坂田 智大さん。
HOMEとCAMPをシームレスに繋ぐ服。
ー〈スノーピーク〉のアパレルラインがスタートしたのは、2014年のことですよね。デザインをする上で、どんなことを根底に置きながらモノづくりをしているのか教えてください。
豊川: 自らもユーザーであるという立場で実体験をもとに、ないものは作る商品開発をDNAとし、感動できる体験価値を提供しています。それはただモノを作るだけではなく、その先にある、我々が作ったものを通して自然志向のライフバリュー(人生価値)を提案しています。
坂田:いま、国内のキャンプ人口は国民の7%ほどしかいないと言われていますが、ぼくたちが届けたいのはその残りの93%の方々で、都会にいてストレスを感じることってたくさんあると思うんですけど、そうした人たちに自然の素晴らしさであったり、キャンプをしながら生まれるコミュニケーションの豊かさであったり、人間が本来持つ原始的な感覚というのを伝えたい。それがぼくたちの望みなんです。
坂田:〈スノーピーク〉全体としても、都心(HOME)とアウトドアフィールド(CAMP)をシームレスに繋ぐことをミッションとしています。その根底にあるのは“人生価値”という言葉です。
ー都会を離れて自然がある環境へ訪れることで、どこか開放的になることができたり、普段の生活を俯瞰して眺めることができますね。
豊川:そうですね。キャンプギアもアパレルも、それを感じるための手段でしかなくて、ぼくたちはそのきっかけづくりをしているんです。
坂田:〈スノーピーク〉のアイテムで、最終的には自然の中で生まれる豊かな感情やその体験を提供したい。それがつまり“人生価値”の提供に繋がるのではないかと思っています。
ー一方で青谷さんは〈スノーピーク〉に対してどんな印象をお持ちですか?
青谷:やっぱりすごく歴史があるブランドだなと感じます。アパレルが生まれたのは2014年ですが、もともとのキャンプギアは1960年代から作られていて、積み重ねてきたものがすごく大きい。一方で、商品を見ると、デザインがすごくシンプルでクリーンなんですよ。変にアウトドア要素が強すぎたり、クラシックすぎたりというのがなくて、そういう点で〈BY〉との親和性を強く感じましたね。
坂田:ストイックなキャンパーに向けてのラインナップもありますが、やっぱり日常生活において着られるユーティリティさも必要だと思っています。日常において、いかに自然と都会を行き来しやすい道具であるかというところは、デザインをする上ですごく大きなポイントです。
ーアウトドアブランドの服はどうしてもギアとしての要素が強くて、ファッションに向かないものが多い中で、〈スノーピーク〉はその両方の要素がいい塩梅で混ざり合っている、と。
豊川:アパレル事業を立ち上げるきっかけになったのは、現社長の山井梨沙が、その当時キャンプ場で着たい服がなかったというのも理由の一つなんです。それがハードルになって、キャンプやアウトドアをはじめたいのにはじめられない人も多いのではないかという気持ちがあって。服を通じて人々が自然に足を運ぶきっかけを作りたいという想いからアパレルを立ち上げたという背景があります。
ー街中でのファッションを見ていると、アウトドアウェアがデイリーに受け入れられるようになってきています。一方、他誌のインタビューで「“街で着るアウトドア”という第1フェーズは終わった」というお話を坂田さんがされていたんですが、それは具体的にどのようなお気持ちなのでしょうか?
坂田:ファッションとしてのアウトドアがいまトレンドとして扱われています。でも、ウェアに限らずアウトドア用品はすべて理にかなったものとして開発されていて、入り口がファッションであったなら、次はそうした機能目線で服の魅力を楽しめたらいいと思うんです。それがライフスタイルに繋がって、次第に自然志向へとなっていくのが次のフェーズだと思っています。
ーより有機的に自然と都心を繋ぐような服ですよね。
坂田:そうですね。いまはコロナ禍によって、世界中の人たちのライフスタイルが変化していますよね。だから都会にいながら自然を感じられるようなことも考えなくてはならなくて。多角的に自然と人を繋ぐ手段を試行錯誤ではありますが模索しています。当たり前ではないことが当たり前になる日常の中で、〈スノーピーク〉もその変化に順応していきたいと思っているんです。
コロナ禍において日常の楽しみが狭まる中で、服はいちばん身近でこだわれるものです。そういう観点において、自分が着ている服ひとつに対しても、思い入れじゃないですけど、付加価値を求めるお客さまが増えたように思いますね。
ー「何が自分にとって大切なものなのかを考えるようになった」という声は方々で聞きますよね。
豊川:そういう意味でアウトドアの機能が付加価値として受け入れられたんじゃないかと思います。
“都会的であること”をテーマに掲げた機能的な服。
ー〈BY〉が〈スノーピーク〉の取り扱いをスタートしたのは今季からですよね。その背景にはどんな想いがあったのでしょうか?
青谷:これまで他のアウトドアブランドさんとお付き合いさせていただく中で、アウトドアウェアがお客さまに受け入れられてきた実感があったんです。ここ3年くらいは反響もすごく良くなっていますし、実際にご来店されるお客さまでもアウトドアウェアを着ている方が増えている印象ですね。
ただ、うちにしかないアウトドアブランドや、うちにしかない取り組みという点で考えると、そこはまだ伸び代があるな、と。だからそうした部分を伸ばすために、〈スノーピーク〉と一緒に何かできないかなと思って。先ほどもお話した通り、〈スノーピーク〉はうちのお客さまとの親和性が高いと感じていたので、お声掛けさせてもらったんです。
ー今回は別注アイテムに限らず、インラインのアイテムのお取り扱いもされています。はじめにインラインのアイテムに関して、どんなコンセプトでセレクトされたのか教えてください。
青谷:〈スノーピーク〉の定番アイテムを中心にセレクトしました。タキビベストであったり、インサレーションシリーズのアイテムですね。それとは別にコーチジャケットなど、〈BY〉のお客さまと親和性の高いアイテムもチョイスしています。〈スノーピーク〉らしさとうちらしさがちょうどいい具合に混ざり合うようなラインナップになっていますね。
ーファッションとしても楽しめるし、キャンプシーンでもきちんと楽しめるアイテムということですね。
青谷:ぼくらもピックアップする上で、過剰な機能があったり、アウトドア要素の強いものはあえてセレクトしませんでした。あくまでも、自分たちが培ってきたファッション感というものを崩さずに、そこに機能性やアウトドア性を少しプラスできるようなものを選んだという感じです。
ー別注アイテムに関しては、どのようにしてやりとりが進んでいったんですか?
青谷:いちばん最初に「グレーでお願いします」というオーダーをさせてもらって。漠然と“色”のイメージがあって、そこから膨らませていきました。アウトドアを表現する上で、あえて都会的な色としてグレーをテーマにモノづくりをしたかったんです。その後、展示会やコレクションを拝見させていただいて、〈スノーピーク〉のインラインから派生していくカタチでアイテムの輪郭ができあがっていって。
吸水速乾に優れ、遮熱性も持つ機能性素材「Octa®」。
ー今回のアイテムでキーとなるのは、「Octa®」という素材ですよね。これを使ったウェアが〈スノーピーク〉のインラインでも展開されていますが。
豊川:そうですね。今回採用しているオクタの素材はスノーピークでは定番的に使用している素材であり、スノーピークにおいてはコンセプトであるHOME⇄CAMPのシーンに対応する軽量な機能ミドラーの立ち位置として機能しています。他社のアウトドアブランドでは防寒性を高めるために中綿素材を用いるのに対して、「Octa®」は生地の裏地がその機能を担っています。
ー表地と裏地の間に中綿を入れるのが通常なのに対して、「Octa®」の構造は表地と裏地だけでそれが成立していると。
豊川:そうなんです。だから保温性が高い上に、非常に軽いのが特徴です。それに加えて吸水速乾に優れているのと、表地には透湿防水素材をラミネーションし、耐久撥水性も持たせているので急な天候や温度変化に対応可能です。
ー今回の別注アイテムでも採用されているという事ですね。
青谷:はい、そうです。アウトドアウェアは光沢感が強いものが多い印象でしたが、ファッション目線でこの生地を見たときにマットな質感がすごく素敵だなと思ったんです。デニムやニットなど、普段着る服との相性も良さそうだな、と。
坂田:インラインではキャンプシーンでのミドラーとして提案しているんですが、都心に近づけばアウターとしても着られるというのが、今回青谷さんと一緒に考えた流れでしたよね。
青谷:そうですね。ここ数年、気候がちょっと読みづらくて、暖冬だと思っていたら急に寒くなったりするじゃないですか。だから、なるべくいろいろな気候に対応できるような服を目指しました。
たとえば、フードブルゾンは背中に大きなベンチレーションを設けて通気性を確保したり、いまぼくが着ているプルオーバーのトップスは、袖が取り外しできるようになっていて、半袖でも着られる仕様です。また、パンツは裾を捲り上げて着られるように裾幅を調整するアジャスターが、サイドにはベンチレーション用のファスナーが付いています。〈スノーピーク〉の日常とアウトドアフィールドを行き来する服というコンセプトを踏まえた上で、さまざまなシチュエーションで着られる服になっていると思います。それこそ、急に外から急に暖かい屋内に入っても快適でいられるような、そんな服ですね。
イチからの服づくりで誕生した、街に馴染むアウトドアウェア。
ーフード付きのブルゾン、プルオーバーのトップス、そしてパンツと、3ピースで作られたあたりに、お互いの熱量を強く感じました。
青谷:ぼくの中のイメージでは、上下スウェットを着た感覚で街を歩けたらいいなと思ったんです。ただ、普通のスウェットだとカジュアルすぎるし、機能的にも物足りなさがありますよね。あと、寒くなったら上に羽織るものが欲しいということで、フードブルゾンもあったらいいんじゃないかと。この3つのアイテムを重ね着したらかっこいいだろうなというイメージが、頭の中にできあがったんです。
坂田:ちょっとソリッドな感覚のある生地で、天然素材っぽい見え方もしなくはないですよね。このグレーの色味もすごくいいと思います。いま青谷さんがおっしゃったように、スウェットのような感覚で着られるので。うちではあまりやらない色なので、色のチョイスがすごくいいなと思いましたね。
ーシルエットもすごくキレイです。いい意味でアウトドアブランドらしからぬパターンなんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか?
豊川:メリハリをすごく意識したシルエットになっています。ブルゾンに関してはすこし大きめに作っていて、パンツは腰回りをゆるくして、裾に向かってテーパードさせています。アウトドアっぽさを薄め、街に寄せたというのはありますね。
あとはステッチを極力入れずにデザインしたので、パッと見はすごくソリッドな印象になっていると思うんです。そういう部分も〈BY〉のイメージである都会でのシーンのことを考えた結果生まれたものですね。
坂田:パンツに関しては、股上が深くてワタリ幅が太いと、ポケットにものを入れたときにシルエットが崩れにくいんです。そうした理にかなった部分は踏襲しながら、一方でトレンドも意識しながらデザインしていますね。
ー今回の「Octa®」もそうですが、そうした機能やデザインというのは、実際にキャンプなどのアウトドアでの体験を通して生まれるものなんですか?
豊川:そうですね、基本的には実体験をベースに自分たちが欲しいもの、足りないものをあぶりだしてカタチにしています。それに加えて〈スノーピーク〉ではお客さまと一緒にキャンプをするイベントもしていて、そこで聞いた生の声も大事にしているんです。
ーそうした実体験や生の声を活かしつつ、それをどう都会生活に結びつけているんですか?
坂田:キャンプへ行ったときのストレスや問題というのは、意外と日常生活でも同じだったりするんですよ。都会でも雨が降るし、風が吹くのと同じです。ふたつのシーンで重なる問題が見つかったときに、いいアイテムが生まれたりします。なので、日々の生活にもきちんと目を向けながらモノづくりをしているんです。
ライフバリューを提供できる唯一のブランドを目指して。
ー今後も取り組みは継続されるんですか?
青谷:実はもう来シーズンの仕込みをしていて、ファッショナブルで機能的なアイテムをリリース予定です。春夏バージョンのホームキャンプみたいなイメージのアイテムですね。一回きりではなく、長く続けていきたいブランドだと感じているので。よくある色変えや素材違いの別注ではなくて、今回一から服を作らせてもらえたのは嬉しかったですね。
豊川:ぼくらとしても新しいものを作りたいという気持ちが強いんです。だからインラインとは別の表現をして、新しい価値を生み出したいという想いが個人的にあって。いままでになかったものを作るほうが、お客さまにとっても、我々にとっても、メリットが大きいと思うんですよ。
坂田:それと〈スノーピーク〉というブランドを知ってもらういい機会だとも思っていて。今回のプロジェクトを通して、世界観を伝えたいと思っています。ですからしっかりとしたコンセプトがある別注企画をこれからも続けていきですね。ぜひ楽しみにしていて欲しいです。
ー最近また自然回帰というか、キャンプへ行く人が増えているという話をよく耳にしますね。
坂田:日常で外へ出られないストレスは想像以上に大きいということを自粛期間中に気づかされた方も多いと思います。だから自然を欲するというのは、ある意味とてもナチュラルな流れですよね。
青谷:ぼくもリモートが増えて、週に3回くらいしか出社していないのですが、そうなると家着とか近所に行くための服を着る機会がどうしても増えるんです。スウェット上下で近所を歩いていても、なかなかテンションは上がらないですよね。だから、そういう日に機能的でデザインもかっこいい服を着られるといいなと思うんです。今回の別注アイテムは、そういう需要にたまたまハマった感覚がありますね。
坂田:家の中という限られた空間の中でいかに楽しむかというのは重要で、たとえば〈スノーピーク〉のテーブルや椅子でパソコン作業をするだけでも気分は変わりますよね。ぼくたちのアイテムを通して、人生の一部を豊かにしてもらえたらと思います。
豊川:本当にそうですよね。〈スノーピーク〉はライフバリューを提供するブランドなので、服やギアを通した体験で自然を感じてもらえることを意識しています。
坂田:近年〈スノーピーク〉は自然を通してどう社会問題を解決するかという方向へ向いてきており、キャンプやアパレルだけでなく、さまざまな取り組みを行っています。これまで培ってきたものを通して、人生の豊かさや価値を提供する企業に少しずつ成長していきたいですね。
INFORMATION
PROFILE

坂田 智大
スノーピーク未来開発本部 アパレル開発課
1991年生まれ、埼玉県出身。アパレルメーカーでデザイン・パタンナーを7年務め、その後は他社でアパレルのOEMやODM担当を経て、スノーピークに入社。

豊川 翔斗
スノーピーク未来開発本部 アパレル開発課
1990年生まれ、神奈川県出身。スポーツ、アウトドアウェアメーカーでデザインを7年務めた後、スノーピークに入社。

青谷 克也
BEAUTY&YOUTHメンズチーフバイヤー
2003年UA京都店入社後2008年にメンズ商品部にバイヤーとして異動。2019年より現職。