
モノ
2022.03.10 THU.
スケートボードの廃材に、命を吹き込む。「CORE」の原点と現在地。
廃材のスケートボードデッキを素材に選んだのは、言うなれば、愛ゆえ。石渡 誠さんは、スケートボードの美しい断面に魅せられたことをきっかけに、〈CORE〉をスタートしました。その発端は純粋無垢な想いであって、その行為がアップサイクルやサステナブルと捉えられるのは、あくまで結果論。「そういうことには、まったく興味がないんです」と清々しく笑う石渡さんに、プロジェクトのはじまり、制作工程のあらまし、そして製作中の新しいプロダクトや〈カリフォルニア ジェネラルストア(以下、CGS)〉で行われているイベントで発売している別注品について、逗子・葉山に構えるアトリアで、じっくり伺いました。
Photo:Takuroh Toyama
Text:Masahiro Kosaka(CORNELL)
制作活動とライフスタイルを結びつけたかった。
─石渡さんは現在、スケートボードの廃デッキを使った制作をされていますが、以前は現代美術の世界に身を置いていたとか。いまに至るまでのいきさつについて、まずは聞かせていただけますか?
さかのぼると、中学生の頃は洋服が好きで、ファッションデザイナーになりたいと考えていました。その後高校に進み、大学受験を控える時期になって、「ファッションって、大学がないよな」と。それで、ひとまず美大に進むことに決めて、予備校に通いはじめたんです。するとデザインや美術の方に興味が向きはじめて。一時はプロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーの道も考えました。でも、クライアントの意向に沿ってものづくりをするより、自分が作りたいものを自由に作りたいと思ったんです。
─それで、現代美術の世界へ?
そうです。人間を真空パックにする作品を作ったら、それを金沢21世紀美術館のオープニング展で展示させてもらえることになって。でも、体験型の作品だったこともあって、ぜんぜんお金にならなくて。「こんなもんなのか……」と。自分のやりたいことはできたけど、30歳を目前にして、「これで大丈夫なのかな」みたいな不安を感じました。同じ頃、小3の頃からずっとやってきたスケボーと、現代美術をやっている自分にギャップを感じるようにもなってきて。たとえば友人関係ひとつとっても、現代美術をやっているやつらとスケーターって、まるで別世界なんですよね。そこが一緒にできれば、今後の生活もたのしくなるんじゃないかと、そんな風に考えるようになっていました。




20年以上制作の現場としているアトリエは、もともと実家だった家屋。土間を作業場に改装した。
─制作活動とライフスタイルとの乖離を無くして、結びつけようとしたわけですね。
スケートボードを使ってなにかを作ってみようと考えました。それで、試しに廃デッキを切ってみたら、綺麗な断面が出てきて。それが〈CORE〉のはじまりでした。
愛するがゆえ、ぜんぶ捨てられない。
ボロボロになったスケートボードを、材料としてどう活かすか。とりあえずノーズ(先端)とテール(末端)を切ってみたら、綺麗な断面が現れたんです。それが最初のインスピレーションでした。で、その頃は同じように廃デッキを素材にして作品を作っているアーティストもすでにいて、そんななか、僕はボードを積層したときの塊感に惹かれて、それをベースに作品を作ってみようと考えました。1年間ほど研究を重ねて、いまのスタイルを確立していきました。
─製作において、とくに難しかったことはありますか?
積層したデッキを圧着する作業ですね。スケートボードのデッキって、平らな面がどこにもないんです。切断したものをただボンドでくっつけても隙間ができてしまう。試行錯誤して、最終的には平らな板状になるよう削ることにしたんですが、それを積層した結果、デッキ特有の曲線が残る塊ができあがった。最初から平らな薄い板をただ積層するだけではできない、スケートボードならではの塊になりました。
─ボードの状態から完成品に至るまで、どのような工程を経るのですか?
まずはデッキテープを剥がして、ノーズとテールを裁断します。そこから、残った真ん中の部分のグラフィックをサンダーで剥がして、表面も平らに削ります。それを9枚作って、ボンドを塗ってプレスする。ボンドがはみ出た状態の塊ができあがるので、それを製材して。そうしてできた塊を、完成品の形に向けて削っていきます。最後に樹脂を染み込ませて、完成です。
─最初にカットしておいたノーズとテールは、スツールの素材として使われるわけですね。
最初は使い途のなかった部分なのですが、「せっかく廃デッキをもらってきたのに、捨てるのもな……」とひねり出したアイディアでした。副産物的にできたプロダクトですが、わりとそっちの方が人気になっちゃって(笑)
スケートボードのノーズとテールを素材として使ったスツール。〈CGS〉のイベントで発売している別注品。
─そのようにして、廃デッキを余さず使っている、と。
ただ、僕は“エコ”とかにはまったく興味がなくて。
─やはり時勢的には、石渡さんのやっていることって、どうしてもエコやサステナブルといった観点で眺められることが多そうです。でも、そうした目的からスタートしたプロジェクトではないのですね?
本当に、その辺のことは何も考えていなくて。ただスケボーの断面が美しいから、それを使って作品を作りたい、それだけなんです。たとえば積層してできた塊を削り出すときに出た木っ端も、ぜんぶ綺麗なんですよ。どこからがゴミなのかわからない。じっさい、本来捨てるはずの破片も、ぜんぶ残してあります。捨てられないんです。
─すごく素敵な話ですね。いくらサステナブルを謳っても、大抵は付け焼き刃で、結局のところそれでは意味をなさないというか。翻って、どんなものでも愛さえあれば、大事に長く付き合っていくことができると思うんです。そういう意味では、石渡さんの「捨てられない」という純粋な感情はまさしく愛であり、それこそが、しっかりと地に足のついた持続可能性ではないか。そんな風に感じてしまいます。
こじつけかもしれませんが、そもそも自分の制作活動とスケボーを結びつけたくて〈CORE〉をはじめたのも、その両方を、この先もできるだけ永く続けていきたい思いからでした。そう考えると、なにより自分にとってもサステナブルな選択だったのかもしれませんね(笑)
デッキテープを使った新たな試み。
今回のイベントにあてて作られた別注品のキーホルダー。
─すこし話は戻りますが、作品を作る際には、そもそも完成形のイメージがあって、そこに向けて塊を作るのですか? それとも、ひとまず素材となる塊を作っておいて、それがインスピレーションとなって完成形を閃くのでしょうか?
う〜ん、どちらもある気がします。塊は常にストックしてあるので、何か作ろうという段になって、そのなかから選び取ることもあります。たとえば今回の〈CGS〉でのイベントで販売するスツールについては、完成形を見越したうえで素材のデッキを選定しました。
─波のパターン柄が入ったスツールのことですね。今回〈CGS〉で展示イベントを開催し、そこに向けた別注品を用意するにあたっては、どんなコンセプトで制作を進めましたか?
スケボーは子どもの頃からいままで続けていますが、サーフィンはまったく通ってこなかったので、自分にどんなものが作れるのか、かなり悩みました。ロングボード型のスツールやフィンを作る構想もありましたが、サーフィンの実際を知らない自分がやっても、中途半端で説得力のないものになる気がして。それで、自分がこれまで作ってきた作品との結びつきを探ることに。それで、よく使っている和柄のなかに波のパターンがあることに気づいて、それをスツールにあしらうことに決めました。同じく別注品であるダルマも、いつもは「福」の文字を入れているところに、「波」の字をあしらうことにして。
フィンを模したキーホルダーも、今回のイベントにあてて作られた別注品。
─波のパターンや文字に使われている素材は、もしかしてデッキテープですか?
そうなんです。〈CORE〉をスタートした25年前と比べると、廃デッキを使ってものづくりをするひともかなり増えてきていて、廃デッキを集めるのも、最近はけっこう大変だったりします(笑) そんななか、ほかのひとがやっていないようなことをやりたくて。それで、デッキテープを使ってみることにしたんです。別注のダルマは、ただデッキテープを貼り付けるだけでなく、あらかじめエンボスのように溝を作っておいて、そこにデッキテープをはめ込んであります。
─いよいよもって、廃デッキの捨てる部分がなくなってきますね。
これまではボードだけ集めていたんですが、最近は、ウィールやトラック、ビスまで全部回収するようにしています。ある程度溜まったら、きっと使い途を思いつくような気がして。
─そもそもは石渡さん自身の制作活動とライフスタイルを結びつけようとスタートしたという〈CORE〉ですが、実際のところ、それが実現できているという実感はありますか? 今後の展望などについても、最後に聞かせてください。
当初意図していたことは、うまく実現できていると思います。〈CORE〉だけでなく、スケートボードのランプの制作なんかもやっていて。毎年ゴールデンウィークに開催される逗子海岸映画祭に設置されるランプも、じつは7、8年、設計から施行までを請け負っていて。本当にスケートボード中心の生活になっていて、単純にたのしいですよね(笑)。今後も、これまで通り廃デッキを使いながら、まだだれもやっていないことに挑戦し続けていきたいと思っています。
INFORMATION
PROFILE

石渡 誠
20代前半から現代美術家として活動を始め、2004年、金沢21世紀美術館のオープニング展に選出される。(VacuumPacking)
2006年、幼少期から続けてきたスケートボードと己の創作活動をリンクさせるべく、乗り終わり自宅に山積みになっていたボロボロのデッキをカットした事により現れた色鮮やかな断面に感動し、“core”と名付けたプロジェクトを始動し今に至る。
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