ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2022.07.28 THU.

国産木材の価値を再構築する。
「KI-no」のプロダクトを支える、その根幹。

多くの国産木材がその使い道を見出されず、朽ちてしまっている現状と、日本の山が抱える深刻な問題をどれだけの日本人が知っているのでしょうか。今回はそんな問題に向き合い、国産木材を再生・活用したインテリアプロダクトを製作するブランド〈KI-no〉。7月29日(金)から〈コティ ビューティ&ユース(エイチ ビューティ&ユースB1F)〉にてポップアップを開催します。デザイナー × 大工棟梁 × 杣人の三者のタッグによって実現した、そのモノづくりの裏側やブランドの根幹を成す想いとは? 長野県松本市に構える〈KI-no〉のアトリエで、プロダクトづくりの工程やブランドの成り立ちとバックグラウンド、今後の展望について、デザイナーの渡邉 史康さんに伺いました。

Photo:Shuhei Kojima
Text:Yuuki Akimoto

日本の山の問題を解決するような
プロダクトを作りたかった。

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—ロンドンで絵画を学び、帰国してからは建築士として日本建築の工務店を営んできた渡邉さんですが、〈KI-no〉を立ち上げようと思ったきっかけや、ブランドに込めた想いについて聞かせていただけますか?

ロンドンから松本市に帰ってきて、何か地元に貢献できるカッコいいものが作りたいと思ったことがはじまりですね。国内にいたときには意識していませんでしたが、日本の木工職人や棟梁、杣人の持つ知識や技術は、世界に通用するレベルだったのだと海外に行ったことで気付かされました。そんな職人技の素晴らしさを世に知ってほしいという想いもありました。ブランドコンセプトの「Beyond The Japanese Creation」もそこからきています。

さらにいうと、私たちの営む大澤建築店株式会社は和室をはじめとする日本建築を得意としています。その中でも数寄屋造りの世界が好きで数寄屋の格好よさは常に意識します。この日本人が持つ「几帳面さ」と「わびさびの精神」が同居する世界観を〈KI-no〉のプロダクトにも落とし込めればなと思っています。

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—〈KI-no〉のプロダクトは国産の木材を使用することにこだわられていますが、そこにはどんな想いがあるのでしょうか?

地元に戻って、長野の山だけでなく日本の山全体が数々の問題を抱えていることを知りました。猟師やマタギの減少などで進む鹿による被害や、木の病です。木材の自給率の低さも大きな問題。国産の木材は、伐採コストや製材コストの兼ね合いで赤字になってしまうことも多く、まだまだ活かせずにいるのが現状です。せっかく良い木材があるのに使用されることなく朽ちてしまい、山が荒れてしまうという勿体ない実態があります。

松本の山と木を知るわたしたちが地元の職人技や新しい素材や技術を活かして、それを解決するモデルケースになれればなという想いもあり、あえて国産木材を使用したプロダクトづくりをはじめました。市場価値が低く扱われてしまっている国産木材の価値を技術とアイデアを持って再構築していくこともわたしたちの使命です。

目指すのは、手に取った人々が自ずと木と山との営みに関心を持ってもらえるようなモノづくり。あとは、所有することで使い手の人生をより良くするプロダクトを作ること。いい家に住むと人生が変わったり、いい服を着ると気持ちが上がったりしますから。〈KI-no〉のプロダクトもそういうモノでありたいですね。


ほとんどの日本人が知らない
「松枯れ」の実態。

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—今シーズンのテーマとして掲げる「PINE WHITERED」とはどういった意味ですか?

PINE WHITEREDとは、「松枯れ」という松の木の病気を意味します。日本中で猛威をふるい、今長野県で拡大している深刻な問題です。この多くの日本人が知らない山の問題を知ってほしい、関心を持ってほしいという想いで、この「松枯れ」をコレクションのテーマとしました。実際に松本市を囲む山々を見てもらうとわかるのですが、茶色く枯れている部分がありますよね? これが全部「松枯れ」してしまった松の木なんです。

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—ぱっと見渡しただけでもかなりの面積が枯れてしまっていますね…。いままで疑問にも思いませんでした。その「松枯れ」はいかにして起こるものなんですか?

日本はもちろん、世界中で起こっている、この深刻な「松枯れ」を引き起こす大きな原因は、マツノザイセンチュウという寄生虫の存在です。

マツノザイセンチュウは、松の木を好むマツノマダラカミキリという昆虫の体内に寄生しており、このカミキリムシが正常な松の木に卵を産み付ける際に線虫も樹木の中に侵入します。その後、線虫は爆発的な速度で繁殖。松の木の水分の通導を阻害し、枯らしてしまうんです。そして、松の木が枯れるとマツノマダラカミキリの幼虫が孵化し、枯れ木を食い成長します。

在来の線虫とマツノマダラカミキリとではこのような負のサイクルは起きなかったのですが、明治時代のアメリカとの貿易を通して外来のカミキリムシと線虫が国内の森林に侵入したと、杣人から聞きました。

—「松枯れ」に対しては、どう対処しているんですか?

完全に朽ちてしまう前に松を伐採し、木材として活かすことです。林業が今よりも盛んだった頃は山が荒れることもなかったのですが、現在は輸入木材により国産木材の需要が縮小し、杣人も減り伐採による「松枯れ」の食い止めが追いつかなくなっています。カミキリムシや線虫が悪いとかではなくて利益の追求や住宅産業の合理化の代償なども絡んでくるので、もっと複雑で根が深い問題なんですよね。

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独特の模様が入った木材。このような、建材としての負のレッテルを貼られた木材の魅力を見出し、新たな製品に仕上げる。

この青い線が入った松材。木が水を吸い上げる時期に木を切ることで青カビが発生し、このような模様が入ってしまいます。わたしたちの言葉で「アオが入る」というのですが、色素が残るだけで品質にはなんら問題はありません。しかし、建材としての価値はなくなってしまうのです。こういった木材が逆にレアで、格好いいという価値観に変えていければと、わたしたちは思っています。

そして、その実現を支えているのが、わたしたちのプロダクトを作る上で重要な素材、レジン樹脂です。


レジン樹脂が繋ぎ合わせる、
「几帳面さ」と「わびさび」。

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—レジン樹脂はどんな特性があるのですか?

レジン樹脂の良いところは、形の整っていない木材を板材に整形できるところですね。接着剤の役割もあって、木材の傷を埋めてくれる上、光も透過するレジン樹脂は大きな可能性を秘めた素材です。

最初はレジン樹脂で大きなテーブルを作ってみたこともあったのですが、レジン樹脂は高価なので大きなプロダクトを作る際には失敗リスクも高く、販売価格も高くなってしまうのがネックでした。

できるだけ多くの方に〈KI-no〉のプロダクトを手に取ってほしかったこと、わたしたちがキャンプ好きだったこともあり、国産木材とレジン樹脂でゴールゼロ社のLEDランタン用シェードやシェラカップのリッドなどの小物を作ることからはじめました。

ちなみに〈KI-no〉のブランド名は「木の」という意味もあるのですが、kinoという言葉には、英語で「樹脂状物質」、スラングで「最高傑作の映画」という意味もあります。

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「PINE WHITERED」シリーズの材料は、板状にカットした松枯れ材をレジン樹脂で固め、ストライプ状の板材に整形するところからはじまります。LEDランタンシェードの場合は、その板材をCNルーターという切削加工機にかけ、ドーナツ状のブロックに成形していきます。

通常モデルではクリアのレジンを使用していますが、〈コティ ビューティ&ユース〉コラボモデルでは、スモーキーなグレーのレジン樹脂を使用しているのがポイントです。

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そこからは職人の手仕事。旋盤加工のプロ、シェイパーが、ろくろのように回る先ほどのドーナツ状に加工した素材に刃を当て、器を作るようにランタンシェードの丸みを出していきます。素材そのもののぬくもりに加えて、大量生産品では出せない表情ある質感が生まれる大事な工程です。

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LEDランタンを灯したときに光がどう透過するかも、プロダクトを設計する上でのポイントでした。こちらはレギュラーアイテムとして展開予定のモデル。杣人が見定め伐採した、鹿害に遭ったリョウブの木を使っています。「PINE WHITERED」シリーズと違ってたくさんは作れませんが、一個一個に個性があるのでよりハンドメイド感があるのが特徴です。


一本の木ときちんと向き合える、
職人と杣人。

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大工棟梁・木工家 大澤 伸章
大澤建築店(株)の代表取締役を務める、渡邉氏の実兄。経験豊かな腕利きの棟梁として、これまで様々な木造建築を手掛けてきた。木材への造詣の深さと豊かな発想を活かし〈KI-no〉のプロダクトの設計と製作を担う。

—〈KI-no〉のプロダクトづくりの強みはどこにあると思いますか?

わたしたちがモノづくりをする中でブランドの根幹を支えているのは、デザイナーと大工棟梁、杣人のチームワークです。それぞれの持つ知見や技術がうまく噛み合い、スムーズなプロダクトづくりができているんだと思います。

まずは、日本建築の棟梁であり大工棟梁であるわたしの兄、大澤 伸章(写真左)。兄は、木の話をしているときは本当に嬉しそうにして、木を弄ってものを作るときは、子どものように楽しんでいる、根っからの木バカです(笑)。楽しいと思っても、そこで浮かんだアイデアを具現化できるかできないかは別の次元の話なんですが、感覚とその場のノリでそれができてしまうのが、兄の凄さ。それって知識だけでなく、確かな技術があるからできることなんですよね。

だから、わたしが「こんなものを作りたい!」と相談すると「こんな方法があるよ」とパッと的確なアドバイスをくれる。1週間悩んだことも、その道のプロに聞いたら一瞬で解決なんてこともあります。技術がないと無駄な試行錯誤と時間を浪費することになるので、兄は〈KI-no〉にとって大きな存在ですね。

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杣人 高力 恒次
長野県松本市を拠点とする株式会社・柳沢林業の取締役副社長。杣人として長年従事し、伐採から製品までを自ら手掛ける、この道のベテラン。地元の木を木材として活かす活動にも賛同。〈KI-no〉のプロダクトの素材となる木を伐り、製品作りを下支えしている。

次に紹介したい人物は、ベテランの杣人である高力 恒次。高力さんも兄と同じく、木のことで頭がいっぱいな人です。今の杣人は、木を丸太の状態で扱うので、木を一本一本違う命として見ていない人が多いと感じます。そんな中で、高力さんは木を命として向き合い、その生きてきた形によだれを流すほど感動できる杣人。昔は切りたくない木をやむなく伐採しなければならない状況で、涙を流したこともあったと言っていました。それだけ高力さんは木に対して真摯なんです。

〈KI-no〉のプロダクトを作る上でとても重要な材料の選定と調達を行ってくれて、木材の特性について確かなアドバイスをもらっています。国産木材の普及のハードルとなっている一つの要因に製材所の減少もあるのですが、高力さんは自ら製材までを行っているのもありがたいところです。

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ここは高力さんが取締役を務める柳沢林業のアトリエで、工作機械や木材、高力さんが作った作品が並んでいます。来るたびに新しい発見や気付きがもらえるクリエイティブな場所ですね。

ここで兄や高力さんとアイデア出しや意見の交換をするたびに思うのは、全員に「プライドをもって格好いいモノを作りたい」という部分で揺るがない共通認識があることへの安心感ですね。そこがズレていないから、互いに信頼できるし、テンポ良くモノづくりができる。大きな会社ではなかなかできないことだと思います。


「KI-no」が切り開く、
これからのモノづくり。

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—最後に、〈KI-no〉が目指すビジョンについて教えてください。

〈KI-no〉のプロダクトを通して、長野県外や世界に日本の木に関する知識や伝統技術の凄さを広められるようなブランドに育てていきたいですね。

そのためには、多くの人にわたしたちのプロダクトを手に取ってもらえるようになることが重要です。いかにたくさん作るか。供給量が増えれば、それだけ職人の雇用が生まれるので。木工職人や杣人が「カッコよくてお金も稼げる仕事」という認識が若い世代に広まって、次の担い手が生まれてくれたら、山の問題の解決に一歩近づきます。

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また、わたしたちの活動に共感し、同じ志のブランドやサービスが地元に生まれたらいいなとも願っています。「山と林業を再生したい」「もっと職人技の素晴らしさを知ってもらいたい」そんな想いを持つ仲間が増えれば、もっと面白いこともできるでしょうし、より大きなことができます。

日本のモノづくりは几帳面すぎる一面と、わびさびという相反する要素を持ち合わせますが、いまに合ったクリエイションはそれを混ぜ合わせたものだと思うんです。〈KI-no〉はその2つの要素をレジン樹脂と職人技で繋いでいきたいですね。

PROFILE

渡邉 史康

日本建築を得意とする長野県松本市の工務店、大澤建築店・株式会社に建築士として入社。現在は同社の取締役副社長を務めつつ、〈KI-no〉のプロダクトデザイナーとしてブランドの指揮を取っている。
KI-noオフィシャルサイト

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