
ウツワ
2025.03.06
大切なのは、働く人々の環境を整えること。「SARROWS」が目指す、ものづくり協業の理想の関係。
ユナイテッドアローズ社(以下、UA社)がスタートさせているサステナビリティ活動、「SARROWS」。今回はその3本柱のひとつである「Humanity(健やかに働く、暮らす)」にフォーカスします。UA社に関わる人々の権利を守り、働く環境を整えるために、どんなことが行われているのでしょうか。そこで、10年以上の取引がある株式会社ジッコー(以下ジッコー)様への工場監査に同行取材。すると、監査を経て信頼と結びつきを深めていく、協業に欠かせない理想のコミュニケーションが見えてきました。UA社にて商品管理を担当する野辺 宜典さんと、ジッコーの代表取締役・磯山 利徳さん、外注管理課・現場管理課 課長 富永 浩一さんとのやりとりを交えて、現場の様子をレポートします。
Photo:Shunsuke Kondo
Text:Maho Honjo
UA社に関わるすべての人々の権利を守るために。
UA社が提供しているのは、単なるモノではありません。身につけることで心がワクワクしたり、穏やかな気持ちになったり…そんなとっておきの逸品を創出しています。だからこそ大切なのは、ものづくりに関わる人々の幸福感。工場で働く皆さまが一つひとつにどんな思いを込めたのか。それが商品の魅力に繋がると考えているのです。
「SARROWS」のなかでも「Humanity」の行動目標は、「ユナイテッドアローズに関わる皆さまが笑顔であるために。権利を守り、健やかに暮らせる環境づくりを行います」というもの。具体的な数値目標として「行動規範同意書の取得率」や「従業員エンゲージメントスコア」を設定しています。
特に「行動規範同意書の取得率」は、2024年8月に開示された進捗数値で74.4%を達成しました。この行動規範は、商品調達取引先様に向けて策定していて、世界人権宣言や国際労働機関(ILO)など国際的な原則や宣言を基盤に、UA社がものづくりにおいて大切にしたい姿勢と行動を記したもの。働く人々の尊厳を守るべく、取引先様に遵守の徹底を促しています。
さて、今回行われたのは「行動規範同意書の取得」からもう一歩進んだ「監査」というアクションです。そこではどんなことが行われ、どんな関係性が生まれているのでしょうか。UA社の野辺さんと、ジッコーの磯山さん、富永さんにお話を聞いていきます。
縫製業界が大きく変化している今、働く人々の環境整備は必須。
UA社 SCM本部 商品支援部 商品管理課 野辺 宜典さん
野辺:2015年、国連サミットにてSDGsが策定され、UA社としてもそれに準拠し、向き合っていこうという方針が打ち出されたのがきっかけです。その数年後、日本で働いている外国人技能実習生の就労環境に関して、さまざまな問題が取り沙汰されるようになりました。そこで当初はCSRのガイドラインとしてつくったものを、「商品調達取引先様向け⾏動規範」に発展させることになりました。新規のお取引先様には取引開始時に、継続のお取引先様にはあらためて文書をお渡して、同意書の取得を行うようになりました。
−行動規範の内容に基づいて、実際に工場様にお伺いし、ものづくりに携わる方々の労働環境の確認となる「工場監査」を行うようになったのですね。
野辺:監査がスタートしたのはここ3年ぐらいですね。国内の発注数量が多いお取引先様にお声がけをして、現場を拝見する機会を設けるようになりました。というのも、今、縫製業界は外国人技能実習生が欠かせません。UA社の主軸はものづくりであるからこそ、工場で働く皆さまの労働環境を守ることは急務です。機械化の流れがある一方で、完成度を高めるためには、人の目・手が必要不可欠となりますので、やはり人権を守る努力を惜しむわけにはいかないと考えているのです。
−ジッコーさん側としては、UA社が「SARROWS」という活動に取り組んでいること、今回のような監査を行なっていることをどう感じましたか?
富永:三代続く縫製工場である我が社とUA社さんとのお付き合いが始まったのが、2011年のこと。14年もの年月が経つなかで、少しずつ信頼を深め、実績を上げてきました。そして先ほどのお話にもあったように、この10数年で縫製業界とそこで働く人々は大きく様変わりしています。私たちも外国人技能実習生を招き入れるとともに、その環境をひとつずつ整備してきました。ただ何が足りていて何が足りていないのか、その客観的視点が必要だと感じていたところ。そんなタイミングでこの監査の話をいただいて、これはいい機会だと思ったんです。
(株)ジッコ― 外注管理課・現場管理課 課長 富永 浩一さん
富永:はい。どんな指示が出されるのか、今からドキドキしています(笑)。
野辺:ただ、これからも長くお付き合いしたい。その思いがあるからこそお願いしていること。この監査を、ぜひ「気づき」の場にしていただけると有難いですね。
富永:そうですね。業界の未来を見据え、貴重な機会と捉えて、臨みたいと思います。
監査とは会社の健康診断。定期的なヘルスチェックの場。
右から2番目:(株)ジッコー 代表取締役 磯山 利徳さん
今日の結果を監査員がまとめたのち、ようやくクロージング。お疲れさまでしたという労いの言葉とともに、高く評価する箇所、今後の課題となる箇所が丁寧に説明されます。それはやはり「会社の健康診断」と呼ぶにふさわしいもの。不安そうにしていた磯山さんと富永さんの表情が少しずつ晴れていき、課題解決のためにどうすればいいのか、質問を投げる姿が印象的でした。
監査を通して、協業の信頼をより深めていく。
富永:最終的に高い評価をいただいたので、心の底からホッとしているというのが正直な感想です。「学び」になったのは、自分たちが誇りにできる箇所が明らかになったところ。縫製工場として針の扱いなどは徹底していましたし、ほかの安全面も心を砕いていましたが、そこがしっかり評価されて自信がつきました。
一方で、今後の課題が明確になって「気づき」が得られたのも、すごくよかったですね。というのも、自分の工場とほかの工場を比べる機会は少ないので、何が足りていないのかがわからない、という状況に陥っていたのも事実。これからは問題箇所をクリアにすべく、実際の行動に起こしていきます。
富永:日本の縫製業界は、今や外国人技能実習生の手を借りずして持続するのは難しいという状況にあります。法整備が進むなかで、受入先である我々は、環境を充分に整えたのち、最終的に国からの監査をクリアする必要があるとされています。となると、発注元であるUA社さんとともに監査を通して前向きに動けるのはすごく発展的なこと。これぞ協業の理想的な関係だなと感じています。
野辺:お客様に満足していただける商品をつくるために、ものづくりの現場の皆さまと、より多くのコミュニケーションを図る機会を作っていきたいと思います。たとえばUA社の監査を受けてくださった工場同士で、ミーティングを行うというのもいいですよね。横の繋がりを広げることで、課題クリアのための情報交換が盛んになるかもしれません。ものづくりは取引先様との協業なくしては成り立たないもの。これからも関係性を深めるべく、尽力していきます。
INFORMATION
PROFILE

富永 浩一
2011年に株式会社ジッコー入社し、現在は管理課課長 及び 技能実習責任者を担う。ミシン現場の工程・日程の調整を行いながら、実習生への技術指導と学びやすい環境作りをサポートする事で商品の更なる品質向上を目指す。

野辺 宜典
ODMメーカー、古着店を経験後、2007年に入社。SCM本部商品支援部商品管理課にて、メンズ・ウィメンズオリジナル商品の生産管理に携わる。現在は工場監査の立ち合いなども行い、お取引先様とのより良い関係作りに注力している。