
ウツワ
2022.12.22
暦とともに過ごす。年越しの伝承としきたり。
慌ただしかった一年が、もうすぐ幕を閉じようとしています。自宅にこもる生活も徐々に緩和され、新たな暮らし方を模索し続けた変化の年だったのではないでしょうか。それゆえ、わたしたちは近年稀に見るほど、四季の移り変わりを肌で体感することに喜びを感じています。「季節に触れ、自然に寄り添う」。東洋医学では自然に逆らうことなく生きることこそ最高の健康法とされ、それによって体の気や運を整えられると伝えられてきました。そこで役立つのが、古くから日本で使われてきた「暦(こよみ)」。ここには人生を謳歌するための先人の知恵が豊富に組み込まれています。新年を迎えるにあたって、太陽や月の動き、万物のバイオリズムに沿って、健やかな2023年を送る準備をしてみませんか?
Photo:Yu Inohara
Text:Tokiko Nitta
運を味方にする暦を知って、一年の開運をはかろう。
明治6年から世界の標準的暦となるグレゴリオ暦が導入されましたが、いまだに日本では年中行事や独自の風習と密接に関わる暦が生活に浸透しています。暦の本を開くと、結婚式や葬儀、建物を建立するなどの吉凶日が記され、暮らしを豊かに導くヒントがぎっしり。暦と上手に付き合うことで、新しい一年の生活の道標になります。
一粒万倍は稲の例えで「一粒まけば、万倍の稲穂になる」という意味。わずかなものでも多くを生み出すとされ、この日にはじめたことは万倍にもなって後々収穫されるという吉日。ただし、借金をすると苦労の種が増える日でもあるので、注意が必要。
一年の中で最も大吉日。天の恩恵が受けられ、何の障害も起こらない日とされる。特に、婚礼には最大吉日。
なにをやっても良い結果にならない凶日。古くから事を起こすには向かない日とされる。
先勝日の略。急用や訴訟を行うのに吉。午後は凶。
午前中、夕方、夜は吉。ただし、昼は凶。葬儀を行うと死者の道連れになるとされる。
静かに過ごすのが吉。公事や急用は避ける。ただし、午後は大吉。
移転、開業、新規事業の開始は凶。すべてのことに置いて悪い日とされる。
婚礼、旅行、建築、移転、開店に吉。なにかをはじめるのに適した日。
何事をするにも凶。ただし、正午のみは吉とされる。
もともとは夜空の北斗七星の柄杓(ひしゃく)の柄の指す方位によって季節を知るためのものでしたが、奈良時代になると吉凶を知るために用いられました。暦本の中段に仮名で記されています。
万物を建てる最吉日。柱を建てる、棟上げ、婚礼、開業、移転など大吉。土を動かす、蔵開き、船に乗るのは凶。
医師にかかる、薬を飲みはじめる、種まきなどに吉。ただし、婚礼は凶。
万象万物ことごとく吉日。建築、移転、新規事業、婚礼、種まき、すべて吉。
物事の平等円満をもたらす吉日。地固め、旅行、婚礼は吉。池や溝を掘るのは凶。
善悪が定まってとどまる日。建築、移転、婚礼、開店、種まきに用いると吉。訴訟、旅行などは凶。
万物の育成を促す日。神仏の祭祀、婚礼、その他の祝事に吉。金銭の出し入れや財産整理は凶。
物事を破る日。訴訟にこの日を用いると好結果に。ただし、婚礼や祝い事は凶。
万事に危惧がある日。控えめに過ごすことが大切で、特に旅行や登山は大凶。
物事が成就する日。建築、開店など、新規に事をはじめる日に用いると吉。訴訟は凶。
生命の更新をみんなで祝う、お正月の事はじめ。
そのためのお迎えの準備が年末の大掃除や正月飾りでした。正月料理のおせちも歳神様のためのものです。まずは料理をお供えして、そのお下がりをいただく。歳神様の生命力をお裾分けしてもらうところに、お正月のおせちの意味があります。
また、お雑煮こそ歳神様の生命力のお裾分けそのもの。昔はお雑煮を「直会(なおらい)」と呼び、神様に捧げた後にいただく食事とされてきました。関東風のすまし汁や関西風の味噌仕立てなど、地方によって違いはありますが、いずれにしてもさまざまな食材が“ごった煮”されて、生命エネルギーがパワフルに入っている料理。雑煮と書きますが、決して雑な食べ物ではなく、ありがたい祝膳なのです。
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金運が上昇する日は、財布を新調しよう。
それなら、新年の事はじめとして、吉日を選んで新調するのも開運行為のひとつ。先ほどの選日で紹介した「天赦日」と「一粒万倍日」に加え、「巳の日」と「寅の日」も金運が上昇する吉日です。
巳はヘビを指し、七福神の弁天様のおつかい。芸術の神様であり、芸能や勝負事の運気を上げる弁天様は、財運も司るとされています。そんな弁天様と繋がりが強い巳の日は、周期として20〜40日に1度訪れる大切な吉日。
中でも、60日に1回巡る「己巳日(つちのとみのひ)」は、さらに縁起が良い日。強力な金運を呼び込むとされ、財布を購入したり、買った財布を使いはじめるのに良いとされます。この日に弁天様を祀る神社にお参りすると、白蛇が願いを届けてくれるとも言われています。
「寅の日」は12日ごとに巡る吉日。寅は「千里行って千里戻る」ということわざから、寅の日に旅に出ると安全に帰ってくるとされ、旅立ちに良いとされてきました。また、寅の縞模様は金運の象徴ともされ、金運招来と言われます。そのため、この日に財布を買うと、出て行ったお金を呼び戻してくれると信じられてきました。
「そんなおまじないなんて…」という人もいますが、こういう“ゲン担ぎ”がある人生こそ、豊かで月々に楽しみがある気がします。
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新しい衣類に袖を通す、着初めの吉日を取り入れよう。
二十八宿には、衣類の着初めや仕立てに良いとされる日があり、それらに見合った吉日を選びます。それだけで、自分の洋服がラッキーアイテムになりますし、身につけている日は良いことを引き寄せることができそうですね。以下は1月の衣類にまつわる吉日です。衣類を新調したり、初めて袖を通す日は
衣類の着初め、婚礼などが吉。
衣類の仕立て、物品の購入に吉。
物品の仕入れに吉。
新規ごとの開始が吉。
衣類の着初め、学問はじめに吉。
より良い一年を迎えるために。2023年はときめきの年。
こういう時代だからこそ、自然の摂理に沿って体を整え、太陽や月の動き、季節に合わせた生活を送ることが大切だと感じます。暦にヒントをもらって、ささやかながら自分の暮らしに取り入れるのもその手段。
さて、2023年は干支でいうと「卯」の年です。ウサギは多産の動物であることから「妊娠・出産」の意味を持ち、豊穣と繁栄のシンボルとされてきました。穏やかで温厚な性質から卯年は「家内安全」の一年とされ、飛び跳ねる姿からは躍動や向上に繋がるとも。
穏やかな気持ちは忘れずに、心ときめく躍動をするのが吉。どうぞ、愛に満ちた一年をお過ごしください。
※参考文献:令和5年 神宮館高島暦
PROFILE

仁田 ときこ
編集・ライター。古くから伝わる地方の風習や祭祀、伝統工芸、手仕事の旅について執筆。民俗学を学び、最近では文化遺産調査のボランティア活動にも参加。機内誌やライフスタイル誌、ファッション誌などで幅広く活躍。海と山に囲まれた葉山暮らし。Instagram:@tokikonitta