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廃棄衣類がスツールに変貌。ファッション由来の新素材「PANECO®」とは。

ウツワ

2023.03.23

廃棄衣類がスツールに変貌。ファッション由来の新素材「PANECO®」とは。

ユナイテッドアローズ社が取り組んでいるサステナビリティ活動「SARROWS(サローズ)」。その一環として、廃棄衣類繊維由来の新素材「PANECO®」を活用した什器を製作しました。〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉(以下、GLR)の一部の店舗にて、お客さまが荷物を置いたり、少し腰をかけたりするスツールとして活躍しています。原料がファッションとは思えない特性を備えたこの素材は、店舗什器の製作を行う〈WORKSTUDIO〉が開発したもの。プロジェクトスタートの経緯から製造工程まで、詳しくお話しを伺います。

Photo:Masashi Ura
Text:Maho Honjo

洋服を原料にした板をつくる。その困難な道のりとは。

画像 ファイバーボード

−〈WORKSTUDIO〉は店舗什器のデザイン、開発を本業としているとのこと。そんな会社が、なぜ「PANECO®」という繊維リサイクルボードをつくることになったのか。その経緯を教えてください。

スタートの経緯は、ある案件の依頼でした。その案件がきっかけで「廃棄される衣類を板にできないか? 板にすることが出来ればその板で什器や家具を製作できるでは?」という発想がわきました。そして「その板を開発しよう!」となったのです。

− 什器の専門家が素材開発の道を切り拓く。それってものすごく大変だったのではないでしょうか。

当時の私たちは、リサイクルの知識も、素材開発の知見もまるでゼロ。いい意味でも悪い意味でも“素人”でした。素材を板へと加工する工場を一軒一軒当たって打診するも、100軒に電話して100軒から断られる、まさにそんな状況でした。早々に行き詰まるなか、什器屋である私たちが思い浮かんだのが、廃棄される木材を繊維化して成形する素材「木質繊維板」の生産アプローチ。洋服の繊維も同じ方法でボード化できるのではないかと考えたのです。

− 携わったことがない分野だからこそ、既成概念に縛られることなく、自由な発想で取り組むことができたのですね。

いい意味での“素人発想”が生きたのかもしれません。そこで私たちは、木質繊維板の生産工程をひとつずつ分解し、どの作業をどの工場で代替すれば製作可能なのか、その道を探ることにしました。技術や規模を含め、木質繊維板の工場と同じ環境はなかなか整いません。失敗一号、失敗二号、失敗三号…何度となく失敗を重ねた上で、どうにか完成形へたどり着き、実際の生産を始めたのです。

ファッション原料の素材開発にこだわった理由。

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−「PANECO®」の工程をひとつひとつ分解して…とのこと。今、どういう製造工程でつくられているのでしょうか。

まず素材を「回収」します。次にボタンやジッパーを外す「分解」作業を行います。そして洋服を「裁断」し、その次が綿状の繊維にする「粉砕」です。ここまでが粉砕の工程で、次はプレス工場へ。粉砕した繊維にバインダ(接着剤)を混ぜ、プレス機で「圧縮」。そこでようやく「PANECO®︎」が完成するのです。言葉で説明すると簡単ですが、ここまでの道のりは本当に大変でした。本来は一箇所でできるのが理想ですが、現実的にどうしても難しい。いろんな条件を加味して、ようやく現状にたどり着いたのです。

1(回収) まずは、企業から廃棄に回る衣類を「回収」する。

2(裁断) 次に、繊維を粉砕しやすくするために「裁断」を行う。

3(分解) 「分解」の作業は、福祉施設と連携して行っている。

4(圧縮) 粉砕した衣類繊維をプレス工場にて「圧縮」。

5(加工) 目的に応じて「加工」を行い、什器や小物などに。

− なぜそこまでして、洋服を原料にした素材の開発にこだわったのでしょうか。やはり、地球環境に危機感を抱いたから、なのでしょうか。

当初は、環境問題に取り組むためにという目的ではありませんでした。ものづくりに関わる身として、単純に好奇心が湧いたというのが率直なところです。私自身、ファッションがすごく好きで、それが什器と結びつくのなら、そんなに面白いことはないと思った。ただ始めてみてわかったのが、素材開発にはものすごい労力とコストがかかるということ。「PANECO®」の事業を成長させるにはもう少し時間がかかるでしょう。社会への責任と義務だけでは難しい。ただただファッションが好き。その情熱、熱意だけでここまできた気がします。

− では改めて、「PANECO®」ならではの特性、特徴を教えてください。

原料がファッションである、というのがいちばんの特性です。ファッションって基本的に美しく、楽しく、ワクワクするもの。それらを原料としているから、素材自体に表情があるし、肌触りが優しい。それでいて、木質繊維板と同じ性質を備えている。それが何よりもの特徴だと思います。使用した洋服の表情がそのまま出るのも「PANECO®︎」ならでは。赤い服を使えば赤色に、組み合わせればミックスカラーに仕上がります。そうやって繊維を混ぜて使えるというのも大きなメリット。繊維のリサイクル化が進んでいないのは、今の服は天然繊維と化学繊維が混ざった混合繊維になっていて、それらを選り分けるのが難しいことが理由のひとつとされています。でも「PANECO®」は、そもそも混合繊維でOK。これは優れた特徴だと思います。

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−廃棄衣料由来のサステナブル素材が、アパレル店舗のインテリアとして活躍する。未来に向けて大きな可能性を感じますね。

「PANECO®」は今少しずつ量産化に向けて動き始めているので、社会実装への可能性が高まってきていると感じます。また量産とは別のアプローチ、たとえば美しい色のみでつくるアートピースのようなオーダーアイテムにも対応できるのは「PANECO®」の強みです。さらに原料として、植物残渣であるサトウキビの搾りかす(バガス)などを混ぜることも思案中。それで家具をつくって住空間に落とし込めば、「衣」(ファッションロス)、「食」(フードロス)、「住」(「PANECO®」)の好循環が出来上がる。本格的な社会実装に向けて、一歩一歩進めているところです。

大切なのは「できる人が、できることを、今すぐやる」


  • 〈GLR〉のスツールは、「PANECO®︎」の一枚板を無駄なくカットしてできたもので、スタッフ自身で組み立てを行うことができます。また解体するとコンパクトになり、搬送する際にも場所を取ることがありません。

  • 脚となる2つのパーツの窪みを交差させる。

  • 上部の突起部分を座面の窪みに合わせてスツールが完成。女性でも簡単に組み立てられるのも〈GLR〉のスツールの魅力のひとつ。
− ファッションに対する愛情と、「WORKSTUDIO」の社会課題に取り組む姿勢、その両方が伝わってきました。

たとえば今、プラスチックが悪者扱いされていますが、本来プラスチック自体はものすごく優れた素材ですよね。問題はそれを捨ててしまうことなんです。アパレル業界も一緒で、今ファッションロスなどの問題が叫ばれているけれど、ファッション=悪となってしまうのはナンセンス。私自身は「できる人が、できることを、今すぐやる」、この姿勢が大切だと思っています。今、リサイクル素材はヴァージン素材よりコストがかかると言われていますが、それでも企業はそれを必要コスト、さらに言えば存続コストと捉えるべきではないかと。そうやって社会的使命を果たしていかないと、社会、そして消費者からも支持されなくなると思うんです。

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− ユナイテッドアローズ社は、企業理念に「お客様一人ひとりが自分らしく装い、暮らし、心豊かな明日を過ごしていただく」という内容を掲げています。〈WORKSTUDIO〉として今、ファッション、社会、地球の未来について考えていることを教えていただけますか。

私たちの暮らしを豊かにしてくれるものとして、映画、音楽、舞台、芸術…さまざまなものがありますが、ファッションもそのひとつだと思っています。それらのいい部分を未来に繋いで、ループさせていくため、私たちは今こそ知恵を絞るべき。大量生産、大量消費、大量廃棄の社会から、適量生産、適量消費、そして廃棄をできるだけ減らす社会へ変えていかないと。社会の仕組みと私たちの意識を大きくシフトチェンジするために「できる人が、できることを、今すぐやる」。これを実践していきたいと思っています。

PROFILE

WORKSTUDIO

WORKSTUDIO

「什器デザイン・什器製作」で「循環社会の構築」と「テクノロジーの未来」に貢献する「地球環境をデザインする」会社。

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