
ウツワ
2025.07.10
安心して長く使うために。 サステナブルに向けた、品質と安全の管理体制とは。
ふだん何気なく手に取っているユナイテッドアローズ社(以下、UA社)のファッションアイテム。それらは、さまざまな品質管理のチェックを受けてから店頭に並んでいることをご存知でしょうか。「色落ちや色移りがしないかどうか」「日常の洗濯で極端な縮みが発生しないかどうか」「撥水加工をうたった素材が適切に水をはじくかどうか」など、品質や安全面を確認したうえで、私たちの手元に届いているのです。これはUA社が取り組むサステナビリティ活動「SARROWS」のうち「Circularity(循環するファッション)」を推し進める上でも重要な工程です。どんな検査基準があり、どのように品質と安全をチェックしているのでしょうか。「長く大切に使える商品づくり」のために行なっていることを、品質管理部 部長・塚田 恭子さんに教えてもらいました。
Photo:Yuko Sugimoto
Text:Maho Honjo
お客様に満足していただきたいという思いから、部門が誕生。
部内の業務は、大きくふたつに分かれています。まずひとつがUA社オリジナル商品の品質管理です。各ブランドの生産担当者から、製品品番毎に、製品発注書や仕様書、生地を検査した試験報告書、また該当生地の一部や必要に応じて製品サンプルを提出してもらいます。その生地でこの製品をつくるのに問題はないか、タグに記載する品質表示は法律に基づく適正なものになっているかなど、生産担当者が判定した内容について、品質管理の視点で改めて確認を行うという流れです。
-- もうひとつは、どんな業務でしょうか。
オリジナル商品とは別の、仕入れ商品の品質管理サポートです。例えば海外買付商品は、入荷した製品現物や本体に表示されている原産国や組成がインボイスと合っているかどうか、インボイスに記載のないサステナビリティを訴求した部分はないか、また、摩擦による色移りがないか等、お客様の着用に支障がないよう品質確認を行います。それらの情報をすべて取りまとめたうえで、品質表示のタグを作成し、日本で販売できる状態にしていく。あわせて、物流センター内での洗濯ネーム付け、検針・検品作業のサポートも行なっています。
私が入社した2002年4月にはまだ品質管理部門自体がありませんでしたが、「今後、企業としての成長を考えたとき、きちんと品質管理の部門を作る必要がある。なぜならそれこそが、お客様に満足していただけるモノづくりに繋がるからだ」という意見が出始めて、この部門が立ち上がりました。ならば統一した品質基準も必要だということで、各検査協会や他社の情報も参考にしながら、UA社としての品質基準を策定していきました。
-- その頃から作られているということは、内容が変わることもあるのですか?
当初の策定内容から現在に至るまで10回以上の改訂を行なっています。例えば海外の水道水は日本と塩素濃度が違うので、海外生産の生地を使用する場合は染色堅牢度の項目に「塩素処理水」を追加する等、検査項目を徐々に整えていったり、基準書に入っていなかったアイテムの追加や必須項目の見直しは都度行っています。あとは、お客様からいただいた不具合についての貴重なご意見をもとに、増やした項目もあります。最近では、カットベロア素材に関して、表面ではなく裏面から色移りがしたというご意見があり、同様生地については摩擦堅牢度の項目に「裏面」も追加することにしました。商品部や技術チームと相談しながら、長くご着用いただけるようにお客様不満足の再発防止に取り組んでいます。
品質と安全に関する、膨大な検査を経たのちに店頭へ。
最新のUA社の品質基準表の一部。2024年4月に改訂がされた最新版。
-- 試験項目は専門用語が並んでいるので、それぞれが何を意味するのか、教えてください。
例えば「染色堅牢度」という項目は生地の色に関する検査項目です。そして「耐光」は、日焼けにどれだけ耐えうるかを示す試験項目です。「洗濯」は3つに分かれていて「変退色(色の変化)」「汚染(色移り)」に加えて、洗濯した際に液が汚れないかどうかを調べる「液汚染」もあります。「汗」は、酸性・アルカリ性それぞれの汗に対して「変退色」「汚染」の両方を調べます。「摩擦」は、白い布を使って生地を擦ったとき、白い布に色がどれだけつくかをチェックするもの。乾いた状態での「乾燥」と、より色が落ちやすい濡れている状態の「湿潤」、それぞれ確認します。
白い布を使って生地を擦り、色落ちがないか簡易的にチェックする。
UA社社内には洗濯機があり、必要に応じて家庭洗濯での外観変化や伸びや縮みを実際に確認。
わかりやすい言葉でいうと「伸びと縮み」です。「洗濯」「ドライクリーニング」「プレス」など、それぞれの取扱いや作業を経てどれだけ寸法が変化するのかをチェックするものです。
--「物性」とはどんな項目でしょうか。
「引裂強さ」は、縫製時にできる小さな針穴傷等から生地が裂けやすくないかどうか。「引張強さ」は文字通り、引っ張ったときに破けないかどうかです。「破裂強さ」はニットなどの編み物に適用しているもので、これも引っ張ったときの強度を示します。「滑脱抵抗力」は縫い目を引っ張ったときに、糸が縫い目から滑って裂けてしまわないか調べるもの。「ピリング」は毛玉になりにくいかどうかをチェックする項目です。
毛玉が発生する生地は、市販のピリングクリーナーで除去できるかをチェック。
数値だけでは測れない、スタイリング視点で行う品質管理。
生地の試験結果は、当然合格基準を満たしているかどうかで判断するわけですが、私たち品質管理部ではその視点に加えて、製品になった状態を考慮するようにしています。例えば、配色使いはするのか、裏地はあるのか、スリットやポケットの有無、袖口の仕様、どんな附属品が付くのかなど、その生地でどんな商品を作る予定なのか商品全体を確認した上で判断することを大事にしています。数値はもちろん重要ですが、その確認だけでなく、仕様書や発注書と照らし合わせて、商品部にもどんな商品なのか問い合わせながらチェックを行っています。
-- それは製品をただ数値で測るのではなく、実際のスタイリングを想像して確認を行うということですね。
はい。だからこそ、数値がわずかに基準に達していない場合でも、生地や製品仕様を確認して「問題なく提供できそうだ」と判断することもありますし、「このブランドでこの製品であれば」といった観点から、許容として進めるケースもあります。例えば、ファッション感度の高いお客様に向けて、販売スタッフが直接ご案内できる商品などがそれにあたります。その際には、お取り扱いに関する情報をしっかりと記載し、お手入れ方法や着用時の注意点も丁寧にお伝えできるようにする。一方で、直接ご案内できないオンラインサイトでの販売には適さないと判断した場合は、その点も商品部にフィードバックするようにしています。
縫製時の針穴等から簡単に生地が裂けてしまうことがないか、その強度を確かめる。
UAというブランドそのものをお届けすることになるので、お客様の実際の着用シーンやお取り扱いを想定しながら、品質安全の判断を行うようにしています。例えば、「品質タグの取扱い表示どおりに家庭洗濯機で洗ったらどうなるか?」といった観点での確認です。必要に応じて商品部に洗濯をしてみてもらうこともありますし、品質管理部でお預かりして洗ってみることもあります。また、スカートのスリット位置によって物性に問題が生じそうであれば、縫製仕様を相談することもあります。繊細な生地を使ったトップスの袖口、ボトムスの股ぐりや脇縫い部分などの仕様を再確認したりも。基本的には、商品部や技術チームの段階でこうした点も考慮したモノづくりが行われています。ただ、私たち品質管理の視点からダブルチェックを行うことで、少しでもお客様が安心して長くご愛用いただける商品を提供できると思っています。
-- その一方で、仕入れ商品については、いかがでしょうか。
仕入れ先のご担当者には、先ほどお見せした当社の品質基準表を事前にお渡しして、これに即した品質の製品を納品いただきたいとお伝えしています。オリジナル商品のような生地の試験報告書提出はマストにはしておらず、そのブランドのファッション性やポリシー、クリエイティブなモノづくりへの姿勢をまずは尊重し、その上でお客様に不利益が出ることのないよう、私たちが並走してサポートをする形です。製品が倉庫に入荷したときは、各品番を抜き取りで表示確認をして、事前にご提示いただいた品質情報と合致しているかを確認します。もしその時点で誤表記などの問題があれば、品質管理部を通して、各商品部担当者に仕入れ先様への確認依頼をしていく流れです。
-- UA社のどの商品も、確認に次ぐ確認作業が繰り返され、店頭に並んでいるということがよくわかりました。
販売側が自信を持っておすすめするために、そしてお客様が購入して心躍る体験をしていただくために、製品の品質管理が行われていることが大前提なのですよね。私たちはその大切な後方支援を任されているのだと思っています。
多様化するファッションを安心して楽しめるように。
撥水機能をうたった素材が、実際に水を弾くかどうかの簡易試験も。
それが、品質管理に関する定期的な勉強会です。仕入れ商品の担当者向けに月次で開催しているのが、前月の事例共有。誤表示や商品事故発生などを漏らさずシェアすることで、同じことが起こらないようにしています。オリジナル商品の担当者にも、半年ごとに勉強会を開催。商品回収に至ったケースや、店頭展開後に対処が必要となった事例などを詳しく共有しています。あとは法律改正が行われた場合も、その都度共有し、勉強会で詳細をお伝えするようにしています。
-- かなりの頻度で勉強会を行なっているということですね。
それ以外にも、オンラインサイトやPR、雑誌媒体での「商品の表示に関する勉強会」を半年に一度開催しています。お客様はサイトや媒体上で商品情報をご覧になりますので、そこでの表示不備や販売前の商品説明文の内容相談などの事例を共有しています。特に気をつけているのは、商品をよりよく見せたい、わかりやすくご紹介したいという想いから、意図せず実際の品質以上の誇大表現となる「優良誤認」表示になってしまわないようにすることです。最近は、機能性素材を使用した商品も増えています。その根拠となる機能性試験結果の確認はもちろんですが、確認した根拠以上に上乗せした情報が走ってしまうことがないよう注意喚起を行っています。また、機能性項目や試験方法についての情報は、社内で3か月に1度、理解浸透のメールマガジンも発行しています。
-- では、品質・安全管理体制について今の課題を教えてください。
-- 時代の変化に合わせて、品質管理の対応も幅が広がっているということですね。では、今後の展望をお願いします。
私たちは直接お客様と接する機会はありませんが、品質確認をしたオリジナル商品や販促に関して、「この素材はどう説明したら伝わりやすいか」「この機能を品名に取り入れたい場合、どのように表記すべきか」などの相談を受けることがあります。そのアイテムの売り上げが好調だったり、街中で自社製品を着用されているのを見かけたりすると、良いサポートが出来たのかなと感じ、とても嬉しくなります。だからこそ、品質管理部がしっかりと軸を築いたうえで、各部門と連携し、各ブランドの特性やお客様の求める品質を意識しながら、しっかりと安全を担保したい。未来を見据えて成長に向かうためにも、お客様に安心してファッションを楽しんでいただけるモノづくりの一端を担い、製品を幅広く展開していく下支えができればと考えています。
INFORMATION
PROFILE

塚田恭子
2002年、株式会社ユナイテッドアローズに入社。
大学院での洗濯・染色・衣服内気候に関する研究を基盤に、社内の品質管理部門の立ち上げに参画。2015年より同部門の部長に就任し、現在は品質とサステナビリティの両立を目指しながら、より良い商品提供に向けた仕組みづくりを推進している。