
ウツワ
2020.10.01 THU.
検診とセルフケア。ダブルチェックの重要性と乳がんとの向き合い方。
乳がんの早期発見、早期診断、早期治療を促す「ピンクリボン運動」などによって「乳がんは人ごとではない」と言う意識が少しずつ高まってきていますが、まだまだ自分事として捉えられている人は少ないのではないでしょうか。実際の患者の数や傾向はどうなっているのでしょう。認定NPO法人 乳房健康研究会理事長の福田 護先生にお伺いしました。また、生活様式にも変化がある今、家にいながらできる「セルフチェック」の大切さや、具体的なやり方についてもアドバイスをいただきました。ピンクリボン月間の10月。改めて自分の身体と向き合い、健康について考えてみてはいかがでしょうか。
Illustlation:Ken Hashimoto
Text:Noriko Ohba
9人にひとりが患う乳がん発症の原因と、その予防法は。
「日本での乳がんの患者数は増加傾向にあります。統計(※)によると、2016年の乳がん罹患数は、106,910人と推計。同時に乳がんによる死亡者数も増えているのが現実です。一生のうちに乳がんを患う日本人女性は、9人にひとりと言われています。
また、乳がんは、一般的に発展途上国より先進国に多く、農村部よりも都市部に多い疾患と言われてきました。日本でも国が豊かになるにつれ、また女性の社会進出が進むにつれて、乳がん発症リスクが増え、乳がんが増加していると考えられています。」と福田先生。
※国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
ー日本人女性で罹患率が多いと言われる乳がん。増えてしまうのには何か原因があるのでしょうか?
「乳がんの原因はひとつではなく、複合的に起こるものとされています。発症のリスクを高めるものは主に、初潮が早い、閉経が遅い、出産や授乳の経験がない、肥満、運動不足、喫煙、飲酒量が多いなどが挙げられます」。
ー新型コロナウィルスの影響で家にいる時間が増えた今、「コロナ太り」という言葉が生まれるなど運動不足に悩む人も多いですが…。
「外出や運動をあまりに制限しすぎることは、乳がんの発症リスクを高めてしまいます。肥満傾向の人は乳がんの発症リスクが高いのは事実なので、適度な運動はおすすめです」。
stay home中でも家の中でできるエクササイズを行う、散歩に出かけるなど、軽くでも体を動かすことが大事です。とはいえ、これで予防対策はOKかというと、そうとも言えないようです。
「今現在、乳がんを予防する確かな方法は見つかっていません。運動不足など、先ほど挙げたものは要因として考えられますが、残念ながらそれらを解消したとしても乳がんを必ず予防できるとは言えないのです。だからこそ、乳がんをいち早く発見するための検診、乳がんで命を落とさないための検診がとても重要です。定期的な検診を心掛けると同時に、乳がんのセルフチェックを習慣にしていくことが大切です」。
約半数もの人が、セルフチェックで乳がんを発見。
そもそも、さまざまな臓器に起こるがんの中でも、どうして乳がんはセルフチェックで見つけることができるのでしょう?
「乳房は、体表にある臓器です。乳がんは乳房の中の乳腺にできるため、自分で触れることができる場合があります。そのため、セルフチェックが推奨されているのです。
全国集計(※)では、自己発見した乳がんは51%でした。これは、乳がんを患った約半数の人が、検診ではなく自分で見つけているということです。この現状からも乳がんをより早く見つけるためにもセルフチェックがいかに重要かわかります。自分の乳房に関心をもち、変化があった場合にはより早く気づくためにもセルフチェックは20代のうちからはじめるといいでしょう。ですが、もちろんセルフチェックだけでは万全ではありません。30代は人によっては超音波検査を、40代からはマンモグラフィの受診を基本として、専門医の検診で異常がないことを確認したうえでセルフチェックも習慣的に行うことをおすすめします」。※日本乳癌学会(2017年)
やり方は簡単。マスターして早速セルフチェックを。
さて、いよいよセルフチェックの方法についてお伝えします。セルフチェックは月に一度が理想です。セルフチェックの日を決めて習慣化するのがおすすめです。時期的には、生理が始まって1週間後くらいが目安です。乳房の張りや痛みがなくなり柔らかい状態のときに自分でさわってチェックしましょう。
1.鏡の前でチェック
1. 鏡の前で腕を高く上げてよく見る。
2. ひきつれ、くぼみ、乳輪の変化、乳頭のへこみ、湿疹などがないかをチェック。また、両腕を腰に当ててしこりやくぼみがないか観察します。
2.浴室でチェック
シャワーのとき、石鹸がついた手で触れると乳房の凹凸がよくわかります。
1. 4本の指を揃えて、指の腹と肋骨で乳房をはさむように触れ、「の」の字を書くように指を動かします。しこりがないか、乳房の一部が硬くないか、脇の下から乳首までチェック。左右の乳房の違いも覚えておきましょう。
2.乳房や乳首をしぼるようにして、乳首から分泌物が出ないか調べます。
3.あおむけに寝てチェック
調べる側の乳房の下に枕などを当て、浴室のときと同じように触れます。
早期発見が乳房温存や生存率を高める。
セルフチェックの結果、
・しこりがある
・ 乳頭から血や分泌物が出る
・ 皮膚の赤いところがある
・ 皮膚、乳首のひきつれ、くぼみがある
などの異変や、その他にも少しでも気になることがあったら、迷わずに専門外来での検査を受けましょう。
「絶対にしてはいけないのは、自己診断。ネットなどの情報から自分で調べて、決めつけてしまうことはとても危険です。セルフチェックの目的は乳房に変わったことがないかを確認すること。これくらいなら大丈夫と油断することなく、少しでも気になることがあった場合は、専門外来のある施設を受診してください」。
セルフチェックで気になるところがある人は専門医の受診。気になるところがない人や無症状な人は定期的に検診を受ける。このことを正しく理解しましょう。
ーさて、どんな病気も早期発見が大事だと言われますが、それはもちろん乳がんにも当てはまります。早くに発見できた場合と、進行してからの場合、乳房を摘出しなくてはならない可能性や死亡率にはどれくらいの差が生まれるのでしょうか?
「統計(※)によると、日本の乳がん10年生存率は、ステージIが96.1%、ステージIIが86.3%、ステージIIIが59.4%、ステージIVが15.9%です。この数字からもわかるように、早期乳がんのステージIではほとんどの人が治癒しますが、進行乳がんのステージIVでは、治る確率がとても低くなります。
そして、ステージIの乳がんでは、乳房を全摘出することなく、乳頭、乳輪を残した上で、がんを周囲の正常乳腺を含めて部分的に切除し、乳房の変形が軽度になるように形を整える乳房温存手術が可能です」。※全国がん協加盟がん専門治療施設(2019/4/9)
早期に発見することがその後の身体や心の状態にとってどれだけ大切か、そのための検診やセルフチェックが重要かということがわかります。
コロナ禍を経験したことで、働き方や家での過ごし方など、さまざまなことが新しく変化しつつある今、ぜひ新しい習慣として月に1度の「セルフチェック」をライフスタイルに取り入れて、自分の身体と向き合いましょう。
PROFILE
福田 護
1969年金沢大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学にて外科講師、乳腺・内分泌外科教授などを経て、現在は聖マリアンナ医科大学附属研究所、ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック院長を務める。乳がんの治療や啓蒙に関する著書も多数。