
ウツワ
2022.05.12 THU.
カリモク家具の“未利用材”を有効活用。グリーンレーベル リラクシング カメイドクロック店の店舗づくり。
4月28日、東京・亀戸の大型商業施設「カメイドクロック」内にオープンした〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(以下GLR)〉カメイドクロック店。店舗づくりにあたっては持続可能性を重視し、ハンガーラックやテーブル、ミラーなどの什器に、これまで家具として使われてこなかった“未利用材”が活用されている。そこにはどんな想いが込められているのか、製作を手掛けた〈カリモク家具〉副社長の加藤 洋さんと、デザインを担当した建築家の芦沢 啓治さんにお話を伺いました。
Photo:Sana Kondo
Text:Yuriko Kobayashi
日本の森林を健やかに保つ、“未利用材”の活用。
―まずはじめに、“未利用材”とはどういうものなのか、教えてください。
加藤:“未利用材”と聞くと、全く利用されていない木材のような印象を持ちがちですが、正確には“家具として利用されていない木材”ということです。家具には広葉樹が使われることが多いのですが、実は国内の広葉樹の約95%はチップに加工され、製紙パルプの原料になったり、バイオマス発電の燃料として利用されたりしているんです。
―家具にはほとんど使われていないのですね。どうしてなのでしょうか?
加藤:これまで多くの家具メーカーが細い木や曲がった木を資材として使ってこなかったということも要因のひとつだと考えています。大きく育った木の丸太からは面積の広い一枚板を削り出せます。一方、細かったり、曲がったりした木を家具に使うとなると、小さな資材を切り貼りして使用する必要があるので、コストも技術も多く掛かる。なにより見た目が美しくないという考え方が一般的です。


―未利用材を使うにはコストも技術も掛かるということでしたが、それでも利用に踏み切ったのには、どんな理由があるのでしょうか?
加藤:わたしたちを含め、多くの家具メーカーでは、主にオークやウォールナットといった、海外の材木を輸入して使ってきました。確かに素晴らしい素材で、人気も高いです。でも、国内にもたくさん使える材木があるのに、「売れるから」という理由で素材を選ぶ家具づくりが、本当に“正しい家具作り”なのだろうか。そんな風に感じはじめたのが最初でした。
芦沢:家具にも“流行り”がありますから、いまはどうしてもオークやウォールナットを選ぶ人が多いですね。
加藤:輸入材に押されて国産材の需要が低下すると、山に人が入らなくなります。特に、かつて林業が盛んだった頃に作られた人工林は、適切な管理がされないとしっかりと根が張らず、大雨や台風の際に土砂くずれを起こしやすくなります。そうした放置林が全国にたくさんあるのですが、チップやバイオマスとして売っても二束三文にしかならないということで、事業として成立しづらいというのが現状です。
KEIJI ASHIZAWA DESIGN 芦沢啓治さん
芦沢:ビジネスにならないから誰も森林の管理をやりたがらない。経済が循環していないんです。
加藤:そうした木を使って家具を作り、そこに付加価値をつければ、いまよりもっと高く木材を買い取れる。そうすれば地域の働き手も増えて、かつてのような健全な森林を取り戻せるのではないかと思いました。わたしたちの仕事は木があって初めて成り立つものですから、いまの日本の森林が抱える問題は、家具メーカーとして見過ごせないものです。
“本当にいい家具”とはなにか?被災地で生まれた奇跡のデザイン。
―〈カリモク家具〉と芦沢さんは、これまでにも未利用材を使った家具やプロダクトづくりを行ってきたそうですね。どんなきっかけで協業するようになったのでしょうか?
加藤:最初はわたしの完全な片思いでして(笑)。随分前から芦沢さんのことは存じ上げていたのですが、「ぜひご一緒したい!」と強く思ったのは東日本大震災の後、芦沢さんが被災地の石巻市で立ち上げた〈石巻工房〉の取り組みを知ったときでした。当時、津波でなにもかも流されてしまった石巻で、芦沢さんたちは道具を持ち寄ってDIY的に家具を作ったり、その“場”を公共に開放したり、家具づくりを通してコミュニティや暮らしを再構築していこうとしていた。その姿に深い感動を覚えました。
芦沢:当時僕は石巻に友人がいて、その友人のためのレストランを震災前に設計しました。そのお店が津波で流されてしまったので、最初はそのお店の修理のために現地に入っていたんです。自分の仕事が終わった後はボランティアとしていろいろお手伝いしていたのですが、あるとき炊き出しの会場で、みなさんが「どこに座っていいのかわからない…」と困惑している様子を見たんです。そうか、椅子がないからだと。そのとき、こういう部分に関しては自分で役に立てることがあると思ったんです。
加藤:家具というのは、そもそも暮らしに役立つもの。そこに立ち返ったというのが素晴らしいなと感じます。
芦沢:とりあえずの道具と、合板とか2×4材とか、譲ってもらえる資材を揃えて、誰でも自由にモノづくりができる「公共工房」のようなスペースを作りました。地域の人が道具を借りて自分の家を修理したり、ボランティアさんも利用してくれました。石巻工房の使い方やDIYの素晴らしさを伝えるために、仲間と石巻に“復興バー”という新しいお店を作ったりもしましたね。
カリモク家具 取締役副社長 加藤 洋さん
加藤:資材が限られる環境の中で、芦沢さんは規格材を繋げて家具を作っていました。僕たち家具メーカーには「家具は一枚板から作るもの」という慣例というか、思い込みがあったので、それを見たときには衝撃を受けました。しかも、繋ぎ目を隠さずにあえて見せることで魅力にする。大袈裟でなく、「これは奇跡のデザインだ!」と思ったんです。
―その衝撃が、未利用材で家具を作ることに繋がったんですね。
加藤:〈石巻工房〉のプロダクトは、いま手元にある材料を使って、シンプルかつ合理的にデザインされています。巨木から作った家具とはまた違った美しさがそこにあると感じます。そして、なにより素晴らしいのは、それらの家具の背景を知った人々に、前向きな気持ちを与えられるということ。“正しい家具づくり”、“本当にいい家具”とはなんだろうと考えていたわたしにとって、それは大きなヒントでした。芦沢さんのような人と、改めて“本当にいい家具”を再定義したい。そんな想いで、一緒に未利用材を使った家具づくりをやらせてほしいとお願いしました。




石巻工房 by Karimokuの家具たち
加藤:その後、〈石巻工房 by Karimoku〉を立ち上げて、未利用材を使った様々なプロダクトを作ってきました。それ以降、事業以外でも芦沢さんとはいろいろな取り組みをしていて、木で作ったキッチンなど、空間の中にどうやって木を取り入れるか、半ば実験のような楽しいことを続けています。
芦沢:まだビジネスになる気配がありませんが、楽しいですね(笑)。
加藤:自分を含め、家具メーカーの人間は家具について考えるのは得意だし、大好きなのですが、意外と建築や空間づくりに関しては距離があるような気がしていました。でも芦沢さんと仕事をするようになって、わたしたちは、ただいい家具が作りたいだけじゃなくて、その先にいい空間を作って、そこで一人でも多くの方に幸せな時間を過ごしてもらいたいのだと気づいたんです。会社としての原点に立ち返ることができた貴重な体験です。
長く使い、循環させる。サステナブルな店舗づくり。
―〈GLR〉亀戸店の什器づくりにあたっては、どんなことを大切にデザイン・製作されたのでしょうか?
芦沢:先ほどの空間の話とも繋がりますが、住宅でも店舗でも、そこに置かれる家具や什器がどんな風に置かれて、使われるのか、そこの想像力は絶対に必要だと考えています。それは器でも同じだと思っていて、いい器を作る人はきっと、そこにどんな料理や食材が盛られるか、想像しながら作っている。什器の場合は、ハンガーであればどんな服が掛けられて、ミラーであればどんな場所に置かれるのか。そういうことを想像しながら作っていきました。
加藤:芦沢さんならではの、シンプルで合理的なデザインが生きた什器になりましたね。
芦沢:アパレルブランドの什器にしては少々ぶっきらぼうな感じがするかもしれませんが、今回は“道具”、“材料”のようなイメージでデザインしました。もし改装や移転があったとしても、「バラバラにして保管できるんだったら、ちょっと取っておこうか」と思ってもらえるような感じ。「なにかに使えるかもしれないよね」って。そんな風にまた別のものの材料に還元しやすいデザインっていうのが、いいなと思いました。
後ろのネジを外せばすべて分解できるようになっている
加藤:見た目は木のオーガニックさがありつつ、実質的にはすごくインダストリアルで工業的。その両方の側面のいいところを取り入れた什器ですね。芦沢さんは「ぶっきらぼう」と謙遜していますけど、そこからある種の“普遍性”が生まれているとわたしは思うんです。時代の流れに合わせてどんどん作っては捨てていくのではなくて、「簡単にはゴミにしないで長く大切に使っていこうよ」そんな気持ちが込められていると感じます。
―素材がサステナブルなだけでなく、デザインにも持続可能性への願いが込められているんですね。
芦沢:かっこよさだけを求めて作り込んでしまうと、いまは良くても後々うまく使われなくなってしまうかもしれない。そういう部分ではシンプルで合理的な“道具っぽい”什器という感覚はこれから必要になってくるんじゃないかと思います。
加藤:芦沢さんのデザインはすごくかっこいいんですけど、「すごいだろ、こんなことができて!」みたいな感じがないんですよね。でも、よくよく聞くと、随所に工夫があって、面白い。今回の什器も、シンプルさの中にはたくさんの知恵とアイデアが詰まっていますね。
加藤:今回の什器を雛形に、例えば別のエリアの店舗では、その土地の未利用材を使うなど、地域に根ざした素材を使うというのもいいなと考えています。どうですか、芦沢さん?
芦沢:その土地の“スペシャリティ什器”、すごくいいですね! そこから自分が暮らす土地の自然について想いを馳せてもらえたら…と考えるとですね。お客さんは、この什器を見ただけでは未利用材が使われているとはわからないでしょう。でも、お店のスタッフの方がその背景を話したり、そこから新しいコミュニケーションが生まれるのも素敵だなと想像します。それならここの洋服を買ってみようかなと思っていただけたら、なお嬉しいですね。
INFORMATION
PROFILE

加藤 洋
購買・調達管理だけでなく、製造やデザイン開発まで管掌し、「Karimoku New Standard」(カリモクニュースタンダード)、「Karimoku Case Study」(カリモクケーススタディ)、「MAS」(マス)、「石巻工房 by Karimoku」の各コレクションを統括。インテリア部門だけに捉われず、アートやファッションなどとの協業を企画し、カリモク全体のリブランディングに取り組んでいる。

芦沢 啓治
「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。正直なデザインをモットーとし、幅広いスケールにおいてディテールを積みかさねていく建築の仕事を軸に、国内外でインテリアデザインのプロジェクト、家具メーカーの仕事を手掛ける。また、東日本大震災からの復興を支援する「石巻工房」の活動にも注力。