ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ウツワ

2022.07.07 THU.

新たな価値を付加し、モノに〝光を当て直す〟。「PASS THE BATON MARKET」への想い。

「日本の倉庫を空っぽにしよう」をテーマに、定期的に開かれている蚤の市イベント「PASS THE BATON MARKET」。在庫として倉庫に眠っている規格外品やデッドストックをメインに販売する蚤の市は、リサイクルやリユースといったモノの循環を促す場として、毎回賑わいを見せています。7月16日(土)、17日(日)のVol.8開催を前に、本イベントが始まったきっかけや魅力について、「PASS THE BATON MARKET」の発起人である株式会社スマイルズ取締役CCOの野崎 亙さんにお話を伺いました。

Photo:Takeshi Wakabayashi[interview]
Text:Hisamoto Chikaraishi(S/T/D/Y)

企業が持つ倉庫の在庫を減らせば、
市場にワクワクが溢れる。

─野崎さんが「PASS THE BATON MARKET」をはじめた理由やきっかけを教えてください。

2009年に現代のセレクトリサイクルショップとしてはじまったPASS THE BATONは、「自分にとってはいらなくなったものかもしれないけど、それは誰かにとっての大切なものかもしれない」というコンセプトを掲げてきました。個人の思いや記憶を物に託して、その次の誰かにバトンを渡していくことに大きな価値になっていますが、もともと別の部署から見ていた人間として、フリマアプリなどの個人間の取引(CtoC)が日常的に行われる中で、PASS THE BATONは新しい価値を提供する取り組みをしてもいいじゃないかと思っていたんです。

いざ事業部長になって新しいことをはじめようとしたときに、CtoCのマーケットがあるのだから、わたしたちはPASS THE BATONのコンセプトをそのままに、企業と個人を繋げる蚤の市をやるべきだと感じました。モノづくりに強い日本には、表からは見えていない在庫を抱える企業や職人がたくさんいて、すてきなものが埋もれているだろうし、また同時に、在庫を抱えることがさまざまな日本企業のクリエイティビティや消費者の楽しい購入体験に影響を与えているのではないかということにも思いを巡らせました。

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─それはファッション業界でも起きているのでしょうか。

そうですね。多くの人に届けたいという思いで服を作ろうとしても、在庫が増えていくかもしれないというブレーキがかかってしまったら、届けたい服以上に売れる服を考え売れる服だけをたくさん作ってしまう結果、”売らんがための似たような服”が溢れ、売れないものが残ってしまうなんてことも起こるんじゃないかと思うんです。だから、足かせとなっている在庫を取り除いたら、企業が本当に届けたかったものにもっと向き合うことができ、作り手の思いや熱量が詰まったアイテムを市場に展開し、わたしたち消費者にもそれを受け取ることができる。いま以上に、そんなワクワクが溢れる世界にしたいと思い、PASS THE BATON MARKETをはじめたんです。これまでに145にも及ぶさまざまなブランドやメーカーの方が共感してくださり、出展していただいています。

─PASS THE BATON MARKETには、野崎さんの強い想いが込められているんですね。このイベントでは、いわゆる過去の商品である在庫を扱っているのでしょうか。

過去の商品もありますし、出展者によってはしっかりと明示した上で、B品やデッドストックも扱っていただいています。狙いとして、それらを橋渡しに、その企業のモノづくりや作り手の姿勢そのものを伝える意図があります。安くお得に買えるということではなく、サプライチェーン上どうしても生まれてしまうB品や時代を経たデッドストックを見ていただくことで、いまお店に並んでいるA品の価値をもう一度再認識してもらいたいと考えています。

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─PASS THE BATON MARKETの価値についても改めて知ることができました。前回のVol.7はいかがでしたか。

前回も大盛況でした。ユナイテッドアローズさんは、Vol.1から参加いただいていて、リアルで開催しているマーケットに関しては、売上がずっとナンバーワンなんです。追随を許さない巨人(笑)。

出展企業もさまざまな分野がありまして、例えば、ハンドメイドラグを扱うセレクトショップさんでも、来たことがない方は「イベントに来てラグを買うかな?」と思うかもしれませんが、しっかり売れるんです(笑)。PASS THE BATON MARKETでは、ファッションアイテムと同じくらい雑貨なども人気。ある種、お客さまのニーズ開発をしている感覚がありますね。その証として、お客さまの方から先に売り場の方へお声を掛けられたり、商品の背景について質問をされたりすることが多いです。

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─すごく興味深い現象ですね。

このイベントはテンポラリーで、いましか出会えないものが多いんです。大半のお客さまも何か特定のものを狙ってくるというより、何かいいものないかなという好奇心とともに、フラットな気持ちで見にいらっしゃっています。300坪ぐらいの会場なので、皆さんひと通り回って、さてわたしはいったい何がほしいんだろうと考えてらっしゃるんだと思います(笑)。そのためにも、会場の規模は、リアルのイベントとして現状が適正と考えています。お客さまがブースをひと通り回って、「こんなすてきなものに出会えた!」という偶発性を生むために、これ以上の規模にはしない予定です。

─服や雑貨以外にも、「パスザバトンの食料品店」として食べ物も扱っていますが、その理由は何でしょうか?

我々の会社スマイルズは、Soup Stock Tokyoをはじめとする飲食をメインではじまっているので、自分たちの中でアパレルや雑貨と同じくらい、食べ物に対しても“もったいない”という気持ちに敏感です。体の中に入るもの、健康に関わるものなので、気を遣うことは当たり前ですが、既存市場ではパッケージの崩れや賞味期限の超過にすごくシビア。包材に傷があったり、形や大きさが規格外だったり、賞味期限に近かったりするけど、おいしいものはおいしい。

また、少し視点が違うのですが、旅行にいったときに道の駅で見かけるような、すごくおいしいけど地元でしか食べられないものを紹介する機能も持ちたいと思ったんです。弊社のスタッフが常にいろいろな場所に赴いて、「こんなおいしいものを見つけました!」と言って集めてきます。食べないなんてもったいない、知らないなんてもったいないという思いで、展開しています。

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─前回は花や緑なども取り扱い、とても好評を得たそうですね。

春の開催だったので、弊社ともお付き合いのある中目黒のFLOWERS NESTさんに出展を打診して、当日はたくさんの芍薬で埋めていただきました。コロナ禍で、家や部屋を飾る花と向き合うことが、以前と比べると当たり前になってきたと感じています。花も食品同様、期限がある中ですべてを売り切れるわけでもないし、すでに咲いてしまった花は買い手がつかないなど、扱いが難しい。ただ、その儚さにすごく価値があります。そばにあると、空間も心も華やぎますよね。花との距離をより近づけてほしいと願って、フラワーショップの方たちにも参加していただきました。

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─ユナイテッドアローズのブースはいかがでしたか?

わたしは、ものを買っていただく際に、商品に対する思いを伝えようとする、ある意味商売人としての気持ちがすごく大切だと思っていて、ユナイテッドアローズのスタッフさんは、しっかりその気持ちを胸にお客さまと向き合っていると感じました。

また、フラットな目線でくるお客さまとフラットな関係でコミュニケーションをするためには、事前準備を徹底して、当日のオペレーションや動作から「なんとなく」を極力排除することも重要。スタッフさんも慣れていらっしゃるので、さすがの一言に尽きます。そもそも、あれほど賑わっている売り場をなんなく盛り上げていること自体がすごいなといつも驚いています(笑)。


数十年後も大切に思える
モノと出会う場を作りたい。

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次回は、PASS THE BATONが掲げている「リサイクル」「リメイク」「リライト」に、よりフォーカスを当てようと企画しています。この言葉の中で、僕は特に、“光を当て直す”という意味の「リライト」が好きなんです。物に手を加えなくても、光の当て方を変えるだけで輝くなら、最高じゃないですか。個人的には、商売においてそれがいちばんのクリエーションだと思っていたりして。

なので、Vol.8では、石田製帽さんや中川政七商店さん、木村石鹸さん、伊勢丹さん、コクヨさんといったいわゆる100年企業の皆さんにご参加いただきます。また、僕が好きな服をお直ししながら着るのが好きというのもありまして、リペアのブースも設けています。偶然に買ったものが、100年まではないけど数十年も自分にとって大切な相棒になっていくという物語を、ここからはじめたいと思っています。これは、いつも熱量を持って参加してくださるお客さまがいるからできることでもあります。いま買ってから100年後もずっと好きでいつづけるためのヒントが得られるかもしれません。

─「ニューサイクルコモンズ」としてのPASS THE BATONが考えるサステナブルな生活とは、どんなものでしょうか。

地球のために、人類のためのサステナビリティやSDGsは誰しもが目指すべき指針となるけれど、言葉を口にしているだけでは、良い悪いは別にして、その先に思い描く対象がいまいち見えてこない。もちろん自分たちのためだとわかっていても、これらの標語は、誰かの言葉でありお題目になってしまうので、内発的に出てきた気持ちがすごく重要だと思っています。

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なので、まずは自分の生活を大切にするところからはじめてみるのはどうでししょうか。例えば、家から会社に行くまでの何十分間を大切にする。単に電車に移動させられている時間にするのではなく、意味のある有意義な通勤時間にしようとこころがける。行動に意味を持たせることがポイントで、意味は外から与えられても、最終的には生活者自身が主体的に感じるもの。

そこで、モノを選ぶとき、買うときに、PASS THE BATONの「リサイクル」「リメイク」「リライト」の楽しさを感じてほしい。前回、PASS THE BATON MARKETの後にTwitterを見たら、「久々に買い物が楽しかった!」というつぶやきがあって嬉しかったんです。買い物に圧倒的な喜びがあれば、買ったものを大事に使いますし、またその思いを周りに発信して届けることで、サステナブルな生活が広がっていくと考えています。PASS THE BATONと PASS THE BATON MARKETの価値は、そのためにあるのです。

─野崎さんがこれから挑戦したいことはありますか?

大勢の参加者の方々とどこかの倉庫に行って「それでは皆さん、今日はこの倉庫を全員で空っぽにしましょう!」という、ツアーみたいなイベントをしてみたいですね。リアルとオンラインで一緒に開催するなら、購入方法をオークション形式にしても面白そうです。地方に行くと、土地も広大で、陶器の窯元さんが、破棄するのがもったいないからと、昔の商品を倉庫に保管している場合があるんです。それこそまさに、デッドストック。なので、実はまだまだ日の目を見ていない素敵なものが、世の中にたくさんあると思うんです。僕は、そういったものにとにかく光を当て続ける活動をしていきたいですね。

PROFILE

野崎 亙

京都大学工学部、東京大学大学院卒業後、2011年、株式会社スマイルズ入社。すべての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、入場料のある本屋「文喫」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。現在、取締役兼CCO。これまで、グッドデザイン・ベスト100、グッドフォーカス賞 [新ビジネスデザイン] 、iFデザイン賞を受賞。著書に『自分が欲しいものだけ創る!スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』(日経BP)がある。

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