ウツワ
2016.11.04 FRI.
原宿通りに放たれた「KOCHÉ」の独創性。
2014年に鮮烈なデビューを果たし、世界中のファッション界から注目を集めているブランド〈KOCHÉ(コシェ)〉。デザイナーのクリステル・コシェさん(以下コシェ)が足るを知り、現状に満足せず創造し続ける姿には「COUTURE TO WEAR(クチュール トゥ ウェア)」、クチュールとリアリティが佇みます。初めて行われた東京でのショウのこと、フランスと日本、ふたつの文化がひとつになる想いなどを、友人でもある栗野さんと語っていただきました。
Photo:Shunya Arai
Text:Chieko Sugawa
モードとリアリティがミックスされた原宿「とんちゃん通り」
栗野:昨夜はアフターパーティへ行かれたんですか?
コシェ:みんなでお祝いしたくて行ってきました。昨夜のショウが大成功して本当にうれしかったんです。ショウは気に入っていただけましたか?
栗野:とても素晴らしかったです。パリのショウよりもいいなと思うところさえありました。パリのショウは素晴らしい演出に、振り付けもとてもダイナミックでしたね。今回の東京バージョンは、よりロマンチックに感じました。
コシェ:演出家であり、振り付け担当のジュリアンと組むことができて、より情緒のある仕上がりになり、はるかに感動的になりました。ちょっと魔法的な、神秘的な感じになったように思います。
栗野:ストリートの聖地であり、日本ならではの情緒が残る原宿「とんちゃん通り」を選ばれたのは、まさにあなたのコンセプトとするストリートとクチュールにぴったりの場所でしたね。ショウの最後はモデル全員で提灯を持って、ランウェイを歩かれたんですよね。
コシェ:そうなんです。ランウェイに出ていったときには鳥肌が立ち、心臓はバクバクしていました。なんというか、このランウェイにはなにか神秘的なものが宿ったように感じたのです。日本の伝統や文化など日本らしい要素を取り入れ、それにパリのエネルギーも加えられるようたくさん話し合い、この提灯をもつアイディアになりました。
栗野:エンディングはさらにスローに歩いていましたね。
コシェ:観に来てくださっている方々に楽しみながら服を見てほしいという気持ちから、モデルの子たちは歩き終わると路上にゆっくり留まり、そして最後には全員が集まる演出にしました。そうすることで道ゆく方々にもより見てもらえるし、パフォーマンスになるんじゃないかと思ったんです。モデルのみなさんが一体となってくれて、とても活き活きとしていましたね。
栗野:個性的でアドリブ的というか、とても新しい感覚でした。提灯を手にもち、最後のパートでかなりスローに練り歩くという、このアイディアが最高でした。とてもしっくりきましたね。そしてモデル全員が強い眼差しでしっかり前を向いた姿は、素晴らしい映画、あるいは壮観な演劇を観ているかのようでした。
コシェ:ショウの後にモデルの子たちと話したとき、みんな同じように感じたと言っていました。モデルのデルフィーナとメリッサは、パリと東京のどちらのショウにも出ているのですが「本当に魔法のようだ」と、みんなでとても特別な瞬間を味わいました。
ふたつの国の文化が生みだした魔法の化学反応。
栗野:もう既にファッション関連のデジタルニュースでは、あなたのショウのことを記事にしていましたよ。全部いいコメントでした。
コシェ:そうでしたか。それはうれしいですね。
栗野:そのコメントのなかには、ショウを東京で開催する理由をあなたが証明してみせた、というのもありました。今回のショウであなたは日本人モデルや〈AMBUSH〉のアクセサリーを起用し素晴らしい雰囲気をつくり、‘東京だからこそできるショウ’の意味の証明になったと思います。
コシェ:本当によい化学反応が起きたと思っています。でもいちばん感動したのはこれがただ単に〈KOCHÉ〉のプロジェクトだったのではなく、日本とフランス、ふたつの国が共同で取り組んだチームプロジェクトだったということです。栗野さんやエイチ ビューティ&ユースのチーム、パリのチームの若者たち、東京の若者たちなどと出会えて、ふたつの違う文化がひとつになった、本当に素晴らしい化学反応です。
栗野:ええ、本当によい化学反応でしたね。ジュリアンはショウ直前に‘最後の魔法の瞬間をまっている’と言っていましたが、まさに魔法の瞬間はショウで起こりました。それにより、このショウはそれ以上のものでしたし、感動的でよい文化のミックスという印象だったのですね。
コシェ:いつも新しいことを探していて、私もチームのみんなもジュリアンと一緒になって考えました。同じことを繰り返すのは好きではありませんので。最もうれしかったのは、今回、みんな一丸となって取り組んだプロジェクトだったのですが、2カ国間で協力すればさらに強力になってひとつのものがつくり上げられるということが分かったことです。
フランスと日本が織りなす秀逸なキャスティング。
栗野:今回のショウを観た方たちは、キャスティングも素晴らしいと言っていましたよ。パリからモデルを連れてこられましたよね。
コシェ:デルフィーナとメリッサですね。デルフィーナは以前東京に1年程暮らしたことがあったから、今回は余計うれしかったと言っていました。東京のショウはもう何体か増やしたいと途中から思いはじめ、モデルがもっと必要になったので、ストリートキャスティングに出かけました。「ショウで歩いてみませんか」って気になった方に声をかけたり、知り合いの子に紹介してもらったり。土曜日の1日しかなかったのですが、とても有意義に事が運びました。
栗野:国籍やジャンルに凝り固まらず、あなたがインスピレーションを得た方々を起用されたのですね。
コシェ:ご存知の通り、私のショウではモデルの子たち全員がステレオタイプの美しさではないという事が重要で。みんな違うんです。奇跡的な出会いのおかげで今回のショウが実現しました。
栗野:かなり個性的な雰囲気をつくり出していますね。そう、魔法ですよ。僕があなたを東京に呼んだのは、東京のファッションの空気を変えたい、ということがあったからです。あなたは既にパリで変革を起こし成功しましたよね。このようなユニークなキャスティングをし、パブリックな空間を使って。あなたは既存のルールや構造をきれいに壊していく力がある、そんなあなたを尊敬しています。東京でも同じような変革が起こってほしいと願い、そして見事に実現してくれました。
コシェ:そのように感じてくれてとてもうれしいです。一緒にやれば新しい時代をつくれるでしょうし、夢を信じ、自分のアイディアに自信をもてば、何かできると伝えたいです。自分のアイディアに、そして常に自分に忠実でありたいと思っています。
若手実力派が培った、今の自分になるまでのプロセス。
コシェ:私はロンドンのセント・マーチン美術大学を卒業後、とても尊敬するビックメゾンで長いこと働いてきました。そのなかで自分の世界を創り楽しみたい、という思いが強くなりました。そして自分の知らない、何か新しいことをやることが私のいちばんやりたいことなんだと気づいたのです。自分の夢を信じて、ただつくり、世界と触れ合って。自分のアイディアを信じて、そのアイディアを前進させていくことなのだと。なので今、とても楽しいです。
コシェ:その思いを抱き続け実践していき、東京でショウを開催して思ったのは、東京という場所は世界であり、人々が交流する場なのだと。グローバルなエネルギーがあれば自分たちで物事を変革できるんだと感じました。
栗野:そう、まさにそれが今日、あなたにお伺いしたかったことなんですよ。数々の有名メゾンでのあなたのキャリアを見たら、なぜビックメゾンを辞めてしまったのかと思う人もいると思いますが。こういう経験をされてきて、自分の会社を立ち上げて、ブランドをつくって、自分なりの世界を創りたかったという訳ですよね。ただそこには本当に素晴らしい仕事をする人もいる一方で、なかにはビッグネームやビッグメソッドに囚われすぎている人もいると。
コシェ:そうなんです。私は常に自分のやり方でやりたいと思っていました。自分の意見をもつことが重要だったのだと思います。セント・マーチンに通っていた時の学費は自分で工面していたので、平日の夜と土日働いていました。その分、課題に取り組むことの難しさに悩みましたが、自分のやり方で進んでいくことを学びました。今ではいい経験だったと思います。その経験とコンディションが熟し、今こうして実現することができました。自分がいいと思うもの、創りだすものに自信がもてるようになったのだと思います。
栗野:自らを創りだしているお手本となるデザイナーはいますか?
コシェ:私がお手本にしているのはインディペンデントな方たちですね。ドリス・ヴァン・ノッテンや川久保玲など、自分がやりたいことをやってこられている方たちです。
栗野:この方たちはインディペンデントで、同じようなスピリットをもって独自の路線をいかれていますよね。僕もまったく同感です。
創造し続けるために自分で決めたルールとは。
コシェ:私は長い間システムの中で働いてきたので、今はそのシステムが分かる自分はラッキーだと思います。そしてそのシステムのなかで、「人のことを理解する」というのは常に本当に大事なことですし、「成長したければ全てを理解する必要がある」そして、自分がいいと思うものを取入れるようにしています。全てにルールを設けてということは、あまりしたくないのです。
栗野:なるほど。あなたは新しい世界を築き、ルールを変える。またルールを変えるだけではなく新しい世界をつくるために古い世界を壊す。破壊ではなく。
コシェ:‘未来なんてない=No Future’とか、ネガティブな雰囲気が好きではないのです。パリで開催したショウも、東京で開催したショウも、どちらにも同じ意味、同じメッセージ性があったと思っています。今の若い世代に寛容でポジティブなメッセージを届けることは、私にとって本当に重要な決断でした。確かに世界には様々な問題があります。しかしこんな時代だって若者は創りたいものがあれば創れるし、独自の世界をつくることだってできると伝えたいです。そして例えば映画界、音楽界、芸術界など、違う考え方をもつ方たちとも、新しい世界を築いていきたいんです。
栗野:世界を創りだすということだけではなく、生き方、夢や希望のもち方についても、あなたは良きロールモデルになれると僕は思います。世界には暴力が溢れています。裕福な人がいて貧しい人がいて。若者の世界には未来がない、という感じで夢や希望をもちにくくなっています。だけどやりたいのなら、扉を壊して開ける勇気があるのならその先へ進むことができると、あなたが東京でも見事に証明してくれました。