クラークス|スニーカー以上・ドレスシューズ未満の “ ちょうどいい靴 ”|知っておくべきブランド

クラークス|スニーカー以上・ドレスシューズ未満の “ ちょうどいい靴 ”|知っておくべきブランド

いくら直幸


2025年に創業200周年、現存するシューズブランドでは最古級の<クラークス(Clarks)>は、決して色あせないスタンダードであると同時に、今また活況を迎えている稀有な存在です。時代を超えて輝き続け、老若男女に愛される理由を、歴史や代表作とともに深掘りします。

<クラークス>と<オリジナルズ>

現在<クラークス>には<クラークス オリジナルズ>というブランドも設けられています。前者はカジュアルな革靴からドレスシューズ、パンプスやスニーカー、サンダルまで幅広く取り揃え、より多様なユーザーとニーズに向けたラインです。一方の後者は、ネーミングのとおり同社がオリジンであるアイコニックな名作を中心に、そこから派生したタイプ、現代解釈のアップデート版、アーカイブの復刻など温故知新をコンセプトとする、主にファッションシーンで人気のヘリテージなコレクション。本稿では双方をまとめて<クラークス>として紹介します。

革新性が生んだ、ほかにはない快適性

そんな<クラークス>は重厚なイメージが強い英国靴にして、フィジカル&ビジュアルともに軽快感のあるレザーシューズが支持されている特異なブランドです。こうした個性や無二のポジションは、創業の頃から絶えず新たな道を切り開き、いつの時代もコンフォートを探求してきた同社のアイデンティティとも言えるでしょう。
<Clarks>ゴアテックス ワラビーブーツ

濡れない・蒸れないのゴアテックスと、軽量&滑りにくいビブラム社製のトレッドラバーソールの採用により、全天候対応へと進化した「ワラビーブーツゴアテックス」。

イングランドの小さな田舎町で、羊革のラグ作りを生業としていたサイラス・クラーク氏。彼の手伝いをする弟のジェームス・クラーク氏は、ある日、羊の毛皮を使ったスリッパを考案します。今では決して珍しいモノではありませんが、当時としては誰も思いつかない奇抜なアイデアだったとか。柔らかく暖かいフカフカのボアに覆われたムートンレザーのそれは、あまりに気持ちのいい履き心地から口コミで評判に。兄弟はこれを商売とすべく、1825年、2人の名を冠したC&Jクラーク社を設立しました。

やがて工房は、ルームシューズだけにとどまらない靴メーカーへと発展。'56年にはアッパーとソールを縫い合わせる専用ミシンを世界で初めて開発。'62年には世界初となるソールカットマシンも発明し、いっそうの量産化と品質の安定化を実現します。また'83年、足の健康を第一とする企業理念のもと、足形に沿うよう設計されたシリーズを発表。これは史上初めて人間工学的な見地を取り入れた靴とも言われています。さらに1913年、独自の防水レザーを採用したファッショナブルなレインシューズ&ブーツを販売し、おしゃれな女性の必須アイテムに。これら後世の靴産業に大きく貢献する数々の技術や商品を生み出し、その革新性と快適性で着実に成長を遂げていったのです。

“ 履く ” ではなく “ 包む ” という哲学

<クラークス>の代表作といえば、まず挙げるべきは'50年発売の「デザートブーツ」です。生みの親は4代目のネイサン・クラーク氏。彼は第二次大戦中に駐屯した先で、北アフリカ戦線から合流した士官が履いていたアンクルブーツに注目。砂漠地帯のエジプトで作られたという任務外用のそれをヒントに、帰国後、スエード素材のアッパーに天然ゴムのクレープソールを装着したブーツを試作します。これが “ 砂漠のブーツ ” ことデザートブーツの始まりです。
<Clarks> スエード デザートブーツ

70年以上も基本構造を変えていない、いや、変える必要がない完成された名作である「デザートブーツ」。デザートと言わず、足元のメインディッシュとして活躍する。

しかし当時は、男性の革靴=ドレスシューズか作業靴、もしくは兵士のアーミーシューズという時代。どのカテゴリーにも属さないデザートブーツは風変わりな靴と捉えられ、社内での評価は散々だったと言います。そこで国外向け製品の責任者であったネイサン氏は、自身の裁量で海外での販売を計画。アメリカの展示会に出品したところ、有力雑誌『エスクァイア』に紹介されて北米で大ヒット。フランスにも人気が飛び火し、'60年代にはイギリスのモッズの目に留まるなど、逆輸入的にヨーロッパでも受け入れられたのです。

かくしてデザートブーツは、ドレスシューズでも作業靴でもなく、はたまたスポーツシューズでもない、それらの中間となる新カテゴリーを開拓。のちに確立されるカジュアルシューズの元祖となり、現在までに累計4,000万足以上が販売されてきました。

そしてデザートブーツと双璧をなす「ワラビー」の誕生は'66年のこと。お腹の袋で赤ちゃんを育てる有袋類のワラビーから命名されたモカシンシューズは、足のほとんどを一枚革でスッポリと覆い、甲に蓋をした袋状のアッパーが特徴です。足が優しく包み込まれる感覚があり、デザートブーツと同じく適度な弾力性と反りのいい天然ゴムのクレープソールが相まって、極上の履き心地が叶えられています。
<CLARKS>ワラビー/シューズ

「ワラビー」には紹介のローカットのほか、アンクル丈の「ワラビーブーツ」もあり。多彩なカラーと素材が用意されているなかでも、このメープルスエードが最も象徴的。

デビューからほどなくアメリカの学生の間でブレイクし、'70年代にはウエストコーストのサーファーが好んで着用。日本でも'80年前後に流行したサーフスタイルの足元を飾り、'90年代になるとロックやヒップホップ、渋谷系のミュージシャンといった国内外のカリスマたちが愛用した影響もあって、アメカジ&ストリートファッションに合わせる若者が続出。そして2020年代では、長く続いているスニーカーブームの反動から改めて気分なチョイスとして、さらにはビジネスカジュアルにマッチする一足としても熱視線を集めています。

名門が特別にあつらえた上質スエード

ブランドのシンボリックな素材であるスエードも<クラークス>の魅力です。なかでもデザートブーツやワラビーをはじめとする定番品の多くには、100年以上の歴史をもつ英国の名門タンナー、チャールズ・F・ステッド社に特注されたスエードが使われています。原皮を薄く伸ばさず、ほぼそのまま鞣された上質レザーは肉厚でコシに富み、しっとりとしてモッチリ。また革の繊維を壊していないので、ビロードのような美しい毛並みをたたえます。結果、裏地のないアンラインド仕様ならではの柔らかな足アタリを味わえるも、キレイなフォルムが崩れず、そしてキメ細かい端正な表情を楽しめるのです。

また覚えておきたいのが、正しいサイズ選び。スニーカーなど一般的なシューズは靴の外側の全長に基づいた外寸表記が主流ですが、同社は内側から算出した内寸での表記です。そのため作りが少し大きいので、手持ちのスニーカーより0.5~1cm小さめを選ぶことが公式で推奨されています。オンラインストアでの購入など、試着ができない通販ではご注意を。

加えて気をつけたい点がもう1つ。世間では類似する他社製品もデザートブーツやワラビーと呼ばれがちですが、これらは<クラークス>固有の商品名です。一般名のように親しまれるほど広く知られている証ではあるものの、今後はお間違えなく。

200周年を目前に過去最高の売り上げ

近年では先に挙げた看板モデルを筆頭に、防水・透湿性に優れるゴアテックスを搭載した全天候対応バージョンも大好評。ほかにもアレンジを効かせたフレッシュな提案、別注やコラボなど新たなアプローチを精力的に行い、日本での販売数が過去最高を記録するまでに。伝統と真摯なモノ作りを守りながらも、古い思考や手法だけに固執せず、常に前へ前へと歩みを進める姿勢。これこそが200年もの歳月を重ねた現在も<クラークス>が輝きを失わない理由なのです。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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