エンダースキーマ|そのシューズやバッグは感動すら覚えるレザーの新境地|知っておくべきブランド

エンダースキーマ|そのシューズやバッグは感動すら覚えるレザーの新境地|知っておくべきブランド

いくら直幸


国内外で大小無数のブランドがシノギを削り、似たり寄ったりのアイテムも少なくないレザー業界にあって、確たる個性を放つ<エンダースキーマ(Hender Scheme)>。日本のクラフツマンシップと今までにないアプローチを掛け合わせて新境地を切り開き、多くのフォロワーを獲得している背景を探ります。

職人の町・浅草のモノ作りを世界へ

江戸時代に職人町が形成され、さまざまなモノ作りが盛んに行われてきた現在の東京・台東区。なかでも浅草周辺は明治期より革産業が栄え、また和装の履物をルーツに大正~昭和にかけて靴製造が発展してきた歴史があります。

<エンダースキーマ>は、現代においても多くの職人が集まるこの地で2010年に誕生しました。デザイナーである柏崎 亮氏は大学生の頃から靴工房で働き、ランウェイで着用されるサンプルシューズの木型やソールの製作などに従事。実務をとおして技術を学び、周囲の職人にも教えを乞い、平面のデザイン画が立体のカタチになる一連を見てきたと言います。やがて自身でも本格的に靴作りをスタートさせ、並行してシューズのリペアショップでも働くなど、現場で経験を重ねて知識を深めてきました。

ブランドの名は、“ 男らしい・女らしい ” といった社会的・文化的な性差を意味する心理学用語、ジェンダースキーマに由来。その頭文字であるGをアルファベット順で次にくるHに置き換えることで、“ ジェンダーを超える ”、すなわち世の中がイメージする性別を超越したアイテムというコンセプトを表しています。
<Hender Scheme>PIANO BAG SMALL/バッグ、<Hender Scheme> piano bag/トートバッグ

2020年に発売の「ピアノバッグ」は、質感&色が異なる牛革のコンビと、ハンドルの付け根を摘んだドレープによる立体感が特徴。紹介のほか、さらに小さなサイズもあり。

その人気は国内にとどまらず、設立わずか5年でパリでも展示会を開催。今ではアジアから欧米、オセアニアまで世界各国で取り扱われています。加えてトッズやサカイ、アディダス、ザ・ノース・フェイス、クラークスにドクター・マーチン、Gショックのほか、ファッション以外にもカリモクやフラマ、果てはレクサスなどなど、そうそうたる相手とのコラボ実績もグローバルでの高評の証。シューズを主とする同業とのプロジェクトも少なくなく、ある種の競合からもライバルの壁を越えてリスペクトされているのです。

伝統的かつ独創的なニュークラフト

ラインナップは多種多様なレザーをメインマテリアルに、シューズ&バッグをはじめ、服飾小物やインテリア雑貨、アパレルまで実にバラエティ豊か。ファーストシーズンでは13型から始まったコレクションは、'24年の夏秋では約280型まで拡大。長きにわたって販売を続ける定番品も多く、それがアイテムひとつひとつの高い完成度とトレンドに左右されないタイムレスな魅力を物語っています。

もちろん前提となるクオリティも申し分なし。生産をコントロールするチームも柏崎氏と同じく職人出身者が揃うとあって、現場の作業や気持ちを理解して共有できることがクリエーションとマニュファクチャーの強みとなり、品質の向上と安定を叶えています。さらに、まずはスタッフや関係者がサンプル品を実際に試用し、フィードバックを反映してから量産を行う徹底ぶり。リペアサービスにも対応しており、店舗&オンラインに「サーキュレーション」というプラットフォームを立ち上げ、使い込まれたアイテムの修理・補修から得た知見をもとに製品を改良したり、新たな創作に活かす好循環を生んでいます。
<Hender Scheme> SBD/シューズ、Hender Scheme>denes/サンダル

左/スケートボードシューズの仕様をウィングチップのドレス靴に融合した「SBD」。右/クロッグサンダルの「デンス」は、スタッズで飾ったメダリオンがアクセント。

レザーという伝統的な天然素材、しかも手仕事を多用したクラフト品は、えてしてホッコリとした柔和なムードが前面に出やすいもの。しかし<エンダースキーマ>のアイテムは有機的な温かみとともに無機質なクールさも併せもち、どこかソリッドでモード。そしてクラシックでありながらノスタルジックでなく、むしろ現代的なセンスを濃厚に薫らせます。

そんなブランドを広く知らしめたのが、佇まいはスニーカーにして構造と製法はレザーシューズという「マニュアル インダストリアル プロダクツ」、通称・mipシリーズです。誰もが見覚えのある名作をオマージュし、大量生産品のスニーカーを手工業によって革靴へと落とし込んだそれは、デビュー2シーズン目に最初のモデルを発表。以降、毎シーズン1型ずつ新作が追加され、現在ではブーツやサンダルのタイプも含めて30種類を超えるバリエーションを展開するまでに。

mipシリーズにはすべて、履くほどに味わいあるアメ色へと経年変化し、いっそう趣も愛着も深まるヌメ革を採用。しかもスニーカーと違ってオールソール交換が可能なので、より長く付き合えて育てる楽しみも。裁断や縫製、吊り込み、底付けといった各工程を専門とする職人たちの腕とアイデアを結集させた逸品は、マスプロダクツとビスポークの中間に位置する新ジャンルであり、彼らが掲げる “ ニュークラフト ” の象徴です。
<Hender Scheme> seamless wallet/ウォレット、<Hender Scheme> top lift coinpurse/コインパース

左/外装にステッチが出ないよう高い技術を要したミニマルデザインの「シームレスウォレット」。右/「トップリフトコインパース」は名のとおり革靴のヒールが着想源。

また、独自性に富んだ表現はシューズだけにあらず。たとえば、革製のうちわや風車、収納ボックスに貯金箱、ダルマ、ボードゲーム、ジグソーパズル、壁掛け時計、はたまた縄跳びからフライングディスクまで、こんなモノもレザーで作るのか!?と目を見張るライフスタイルグッズを幅広く提案。いずれもしっかりと実用でき、それでいてオブジェとしても映える美しさと存在感を放ち、まるでアートピースを鑑賞しているかのような感動や面白さがあるのです。

“ 当たり前 ” をユニークな視点で更新

これほどまでに<エンダースキーマ>が人々を魅了するのは、長く親しまれてきたオーセンティックや、身の回りにある日常的なモノを題材にしているからだと私は考えます。それらを少し違った角度から捉える着眼点の鋭さにこそブランドの真髄が隠されており、斬新な発想と常に忘れないチャレンジングな姿勢がモノ作りのカギになっている。

ひとヒネリ利いたデザイン、遊び心を潜ませたギミック、既成概念に縛られない素材使いやカラーリングは実験的とも言え、発明・発見にも近い驚きと新鮮味、そうきたか!と膝を打つ痛快さがある。だけれど奇をてらった突飛さはなく、自然と腹落ちするリアリティを漂わせるのは、ごく当たり前に触れてきた見慣れたアレコレを巧みなバランスで変換しているから。

積み重ねられた歴史、先人の知恵、既存の価値に敬意を払い、継承されてきた匠の技を駆使。ただしヘリテージの焼き直しには終わらせず、凝り固まった枠組みを広げたり、飛び越えたり、シームレスに行き来したりと、柔軟なスタンスで過去をアップデートする。結果、見ているだけでもワクワクとして、身につけたり使ってみたくなる。心奪われるファンが後を絶たず、ひいては他社にまでインスピレーションや刺激を与えている理由は、きっとそこにあります。
ファッションライター いくら直幸

ファッションライター いくら直幸

人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

※掲載している商品は、販売終了によりご購入いただけない場合がございます。あらかじめご了承ください。
16 件

HOT WORDS