知ってほしいブランドについて
ファッションライターが語る連載コラム

ラコステ|同じようで確実に違う、ポロシャツの原点にして絶対王者

    知ってほしいブランドについてファッションライターが語る連載コラム

    2026.05.28

    ラコステ|同じようで確実に違う、ポロシャツの原点にして絶対王者

    文:いくら直幸

    あらゆるブランドやショップで手に入る夏の定番服であるポロシャツ。その代名詞として、時代を超えて不動の地位を確立しているのが<ラコステ(LACOSTE)>です。彼らのルーツとモノ作りを知ると、これほどまでに広い選択肢のなかでも世界中で愛されて止まない理由が見えてきます。

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    ポロシャツを起点にアレもコレも発明

    おそらく大多数の方が、ファッションに興味をもつ以前からトレードマークとブランド名くらいは見聞きしたことがあったのでは? それほど知名度が高く、広く浸透している<ラコステ>の魅力を改めて掘り下げる前に、まずは誕生のストーリーをおさらい。そのユニークなドラマを振り返ることで、なぜポロシャツの代名詞であり、服飾史においても非常に重要な存在であるかが深く理解できます。

    物語の主人公は、フランス代表チームの中核を担い、グランドスラムを7度も制覇するなど、歴史に名を刻む偉大なテニス選手であったルネ・ラコステ氏です。時は1923年のデビスカップ、練習の合間に街のショップで見つけたワニ革のスーツケースにひと目惚れしたルネは、強豪国との対戦を前に「僕が勝ったら買ってくれないか」とチームのキャプテンに冗談半分で掛け合います。残念ながら試合には敗れたものの、このエピソードを聞きつけた新聞が「彼はご褒美のワニこそ逃したが、厳しい球にもワニさながらに喰らいついて健闘した」と粘り強いプレーを称賛。以来、ルネは “ワニ” の異名で呼ばれるようになったのでした。

    本人もニックネームを大いに気に入り、'27年の同大会には胸ポケットにワニのマークを刺繍したブレザーをまとって登場し、観客の視線を釘づけに。そして悲願だったフランスの初優勝に大きく貢献し、自国に世界一の栄冠をもたらしたのです。ちなみにルネが決勝で破った相手は、最強国・アメリカのNo.1プレイヤーであり、「チルデンセーター」の名の由来となったウィリアム・チルデン選手だったというのも、洋服好きには興味深い逸話かと。

    毎年好評を博す B&Y の別注Tシャツ。ボディはニット調の上品な表情を楽しめ、汗ばむ季節もサラッとした肌触りが心地いいジャージー生地。左胸のワニも同色でまとめたミニマルな一枚。

    当時のテニスウェアといえば、ブロード生地を用いた長袖のドレスシャツに近いものでした。しかし、動きにくいうえに風通しが悪く、汗も吸わずに肌にまとわりつくなど難点が多く、選手たちは常々それに苦慮していました。そうしたなか、フランスが初めてデビスカップの王者に輝いた年、ルネは旅行先のロンドンのシャツメーカーで、伸縮と通気に富み、吸水性もよさそうなニットジャージーを見つけます。さらに現地でポロ競技を観戦していると、よく似た柔らかな生地が使われた襟なしの半袖シャツでプレーしていることに目を奪われました。そこからヒントを得たルネは、ポロ競技のシャツを仕立て店に持ち込んで「テニスの規定に則るよう襟をつけてほしい」とオーダーしたのです。そう、これこそがポロシャツが世界で初めて誕生した瞬間でした。

    翌年の全仏オープンの決勝、ルネがこの特製シャツを身にまとって最高のプレーを繰り広げると、誰も見たことがない画期的なウェアにスタジアムは驚きに包まれます。また仲間の選手たちをはじめ、のちに妻となる女子ゴルフの有名チャンピオンだったシモーヌ・ティオン・ド・ラ・ショーム選手らにもこのシャツを紹介し、大評判を集めたのです。これにビジネスチャンスを確信したルネは、現役引退後の '33年、ニット工場を営む友人と共同でシュミーズ・ラコステ社を設立。

    程よくゆったりしたリラックスフィットが、今の気分にマッチするウィメンズの新作。高品質なピマコットンがもたらす抜群にソフトな天竺生地も相まって、実にコンフォータブルな着用感。

    彼らはポロシャツの要となるファブリックから自社で開発。現在、他社も含めてポロシャツの代表生地となっている鹿の子(カノコ)は、まさにこのとき<ラコステ>が生み出したものなのです。また左胸には、ルネのトレードマークとして既にお馴染みだったワニの小さな刺繍パッチが飾られることに。今ではさまざまな衣服で一般的になっているワンポイントロゴですが、これが世界初の試みでした。すなわちポロシャツの元祖は、鹿の子生地の元祖である同時に、ワンポイントロゴの元祖でもあったのです。

    余談ですが、ルネはこれら以外にも、それまでの木製テニスラケットに代わる金属製ラケットを世界で初めて考案。ほかにも練習用のボール投げマシン、パンチング加工を施したグリップテープ、ガットの振動を軽減させるダンパーなど、今では当たり前となった数々のテニス用品の生みの親でもあり、稀代の発明家としても才を成した人物でした。

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    ファッションシーンでも世界を魅了

    テニス界で頂点を極めたルネ、ゴルフ界で華々しく活躍した妻のシモーヌ。ともに紳士・淑女のスポーツであり、襟付きのウェアが定められている2つの競技をターゲットにしてポロシャツを提案した<ラコステ>。スタート初期はスポーツユース中心にブランドを拡大させ、'50年代以降はファッションシーンへと本格進出を果たします。

    日本に正式上陸したのは東京五輪が開催された '64年、アイビーブームが沸き起こっていた時代です。ただ当初は “オジサンっぽい” イメージが強かったようで、若者人気はイマイチだったとか。しかし '70年代の中頃、創刊したばかりだった『ポパイ』での掲載から一気にブレイク。その後のサーフィンブームでは米国企画のライセンス品であった<アイゾッド・ラコステ>が大ヒットとなり、'80年代に入るとプレッピースタイルやフレンチアイビーの流行に乗って洒落者たちの必須アイテムになったのです。

    定番ブランドとして確かなポジションを築いた '90年代を経て、2002年にはパリコレで注目を浴びていたデザイナーのクリストフ・ルメール氏がクリエイティブディレクターに就任。持ち前のスポーティでエレガントな世界観とミニマルでクリーンな印象はそのままに、日常に寄り添いながらも一段とファッショナブルに洗練されたコレクションが発表され、従来のトラディショナルやコンサバティブの枠を超えた新たなファンの獲得に成功しました。その手腕が高く評価されたルメールは、マルタン・マルジェラ氏やジャンポール・ゴルチエ氏の後継としてエルメスに抜擢され、現在は自身のブランド及びユニクロUを指揮しています。

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    そこかしこに宿る、微細な大差

    かくしてアパレルをメインに、シューズやバッグ、時計、香水なども展開するトータルブランドへと成長した<ラコステ>ですが、やはり看板アイテムは大充実のポロシャツです。なかでも最初の商品だった「L.12.12」は、発売から90年以上が経った今も不朽のタイムレスピースであり、この一枚にブランドの真髄が凝縮されています。

    読み方は「エル・トゥエルブ・トゥエルブ」、日本では「エル・イチニー・イチニー」の通称でも親しまれているモデル名は、「L」=ラコステ、最初の「1」=鹿の子の生地番号、続く「2」=半袖を意味し、最後の「12」=試行錯誤の末に完成した12着目の試作品であったことを示したもの。そして今日も創業当時のまま、フランス・トロワの自社工場で一貫生産を堅守しています(日本で通常販売されている現行の「L.12.12」はメイド イン ジャパン)。

    不朽の名作「L.12.12」をベースにした UA の別注ポロは、極細ボーダーの鹿の子を採用。ボタンを開けた際に一段と美しく映えるよう前立てを微調整し、袖も少し長くして時流のバランスに。

    素材には、上質かつ希少なスーピマコットンのみを厳選。シルキーな光沢と澄んだ発色、ソフトな風合いを味わえ、吸水と耐久性にも優れるそれを中太糸へと紡績。本来もっと細い糸を紡ぐことができ、よりリッチな表情と滑らかなタッチを叶えられる高品質な超長綿ですが、同社ではふんわりした弾力と軽さも両立させるべく意図的に甘撚りの中番手に仕上げています。

    他社ではまず見られないこの贅沢な糸を使い、丁寧に編み立てられたオリジナルの鹿の子生地は、表裏にしっかりとした凹凸が現れ、その立体感によって肌に触れる面積が少なくなるため、汗をかいてもベタつきにくいのが特長。高温多湿の季節でも、爽やかな着心地を提供してくれます。

    さらに染色では、色が褪せにくい複雑かつ高コストな製法が採用されているため、クリアなカラーが長続き。縮みやネジれ、シワを抑える形状安定加工もプラスされているので、気軽に洗濯機に放り込めるのも嬉しいポイントです。

    そして徹底したこだわりは縫製にも。前立てには芯地が入れられ、工夫された独自の構造との合わせ技で型崩れを防止。上側の前立ては向かって左に2mmだけハミ出す設計となっており、トップボタンまで閉じた際にカラダを動かしても下側の前立てが覗かない配慮がなされています。またボタンは、さりげなく気品を添える貝ボタン。襟はキレイにキマりつつも首に不快感を与えないよう、ハリと柔軟性を併せもったリブ編みに。襟裏のステッチを隠す筒編みのテープには、襟がヨレるのを抑え、首回りのフィット感を向上させる役割も。肩線の縫い合わせにも内側から同色の補強テープが施され、両脇のスリットは運動性を高めながらタックインでも裾を出しても品よく映る20mmに指定されています。

    加えて、肌当たりの少ない快適な着心地をもたらす細幅の縫い代も、職人の腕が光るディテールであり、安価なポロシャツではそうそうマネのできない仕様。その分、耐久性が落ちてしまうのを補うため、縫製糸にはポリエステルの芯にコットンを巻きつけたコアヤーンが使われています。これはデニムなどにも用いられる強度抜群の糸です。

    「L.12.12」と共通のクラシックフィットで仕立てられた定番アイテム。縁取りと口内の色だけを残したボディと同色のワニが控えめなアクセントに。今季は従来よりも厚手にアップデート。

    このように、つぶさに凝視しなければ気付かない細部まで緻密に作り込まれ、裏返しても実に美しい仕立ては、トップに君臨する名門の矜持そのもの。しかも、これらのデザインやレシピは1933年の登場からほとんど変わっていないことが、原点にしていかに完成された逸品であるかを証明しています。

    基本のカタチに大きな違いはなく、パッと見どれも似たように思えるポロシャツ。それであっても世界100カ国以上で指名買いされ、リピーターが後を絶たず、休日カジュアルからクールビズ、スポーツシーン、はたまた上質な生活着としても選ばれている<ラコステ>。無論、そうした隅々まで行き届いた精緻なモノ作りは、Tシャツなどほかのアイテムでも健在です。きっとアナタのオシャレ心にもワニのごとく喰らいついて離さない、長く付き合えるワードローブになってくれますよ。

    ( Writer Profile )

    ファッションライター

    いくら直幸

    人気アパレルメーカーのPRを経て、1990~2000年代に絶大な影響力を誇ったストリートファッション誌『Boon』の編集者に。現在はメンズ雑誌&ウェブマガジンをはじめ、有名ブランドや大手セレクトショップのオウンドメディアにも寄稿。近年はYouTube番組への出演、テレビ番組のコーディネート対決コーナーで審査員を務めるなど活動の幅を広げている。

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